咎物語   作:四十三

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くくりタートル 其ノ肆

004

 

『阿良々木ハーレムNO,3.ユリ担当の神原駿河だ』

 

「おい、神原」

 

『神原駿河。将来の夢は、阿良々木ファミリーぺットの座だ』

 

「ペット!? 人間扱いじゃなくていいのか、お前!?」

 

『その声と突っ込みはご主人様ではないか!!』

 

「姑息にも取り入ろうとしてんじゃねぇよ!!」

 

 間違ってもお前みたいな散らかし魔をペットになんざするか!!

 家の中が魔窟と化すのが目に見えている。

 

 そしてそれらをせっせと片づける自分の姿が簡単に想像できる。

 

 あれ? でもそれって今と大差なくない?

 

 つまり、すでに関係的にはペットと主人なのではないか?

 

「僕とっくに取り込まれてた!?」 

 

 考察するんじゃなかった!!

 嫌な未来が浮かんできたじゃないか!!

 

『どうしたのだ、阿良々木先輩? 私に用があって電話してきたのではないのか?』

 

「いや、まあそうなんだが。神原、今お前忙しいか?」

 

『いや、問題ない。今、本屋で今月発売の新刊情報を調べていただけだからな。そんなものがなくても阿良々木先輩が指を鳴らしさえすれば私はすぐさま駆けつけるつもりだぞ』

 

「別に電話で終わらせられるようなことだから駆けつけてくれなくてもいいよ。神原、少しお前に聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

 

『どうしたのだ阿良々木先輩? 秘蔵エロ本コレクションの隠し場所でも忘れたのか?』

 

「もしそうだとしても後輩になんか聞かねぇよ!! お前僕のことどれだけの変態だと思っているんだ!!」

 

『エロ本の隠し場所は妹さんたちの部屋の中だ。今度は忘れないように書置きしておいた方がいいぞ』

 

「なんで知ってるんだよ!?」

 

 あの時か!! 千石の件で家に来た時か!!

 

 抜かった!!

 

 なぜあの時の僕は、神原を家に残し一人で忍野のところに行ってしまったんだ!!

 こいつもこいつで人の家を勝手に家探ししてんじゃねぇよ!!

 

『それはそうと、阿良々木先輩聞いてくれないか!! 私は今とてもこの本屋の品ぞろえの悪さに、はらわたを煮えくり返している真っ最中なのだ!!』

 

「どうした? お前がそこまで怒るなんでただ事じゃないだろ?」

 

 恐らくその本屋と言うのは僕も行きつけのこの町唯一の大型書店の事だろう。

 だがそんな言うほど品ぞろえが悪いということは無いはずだが……。

 

「一体どんな本を探してるんだ?」

 

『阿良々木先輩似のキャラが出るBL本だ』

 

「お前なんて物探してるんだ!!」

 

『何を言うか、阿良々木先輩!! 顧客の需要に応えるのが売り手の義務だぞ!! これは立派な怠慢だ!!』

 

「そう言うお前は傲慢だ、神原!!」

 

 あれ? さっきから全く話が進んでない。

 

 原稿用紙二枚半も使って括裏の事何一つ聞けて無い……。

 それどころか話題にすら上がってないというのは一体どういうことだ?

 

「神原、お前括裏ってやつ知ってるか?」

 

『あぁ、括裏先輩か……。懐かしい名前だな』

 

 いきなりテンションが下がった?

 

『聞きたいと言うのは、括裏先輩の事か?』

 

「ああ、そうなんだが。なんか聞いたら不味かったか?」

 

『いや、そういうことではない。ただ、私が括裏先輩のことを語るというのが若干気が引けると言うだけだ……』

 

「さっきまで煮えくり返ってたお前がそんな煮え切らない態度をとるなんて、どうしたんだ?」

 

 この変わり様、やはり括裏と言う女子には何かあるのか?

 

『括裏先輩のことは誰から聞いたのだ?』

 

「最初は戦場ヶ原。次に羽川。そのあとお前に聞いてみろと促された。促したのは羽川だ」

 

『そうか、戦場ヶ原先輩が……。戦場ヶ原先輩、括裏先輩の事何か言っていたか?』

 

「一言もしゃべらない以外は普通の女の子だと、ただそれだけ。羽川からは、その……。中学時代二人は大の仲良しだったとそう言われた」

 

『ふむ、その解釈で相違ない。私もあの二人は、親友と表現しても差し支えなかったと記憶している』

 

 また、過去形。

 

「仲良しだった」「差し支えなかった」両方とも過去を表した言い方だ。

 

 逆を言えば、今はそうではないという意味になる。

 

 不仲だと、そういう意味になってしまう。

 

『一言もしゃべらないというのも事実だ。少なくとも私が直江津高校に入学して今に至るまで、括裏先輩がしゃべっている姿は見たこと無い』

 

 また話が噛み合わない。

 

 戦場ヶ原はしゃべらないと言い、羽川はしゃべると言う。

 そしてまた神原は、しゃべらないと言った。

 

 一体どうなっているんだ?

 

『私と括裏先輩は、同じ境遇なのだ。だが私だけその境遇から抜け出してしまった。だからこそ気が引けてしまう……』

 

「同じ境遇? それは一体何のことだ?」

 

 

『……重し蟹』

 

 

 僕は戦慄した。

 

 

 何より神原の口からその怪異の名前が出てきたことに。

 

『確か戦場ヶ原先輩に憑いていた怪異の名前だったな。阿良々木先輩』

 

「ああ……そうだ」

 

 重し蟹。

 

 思いし蟹。思いし神。

 神様。

 

 戦場ヶ原、彼女の体重を奪った怪異の名であり、彼女を間違いに導いてしまった元凶。

 

『私は、当時の戦場ヶ原先輩に取りつく島なく拒絶された。そして、猿に願った』

 

 レイニーデビル。

 雨合羽を着た悪魔。

 

 彼女の左手に宿る猿の手。

 

『そして戦場ヶ原先輩の親友だったところの括裏先輩。彼女も私と同じだ……』

 

 僕は、息をのんだ。

 

『彼女もまた私と同じで戦場ヶ原先輩にすべからく拒絶された……』

 

 彼女の言葉を聞き逃さぬよう。

 

『被害者の一人なのだ、阿良々木先輩』

 

 

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