機動戦士ガンダム水星の魔女R シャディク・ゼネリの福音   作:いえるおるがP

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第五話 過去の清算

……

 

「広範囲レーダーに複数の機影をキャッチ! 各MSは出撃してください」

 艦内にアナウンスが流れる。

 

「全隊員に告ぐ。今回の任務は、母艦ユリシーズの護衛である。命を懸けてでも、情報と艦を守り抜き、議会連合のスキャンダルを公表するのだ。しかし、隊員でない方々は、ご自身の他の使命も自覚し、生き延びて帰ってくるように! 以上!」

 ケナンジの通信が終わると同時に、機体が一機ずつカタパルトから出撃していく。

 

「生きて帰ったら、みんなに一杯おごってくださいよ、ジェタークCEO!」

 メカニックから冷やかされるグエル。

「ああ、祝杯を挙げよう。トリニダンテ! 発進!」

「約束ですよ。ルイエ・ルクゾ、アロンザ、出ます!」

 グエルの駆るトリニダンテと、シャディクの乗るアロンザ。どちらも宙域の中へ進んでいく。

 

「我々はジェタークCEOとは違うポイントにて迎撃するぞ」

 ドミニコス隊も、グエル、シャディクとは異なる方向へ飛んでいく。

 

「さ、のんびり構えてようか」

 エランのルブリスは、ユリシーズの周囲に留まり、護衛についた。

 

……

 

「十一時方向に敵を確認!」

 最前を飛んでいるベギルペンデから通信が入る。

「MSの数は……二十? いえ、二十二です!」

 対して、今回出撃したドミニコス隊員はケナンジを含めて五人。ここにグエル、シャディク、エランを含めた八人。相手の数は倍以上であった。

「多勢に無勢か……まいるねえ、この年でガンダム狩りなんざ」

 コックピット内で一人ぼやくケナンジ。いち早くスラスターを吹かし、デブリの影に潜んだ。

 

「領域内に敵機侵入!」

「了解! アンチドート、展開!」

 フォーメーションを取っていた他のドミニコス隊員も、ルブリスと交戦状態に入った。各機体、アンチドートを展開する。ルブリス達は構わず動き、ライフルを撃ち続ける。

「ガンビットが使えなければ!」

 隊員達は盾を前にしながら、ライフルを撃ち合う。しかし、すぐに異変に気付く。

 

「なんだ!? 赤い軌跡……!?」

 急にルブリス達から、一斉に赤い線が迸る。宙域をすいすいと進んでいく。

「ガンビットか!? ぶつかれば爆発するぞ!」

「アンチドートが効かない! スコアを上げたか!」

 何度も曲がる軌道すらも追いかけてくるビットを払うのは難しい。ましてや、その数が五十近くともなれば、なおさら。

「自分の命も省みないのかよ!? わぁっ!?」

 次々と隊員が被弾していく。ビームライフルで落とした者もいたが、それだけでビットを全て処理できる者はいない。そして、この攻撃の恐ろしい点は、振り切れないことだけではない。

 

「コイツ!? 急に出てきて!」

 目の前に現れたルブリスを蹴り飛ばすベギルペンデ。ビットは、本体の同時攻撃が可能である。その脅威が、ドミニコス隊員を窮地に追いやる。

「ビットなんかに構ってられるかぁ! うわぁっ!?」

 隊員がサーベルを抜いた瞬間、ビットが着弾。衝撃に怯んだ間に、ルブリスの接近を許してしまった。ライフルから伸びるビーム刃が胴体に突き刺さる前に、ルブリスの体が貫かれた。

 

「まったく、ウチの隊員もまだ青いねぇ」

 デブリ裏に隠れていたケナンジの機体による狙撃だった。予め、ロングスナイパーライフルを持って来ており、デブリに固定していた。

「さて、こっから反撃開始と行けるか!」

 彼の方に集まったルブリス達の注目を、他の隊員達も見逃さなかった。一機、また一機とライフルで撃ち落としていく。

「なぁんだ、みんなやればできんじゃん?」

 ケナンジのベギルペンデも加速し、ルブリス達へ突っ込んでいった。

 

……

 

「ずるいな、そっちは使い放題か」

 エランも、ルブリス二機と交戦中だった。追いかけてくるビットを、一基、二基とライフルで撃ち落とす。また、ユリシーズからの砲撃が当たり、いくつかのビットも爆発した。

 

