機動戦士ガンダム水星の魔女R シャディク・ゼネリの福音   作:いえるおるがP

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第四話 議会連合の闇

…………

 

 地球支部での件から約一カ月後。グエルはフロント・アウセンを訪問していた。表向きには、このフロントとも友好関係を築くための会合を開くということになっていたが、本題は議会連合のガンダム保有施設を調べることであった。

 

「会合はどうでしたか? ジェタークCEO」

「感触は悪くないな。いずれ支社も置かせてもらおうと考えてしまった」

「辺境のフロントにも目を向ける視野の広さ、見習います」

「二人でいる時くらい、その堅苦しいのはやめてくれ。今は誰もいないだろう」

 外を出歩いているということもあり、シャディクは一社員としてグエルと話していた。

「お言葉ですが、そういう甘さが命取りなるのですよ」

「そういうもんか?」

 どこか不満そうに眉をひそめるグエル。

「今回の計画、俺達が出張る必要はなかったんじゃないか?」

「最終的に物を言うのは、ご自身の感覚と記憶です。私と貴方が、この目で見ることが大切ですよ」

「うーん……」

 納得いかず、また眉をひそめる。そのままホテルへの歩みを進める二人。

 

「ん? 連絡だ」

 突然、グエルのスマホが震え始めた。

「もしもし? え? 本当ですかケナンジさん!? ええ、わかりました。とりあえず戻ってきてください!」

 連絡をしてきた相手は、ケナンジだった。ドミニコス隊の隊長であり、現在もその任は変わっていない。ベネリットグループ、MS開発評議会は解体されたが、新企業連合でも特殊部隊が必要になるという流れで、現在まで存続していた。

 

「ドミニコス隊員が施設らしき場所を掴んだ。すぐにホテルに戻るぞ!」

……

 

「小惑星部分に、後付けの建造物を発見。居住区域からでは見ることすらできない場所です。MSでの視察で判明しました」

 

 ケナンジが報告していく。ホテルの一室に集まり、作戦会議を開いていた。プロジェクターに映し出された映像は、MSから撮影されたものだ。小さく建物が映っており、近くにMSと思しき物も見えた。話を聞いたグエルが意見していく。

 

「潜入するためには、MSが必要になりそうですね」

「なくても行けなくはないですが、時間がかかりますから。それに武器がないと危険でしょう。なんせ、相手はあのガンダムですから」

「ですね。隊員の皆さんはMSを用いて行くように」

「日時はどうしますか?」

「明日の昼がベストでしょう。宇宙議会連合の招集日。昼間は議会に出席しているわけですから、こちらに注意を向ける者は少ないはずです」

「単純ですが、早めの行動が肝でしょうからな。いいでしょう。侵入ルートは既に各員の端末に通達済みなので、時間までに読むように! くれぐれも戦闘は避け、目的の物を入手次第撤退する手筈で頼みますよ。では、今日は解散!」

 

 ケナンジはパンと手を鳴らし、プロジェクターと端末を閉じた。ドミニコス隊員が退室していく。部屋に残ったのは、シャディクとグエル、ケナンジだけとなった。

 

「いやぁ、まさかあなたが生きているとは驚きましたよ、シャディク・ゼネリ」

「ご冗談を。今はルイエ・ルクゾです。ただの青年ですよ」

「いけ好かないお坊ちゃんだこと。相変わらずだねぇ」

「これでも好かれるよう、努力しているつもりなんですがね」

 シャディクの返答に、はっはっは、と笑うケナンジ。しかし、急に彼の顔が険しくなる。

 

「本当にいいのですか? 身の安全を考えれば、前線に立たずとも我々がやりますよ?」

「俺達二人は十年前の経験もあります。その上、俺の方は機械の体だ。生身より頑丈ですよ?」

「おっと、そうでした。ジェタークCEOから聞きましたよ? 全身GUNDで補助されてるって。どこぞの知り合いもそんなんだったっけかなぁ……」

「オルコットさんのことですか?」

「さあ、どうでしょう? しかし、うーん……どうしてこうも背負いたがるんでしょうな」

 ケナンジは頭を掻いた。

「ただ、あなた方ももう立派な大人だ。当時者としての責任は取っていただきましょうか」

「ええ、そのつもりですよ」

 

