※宙羽視点です。
……。
「──あんたとバトルするの、つまんないよ」
……。
「──壁とでもやってた方が10倍は面白いわ」
……。
「──どうして0コストのカードに毎ターン盤面破壊されなくちゃなんないの?」
……。
「──どうしてカードの効果で強制的に勝負が決まるの?」
……。
……少しだけ、前の話。
私は、大抵のことは、少しやればできるようになる。
勉強は、少しやればわかった。
スポーツも、少しやれば上達した。
……『ファントムビルド』も、少しやったら簡単に勝てた。
まあ、これに関しては他のと少し違って、『カードが強かっただけ』と言うのが正しいらしいけど。
……まあ、飽き性な私としては。
別に今までそれで……「少しやるだけでできるようになる」ということで、困ったことなんてなかったけど。
カードバトル……『ファントムビルド』は、ちょっと違った。
他のものより、最初からつまらなかった。
他のものよりもさらに、前へと進んでいくような感覚がなくて、最初からそこにいるような感覚が、強かった。
……そして、さらに。
それはどんどんつまらなくなっていった。
──自分勝手な話だけど。
私は飽きるにしても、せめてそれを一通りは楽しみたい。
……そうでないと、気持ちよく飽きることが、できないから。
安心して放り投げることができないから。
だから、私は、この学校への進学を決めた。
楽しい遊びだったって。
──そんな心地の良い思い出のコレクションを、増やすために。
……だけど。
世界は思いの外、広かった。
……今の自分じゃ勝てないって、思うことが何度かあった。
それが新鮮で、楽しかった。
これを乗り越えて目標が無くなった時、私は心からやり遂げた気持ちになれるんだろうなって、思った。
……そして、勿体無いことをしていたことに、気がついた。
──勉強も、スポーツも。
その他の、少しやって飽きたものたちもきっと、同じように。
多分、今みたいな『やり込み要素』は、あったんだから。
……でも、その上で。
今の自分で、いいと思ってる。
──だって、この遊びが。勝ったり負けたり、実際にやるまで結果が見えないこれが。
……今の私にとって、1番楽しいことだから。
──まあ、だけど。
……普段は。
あまり、人とカードバトルをしない。
……理由は、単純。
私のせいで、相手が。
──「つまらない」って、冷めた目になったら。
それは、私の望むことじゃないから。
……これを一種の、トラウマ……と言うのかも知れない。
……。
……そして、今。
10度目のターンが、移っていく。
【不可避の一矢】が、捨てられる。そして、付与効果による【虚無の記録】。ターン開始のドロー。
──手札から溢れていくカードに、もはや一瞥すらも向けない。
無造作に。当たり前のように、手札のカードに手を伸ばす。
「……終わらせて来なさい、【テロス】」
……出てきたカードは、【終焉の兆し・テロス】。
元のコストが50で、自分の《分類:星辰の魔女》を持つエンティティが自壊するたびに、自身のコストを-2するエンティティカード。
コスト減算の上限が設けられていて、最低コストでも10は支払わなけば召喚できないカード。
……そして。
被破壊時効果で勝利効果を持つ香澄のデッキの切り札……レジェンダリーの、カード。
「……【拒絶の魔法】。対象は──」
盤面には、処理できなかった、【獅子の魔女レグルス】がいる。
【拒絶の魔法】は、対象選択したカードに破壊耐性を付与して、それから盤面のカード全部を破壊するカード。
……つまり。
【獅子の魔女レグルス】を対象として選択してカードを使えば。
……それで、私の負けが確定する。
……。
……ある時のこと。
──私は。
少しだけ、過去の私に似たヒトを見つけた。
それは、何気なく校内をうろついていた、放課後のことだった。
『ファントムビルド』が強くて。持ってるカードが強くて。人と話すのが苦手で。……そして、『ファントムビルド』で勝っても、カケラも嬉しそうにしない。
……もしかしたら、同じなのかも知れないと思った。
それが当たり前のように身近なものであるせいで、勝っても、勝った喜びが感じられないところが。
あるいは、勝つために何かをした覚えがないのに結果が簡単に手のひらの中に転がってくることに、罪悪感を覚えているのかも知れないところが。
……その時は、足を止めようとして、やっぱりやめて。
結局、声をかけることはなかったけど。
なんの縁か……いや、元からそういう場所だから、というだけだけど。
彼女は……香澄は、私と同じ生徒会に加入してきた。
考えてみれば、うちの学校の生徒会は、『ファントムビルド』の強さが加入条件だから、当然ではあったのかも知れないけど。
それよりも前に、偶然目にしたのは、ある意味何かの縁かと思って。
……会話が苦手であることを自覚している上で、私なりに。
ほんの少しだけ、近づいてみた。
……そしたら。
実際に近くで見てみたら。
……よく、わからなかった。
まるで、たくさんの写真を貼り付けて1枚の写真を作っていたものを、中途半端に近くで見ようとしてしまったかのような。
「──ひとつ、聞いてもいい?」
……気が付けば、私は。
彼女がカードの効果対象を宣言するのに割り込んで、声を発していた。
……。
彼女は、何も言わない。
口を閉ざして、その青い瞳でこちらを見る。
「……いつから?」
……いつから。
その勝ち筋を見ていたのか。
理論上。少なくとも、私が【見果てぬ希望】を使って高コストカードを捨てさせるよりも前に、【終焉の兆し・テロス】と【拒絶の魔法】2枚を手札に抱えていなければ、そのルートは実現していない。
……そして、途中。何度も任意のカードを捨てて入れ替えるタイミングもあった。……と言うことは、つまり。
それらの高コストカードを複数枚手札に貯め、あえて手札の取り回しが悪いままにしていた時間が、あったはず。
……わざわざ、その状況をそのままにするのは。
それを使う明確なプランがあったからとしか、思えない。
「……別に。最初から」
……そんな私の問いは、しっかりと彼女に届いたみたいで。
──私はその言葉を聞くことができて、納得した。
……『ファントムビルド』はおおよそ、デッキの強さで勝敗が決まる。
勝つためにできること、負けないためにできることなんて、あまりない。
そう、思っていたから。
何を以て、『実力で勝った』と言うのか。常々、疑問に思ってた。
引きの強さで勝つのは、運。
カードの強さで勝つのは、才能。
──つまり、手元にあるカードでの勝率を最大化するのが……。
……私はきっと、これで前よりも『ファントムビルド』を楽しむことができるだろう。
「……聞きたいことは、これで終わり?」
青い瞳を私に向けて。
……彼女は静かに聞いてくる。
……私は、黙って首を縦に振った。
「……そう。なら【拒絶の魔法】。対象は【レグルス】」
──これで、バトルは終わり。
私が早さ比べと思っていたものは、彼女の偽装で。
彼女の計算に、最初から先を越されていただけ。
カードによる幻影が消失していき。
黒い瞳の香澄が、どこか苦しそうな視線を向ける。
──自責、自罰。
……ついさっきまでは、まるで感じられなかったもの。
──私は。
今から寝るにはちょうどいい疲労感を我慢して。
……自分の足で、立って。
歩いて近づいて、言葉を投げる。
「──対戦、ありがとう。……私は、楽しかった」
……香澄がどうだったかは、知らない。
答えがわからないのに、あえてここで聞くべきじゃないような。
……よくわからない感覚だった。
「……あ、えっと……はい。こちら、こそ……?」
困惑気味に、首を傾げる香澄に。
……きっと、楽しかったと、思ったことが一度もないかのような、その態度に。
「……次は、香澄に勝つ」
……ただそれだけを言い残して。
私は寝室へと向かうことにした。