「これじゃあ埒が明かないな!」

 エランは、追ってくるビットを無視し、敵のルブリスへと狙いを定める。それでも、多数のビットがエラン機の方へと向かってくる。

「単調なんだよ、さっきから! 胴体と足ばかり狙ってさぁ!」

 そう言いながら、足を上げ、機体を回転させる。ビットがすり抜けていく。軌道の読みを当てながら、ライフルでビームをばら撒く。そのうちの一つが、敵機の肩に当たった。すかさず、エランはビーム刃を出し、敵のルブリスを突き刺した。

「まずは一機!」

 

 機体を蹴り飛ばし爆風を避け、もう一機のルブリスへと照準を合わせる。しかし、すぐにエランは気付く。ビットが周りからいなくなっていた。残りのビットとルブリスが、ユリシーズの外壁まで来ていた。すぐさま向かうエラン。こちらへ振り向き撃ってくる敵機を前に、エランは冷静だった。

「だから、単調なんだよ君達は」

 相手の弾を全て避け、彼の撃つ弾は全て相手の避ける先を読み切っていた。最後のルブリスも、あっさりと撃破してのけた。

 

「くぐった修羅場の数が違うのさ。さ、後は休も……うん?」

 ルブリスのレーダーに急接近してくる機体の反応があった。

 

「この機体識別は……嘘だろ!?」

 モニターに表示された文字列は『GUND-ARM LEFRITH UR』であった。

「ソフィのガンダム……なんでまだ残っているんだ!?」

 

 

……

 

「これだけいるのに、当たらねえ!」

 グエルも、多数を相手に手こずっていた。ビームライフルがなかなか当たらない。

「まだ近くに七機はいるぞ。手を緩めるな」

 シャディクのアロンザは敵の懐まで接近し、ビーム刃で斬り刻んでいく。無数に漂うビットが、トリニダンテとアロンザを執拗に追いかける。

 

「グエル、ジャベリンを使え!」

「ダメだ、極力殺さん! ぐあっ!?」

 ビットが二基が、トリニダンテに着弾した。

 

「くそっ! 手加減できる相手じゃないか……!」

 グエルは、補助AIを起動した。肩のビットが外れ、ルブリスのビットへと向かって飛んでいく。ビーム刃を形成しながらぐねぐねと追いかけ、敵のビットを一基ずつ刺していく。

「今のうちに本体を……!」

 トリニダンテは左腕でサーベルを引き抜く。ライフルを撃ちながら余所見をしているルブリス近づき、すれ違いざまに斬り抜く。さらにもう一機、斬りかかってきた機体の動きを見切り、振り抜く。

「二機撃破! 残りは四か!?」

 

 振り向くと、アロンザが三機に囲まれている。放たれたビームやビットに引っ掛かり、脚や肩を被弾している。

「シャディク! 手を貸す!」

 トリニダンテの肩ビットがアロンザへ急接近していく。そして、ルブリスの腕を斬り落とした。

「そこだ!」

 アロンザも両腕を振り抜き、二機のルブリスの胴体を両断した。

「これで最後!」

 グエルもすかさず残る一機を斬り抜いた。

「シャディク! ドミニコス隊の動きが悪い! 行くぞ!」

……

 

「残る機数は……ん?」

 突如、ケナンジ機のアラートが鳴る。

「上?」

 一言呟いた瞬間、大きな衝撃に襲われる。

「ぐわあああっ!? な、なんだ!?」

 下へ投げ出される衝撃を受けながら、機体上方を見る。そこには、ビームサーベルを突き刺そうと見下ろすガンダムの姿が。

 

「隊長をやらせるなぁ!」

 周囲のベギルペンデがケナンジ機の方へ向き、一斉にライフルを放つ。しかし、それらは敵機を貫かない。装甲表面に留まっている。次の瞬間、そのビームの塊は、元来た方へと戻っていった。跳ね返ったのだ。

「ぐあああ!?」

 ベギルペンデがそれに被弾していく。ガンダムはサーベルを降ろし始める。

「くそっ! ただじゃやらせねえ!!」

 ケナンジは盾を思い切り上へ投げた。目くらましだ。その裏で左腕にビームサーベルを握り、突き刺す。刺したのだが、信じがたい光景が広がっていた。

 