「あ、そうそう。隊員には共有済みですが、今回の作戦には助っ人が一人来ますよ」

「助っ人ですか? 誰です?」

「これがちょっとばかし特殊でしてね……MSなしで潜入するってんです。敵のMSを奪取するためにね。その人物は、あなた方も知っていますよ」

 ケナンジに見せられた端末には、『セレク・F・ネイル』という名前が記されていた。

「セレク? 聞いたことない名前ですが……」

「まあまあ。このデータを全部読めばわかりますよ」

…………

 

 翌日、正午の十五分前。

「ケナンジ隊長。MS全機、予定通りにポイントへ到達」

「よし、潜入を開始する。各員、パスコードの用意を」

 ケナンジの合図に合わせ、グエルとシャディクもディランザ・ステアから降りる。隊員達はそれぞれ二人一組となり、別々の施設入り口から侵入する。事前に通達されていたパスコードを入力、扉を開け中へと入った。無重力下であるため、走るようなことはせず、ただ前へと流れて進んでいく。

 

 すぐにMS格納庫まで来た。中には、事前に聞いていた通りの光景が広がっていた。

「ガンダム・ルブリスが……こんなにあるのか……」

「増産されているからな。恐らく、現代のMSに合わせてチューンアップされている」

 格納庫内には量産タイプのガンダム・ルブリスが十機はあった。

「これだけ存在していたなんて……スレッタがやったことはなんだったんだ……!」

「見ろ、グエル」

「ん?」

 

 シャディクが指を差した先を見るグエル。

「……あれはなんだ?」

 並んでいる機体の中に、ルブリスとは異なるシルエットの機体があった。ファラクトのような顔と、機体全体を覆えるほど大きな背部ユニット、他の量産タイプと異なるのは確かだった。

「新型のGUND-ARMだな。ルブリス・ウルやソーンとも違う」 

 もし高性能機であるのなら、破壊した方が敵の戦力を削れるだろう。しかし、今回の目的は関与者リストを手に入れること。敵機体の破壊ではない。グエルは黙ってその場を通り過ぎた。

 

「ここだ」

 シャディクがパスコードを入力し、扉を開ける。

「ここの端末を調べてみれば、リストに当たるかもしれない」

「……なんだ、ここは?」

 広い部屋の真ん中は通路と思しき道があり、その両側には、透明の円柱内に満杯の水が入ったものがずらりと並んでいた。その中には、赤いような、桃色のようなものが浮いており……それが無数にあった。

「これは、一体なんだ!?」

「人工子宮。ここで新たな生命が産み出され、消費されているのさ」

格納庫よりも先にあった部屋は、培養部屋だったのだ。人間の。

「なんのためにこんなものを!?」

「遺伝子操作によるパーメット耐性向上を図ったものだ。これだけの数のリプリチャイルドがあれば、遺伝子の解析は捗るだろう」

「ガンダムのパイロットを作るためだけに、これだけの命を産み出し、殺しているのか!?」

「そうだ。これが、今の議会連合の実態だ」

 想像を超えた現状が、グエルの吐き気を催してくる。

「人の命をなんだと……!」

「それを言う資格があるのは、お前じゃない」

「え……?」

 シャディクの表情が険しい。

「……行くぞ。議会連合の人間に関する情報は無かった」

 二人は、さらに奥の部屋に行こうとする。

 

 今度は、小型モニターが並んでいる部屋にたどり着いた。管制室といったところだろうか。

「間違いない。この部屋には例のリストがあるはずだ」

 シャディクは一つの端末を起動し、データを確認していく。グエルは周囲を警戒する。

「やはり、アーシアンの孤児を大勢拉致し、実験に使っていたか……」

「なあ、シャディク」

「なんだ?」

 

「妙じゃないか?」

「妙?」

 グエルはここまでの道のりに違和感を感じていた。

「ここに至るまで、誰からも邪魔されなかった。極秘情報の塊のような施設だぞ? なぜ、人が誰もいない? なぜ、セキュリティシステムもないんだ?」

 それを聞いたシャディクの表情が固まる。しかし、彼はそのまま端末内の情報を探っていた。

「見つけたぞ、グエル」

「本当か!?」

 モニターに表示された文字列は、確かに議会連合の議員名を連ねていた。

「…………データ移送完了まであと一分か。すぐにここから出るぞ、退路を開いてくれ」

「ああ、わかった!」

 シャディクに従い、来た道を戻るグエル。扉を開け、先程の培養部屋に入った。

 

