※月城(姉)視点ですが、途中で視点変更があります。
……互いにデッキを作り出し、いよいよ後は、『ファントムビルド』を開始するだけ、という段となった。
──おそらく相手はかなり弱い……と、私はそう予想してはいるが。
万が一、ということもある。
私は、妹とバトルをした時と同じように。
……自分のデッキへと、細工を施す。
カードの、異なる世界の断片としての純度が歪に引き上げられ……それによって、純粋に、カードの性能が向上する。
……そして、それだけではない。
この力によって、ここまで純度が引き上げられれば、カードの効果を理解することも不可能となったことだろう。
──この技術は、本来。
デッキの……通称として、『レジェンダリー』と呼称される存在を、『カードの精霊』とは異なる形……つまり、それそのものの本体を顕現させることを目的とした、ものである。
ただ、この技術による干渉だけでは、カードから本体を呼び出すには至らない。
……いわばこれは、その目的の中で言えば補助的な技術である。
さらに具体的に言えば、この技術によって純度が引き上げられたデッキと、そうでないデッキをぶつけ合い、『カードの共鳴』という現象を引き起こし、それによって、他者のデッキの純度を間接的に引き上げ……ということを想定したものだった。
……以前、プロのソーサラーの規模の大きい大会へとこの技術を用いてデッキの内容へと干渉を行ったソーサラーを送り込んだのも、それが目的だったのだが。
──結局、ソーサラーの……もっと言えば、『器としての性能』というものが。
『カードの本体を呼び出す』という目的においては、プロのソーサラーでさえ不足していることが分かっただけだった。
──つまり、というのも少し違うかも知れないが。
……そして、その上あり得ない話ではあるが。
もしも。それを可能とするような『器としての性能』を有しているソーサラーがいたのなら。
そしたら、このデッキのカードの効果を、理解することは可能となるだろう。
……思索を終え。
ふと、手元のデッキへと視線を移す。
──そこには、カードが不自然に力を引き出されたことによってなのか。
まるで、ブラックホールか何かのような……もっと言うのなら、デッキを中心として空間が捩れているかのような……そんな幻影が、映し出されていた。
……一方で。
そんな私に対して。
──相手方。
……つまり、向こう側の。
そいつはなぜか瞳が青い色へと変色しており。
そして、それはまるで電灯のように。
……うっすらと、発光していた。
──そんな彼女は。
バトルが始まる前だが……私のデッキを一瞥するなり、極めて不機嫌そうに顔を顰めた。
……だが、特に何かを言ってくるようなことはなく。
先攻後攻が決定し。
……向こうが先攻でこちらが後攻となった。
──カードの引き直しを行い、最初の手札が決定する。
そうして、バトルが始まり。
──その直後辺りから。
……まるで。
何かが、少しずつ壊れていくかのような。
そんな異質な、音がした。
──そうして。それから……。
──────────
……。
……その、なぜこのようなお話の流れになっているのかは、未だによく分かっていませんが。
結局本当に、月城先生のお姉さんは、カードバトルでどちらの言うことを正しいものとするかどうかを決めるつもり……みたいでして。
まあ、それで話が決まるのなら、ある意味で話が早いといえばそうとも言えるかも……と、いうことで。
あたしも、拒否する理由が思い浮かばず。
……そのまま流れに従うような形になりました。
──ふと、月城先生に顧問になってもらうことをお願いした時のことを、思い出しました。
あの時は、あたしが月城先生に勝った……ということなのですが。
その結果から、結局あたしたちは生徒会に入ることになって。
……色々と、うやむやになってしまいましたっけ。
──何かを決める時に、『ファントムビルド』をし始めるのは。
……もしかしたら、月城家の伝統、なのかも知れません。
まあ、もしそうだったとして、だから何か、ということがあるわけではありませんが。
……いつものように、あたしもデッキを作り出します。