「なにィ!?」

 敵機体の胴体まで明らかに届いているサーベルの刃が、刺さっていない。粒子が装甲を避けるように、分かれて散り散りになっている。

「コイツ、例の新型か!?」

 ガンダムの翼が、六枚のビットへと分離し、ビームを放とうと光り輝いている。

『魔女狩り部隊の伝説も、ここで終わりだ』

 知らない声の通信が入る。サーベルを降ろし、六枚のビットが斉射しようとしたその瞬間。

 

「うああああああああ!!」

 ガンダムに何かがぶつかった。そして、そのまま押し出していく。ビットのビーム発射が遅れ、ケナンジ機の回避行動が間に合った。

「白い機体……ジェタークCEOか!」

 宙に残ったビットは、親を追って離れていった。

「って、棒立ちしてる場合じゃない!」

 ケナンジ機はすぐに体制を戻し、隊員の援護に回った。

……

 

「キツイな、あっちの方が性能は上か!」

 そう言いながらも、エランはルブリス・ウルが放つビームの雨を躱していく。

「議会連合の奴らも悪趣味だな……僕とこの機体を戦わせるとはね!」

 隙間を縫って、近づきながらライフルを撃っていく。しかし、ルブリス・ウルもこまめに動き、なかなか当たらない。

「ここらが潮時かな……見たいものはもう……ぐっ、くぅぅぅ……」

 痺れを切らした彼は、ついにパーメットスコアを上げる。ルブリスはガンビットを展開し、敵へと絡みつかようと動かしていく。ビームを掻い潜り、装甲へとたどり着いたものが次々と爆発していく。しかし、それでも頑強なルブリス・ウルは壊れない。だが、エランも承知の上だった。

「はあああああ!!」

 ライフルを乱射し、ビーム刃を振り回す。しかし、相手もビームサーベルを振り抜き、斬り払われる。

「こいつ、さっきまでのより速い!?」

 そう言った瞬間、急に視界が効かなくなった。ガトリングガンを頭部へ投げられたのだ。すぐに見えるようになるも、そこには二本のビームサーベルを抜いて向かってくるルブリス・ウルの姿が。

「ここまで来たら、やるか死ぬかだな……! いいさ!」

 

 スコアをさらに上げようとした瞬間。ルブリス・ウルの右腕が光り、千切れていく。

「やらせんよ!」

 一機のベギルペンデが、サーベルを突き刺す。今度は左手に当たり、サーベルが宙に浮かぶ。

「今だ!」

 エランは、ルブリス・ウルの胴体上部へビーム刃を突き刺した。爆発はしなかったものの、シェルユニットから光が消え、ルブリス・ウルの動きは止まった。

 

「今度は死なせませんでしたよ?」

 通信が入る。ケナンジの声だった。

「なんだ、意外と根に持ってたんだ」

 ルブリスのシェルユニットから色が抜けていく。

「助かったよ、ありがとう」

 笑顔で返事するエラン。

 

「しかし、ジェタークCEOが危ない! 新型と交戦している!」

「わかった! 向かおう!」

……

 

 グエルは、ベギルペンデに取りついたガンダムを、タックルで押し出した。

「うわっ!」

 新型ガンダム、ルブリス・イスに蹴られ、押し返される。その直後、ルブリス・イスの体のあちこちが光り始めた。勘を頼りに、敵機から離れるグエル。放たれたのは、何本もの細いビーム砲だ。近くで喰らったら致命傷だったかもしれない。

「体中がビーム砲か!?」

 トリニダンテは、バックパックからジャベリンを引き抜き、肩ビットを展開する。ルブリス・イスはビットを繋ぎ、機体に戻した。

 

『お前達は死ぬべき人間なんだ……!』

「通信!? 解放回線!?」

 

『パーメットスコア、シックス!』

 ルブリス・イスのシェルユニットが青く輝き始めた。飛ばしていた肩ビットが退き返し、グエルに向かって飛んでくる。制御を奪われてしまった。

「オーバーライドか! ジャベリン手放せねえ!!」

 ビーム刃を形成し、肩ビットはトリニダンテを斬りに行く。ジャベリンでいなしていくが、ルブリス・イスのビットのビーム砲も飛んでくる。刺されるのは時間の問題だ。

『はあ、はあ、はあ、はあ、落ちろ罪人!』

「死んでたまるかぁ!」

 しかし、健闘虚しく、ジャベリンの間を肩ビットがすり抜ける。

「しまっ」

 トリニダンテのコックピットにビーム刃が刺さると思ったその時。ビットはビームに押し出される。その隙に、グエルは距離を取った。

「グエル、大丈夫か!?」

「シャディク!?」

 アロンザが下方から向かってきていた。瞬間、グエルの脳裏に最悪のシナリオが浮かぶ。

「待て! 奴に近づけば、オーバーライドされる! 来るな!」

 