「おや、ネズミに入られていたか」

 前から声がする。暗くて距離がわからないが、間違いなくドミニコス隊員の声ではなかった。

「誰だ!!?」

 咄嗟に銃を前に構えるグエル。しかし、次の瞬間、後ろから銃口を突きつけられた。

「ゆっくり銃を放せ」

 グエルは後ろの男の言うことに従い、銃を放し、両手を上げる。

「こうして会うのは初めましてかな? ジェタークCEO。十年前は世話になったね」

 前からの声が近づいてくる。薄暗い中でも相手の顔が見える距離になった。

「あ、あんたは……!?」

 その顔は、グエルもよく知っていた。

 

「ノイエス・ゲイター……!」

 

 ノイエス・ゲイター。名は知らずとも、その顔を知らない者はほとんどいない。なぜなら、彼こそ宇宙議会連合の元議長であるのだから。しかし、十年前のクワイエット・ゼロを巡る騒動において、ILTS発射の指示は彼が行っていた。それが明るみに出ることはなかったが、事件の責任の一端を背負い議長の座を辞任、しかし、議員として議会連合に残っていた。

 

 その男が今、グエルの目の前にいるのだ。

 

 不愉快な笑みを浮かべているノイエスへ、グエルの怒りは矛先を向いた。

 

「元議長が、どうしてこんな真似に加担している!?」

「どうして? 面白い質問をするね、君は。私がどういう人間かをまるで理解していない」

「どういう人間か、だと?」

 

「私はね。力が好きだ」

 口角を上げたまま、ノイエスは語り始める。

 

「権力、暴力、財力、どれを見ても魅力的じゃないか。力というものはステータスであり、スキルであり、パワーであり、自由なのさ」

「一体、何を言っている?」

「この宇宙でただ一つの政府機関。そのトップの座に立てば、この世界の行く末など簡単に決めることができる。それが楽しいんだよ。思い通りに動く世界というのは、とても面白い。私という人間が居て初めて成り立つという点も、なかなか幸福だ」

「楽しい? 幸福だと? あの惨状を、そんな風に言うのかお前は!?」

「言うさ。たのしいんだから。私こそ正しく世界の在り方を考え、そして動かすことができるのだよ」

 怒りに震える腕を、なんとか動かさないように保つ。

 

「ああ、そうだ。質問に答えていなかったね。なぜ、こんなことをしているのか、だったかな?」

 目を閉じて、その場を少し歩いた後、ノイエスの顔は険しくなる。

 

「あの日。私が全てを潰し、全権を手にするはずだったあの日! ILTSは一機のMSによって機能を失った。 白いガンダム、キャリバーン! あの忌まわしい怪物によってな! 憎い、憎いとも!」

 

 先程までの笑みが消え、目を見開いていた。その顔に、狂気を感じさせる笑みが浮かんでいく。

「憎いが、素晴らしいではないか! 私の想像も及ばぬ圧倒的な力、あれこそがこの世で最も強く、最も美しい力。手に入れたい……何としても……! どんな犠牲や対価を払ってでも!」

「対価だと!? お前一人のために、何人犠牲になった!?」

「知らんよ、数など。しかし、私はあの力には未だに到達できない。あくまでガンダムは武力の域を出ないのだ。悲しいよ。悲しい。十年前に生まれた私のささやかな夢は、これだけの年月が経った今も実現しない……」

「ささやかだと!? ふざけるな!」

 グエルが顔を前へと動かすが、同時に突き付けられた銃をぶつけられる。

「さて、おしゃべりが過ぎたか。他のドミニコス隊員に見つかれば面倒なことになる。君、グエル・ジェタークを処分したまえ」

 後ろの男が銃を握りしめる。

 暗い部屋の中で、火花が二回、飛び散った。

「……………………!!」

 死を覚悟し、グエルは目を瞑った。

 

 が、次第に自身の体の震えを自覚する。

「…………あれ? 生きてる?」

 恐る恐る目を開け振り返る。後ろにいた男は力なく漂っている。そのさらに後ろから、金色の髪が見えた。

 シャディクだ。シャディクが、グエルの後ろにいた男を撃ったのだ。

「処分されるのはあなただ、ノイエス」

 グエルの背後から、シャディクが再び引き金を引く。弾丸はノイエスに命中した。しかし、弾丸が当たったはずの宇宙服に穴はなく、へこんでいるだけだった。

 

