咎物語   作:四十三

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くくりタートル 其ノ壱

 咎め。

 

 そんな言葉を僕が口にするのは、いささか道化すぎるのではないだろうか?

 

 罪を犯し、過ちを犯し、間違い続け、脱線し尽くし、間違いさえも間違って終わらせてきたこの僕が咎について語るというのはそれこそ間違っている。

 

 僕一人に限ったことではない。

 

 僕の周りには間違いなく間違いで満ちている。

 

 あの軽薄アロハな忍野の言い方を借りるのであれば、僕の周りには「被害者面」で満ちているとも言える。

 

 春休みに鬼に出会った僕、阿良々木暦は怪異に触れ人の道を間違い。

 

 蟹に願った少女は、母親への気持ちを思い違い。

 

 道に迷った蝸牛は、人生を生き違い。 

 

 怨恨と猿を宿した後輩は、過去を悔い違い。

 

 精神に猫を宿した聖母は、自分の気持ちと擦れ違った。

 

 蛇に巻きつかれた妹の同級生に関してもお門違いだったと言える。

 

 そんな間違いを繰り返し見てきた僕が、間違いのスペシャリストである僕が咎について語るのは一見理にかなっているようにも思う。

 だがしかし、理に適っていようと適っていまいと僕は今までの事象に関して、全くと言っていいほどに無力なのだ。

 

 役立たず。昼明灯。無能。

 

 そんな自己批判をしてこの場を誤魔化そうという気は全くないのだけれど、できれば語りたくは無いというのが本音だ。

 

 今までだって語りたい物語なんてただの一つすらなかったのだが、語ってきた手前もういい訳のしようがない。

 

 後の祭りだ。

 

 これは語られなかった裏のお話、なんてそれらしい言い方をする気もない。

 

 汚点をどれだけ雅に言い繕っても本質は変わらないのだから、そんなことをする方が余程道化じみている。

 

 これは、咎の物語。

 

 罪を犯し、過ちを犯し、間違い続け、脱線し尽くし、間違いさえも間違い続けた彼女の物語。

 

 

 そう、これは言うなれば……ただの二次制作だ。

 

 

 

 

001

 

 

「『括裏くくり』って子、阿木々良君知ってる?」

 

 学年トップレベルの成績を誇るところの戦場ヶ原に勉強の面倒を見てもらうため彼女の住居「民暮荘」にて実質家デートをしていたそんな時である。

 

「括裏(くくうら)くくり? いや知らない。誰だそいつ? そいつがどうかしたのか?」

 

「いえ、彼女の名前一見すると『くくりくくり』って読んじゃいそうになるってことを教えておこうと思っただけ。命拾いしたわね、阿良々木君」

 

「待て、戦場ヶ原。つまり僕は今の返答次第では命を取られていたのか?」

 

 怖ぇよ……。なんで何気ない会話一つ一つで僕の殺生与奪を握られなきゃならないんだよ。

 

「いえ、その時はその時で鎌をかけるつもりだったわ。それまでは、半殺しよ」

 

「僕半分死んでるじゃん!!」

 

「大丈夫、大丈夫。ホッチキスは使わないから。使っても瞬間接着剤までよ。安心して」

 

「何されるか想像できない分より質悪いは!!」

 

 ダメだこいつ。神原の一件で少しは丸くなったかとも思ったが全然変わってない。僕の彼女バイオレンスすぎるだろ……。

 

「しかし珍しいな。お前がクラスメイトの話するなんて」

 

「あら? 阿良々木君に対する嫌味だったのだけれど伝わらなかった?」

 

「聞くんじゃなかった!!」

 

 僕この短時間でどれだけ傷つけられれば気が済むんだよ!! なんだよこの苦行!! 最終的に仏にでもなるのか!? 仏門にでも下らせるつもりなのかこいつは!!

 

「冗談よ。阿良々木君の彼女になるにあたって阿良々木君に近づきそうな女子をピックアップして潰してるだけだから」

 

「潰す!?」

 

「阿良々木君には、指一本触れさせないわ。阿良々木君には私さえいればいいの。今だって私の五百人もの部下が暗躍してるもの」

 

「薄っぺらい嘘だな」

 

「阿良々木君を誰にも取られたくないというのは本当よ」

 

「お、おお……。なんかそんな風に言われると照れるな……」

 

「まず手始めは妹さん二人をこの手で消し去るわ」

 

「一度でいいからこの喜びに浸らせてくれよ!!」

 

 しかも一番危険視されているのが妹たちって何気に失礼だろ。

 

 妹たちに手なんか出さねぇよ。

 風呂上りに裸同然で歩き回るような生物に欲情するほど僕も飢えてなんかいない。

 

 僕レベルになると凡人ならつい目を背けてしまうような光景でも何の恥じらいもなく自然体で見ることができるほどだ。

 時間が気になって時計を見るような感覚で何気なくあいつらの裸を凝視することができる。

 

 つまり僕にとってあいつらは壁にかかっている時計と大差ない。あいつらの裸を見たって「ああ、もうこんな時間か……」と言う感想しか湧いてこないのだ。

 

 あいつらに欲情することは、それすなわち時計に興奮するのと同列だ。

 そんな人間いるわけがない。

 

 時折、妹たちの胸に触るのだって言うなれば時間の狂いを調整しているのと一緒だ。

 そこに下心など存在せず親切心でやっているに過ぎない。

 

 誰かがやらなければ狂い続けると分かっている物を放置できるほど僕も腐ってはいない。

 よって、感謝されるいわれはあれど危険視されるいわれなどありはしない。

 

 人畜無害が服を着て歩いているような男、それが阿良々木暦です。

 

 

「でもまあ、括裏くくりに関しては心配は無いわね。間違っても阿良々木君と接点ができるような人物ではないでしょうし」

 

「やけに言い切るんだな、その括裏ってやつの事」

 

 間違っても。なんて少し大げさな物言いのような気がするのだが。

 

「ええ、だって彼女……」

 

 何気ないこの戦場ヶ原との会話が間違いなく彼女こと括裏くくりとの邂逅する前ふりだったことは言うまでもない。

 

 

「一言もしゃべらないから」

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