 シャディクの体もGUND義体というべき状態である。これがデータストームを受けオーバーライドされれば、シャディクの体が動かなくなってしまう。それを端的に伝えたつもりだった。

 

 しかし、シャディクは構わず突っ込んでいく。ルブリス・イスも、ビームサーベルを構え、トリニダンテの肩ビットをアロンザへと飛ばしていく。

「シャディィィィク!!」

「ジーグギフト、展開」

 突如、アロンザを中心にデータストームが押し退けられていく。肩ビットの動きも止まり、トリニダンテへと戻っていく。

『なんだ!? オーバーライドできない!?』

 硬直しているルブリス・イスへ、アロンザがビーム刃を振り抜く。弾かれてしまうも、頭部を蹴って距離を取った。

 

「ビットの制御が戻った!? シャディクがやったのか!?」

「ジーグギフト、次世代型のアンチドートさ」

 

 フェルシーが機体解説の際に割愛していた、グラスレーの新技術。それが『ジーグギフト』である。アンチドートは無人機を止めるために作られた経緯があり、当時GUND-ARMも存在していなかったため高スコアへの対応はできず、対ガンダムの機能としては力不足であった。そこで、高スコア下のガンビットの無効化を目指し開発が進められたのが、このジーグギフトである。

 このシステムも未完成であり、アロンザに搭載されたものも期待されたほどの性能はない。しかし、パーメットスコア上昇に伴うデータスト―ム、それによる周辺機器のオーバーライドへの耐性を得ることはできた。

 

 つまるところ、アロンザに近い空間では、ガンダムは他の機器をオーバーライドできない。

 

「攻め手を緩めるな、グエル!」

「ああ!」

 すぐにルブリス・イスへ接近し、トリニダンテは二本のジャベリンで斬りかかる。読まれやすい動きであったため、あっさりと避けられ、蹴り返されてしまう。ビームサーベルを胴体に向かって振り抜かれるが、ジャベリンの刃先を突きつけ、鍔迫り合いに持ち込む。

「避けるんだな、ジャベリンは!」

 その間に、トリニダンテの肩ビットを外す。三手に分かれ、追い詰める作戦に出た。ルブリス・イスは斬り払い、翼のビットを分離。トリニダンテの肩ビットと撃ち合わせる。

 

『ノイエスが言っていた……グエル・ジェターク、お前は死すべき人間だと』

「何!? 死すべき人間!?」

『だから俺が殺す。お前を殺して断罪するのさ!』

「なぜ、お前が殺す!? こんなことをする必要はない!」

『はあ、俺は苦しんだんだ……苦しんだ末に希望を手にした! ノイエスは褒美に罪人を裁く権利をくれたんだ! はあ、はあ、だから俺だけは、人を殺す権利がある!』

 ルブリス・イスのビットが宙に広がり、二つの三角形を描く。先程よりも強い輝きで、光り輝いていく。

『あの人は世界を憂いている! こんな俺にも地獄だけじゃなく、希望を見せてくれた!』

「なんだ!?」

 

 グエルはその場を急いで離れた。直後、ビットからビームが放たれる。しかし、その規模はすさまじいものであった。MSのサイズを超えていたのだ。戦艦の主砲すらも凌ぐ威力だろう。直撃したら、恐らく一撃も耐えられない。

 

『地獄を知らぬ罪人がぁ! 落ちろぉぉぉぉ!』

 グエルは視線を正面に戻すと、ルブリス・イスがビームライフルを連射しながら突進してきていた。

「しまった!」

 

 直撃は避けられないと思ったその瞬間、トリニダンテの肩ビット、そして背面装着のビットが機体前方に展開する。ライフルの弾を防ぎ切った。

 

「大丈夫か、グエル!?」

「ああ、だが奴のビットに気を付けろ! 喰らったら終わりだ!」

「わかっている」

 