「やはりか、シャディク・ゼネリ! 生きていたのだな!」

「防弾服か……」

「もちろん、私自身が出張る時には最善の装備で来るとも。小さな弾丸を何発撃ち込めれようと、穴の一つも空かない完璧な防護服だ」

 高らかに説明しているノイエスの後ろから、誰かが出てくる。そしてすぐさま、こちら二人に対して発砲してきた。

「うわっ!?」

 グエルのヘルメットにヒビが入る。シャディクの持っていた銃は弾かれてしまった。その誰かは、こちらに二丁の銃を向けている。

 

「紹介しよう。我が最高傑作、アルナ・ゾネ。地球の孤児で、七年前にここへ連れてきた」

 宇宙服のメット内をよく見てみると、かなり若く中性的な顔立ちをしていた。青い髪で、学園の生徒と言われても納得するような背丈であった。

「アルナのパーメット耐性は異常な数値だ。どんなリプリチャイルドよりも、オリジナルの耐性値が最も高かった。天性の才能だ。それでも、ガンダムの性能を引き出しきれないがね」

 ノイエスが説明していると、培養装置の影から数人の人間が姿を見せ、こちらに銃を向けた。囲まれてしまった。

「グエル、目を瞑って前へ進め」

「え?」

 

「今だ!」

 絶体絶命の状況。シャディクが叫ぶと同時に、辺りは真っ白になった。

「っ!? 閃光弾か!? ゾネ、逃がすなよ!」

 焦って探そうとするノイエス達。しかし、目が慣れてきた頃には、グエルもシャディクも、既に部屋にはいなかった。

 

 

 格納庫を通り抜け、シャディクとグエルは、出入口まで来ていた。しかし、外への扉が開かない。

「……パスコードが違う?」

「なんだと!?」

「グエル、ケナンジ隊長と連絡とれるか? 入った時と違うパスコードにしなければならないかもしれん」

「それなら、コードリストを預かっている。片っ端から試してくれ。ケナンジさんには連絡しておく」

「すまないな、何度も。さっきは冷や汗をかかせただろう? 思ったよりもデータ移送に時間がかかった」

「いや、俺の方こそすまない。お前を護衛するつもりだったのに、不覚を取った。助かったよ」

「そうか」

 お互いに、しゃべりながらも着実に手を進める。

「ケナンジさん! 出口でのパスコードに引っ掛かって出れません! 色々試していますが、そちらから何機か来れますか!? 扉をこじ開けてもらいたいんです!」

 グエルはケナンジとの通信を続けている。

「……ダメか。パスコードを変えられてしまったか?」

 シャディクは、全てのパスコードを打ち終えた。しかし、外への扉は開かない。

「あと三分ですね! 早めにお願いします! …………隊員の機体がこっちに向かっている!」

「グエル、悪い知らせだ」

「なんだ?」

 

 シャディクは、来た道を指差す。暗闇の中に、宇宙服と思しき物が見えた。

「追いつかれたらしい。恐らく、さっきのアルナ・ゾネという奴だ」

「逃げ場はないぞ! どうする!?」

「やむを得ない、俺が前に……!」

 

 シャディクが前へと出ようとした時、突如右側の壁がガラガラと崩れ始めた。瓦礫の隙間から、格納庫にあった量産タイプのルブリスが見えた。あのうちの一機が動いているらしい。

「こっちだ! 来い!」

 差し出されたマニピュレータに飛び乗り、コックピットに収容してもらう二人。ルブリスはそのまま前進し、壁を壊しながら外へと出た。

 

「助かった、誰かわからんが礼を言いたい」

 狭いコックピット内でグエルが言うと、パイロットが振り向く。

「わからない? 知ってるだろ、僕だよ」

「え?」

 その顔は、普段社内でも見慣れた顔であった。

「お前、あの時のエランか!?」

 

 エラン・ケレス。ペイル社次期CEOであったが、クワイエット・ゼロの一件でペイル社を抜け、ブリオン社へと引き抜かれた男だ。ブリオン社とジェターク社とは今でも友好関係にあるため、時折顔を合わせる間柄だった。アスティカシア学園の存続支援も行っており、グエルも彼に頭が上がらない。

