※香澄視点ですが、途中で視点変更があります。
99話 思索あるいは懐古
あれから……みんなで行ったバーベキューの日から、また数日が経ちました。
直射日光の暑さや、その中で火が近くにあるという状態、そして、勢いのままに食べてお腹がいっぱいになってしまったこと。そして、花火が綺麗だったこと。夜中に、宙羽さんと2人で、カードバトルをしたこと。
終わってから振り返ると、全部があっという間だったような気がします。
……そして、今。
あたしは、自室で布団に横になりながら、ぼんやりとしています。
えっと、これは別に、あたしがただダラけている、というわけでは無くて……ですね。
──その、こうしている必要がある……わけではありませんが、ともかくとして、事情があるんです。
……それは、あの日。バーベキューを開始する前。
天岳さんから聞いたニュースについてのことです。
──まず、ひとつ。これはある種の前提として。
……行方不明になったプロのソーサラーの方々の行方について、なのですが。
これが、未だにわかっていないまま……なのだそうです。
──そして。
もうひとつ。
……それは、今日の朝のことでした。
本来、今日は体育祭の準備に向けた調整とのことで、生徒会であるあたしたちは学校に行く予定があったのですが。
……あたしのクラスの担任でもある、月城先生が行方不明になったとの連絡がありました。
それで、学校内からも事件に関連性があるかも知れない出来事が起こった、とのことで。
急遽、生徒会や体育祭実行委員による話し合いの予定は取りやめという形になり。……そして、学校から「不要不急の外出は控えるように」とのお知らせが届きました。
元々、あたしはあまり外に出る方ではないので、あまり影響がない方ではありますが。
……それでも、『ファントムビルド』の大会も多くが中止になったりしているため、あたしの趣味のひとつである、インターネットでの試合観戦などもできなくなってしまっています。
つまり、そうですね……。
やることがない、というのが現状……といった形になるのでしょうか。
……まあ、まだ夏休み序盤なのもあって、宿題が終わっていなかったりしますから、やることがない、というと語弊があるかも知れませんが……。
……それは置いておいて、とりあえず。
休日、とは言っても、それは夏休みであるあたし1人のお話であり。お父さんもお母さんも、仕事があるので家にはいません。
と、そういった事情がありまして。
それであたしは仕方なく、部屋に閉じこもりスマホをいじって。適当な動画を眺めています。
──まあ、そう、ですね。
やることがない、とは言っても。
こうしてスマホを眺めていると、あっという間に時間は経っていくもので。
気がつけば、もうお昼の時間に、なっていました……。
……。
──────────
……。
……誰もいない公園を後にして、歩き出す。
そして、少し歩いた先にある、隠し扉を抜けて。
──そこには。
1人の人影が、立っていた。
……そして。
白衣をまとった数人の研究者たちが倒れ伏していた。
……。
……さて。
これは、少しばかり過去の話だが。
──妹は、天才だった。
時折、本当に自分と同じ遺伝子を持っているのかと何度も疑うくらいに、私とあいつの間には、いつも大きな差があった。
……一応言うと、私が世間と比べて劣っていたかといえばきっとそうでもなかったのだが。
ただただ、あいつには才能があって。
……それで私はあいつを、ずっと特別な人間なんだと思っていた。
それは、今にして思えば。
一種の劣等感が、私にそう思わせていたのだろうと、考えることができる。
……だが。
あれを単に客観的視点の欠如と言い切るには。
少しばかり、あいつは世間的に見ても、才能に満ちていた。
……それが何の才能か、と言えば答えはひとつ。
──『ファントムビルド』という、遊びのことだ。
……その『ファントムビルド』という遊びには『プロ』と呼ばれる世界がある。
人々を楽しませ、そして、それによって得た報酬で生活する。そういう、世界だ。
私は昔、その遊びに強く心を動かされたことがあった。
だから、ちょっとした憧れ……のようなものがあったのだが。
