機動戦士ガンダム水星の魔女R シャディク・ゼネリの福音   作:いえるおるがP

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第二話 作られた戦場

 あれから二週間後、シャディクは軌道エレベーターで地球へと降りていた。他のジェターク社員、そして七機のMSと共に。

「お前が新入りか」

「はい」

「確か、ルイエ・ルクゾとかいったか?」

 ガタイのいい男が、シャディクに話しかけてきた。

「話は聞いている。しばらくは資材搬入を手伝ってくれ。詳細な指示は後からする」

「わかりました」

「いざとなったら、MSで俺達を守ってくれよ?」

「ええ。新入りの身で恐縮ですが、お約束します」

「はっは! 冗談のつもりだったんだがな! ま、そっちも軍人じゃないし、そう気を張るなよ?」

「はい。お気遣いありがとうございます」

 そう言って去ろうとすると、その男は顔を近づけ、小声で囁いた。

 

「週休二日。休みになれば、好きなところに行っていい。そこで通信をつなげ」

「えっ?」

「覚えてねえのか? 俺だよ俺。カミル・ケーシンク」

 聞き覚えのある名前だ。かつてのジェターク寮の一員で、グエルを影から支えていた男だと聞いていた。

「カミルか。久しぶりだな。だが、君は確か、メカニック科じゃなかったか?」

「ああ、最初は子会社でメカニックをしてたんだがな。色々思うところがあって転職したのさ」

 カミルは顔を上げ、シャディクの肩を叩いた。

「んじゃ、よろしく頼むぜ、新入り」

「はい」

 

 

 

「おい! 工程遅れてんぞ! 新入りだろうが、キビキビやれよ!」

「すみません」

 シャディクは他のジェターク社員と建設の資材搬入などに勤しんだ。工事は他社の作業員に任せるしかなかった。

「よし、しばらく休憩だ。しっかり休め」

 休憩時間になった。休めと言われても、涼めるような場所もないが。

「ほら、ルイエも飯食えよ」

 ジェターク社員の一人が、弁当を渡してきた。

「ありがとうございます」

 シャディクはそれを受け取り、その場に座りこんだ。弁当を開け、食べ始める。仲の良い人がいるわけでもないので、そのまま一人で黙々と食べていた。幼少期に比べれば、今の仕事は充実しているし、待遇も悪くなかった。ただ、その充実さが、彼の胸の中をざわつかせていたのも間違いなかった。

 

「なあ、なんで今回の応援にはMSが来たんだ?」

「なんでって……ここは過激思想のアーシアンが多い地域だからだろ? 聞いてなかったのか?」

 近くで休んでいた作業員と思しき人達が雑談をしているのが聞こえた。

「いや、それは知ってるけどさ。別に今まで襲われたこともないじゃん? それに、護衛が必要だっていうなら、今回だけじゃなくて最初からMSよこせよって話だろ? 工事は二カ月以上前からやってるじゃん」

「完成間近になって壊されるのが嫌なんじゃね?」

「ええ? 完成までまだかかりそうだぞ?」

 

 今回、シャディク達の応援と共にジェターク社のMSが七機、降りてきていた。いずれも実戦仕様のMS。過去の機体となったディランザ・ソルが五機、そして新型のディランザが二機。

 

 灰色の新型は、ディランザ・ステアというらしい。従来のディランザよりもシャープなデザインとなっている、今の主力量産機だ。ソルから軽量化と、それに伴う俊敏性の向上及び同程度の装甲強度を実現させた、ジェタークの技術向上を表す機体であった。コストは抑えられなかったので、高価なステア、安価なソルの二本柱で売り出している。

 

 MSの手配は、シャディクのシナリオ通りである。フォルドと交戦して返り討ちにできるだけの装備が地球に来ているのだから。

 

「わけわかんねえよな、ジェターク社の若社長の考えることってさ。子会社に俺らアーシアンも雇わせてるし」

「でも、あの人の言うこととかやることとか、何か信用できるというか、好きだぜ。俺は」

「そうか? 騙されやすそうだもんな、お前」

「んだとぉ?」

 

 シャディクは弁当を食べながら、日陰で微笑んだ。

 自分が思っていた以上に、あの男は信頼を勝ち取れていると感じたからだ。

「おいおい、一人で食べてんのか?」

 ふと、誰かに話しかけられた。顔を見ると、先ほど弁当を渡してくれた社員だった。

「隣、失礼するぜ」

「あ、お構いなく」

「それはOKってとらえるぜ?」

 そう言って男は座った。短髪で焼けた色の肌の壮年の男性だ。

 