 

 が、それは本物のエラン・ケレスの話である。今、二人の前にいる男はその影武者である、強化人士五号。十年前はクワイエット・ゼロを止めるため、スレッタやグエルと共に行動した。その後の消息はわからなかったが、こんなところで再会するとは思っておらず、グエルも驚きを隠せない。ここではエランと表記した場合、彼を指している。

 

「驚いたぞ! 助っ人がお前だったとは!」

「僕にもできるようなのはこういう仕事しかなくてね」

 

 操縦するエランの横で、グエルが通信を繋ぐ。

「ケナンジ隊長! こちらグエル。エラン……いや、セレクと合流して助かった」

『それはよかった! そのまま予定地まで撤退しましょう!』

「了解!」

 ルブリスが進路を取った先には、ドミニコス隊の戦艦、ユリシーズがあった。

…………

 

「なるほど。彼と一緒に帰ってきたということは、ディランザ・ステアは置いてきたのですね。しっかし、ノイエス・ゲイター本人がいるとはねぇ」

 ケナンジが話を切り出す。ユリシーズの会議室に、先の潜入を行ったドミニコス隊員とグエル、シャディク、エランが集まっていた。

「ノイエス暗殺を試みましたが、失敗しました」

「アドリブで暗殺は難しいでしょうし、目的じゃぁないですから問題ないですよ」

 シャディクの報告の次に、口を開いたのはエランだった。

「僕も敵の新型を見つけたんだけど、コックピットに入ることすらできなかった。証拠品にできるルブリスは持ち帰ったからチャラってことで」

「ええ。元々、その手筈だったので。CEOとプリンスはリストを手に入れたんですよね?」

「はい。本来の目的は達成しました。これが関係者リストです」

 グエルが端末を机の上に置く。

「ええ、確認しました。隊員の何名かも同じリストを回収しています。それから、隊員が他にもヤバい物を見つけたんですよ。これを」

 

 今度はケナンジが端末を置いて見せる。何かの設計図のようなものが映し出された。上部に『GUND-ARM LFRITH IS』と書かれていた。

「これは、もしかして奴らの新型の?」

「でしょうな。ガンダム・ルブリス・イス。その設計図とデータだと思われます」

「グエル。この機体、俺達が通った格納庫にあったな」

「ああ、間違いない。あの機体だ」

「おおっ!? では、既に作られているのですね。全く、連中も困ったものだ……」

 ケナンジは腕組みをし、うつむく。再び目を開け、彼は説明を続けた。

 

「この機体にはかつてのエアリアルと同様、複数のビットがついています。普段それらは合体し、翼を形成して背部に繋がっているようです。シルエットはコウモリに似ていますね」

「にしても大きいですね……前に広げれば盾にできそうな」

「ええ、パーメット塗料もバッチリ使ってビーム耐性を高めてあります。翼の状態で、機体すべてを覆うことも可能だとか」

「だとすると、相当な防御力を持つわけですね。厄介だな……」

「その翼は、六機の大型ビットに分かれるそうです。ビームの出力も、一般のライフル以上。機動性や推力も高い数値です。その分、パイロットへの負担もバカにならないですがね。こんなのと交戦するとなると、先が思いやられますな」

 ケナンジは端末を閉じた。

 

「しかし、こうもあっさり達成できたのは、やはり不審ですな……」

 ケナンジが首を傾げていると、部屋に艦のクルーが入ってきた。

「ケナンジ隊長! これをご覧ください!」

 新たな端末が差し出される。何かの動画が映っている。

「これは、連合の議会中継か?」

「はい。先程まで放送されていたものですが、皆さんもよく聞いていてください!」

 一同が机の上の映像に注目した。

 

『本日の議題はこれにて終了とするが、ここで追加告知したいことがあると申し出を受けた。アリム議員』

 一人の女性議員が立ち上がる。

『この場にいる方々も、映像を見ている方も、落ち着いて聞いてください。私達は、証拠を掴みました。十年前のベネリットグループが解散、それに至るまでの数々の事件のことを、皆さんもご存知でしょう。その主犯であり死刑判決を受けた男、シャディク・ゼネリの名も皆さん知っているはずです』

 一呼吸置いて、議員は続けた。

 

『彼は、まだ生きています』

 