あたしには2つデッキがあり、今回は珍しくその中からどちらを選んでも問題のないシチュエーション、ではありますが……。
何となく、あたしはいつもの……《星辰の魔女》デッキを選びました。
……深い理由は、特にありません。
強いて言うなら、何となく、こちらを使う機会が多いから……でしょうか。
どっちのデッキが強いか、とかを知っていたなら、それを参考にして決めることもあるかも知れませんが。
……残念ながら、まだイマイチそれはよくわかっていませんし……それから、どっちを選ぶにしても、どうせいつものよくわからない『フルオート』的な現象で気が付いたらバトルが終わってた、ということになるでしょうし。
……と、そんな感じで。
つまり、全くと言っていいほどに、何も考えずの選択です。
……そうして、デッキを生成し。
そして。いつも通りに意識が遠のくような感覚がありまして。
……。
……それから、気が付いたら。
──バトルが、終わっていませんでした。
えっと。
状況は……9ターン目。
こっちの体力が20、そして、相手の体力が4。
向こう側だけがフィールドカードを使用しているみたいで、何だか暗い海の底にいるかのような光景が広がっています。
それから、こっちの盤面には、攻撃済みの【獅子の魔女レグルス】がいて、攻撃力は7。
それで、コストは9……つまり、まだこのターンは全くコストを使っていないようで、全て残っている、といった感じですね……。
手札には、コスト9のエンティティカード【巨蟹の魔女アクベンス】だったり、コスト2のマジックカード【不可避の一矢】があります。
……【獅子の魔女レグルス】の被破壊時効果で、7のダメージがありますので、つまり、この【獅子の魔女レグルス】を破壊すればあたしの勝ち……となりそうです。
えっと、あとはそれから……。
……そうですね、あとは、相手側の盤面にも、エンティティカードがあります。
えっと、少し記憶を遡りますと……。
向こうは《深淵の幽牙》デッキという、『不可視』効果を主軸とした、盤面にエンティティカードが残りやすいのが強みのデッキを使っているみたいです。
こっちには盤面全体へと効果を及ぼすカードや、ランダム対象で効果を及ぼすカードが多いので……それが要因でこっちがかなりの優位を持って試合を進めていた……といったような感じみたいです。
相手の盤面にあるエンティティカードも、やっぱり……と言いますか、『不可視』を持っています。
……ただ、【獅子の魔女レグルス】のダメージを防ぐ手段にはならなさそうですし、結果自体は確定していそう……です。
──それで、ふと、少しだけ顔を上げて、向こう側を見ますと。
何だかひどく困惑しているような……いえ、困惑、という言葉ではとても足りないくらいに、とても動揺しているような……そんな表情を、浮かべていました。
……あたしは。
──手札のカードへと手を伸ばし、そしてその指先が、触れました。
そうしたら。
……バキリ、と。
凍った窓ガラスに熱湯をかけたときのような……つまり、ガラスが割れたかのような、そんな音がしたような気がしました、が。
「……えっと、【不可避の一矢】を、使用……します。……対象は、【獅子の魔女レグルス】……です」
……よくわからないので、気付かなかったことにして。
カードを使用、しました。
──そうして、カードを使用したことで。
どこからともなく飛んできた矢によって、【獅子の魔女レグルス】は倒れまして。
……その、被破壊時効果。
【獅子の魔女レグルス】の大剣が飛び、相手ソーサラー……つまり、月城先生のお姉さんを、貫きます。
……これはあくまでカードによって作られる幻影、つまり幻なのはわかっているのですが。
こうして見ると、すごい光景ですね……。
……なんて。
そんなことを思っていたら。
膝を突く月城先生のお姉さんと……それから、彼女のカードと幻影たちに対して。
──こっちのカードと幻影は、何故か、消えず。
そして、さっき聞こえた気がした、ガラスが割れたような音が。
さらに強く、響きまして。
……それから。
深海が消え、現れた夕陽を。……星空が塗りつぶし。
再びあたしは、意識が遠のいていくのを、感じました。