「大変だな、入ったばかりなのに工事の手伝いとはねえ」

「そうですね」

「ルイエはどうしてここに入ったんだ?」

「どうして?」

「なんか理由ないのか? ここを選んだ理由さ」

「うーん……なんとなく、でしょうか」

「なんとなくか。ま、今は働けるだけありがたいのかもな」

 これだけ話しかけてくるが、社員の方も弁当を食べ進めていた。

 

「ジェタークってさ、変だよな」

「変?」

「シビアな仕事が多いのに、妙に優しいんだよ。もちろん、厳しいこともいっぱい言われてきたが、なんか真っ直ぐなんだよな、ここの人間ってさ」

 笑みを浮かべながら話し続ける男。

「あの若社長もそうさ。変なとこで意地張って、真っ直ぐでさ。アーシアンへの支援活動とか、アスティカシア学園存続とか、当時は社員からブーイングが飛んできたそうだ。利益に繋がらないからな。けど、そこは絶対に譲らず強行したんだよ。どっちも必要としている人がいるって聞かなかったらしい」

「そうだったんですか」

「でもさ、そういうとこに人間としての魅力を感じるっつーのかな。あの若社長は、人を惹きつける何かがあると感じるよ。ま、平社員の俺が言える立場でもないんだがさ」

 

 楽しそうにしゃべる様子から、グエルの影響力を感じる。悔しいが、ここまで信頼されるような人間だったのだ、グエル・ジェタークという男は。

 

「実は俺、社長とは、ちょっとした縁がありまして」

「おっと?」

「俺、彼に泣きついたんです。いい仕事があれば紹介してほしいって」

「そうなのか? すげーコネ持ってたな、お前」

「まさに幸運ですよ。とんとん拍子でジェターク社には入れたんですから」

「そうか。お前もちゃんと、人間味があるんだな」

 

 彼のこの発言を聞き、シャディクは自分の中に異様な感覚を抱いた。それは、自分がシャディク本人ではない機械人間だからなのか、それとも、人間の感情を持つが故なのか。

 

「ごちそうさま。今日は飯が美味かったな」

「話してくれて、ありがとうございます。えっと……」

「ナリバだ。ナリバ・タツマ」

「はい。ナリバ先輩、ありがとうございました」

「おう、残りの仕事がんばれよ!」

 シャディクも弁当を完食し、搬入作業に戻った。

 

…………

 

 

「お久しぶりです、お元気でしたか」

 ついにやってきた休日。シャディクは離れた町の宿にて、通信を繋いでいた。

「その声、プリンスか! 生き返ったのは本当だったか!」

 相手はフォルドの夜明けの代表、ナジであった。といっても、今はフォルドの夜明けではないのだが。

「生き返ったわけではありません。別人ですよ」

「そうか……んで、要件は例のヤツか?」

「ええ。そちらへの報償やMSの手配は後程お伝えします。実物を運んでいただきたい」

「場所は?」

「ジェターク社地球支部建設地」

「なるほどねぇ……だが、わかりやす過ぎやしないか?」

「最短経路で行きます。時間がかかれば、連中はさらにのさばる」

「あんたがそう言うなら構わんさ。日時はいつがいい?」

「連携のための時間を考えれば、四日後にしてもらいたい」

「四日か。わかった。こちらも行けるよう準備しておく」

「よろしく頼みますよ。キャンセルになった場合はまた連絡します」

「ああ。お互い、生きて帰ろうぜ」

 

 通信を切った。彼は、今日はここで寝泊まりし、翌日現場に戻る。通信履歴に配慮し、持参した端末ではなく宿のスタッフに借りた端末から通信していた。

 個室で寝そべり、シャディクは天井を見つめる。

 

「アーレア・ヤクタ・エスト。さあ、グエル。お前はどう動く?」

 

…………

 

 

 四日後。いつものように作業していたシャディク。計画の実行時間は決めていなかったが、いつ来てもいいように、心は身構えていた。当然、グエルにもこのことは伝わっている。工事現場にあるジェターク社の端末から連絡済みだ。グエルも、それを了承した。

 

「結局よ、MSなんて持ってきたけど、何も来ないよな」

「ま、平和が一番よ一番。さあ、口より手を動かせよ!」

「は~い」

 平和ボケした世間話が聞こえるが、それは今日崩れ去るかもしれない。犠牲者が何人出るかは、状況次第であった。当然、被害は最小限に抑えたいのは双方の望みであるが、あからさまに行ってはカモフラージュにならない。

 

「休憩だ! 各員、弁当を持ってけ!」

 カミルの一声と同時に、一斉に休憩時間となった。今日も一人、弁当を食べるシャディク。

「実行の日は今日だよな?」

 黙々と食べていると、カミルが正面に来ていた。

「ああ。恐らくは、この時間か夜だろう」

「被害は最小限ってか。そっちの社員は戦えそうか?」

「わからないが、大丈夫だとアイツは言っていたよ」

「そうか……じゃ、後は信じるだけだな、俺にできるのは」

 しかし、休憩時間が終わっても、襲撃は来なかった。

 