残念ながら、私にはとても手の届くような場所ではなかった。
……だが、その一方で。
あいつがその世界に飛び込んでいったのは。
私から見れば、当然の選択だった。
──才能があるなら、活かさない手はないだろう。
……。
……当時。
一方の、私はと言えば。
友人や知人はそれなりにいたが、どうにも遊ぶような気が起きず。
──1人で遅くまで勉学に励み。
気が付けば、研究職への道を歩んでいた。
当時身近な指標であった妹と比べて、カードバトルの才能がなかった私だったが。
……その時から、勉学への才能は自分で言うのもなんだが、まあ、それなりのものがあった。
それで、私の選んだ研究のテーマは、『ファントムビルド』。
──ソーサラーとは、カードとは、何か。
……テーマとしてそれを選んだ理由としては、それが未知の多い分野であったこともそうだが。やはり私は、その世界への憧れを捨てきれずにいたのだろう。
……当時は己の無才を受け入れたつもりでいた私だったが。
それでもきっと、プロへの道を選ぶことを決めたあの時のあいつよりも、私の方が、その世界に惹かれる気持ちが強くあったのかも知れない……と。
今となっては、そう思う。
──ある時あいつに『人前に出て喋る勇気がないからインタビューとかの時だけ代わってほしい』……なんて言われた時は、少しばかり嬉しかったことを覚えている。
だが。当時の私が少しばかり捻くれていたこともあり。
……実の妹の頼みに対して、『研究に協力すること』という条件を付けた。
一応の弁明をするが、当時は別に、人体実験のようなことをしていたわけではない。
ただ、ソーサラーがデッキを顕現させる時、何が起こるのか。
……そういったことをひたすらに観測し続けるために、協力してもらっていたというだけの話だ。
一応、私もソーサラーとしてカードを出現させることはできるのだが、私とあいつとでは、その出力がまるで違う。
はっきり言って、自分自身のデータはまるで役に立たなかった。
──そうして。
有用なデータのサンプルを得た私の研究は、様々な新発見へと繋がり。
そうして、独立して研究所を立ち上げるまでになっていた。
私には、すこぶる順調というか、順風満帆な人生のように思えていたが……しかし、あいつにとっては、そうではなかったらしい。
あいつは、段々と。
私を、表に立たせることを避けるようになっていった。
──成果をあまり出せていないのに、時間を奪っているようで申し訳ない。
なんて、確かそんなことを言われたか。
……そうして、気が付けば。
何をどう思ってのことかは知らないが。
あいつは、その世界から、立ち去ることを決めていた。
そうなれば、もはや。私たちの間の契約は、交換条件の成立しないものに、なっていた。
……そして。その一方で、私はと言えば。
段々と。普通に研究してわかるようなことに、限界を感じてきていた。
もっと、深く研究しなければ、新たな知見を得られない、と。そんなことを感じていた。
実際、研究所も段々と、違法となるラインを常に意識せざるを得ないような、そんな危うい雰囲気を纏うようになっていた。
……ここで、例えばの話だが。
人体の構造についての研究なら。マウスなどの実験動物を使って代用するという手も、あるだろう。細胞の仕組みだったりとかそういったものは、別に人間で無くてもわかることだ。
……だが。
ソーサラーは、『ファントムビルド』は、人間でしかあり得ない。
──そこに気付いた時点で私は立ち止まることも、今にして思えばできたはずだ。
……だが、当時の私は、そうしなかった。
あいつの代わりという立場も無くなり、私自身の存在意義が無くなるように感じていたからだろう。
……あいつは、止めてきた。
あいつは、ただただ観察対象として協力してきていたわけではない。研究そのものに携わるようなこともあったし、それなりに、研究の状況を把握していた。
──だから、止めてきたのだ。
……そして、私はそれを拒否して。
喧嘩別れをして、今に至る。
明確に違法な研究をするようになり。
……拠点はもう何度も移しているのだが。
まさか、この場所に辿り着くとは。
──正直なことを言えば、想定外の、出来事だった。