咎物語   作:四十三

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くくりタートル 其ノ伍

005

 

『あった!! あったぞ、阿良々木先輩!! 阿良々木先輩の生き別れた双子のようにそっくりなBL本だ!! うわぁ……。まさか、あのアホ毛をこんな風に使ったプレイがあるとは目から鱗だ!! これはR18では収まらないのではないか!? R暦と言うべきだ。とてもじゃないが阿良々木先輩には見せられない!! 衝撃的だ……。一度でいいからこのアホ毛の実物を見てプレイの空想を膨らましたい!! 阿良々木先輩!! つかぬ事を聞くが今どちらに向かっ……』

 

 そんな神原の言葉を最後まで聞くことなく、僕は通話を切った。

 

 って、前章までのシリアスはどうした!!

 なんで章を跨いだら通常運転になってるんだよ。

 さっきまでのやり取りが嘘だったのじゃないかと心配になって来るだろうが。

 

 だがまあ、神原の話である程度見えてきたのも確かだ。

 

 

 括裏くくり。

 

 

 神原同様、戦場ヶ原に拒絶された少女。

 少なくても去年の四月から最近まで一言もしゃべっていないのもこれで説明が付く。

 

 二年前はまだ戦場ヶ原は蟹に出会っていない。

 つまりその時点までは、括裏はしゃべっていたことになる。

 

 そして拒絶されてからしゃべらなくなったと、そう考えれば辻褄が合う。

 

 だが一つ大きな問題が発生する。

 

「彼女は拒絶されてから一年もの間、全くしゃべっていなかったということになるな」

 

 

 異常だ。

 

 

 普通はそんな長期間しゃべらずにいることなんて不可能だ。

 

 だが僕はそんなことを可能にする存在、現象の権化を嫌と言うほど知っている。

 

「これは、忍野のところに急いだ方がよさそうだな」

 

 

 

 

 

 

「『悟し亀』だね、それは」

 

「『悟し亀』? それが括裏に憑りついている怪異の名前なのか忍野?」

 

「少し語弊があるけど、まあ問題ないくらいのものだからスルーさせてもらうよ、阿良々木君。そう『悟し亀』。人の罪悪感に影響を及ぼす海亀の怪異さ。『悟す亀』『悟る亀』なんて呼ばれているがこの怪異が及ぼす影響から本当の呼び名は……」

 

「ちょっと待ってくれ忍野」

 

「どうしたんだい阿良々木君? 突然話の腰を折るような真似をして。元気がいいね、何かいいことでもあったのかい?」

 

 今の忍野の説明は少しおかしい。

 今なんと言った? 罪悪感に影響を及ぼす怪異?

 

「括裏は、戦場ヶ原に拒絶されただけだ。それなのに罪悪感からくるはずの怪異が彼女に憑りつくのはおかしいだろ」

 

「はっはー、そうだね確かにそうだ、ごめんごめん。少し先走っちゃったようだ」

 

 先走った? 

 なんなんだ今回の一連の現象。

 なんか僕の知らないところで誰かが暗躍しているような、そんな気持ち悪さがあるぞ。

 

「でもその寡黙ちゃんに憑りついているのは、間違いなく悟し亀だ。いや真名は……」

 

 

「寡黙ちゃん? なんで忍野、そんな風に括裏のこと親しげに呼ぶんだ?」

 

「おい、おい。阿良々木君。そんなに焦らさせないでくれよ。本当に今日は元気がいいねぇ。しかし、参ったねぇ。僕としたことがまた失言してしまったみたいだ」

 

「おい、忍野。お前何か隠してるんじゃないか?」

 

「『悟咎め』」

 

「『悟咎め』?」

 

「悟し亀の本当の呼び名、それが『悟咎め(さとしとがめ)』だ。その名の通り対象に罪の意識を悟らせ……」

 

 そして、咎める。

 

 そう締めくくる忍野。

 

「悟して……咎める。それじゃ逆じゃないか」

 

「そう、この怪異は順序が逆さまなのさ」

 

 通常の罪は、咎めた後に悟すものだ。

 だがこの怪異は、その順序が逆。

 

 それは鞭で打った後に飴を与えるのではなく、飴を与えた後に鞭で打つようなもの。

 

 悟し、咎める。

 

「それじゃあ、括裏はその亀の咎によってしゃべれなくなったってことか?」

 

「その通り。因みに阿良々木君。君は僕に何か隠してるんじゃないかと言っていたね。正直な話、僕はもうこれ以上君の質問に答える気はないんだよね」

 

「な!? ちょっと待てよ忍野!! それはその悟し亀の対処法についても教える気がないってことかよ!!」

 

「対処とかそういうことを言っている時点で、阿良々木君は既に間違っているんだよ。今回の件で君ができることは何一つない。残念だけど僕が言えるのは、ここまでだ」

 

 僕にできることは、何もない。

 そんな言葉を聞いて、あの読み方の分からない神社での千石に巻き付いた蛇のことが頭をかすめた。

 

「忍野、最後にこれだけ教えてくれ」

 

「なんだい?」

 

「括裏は、今はしゃべれてはいるらしいが、それはもう怪異が彼女からいなくなったという意味でいいのか?」

 

「いや。いなくなったわけでは無いよ。ただ身を潜めているだけだ。いつまたしゃべれなくなったとしてもおかしくは無いね」

 

「そうか、わかった。悪いな、教えてくれて」

 

「いいよ。こちらこそ、すまないね」

 

 僕にできることは、何一つない。

 その言葉を自分の中で反芻した。

 

 

「はっ、何を今さらだな」

 

 

 僕が今までの事象で役に立ったことなんて一度たりともない。

 

 だがな……。

 

「誰かがやらなければ狂い続けると分かっている物を放置できるほど、僕は腐ってはいないんだよ。忍野」

 

 僕は廃塾を飛び出した。

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