 仕事が終わり、日が暮れる。作業員が労いの言葉を掛け合い、各々帰っていく。人が少なくなるが、翌日の動きを打ち合わせるために六人、いや、シャディクを含めて七人が残っていた。内三人がジェターク社の人間だった。その中には、ナリバもいた。

「こうやって、みんなで火を囲むのも悪くないだろ?」

「確かに、あまり経験がないです」

 カミルの提案で、打ち合わせる前に夕食を摂ることにしていた。木材に火を点け、その上に鍋を置く。傍から見ればキャンプファイヤーだった。

「そろそろ頃合いか。明日以降のプランは、食べながら話していこう」

 そう言って、カミルがお椀を回し始めたその時。

 グオン、という鈍い音が聞こえた。誰の耳にも聞こえるほどの、音量で。

「なんだっ!?」

 一同が硬直した次の瞬間。周囲に轟音が鳴り響く。何かのエンジン音。しかし、車のそれとは比較にならない。突如、茂みの奥から光が見えた。その正体は、ジェターク社の人間にとって見慣れたものであった。

 

「あれはディランザ!? 誰が乗っている!?」

 光の正体は、ディランザの頭部。護衛用に運ばれ、布を被って置かれていたはずのディランザ・ソルが、起動しているのだ。

 

「俺が行きます!」

 シャディクが真っ先にMSの方へ飛び出す。フォルド襲撃の心構えができていた分、他の者より早く動けた。

「俺達も行きます!」

 ナリバともう一人のジェターク社員も後に続いて走り出す。しかし駆け付けには間に合わず、起動したディランザは立ち上がってしまった。こうなると予測していたシャディクは、その近くにあるもう一機の方へと進路を取っていた。そして、コックピットに素早く乗り込み、起動させる。

「行ける! ディランザ・ソルで出ます!」

 カミル達の端末へ通信を入れ、シャディクのソルは直立していく。

「ルイエ! 敵もディランザ・ソル一機だが、足元に社員がいる! 踏むなよ!」

「了解!」

 社員達を避けるため、ペダルを踏みこんで急上昇した後に、急接近していく。幸い、相手はビームライフルを所持していない。ただ、それは素早く飛んだこちらも同じであった。

「こちらの機体を使うとは…………聞いてないんだがな!」

 威嚇としてビームバルカンをばら撒く。敵機も後方へとホバー移動して避けていく。しかし、その後退の隙に、シャディクはさらに接近していった。

 ガコン、と金属同士がぶつかり合う音が響いた。敵の機体に組みつき、地面へと押し倒す。シャディクは、敵機の上に覆いかぶさる形となった。

「ぐぅぅぅぅぅ!!」

 急な姿勢変化によるGを受けながら、シャディクのディランザ・ソルは右腕を引き、盾からビームトーチを取り出す。その刃は、敵の盾と肩の間を通り、焼き斬った。左側も同じように動き、トドメに胸部バルカンの砲身も焼いていく。

「その機体にはこれ以上武器はない。投降しろ」

 スピーカーから相手に呼びかける。ディランザ・ソルはほとんど操縦したことなかったが、シャディクは難なく乗りこなしてしまった。

 

「すげえ……本当に新人かよ」

 作業員の一人が呟いた瞬間。別の場所から爆発音が聞こえた。

「今度はなんだ!? 建物への攻撃か!?」

 建物ではなく、茂みの中の爆発だった。直前で光が見えるようなこともなかったことから、ビームではなく爆弾の類であると推測できた。

「おいおい! あそこって確かステアを隠してた場所じゃ!?」

「ヤバいんじゃねえの!? 逃げた方が!」

 作業員達が焦り出す。

「とにかく避難だ! あっちの木々の中へ!」

 カミルが冷静に指示を出し、作業員達をMSから引き離していく。

 

「手榴弾か」

 シャディクの方でも爆発を確認できた。彼は、潜んでいた敵がディランザ・ステアに乗り込むために、乗ろうとしていた社員に向かって手榴弾を投げたと考えていた。すぐに近くで、ディランザ・ソルとディランザ・ステアの二機が起き上がる。通信が入った。

「聞こえるか、ルイエ!」

「ナリバ先輩! 聞こえます!」

「ソルは確保できたが、あっちはダメだ! 盗られた!」

 やはり、ステアの方が敵の手に渡ってしまった。

 

