※月城(姉)視点ですが、途中で視点変更があります。
証拠の隠蔽工作は、やはりそれなりに時間がかかった。
これまでも、ここらでこういった工作をすることはそれなりにあったから、そのための準備が役立った形にはなったが……その上で、これだ。
……まあ、仕方のない一面もあるだろう。
私はただの研究者であり、工作員でもなんでもない。
おそらく、本格的な捜査が始まれば、ここが見つかるのも時間の問題。
であれば、そろそろ本格的に拠点を移す必要がある、か。
そのための準備も、既に済ませてある。
……予想よりも少しばかり早くなってしまったが、仕方ない。
だが、その前に。私はため息を吐き、歩く。
向かう先は、研究所の外。
……少しばかり歩いて、辿り着く。
──そこは、公園だった。
……なぜ、と問われれば。
少しばかり、答えに窮する。
あえて言うなら……何となく。
実際、妹がここに辿り着き、私を止めに来たから。
……そういうことは、まだ起こり得ると、予想した。
──そして。
その予想は、的中した。
……そこには、1人の少女が立っていた。
──名は……結局、聞いたことはなかったか。
学校での、妹の教え子。
……そして、少し前から。なぜか、よくここへと私の愚痴を聞きに来ていた、変なやつ。
──そして、その中で。愚痴を聞かせる中で、一度。
……うっかり、私が人体実験をしていることを話してしまったこともあった。
こいつがここに来ているかもしれないと思ったのは、それが理由だ。
──ただ、別に。
こいつが私と接点があり、後々目撃者となり得るから消したい、とか。あるいは、こいつを実験材料のひとつに加えたい、とか。
……そういった理由があるわけでは、ない。
──であるなら。別に放っておけば、いいのだろう。
……だが。
私は。ただの気の迷いとはいえ、作ってしまった縁……みたいなものを、精算しておきたかった。
全て断ち切って、そうすれば。こんな迷いなどなく。
……堕ちるところまで堕ちることができるだろうと、そう思ったのだ。
……とは言ったものの、ただ。
ここに私が来たところで、あいつがいない可能性は、充分にあった。
──予想が外れ、夕陽の下。無人の公園を一瞥して、それだけで終わる可能性も、あっただろう。
……それなら、それはそれで、構わないつもりだった。
結局、私は。自分の中で整理をつけたかった。それだけだ。
「……よう、少し久しぶり。また、愚痴でも聞きに来たか」
私はいつも通りに、軽口を叩く。
「……いえ、えっと。……その。ひとつ、確認をしに、来たんです」
……そいつは、普段はあまり自分から口を開くタイプではないのだが。
今日は珍しく、そんな風に、言ってきた。
……そういえば、私が以前口を滑らせたのも。
こんなふうに。……こいつの方から、話を聞いてきた時だったか。
「……えっと、月城先生が、行方不明になりまして……。その、知っています、か?」
──様子を伺うように。
そいつは、恐る恐る、といった様子で聞いてくる。
「──ああ、知っている」
私は、静かにそう答えた。
「……やっぱり、そう、なんですね。……もしかして、なんですけど。これから、危ないことを、しようとしているんじゃ、ないですか?」
……私の答えを受け、そいつがさらに、踏み込んでくる。
「……そうだ、と言ったら?」
「……えっと、危ないことは、やめた方がいいと……思います」
「そうか。……まあ。そう来るだろうと、思っていたよ」
……案の定。
こいつは、妹同様、私を止めに来たのだろう。
「……ところでだが。警察は、この件について知っているのか?」
……ついでに、聞いておく。
後のことを考える必要があるからだ。
「……えっと、みんな、知ってると思います。だから、その。……1人で、そういうことをするのは、やめませんか……?」
……まあ、想定の範疇だ。
あの迂闊な妹より、こいつは常識というものを知っているらしい。
「……断る。そして、そういう話なら。子供相手とはいえ、容赦もしない」
──会話は、ここまでだろう。
私は手を翳し、カードを作り出す。
……『ファントムビルド』で倒し、意識を奪う。
──そうしたら、おそらく。
こいつが呼んだ警察が、私を捕えようとするだろうが、そこで略式の『ファントムビルド』を展開して一掃する。
警察の中に、実力のあるソーサラーが紛れていたら成立しない逃走ルートだが……ここ周辺の警察の中に、そういった者がいないことは調査済み。
……現状、まだ『ファントムビルド』の力がそういった使い方に利用できることは知られていないはずだから、警察としても、ソーサラーを優先的に採用する理由がない。
──存外、分の悪い賭けではないはずだ。
……そして。
こいつがソーサラーであることは、知っている。
それから、以前。
こいつ自身の口から、『カードの成長を経験したことがない』という話を聞いたことも、覚えている。
……ソーサラーとしての実力は、おそらくかなり低いだろう。
──普通に考えて、『略式』でも充分に片付けることができるくらいの実力差は、あるはずだ。
……だが、敢えて。
時間をかけるというリスクを承知の上で。
──私は正面から、潰すことを選択した。
──────────
……。
……布団で横になって、ゴロゴロしていた時。
あたしは、唐突に思い出しました。
……それは行方不明になった月城先生……の、お姉さんのことです。
喧嘩別れをしたというお話を聞いたことがあり、今は繋がりは無いということも聞いていますが、それでも、肉親であれば、何か知っていることがあるかもしれません。
──と、いうのも。
……まあ、無くはありませんが。
どちらかと言うと、本命ではありません。
確かに、担任である月城先生のことが、心配なのはそうですが。
……あたしに、そんな。
事件を解決できるような力があるとはとても思えません。
それどころか、むしろ。
……まあ、何もしなくてもきっとなんとか警察の人が解決してくれるんじゃないか、という気持ちもあります。
……これを『正常バイアス』とか言ったりするんでしたっけ……?
なんか違うような気もしますし、同時に、合っているような気もします。
難しい言葉は使えたらかっこいいですが……やっぱり、変に使おうとして間違えるのは良くないので、やっぱりやめておきます。
──分不相応に格好つけようとしてすみませんでした……。
……と、すみません。
話が脱線してしまいました。
つまり、あたしは事件を解決しようと考えている、というわけではなく。
──むしろ、その逆……と、言いますか。
……もしかしたら、何かを知っているかもしれない月城先生のお姉さんが、月城先生の行方を探そうとして、1人で危ないことをする……かも知れません。
喧嘩別れをしたというお話を聞いた時、なんとなく、寂しそうな雰囲気を感じたような、そんな覚えがありますので。
──その後悔から無茶なことをする、というのは。
考えられないことでは、ないでしょう。
えっと、ドラマやアニメとかで、そんな感じの話を、見たことがある気がします。
……しかし、まあ、これはあくまでただの妄想ですので。
普通に、月城先生が行方不明になったこと自体知らない可能性もありますし、そんな無茶なことをしたりしないかも知れません。
……というか、そもそも。
今からいつもの公園に行くつもりですが、そこで会えない可能性の方が高いくらいです。
……その上で。
あたしは、このことが思い浮かんで、じっとしている気にはなれなかったので。
結局本当に、いつもの公園へと足を運びました。
……そうして、まさかの、あたしの妄想が的中していたことがわかり。
──そこから何故か、カードバトルをすることに、なりました。
……その、本当に意味がわからないのですが。
何故みんな、事あるごとに『ファントムビルド』をしたがるのでしょう……。