002
「一言もしゃべらない? それは一体どのレベルまでしゃべらないんだ?」
「全く、一言も。言葉通りの意味よ」
「それはまた……」
例えば、先日再会を果たした小さいほうの妹の同級生。
千石撫子。
彼女もどちらかと言えば口数の多い方ではない。
多くは語らず怯えるような口調で小鳥の鳴き声のようにしゃべる千石。
彼女を言い表すにしても「口数の少ない女の子」であり「一言もしゃべらない」とまで形容するには程遠い。
だが、戦場ヶ原はその括裏くくりと言う女子を指し、はっきりと疑う余地なく「しゃべらない」と言ってのけた。
「声が出ないとか、後天的なストレスやトラウマによる言語障害とかそんなやつなのか?」
「いいえ。彼女は大人しくはあるけれど感情を抱え込んで鬱に入るような人間ではないわ。単にしゃべらないというだけの普通の女の子よ」
ごく普通のね。
そう付け足す戦場ヶ原。
「だけど、どうして一言もしゃべらないって分かるんだ? 私生活まで介入しない限り分かりっこないだろ?」
学校内でしゃべらなくても学校外では雄弁。なんてよくあるパターンだ。
まあ、誰とは言わないが。
「それもそうね。そこのところは、羽川さんにでも聞いてみたらどうかしら?」
なんだ?
さっきから妙な違和感を感じるのだが……。
「もしかしたら、また怪異関係のいざこざと言う可能性もないでは無い訳だ」
「そうね、そういうことは忍野さんにでも聞けばいいんじゃない?」
「おい、戦場ヶ原」
「何かしら? 阿良々木君。因みに、今日ブラジャーは付けてないわよ」
「まじで!?」
「お父さんの事だけど」
「紛らわしい言い方してんじゃねぇよ!!」
純情を弄ばれた!!
つい反応した僕が間抜けじゃないか!!
「しかもその言い方だとまるで、お前の父親が日常的にブラジャーを付けている変態ってことになるぞ」
嫌だよそんな父親……。
なんで、会ったことも無い人物の性癖をその娘からカミングアウトされなければいけないんだ……。
受け止めきれねぇよ。
「娘の我がままにきちんと付き合ってくれるいい父親よ」
「お前が強要してたのか!?」
知りたくなかった!! そんな事実!!
「冗談よ。そんな事より、私最近ミステリー小説に嵌っているのだけれど。その過程で最近はやりの『人の死なないミステリー』の上位物を思い付いたの。聞いてくれない?」
「上位物? なんだそれ? 聞くだけ聞いてやるよ」
と言いつつも若干気になる。
人の死なないミステリーのその先を行くミステリー。
なんだろう?
人が生き返るミステリーか?
違うか。
なんだよ、そのスピリチュアルなミステリーは……。
「何も起きないミステリーよ」
「お、意外にそれらしいな」
ミステリーなのに事件が起きない。
謎解きも無ければ、推理もない。
被害者も居なければ、加害者も居ない。
始まった時にはすでにすべて終わっているミステリー。
あれ、なんだかおもしろそう。
「って、それだと物語進まないじゃん」
「よく気づいたわね、阿良々木君。万死に値するわ」
「隙を見て、僕を殺そうとするのは辞めてくれ!!」
閑話休題。
「で、さっきの続きなんだが。お前さっきからその括裏っていう女子と僕は接点を持つことなんてないとか言いつつ、僕が興味を持つように巧みに誘導してないか?」
「な、なんの事かしら。私を吊し上げたいのならば証拠を持ってきなさい。黙秘権を行使させてもらうわ」
その発言が、既に罪人の常套句だと分かって使ってるんだろうなこいつは。
そして、戦場ヶ原が僕に対してこんな回りくどいやり方で伝えるということは、結論は一つしかない。
「オーケー、分かったよ。明日の放課後にでも、忍野のところに行ってその括裏ってやつのこと聞いてきてやるよ」
「よろしくね、阿良々木君」
言葉を失ったらしい少女。
括裏くくり。
一言もしゃべらないという人道外れた彼女は、どう考えても。
異常で、異端で、人として間違っていた。