「えっ!?」

 グエルが声を上げる。

 映像内の会場も、ざわめきだしていた。

 

『今なお、生きている彼の姿を収めた写真があります。そして、彼が今、ジェターク・ヘビー・マシーナリーにいるということも掴んでおります』

 

 会場のスクリーンに映し出されたのは、地球支部での戦闘を終えた後、作業服を着てMSの足元にいるシャディクの姿だった。

 

『世紀の大犯罪者を匿う企業を、野放しにしてしまっていていいのか? 今ここで、私はジェターク社の全財産の差し押さえ、及びシャディク・ゼネリの身柄引き渡しを要求したいのです。議長!』

『…………アリム議員の提案はわかりましたが、本日の議題は既に終了しています。その情報の真偽を委員会にて審査した後、次の議会で本件の処遇を決めます。本日はこれで解散とします』

 

 

「まずいことにはなったが、議長が中立派で助かった。即確保ということにはならなそうだ」

 最悪の事態を案じたグエルは、そうならないことに胸を撫で下ろした。

 

「そういうことか! やすやすと情報を盗ませたのは!!」

 今度は、ケナンジが声を上げる。

 

「こちらを潰す算段があったから、情報を握らせた! そして、先程のノイエスとのやり取りでシャディクがジェターク社と繋がっているというウラ取りは完了した……!」

「えっ? ハメられたってことですか!? 俺達は!」

 ホッとしたのも束の間、グエルは焦り出した。

「そう考える他ないでしょう。もちろん、先程盗んだ情報を公開すれば、議会連合は道連れにできる、いや、逆転勝ちもあり得るでしょう。けど、我々が今いるのは地球から離れた僻地。マスメディアとして公開できる場所まで移動しなければ、公の発表とはなりません」

「なら、手段は問わない! 艦の通信で、奴らの証拠を公開しなければ!」

 

「ジェタークCEO!! それが敵の罠です!!」

 ケナンジは、不安に煽られたグエルを一喝した。

「罠……?」

「そうしている間に、奴らはこの戦艦ごと葬り去る気だ! あれは時間稼ぎの情報開示! 我々の対応を遅らせるための!」

「つまり、この艦を奇襲しようとしていると!?」

「その可能性が高い! 十機以上のガンダムですよ!? それくらいのことはやるでしょう! レーダーはどうなってる!?」

「はっ、現在MSの機影は確認されておりません」

「しかし相手はガンダムだ。あの推力で近づかれれば……総員、直ちに戦闘準備を! CEOとシャディクも、新型に使って応戦を!」

「わかりました!」

 会議室から、次々と人が出ていく。シャディク達は、MSドックを目指した。

「調整を済ませておいて正解だった」

 シャディクとグエルが、MSの前で話している。

「一カ月という間に、よくやってくれたよ、お前は」

「昔の勘を取り戻すのにはちょうどよかった」

 話しているシャディクは、どこか上機嫌だった。

「覚えているか? グエル。お前と戦った時のこと」

「あの時は、俺も頭に血が上っていたな」

「だろうな。正面から突っ込んできていた」

「ああ。闇雲に戦ってた気がするな」

 闇雲であれか……と内心思っていたシャディクだが、言葉を心に留め、アロンザのコックピットに乗り込む。

「グエル」

 ハッチを閉める前に、グエルへ微笑むシャディク。

「お前は死なないよ。俺が保証する」

「なら、お前も死なないな」

 返事を聞いて、シャディクはクスッと笑った。

 

「セレクさん、あなたには戦艦の護衛を……おや、あなたもガンダムに乗るんですか」

 ケナンジは、量産タイプのルブリス乗り込もうとするエランを見つけた。

「僕の分の機体は支給してくれないって契約でしょ?」

「堅苦しいことはしませんよ? ディランザやベギルペンデIIも予備があります」

 それを聞き、一瞬目を見開くエランだったが、すぐに穏やかな表情になった。

「ま、いざという時だけスコアを上げるさ。それに……」

 何かを言おうとしたが、少し間を置き、エランは続ける。

「どうせ、僕の出番はないだろうし」

 そう言い残し、ルブリスのコックピットに乗り込んだ。

「ふむ……なんで十年前の学生さん達は自己犠牲的なのかねぇ」

 ケナンジも、ベギルペンデIIへと搭乗した。

 

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