006
忍野のもと、廃塾を後にした僕は途方に暮れていた。
決め台詞と共に飛び出した僕ではあったが具体的な行動案も無く飛び出してきてしまった。
無計画すぎるだろ……。
せめて悟し亀についてもっと聞いとくべきだったのだろうか。
とそんな後にも立たないようなことを悶々考えていると前方にピンクのリュックとその動きに連動するかのように動く二本の触角が見えてきた。
「あれ? 八九寺じゃん……」
あいつ、こんなところも行動範囲に入っているのか。小学生の脚でここまで来るのは結構きついんじゃないのか?
「よお、八九寺。奇遇だなこんなところで会うなんて」
「話しかけないでください。あなたのことが嫌いです」
「ちょっと待て八九寺。知り合いになってからその言葉を言われると結構傷つくんだが……」
「うーん、やっぱり違いますね。私の持ちネタとしてこの台詞も起用していこうと思っていたのですが、どうもやはり出落ち感と言うのでしょうか。賞味期限がもう過ぎてしまっているようですね」
「そんな実験感覚で傷つけないでくれよ……」
勉強熱心はいいことだができればもっとやんわりとしてほしいものだ。
「やはり芸は一芸に秀でるべきですね。さあ、テイクツーです!! 私に話しかけてください!! ボボボ木さん!!」
「テイクツーとか言いつつもすでに振りに入っているということはあえてツッコまないとしてもだ、八九寺。僕の名前を巨大黄色アフロでサングラスをかけた鼻毛真拳の使い手であるところの主人公みたいに僕を呼ぶな。僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「噛みマミタ!!」
「わざとじゃない!?」
「かーらーのー?」
「からの!?」
「はぁ……ダメですね、阿良々木さんは。笑いはマンネリする物なのですよ。咄嗟にアドリブが利かないようではこの業界は生き残れませんよ?」
「お前は何かのプロデューサーなのか!?」
「今度からは私がきちんと振りますので拾うようにしてくださいね。いいですか?」
「しょ、精進します……」
なんで僕怒られてるんだ?
しかも小学生に。
「そう言う阿良々木さんもこんなところで何をしてるんですか? ここは阿良々木さんの行動範囲とは大きく離れていると思うのですが?」
「ああ、忍野に会いに行ってきたんだよ。あいつここらへにある廃塾を寝床にしてるからな」
「例の怪異の専門家ですか。はぁ、こんなところを。不便じゃないんですかね?」
「不便だろうな。あいつ車とかも持ってないだろうし」
と言うか忍野が車を運転している姿が想像できない。
すげぇな!! 車が似合わない奴なんてそうそういないぞ。
「そう言えばお前は、忍野に会ったことは無いんだよな?」
「ええ、直接お会いしたことはありませんね。それがどうかしたのですか?」
忍野に会ったことがない……。
「じゃあ、忍野はお前のことを何て呼んでいたんだ?」
「いや、知るわけないじゃないですか。会ったことないんですから」
そう、八九寺には呼び名がない。
会ったことがない奴をさすがの忍野も形容しようがない。
戦場ヶ原は、ツンデレちゃん。
神原は、ユリっ子ちゃん。
千石は、前髪ちゃん。
羽川は、委員長ちゃん。
会ったことないがない八九寺にはそれがない。
『でもその寡黙ちゃんに憑いているのは……』
忍野は括裏のことを「寡黙ちゃん」と呼んでいた。
それは、つまり……。
「忍野は既に括裏と面識があるのか?」
おいおいおいおい!!
どういうことだよそれ!?
「じゃあ、僕にできることは何もないってそういう意味なのか!?」
「ちょっと!! 阿良々木さん!! 一人で勝手に取り乱さないでくださいよ!! 一体どうしたんですか?」
そうなると、一体誰が忍野との仲介人になったのかと言うことだ。
あそこには忍野が張った結界がある。
あの廃塾を知っている奴にしか入れないようになっているはずだ。
「阿良々木さん!! 阿良々木さんってば!!」
括裏本人が自力で入った可能性はない。
忍野がこの町に来たのはつい最近。それ以前から面識があったというのも考えにくい。
忍野に括裏を紹介した人物がいるはずなのだ
誰だ?
忍野と括裏、両名と面識があり廃塾の場所も知っていて、尚且つ括裏が何かしらの怪異につかれていると推測できるほどに親しい人物。
「いい加減にしないと噛みつきますよ!! いいんですか!!」
いや、考えるまでも無い。そんな人物一人しかいない……。
「ウガァァァァァ!!」
「……仲介人は戦場ヶ原か」
がぶっ。
僕は本日一番の悲鳴を上げた。