 アロンザもライフルを撃ちながら、ルブリス・イスへと向かっていく。しかし、その弾も敵の装甲を貫けない。それどころか、ビットに当たったものは跳ね返ってきた。

 

「ビームライフルを跳ね返すか……」

『シャディク・ゼネリ! なぜだ!? なぜお前も敵になる!? 俺と同じアーシアンが、なぜ!?』

「地球のためだからだ。何も知らず、不幸を嘆いているお前とは違う」

『不幸だと……!? 俺はアーシアンの代弁者だ! お前こそ罪人、地球の敵だぁ!!』

 

 再び、体中からビームが放たれる。アロンザは盾を斜めにして受け流し、ビーム刃を突き返す。しかし、またしても刃を弾かれ、アロンザは身を引いた。

『はあ、はあ、お前達は、殺されて当然だぁ!!』

 宙を舞うビットから、ビームが乱射される。グエルとシャディクは、網を掻い潜るような回避を要求された。

「くっ!?」

 途中、アロンザの肩先がビームに触れる。一瞬だったが、被弾した部分は溶けて穴になっていた。ビームの雨の一本一本が、単体でも充分な威力を誇っている。

『苦しみを持たぬ罪人どもがああああ!!』

 ビームを放ちながら、ルブリス・イスはグエルへと詰め寄る

 

「お前のような子どもを、救うべきなんだろうな。だが今は!」

『だまれええええ!!』

 ビームの雨は止まない。トリニダンテの爪先にも着弾し、溶けていく。

 

「お前を止めなければ、もっと多くの人が犠牲になる!!」

 グエルはジャベリンを振り、二つのビットに叩きつける。

 

「自分の世界しか見ていないお前などには負けん……!」

 シャディクもビーム刃を振ってビットを押し返す。そして、アロンザとトリニダンテの二機でルブリス・イスの胴体を思い切り蹴った。

 

『ぐあああああっ!?』

 ルブリス・イスは体勢を崩し吹っ飛ぶが、周囲に散ったビットがすぐに集まり、再びビームを乱射する。

 

「このままでは、突破口を見つける前に潰されるな!」

 シャディクも焦っていた。MSの戦闘において、ここまで死に近づいたのは初めてだった。

「せめて、あのビームを弱められれば……」

 グエルはそう呟くと、ふと思い出したことがあった。

 

 グエルが学生だった頃の、アスティカシア学園でのエアリアルとの決闘。二回目はダリルバルデに乗っての挑戦であった。他の人間に邪魔されたくないと思っていた戦いであったが、その思いとは裏腹に妨害が入ってしまう。スプリンクラーの起動だ。あれを受けて、エアリアルのビーム射撃は全て届かなくなってしまったのだ。

「シャディク! 消火弾だ!」

 グエルが声を上げる。

「消火弾だと!?」

「撒くんだよ! ビームを弱める!」

 そう伝えるのと同時に、トリニダンテはマニピュレータから消火弾をばら撒いた。

「わかった!」

 アロンザもばら撒き始めた。近場の宙域には、水の泡のような消火剤がいくつも浮かんだ

 

 ビームは何もない空中や真空を通ればそのままの威力で相手に届く。しかし、何かしらの液体を通せば、粒子が拡散していき弱まる。消火弾は液体状の薬剤を入れているため、これを通るビームの威力は弱まると踏んだのだ。

 

 ばら撒いた後、ビットからビーム砲が乱射される。しかし、消火剤を通った弾は、目に見えて細く、弱くなっていた。

『貴様ら、一体何をした!?』

「教える義理はないな!」

 

 ルブリス・イスへと近づいたアロンザは、今度は蹴りをお見舞いする。横へ、上へ、踵を落として下へ、色んな方向へ揺さぶるよう蹴る。しかし、すぐにその足を掴まれた。

 

『とらえたぁ! 罪深き者!!』

「お前はわかっていない……本当の地獄とは何か」

 アロンザの右腕からビーム刃が形成される。

「自分一人では何も成し得ない無力感が……そして」

 シャディクは、ルブリス・イスの頭部に向かって刃を突き刺そうとする。しかし、やはり頭部にもビーム刃は通らない。

 