 その上、さらにレーダーが反応する。こちらに向かってくるMSが四機の識別が表示された。

「デスルターとプロドロス!? 骨董品じゃねえか!」

「先輩はデスルター達を! ステアは俺がやります」

「できるのか新入りに!?」

「ステアのデータは把握してます!」

「言い合ってる場合じゃねえな!!」

 そう言いナリバは、目の前のステアにビームライフルを放つ。避けられてしまったが、すぐさまライフルからビーム刃を形成する。

「後は任せる、ルイエ!」

 ナリバの機体はステアに突撃し、相手のライフルを破壊した。しかし、その反撃としてビームトーチを貰い、右腕を斬り飛ばされソルは転倒してしまった。ステアがこちらへ向く。

 

「一対五か……さすがにマズいなっ!!」

 スラスターを吹かし、シャディクは一気に前進する。ステアの方もビームトーチを構え、突き刺そうとしてくる。

 

「ディランザ・ステア。性能は全てこちらより上だが、弱点がある」

 シャディクは前傾姿勢だった機体に急ブレーキをかけその場に留まる。そして、突撃してきたステアのビームトーチを蹴り上げた。ソルの脚にも刃が当たり、亀裂が入った。

 

「成功するかは技量次第だが!」

 シャディクのソルはステアにタックルをした。ステアも姿勢を崩しそうになるも、なんとか持ち直す。だが、その直後に再びシャディクはタックルした。またもバランスを崩しそうになるが立ち続けた。そこへ、今度は横からタックルをしかける。それでもステアは倒れなかった。

 しかし、ステアは棒立ちしている。いつの間にかビームトーチの刃は柄に収まり、シャディクの機体を追おうとする動作すら無くなったのだ。シャディクはすかさず、武装を全て破壊し、無力化した。

 

 ディランザ・ステアは軽量化によるスペック向上を図った機体。パワーはソルにも劣らないが、それはステア側が動いている間の話である。地上に立っているだけの静止時に、重量のあるディランザ・ソルに押されて負けるのは当然であった。それを何度も受けた衝撃が伝わり、ステアのパイロットは気絶してしまったのだろう。

 

 デスルター達が来るまでに無力化に成功したのだ。だが、敵もいつまでも待ってはくれない。既に、それらの機体が発射した実弾が飛んできていた。

 

「旧式相手か。ライフルはいらない」

 シャディクはそのまま四機の方へと突っ込んでいく。四機も十字に展開し、互いに距離を取っている。前衛のプロドロスに向かってビームバルカンを発射するが、それだけで敵を無力化するには至らなかった。至近距離まで接近し、シャディクは敵の薙刀を盾で受け、敵機が振りかぶった隙にビームトーチで斬り上げた。あっという間に両腕を破壊した。

 その直後、両側からデスルターの機関銃がばら撒かれ、盾と装甲に直撃した。が、そこはディランザ。安価な実弾程度では傷がつくのがせいぜいであり、損傷は無いに等しい。シャディクは右側のデスルターへ近づいていく。簡単に接近でき、胴体と下半身の間を斬り裂き、機関銃を奪う。

 

「次は……あっちか」

 後方から撃ってくるデスルターの方に振り向き、機関銃の残弾を放つ。フレームから炎が上がっていたが、それでも向かってくる相手に、ビームバルカンを放ちながらシャディクは後退した。次第に敵機の腕や足は断線していき、動かなくなった。

 

「次で最後だな」

 残った一機のプロドロスの方へ向かおうとした時、上空からビームが降り、プロドロスを突き刺した。レーダーがディランザ以外の機影を捉えた。

「後ろから? 機体は……ザウォート・ヘヴィだと?」

 通信回線を繋げようとすると、相手もすぐに応じた。

「こちらはジェターク社のルイエ・ルクゾ。そちらの所属は?」

「こちら議会連合の駐留部隊だ。そちらが襲撃されたと通報を受け、援護に来た」

 やって来たザウォートは、議会連合の機体のようだ。これは、誰にとっても思わぬ横槍だった。USBを回収するため、ここをさらに荒らされると面倒になる。

「残念だが、戦闘は終了した。後は俺達で始末をする」

「そういうわけにはいかない。引き続き攻撃を受ける可能性を考慮し、ここの後処理は我々も行う」

 こちらの言葉に応じず、その場に留まろうとする議会連合。さらに追加で三機来た。

「いてて……どうなった、ルイエ!?」

 ナリバのディランザ・ソルから通信が入る。

「全機、撃破および無力化しました」

 戦闘終了。敵機全ての無力化および撃破に成功した。

「本当か!? お疲れさん! 新入りだけど腕が立つな! もしかして学園育ちか?」

「過去のことはあまり話したくなくて……」

「おっと、そうか。すまないな。後処理は連合がやってくれるって?」

「みたいです。情報を独り占めされるようで、腑に落ちませんが……」

「まあな。相手の身元くらい、こっちでも探らせてもらうか!」

 二人はコックピットから降りた。

 

 

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