「誰かを道連れにしてしまう葛藤と恐怖が!」

 周囲のビットがアロンザを囲んでいく。間一髪のその時、アロンザの右腕は相手の頭部を殴り抜いた。瞬間、ビットの動きが止まる。その隙に、シャディクは胴体を蹴り飛ばし、相手の拘束を逃れた。

『何も見えない!? 貴様、なにをしたぁぁぁぁ!!!』

 ビットが辺り一面にビームを乱射していく。明後日の方向へ放たれていくビームに当たる者はいなかった。頭部への衝撃で、ルブリス・イスのセンサーは一時的に機能不全になっていた。

「グエル! 今のうちだ!」

 トリニダンテは、二本のジャベリンを投げつける。各槍のスラスターが展開し、さらにスピードを増して、ルブリス・イス胴体の一点に刃を突き立てた。

「はああああ!」

 そこに、アロンザは左腕でビームサーベルを突き立てる。そして、右腕で思い切り殴りつけた。仰け反るルブリス・イス。胴体部分に、ヒビが入っていた。

 

「シャディク! 今のヒビだ! あそこに攻撃を集中させれば!」

 シャディクも、アロンザの両腕を胴体のヒビに向かって撃ち出す。両方ともヒットし、ヒビが広がっていく。

 

『見つけたぞ……!!』

 敵の声が響く。センサーが復旧した。

『絶対に許さん、貴様らは!』

 叫びながら、ビットを翼状に戻そうとする。しかし、アタッチメントが噛み合わない。

『なんだ、今度は!?』

 ビット同士の隙間に、トリニダンテのジャベリンと肩ビットが挟まっていた。

「今だ!」

 

 トリニダンテが接近し、胴体へビームサーベルを突き立てた。サーベルの刃は弾かれたが、ルブリス・イスの胴体から何かが剥がれる。

 

「まさか、パーメット塗料……!? なら!」

 傷から見えた胴体の白い部分。ここへはビームも通るはずだ。グエルがそこへとサーベルを刺そうとしたその時、声が聞こえた。

 

「グエル! 離れろ!」

 エランだ。彼の声に従い後ろへ下がるトリニダンテ。直後、目の前を通り抜けるビーム。彼のおかげで避けることができた。さらに、そこへ青緑の楕円形コンテナが降ってくる。

 

「ビームは耐えられても、爆発の衝撃は防げまい!」

 上から放たれたライフル弾を突き刺す。コンテナは大爆発を起こし、ルブリス・イスは大きく仰け反る。その胴体部分の塗装は完全に剥がれ落ち、白い装甲が剥き出しになった。コンテナの正体は、ルブリスのビットを格納していたバックパックだった。

 

「後は頼んだ!」

 エランが言った直後、ルブリスはビットのビームにダルマにされた。

 

「うおおおおお!」

 グエルが近づいた瞬間、トリニダンテの機体は三つに引き裂かれた。ルブリス・イスの六枚ビットから、ビームの刃が出ている。それが、トリニダンテの右腕と下半身を斬り裂いて分断した。

 

『次は貴様だ、シャディク!!』

 トリニダンテの胴体を平手で押し退け、両腕の無いアロンザへと突進するルブリス・イス。

 

『これで! 俺の!! 勝ちだぁぁぁ!!』

 真っ直ぐ前に向けたビームサーベルは、アロンザの胴体に刺さりそうではあったが、そのすぐ横をすり抜けた。機体同士が密着する。

 

「お前の負けだ」

 アロンザの膝からビームの刃が伸び、ルブリス・イスの胴体を貫いた。刃は、膝の内側にあったビームサーベルの柄から出ていた。その数秒後、翼を広げた悪魔は炎の中に散っていった。

 

「ぐ……ぁ……シャ、ディク……どうな、った……?」

 トリニダンテから通信が入る。損傷は激しかったが、コックピットや操縦系は生きているようだ。

「グエル。俺達の勝ちだ。ガンダムはいなくなった」

「そう……か……よかっ……」

 アロンザは、トリニダンテの胴体を抱え、ユリシーズへと戻っていく。

 

「敵MS部隊、全機沈黙! 作戦終了! ケナンジ隊長! 我々の勝利です!」 

「そうか……生き抜いたんだな、俺達は……」

 ルブリス・イスは、アロンザにより撃沈。残ったルブリス量産タイプも、ドミニコス隊員が全て撃破していた。

 

「帰ろう、グエル。お前のあるべき場所へ」

 

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