カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※雪菜視点です。



103話 連絡あるいは異変

 

 その日は、突然の知らせから始まった。

 

 ……具体的に言えば、スマホの通知音と共に、有栖から『月城先生行方不明になったんだって!雪菜ちゃんは知ってた?』なんて連絡が来たのだ。

 それで、半信半疑でスマホの画面をつけたら、メールの中に「月城先生が行方不明になり、今日の学校での予定が取り消しになった」という連絡が来ていたのを知った、という形である。

 

 ……正確には、月城先生は行方不明になったと確定しているわけではなく、少し前から連絡が取れなくなっているというものであり……それだけなら、本来なら、行方不明という扱いにはならないところなのだが。

 

 ──ここ最近立て続けに起こっているプロソーサラー行方不明事件との関連性があるのではないか、という考えからそのような判断になったそうだ。

 

 ……ニュースによれば、今起こっているプロソーサラー行方不明事件について。

 現場の状況などから、警察はこれらが人為的な出来事……つまり、一種の誘拐事件だと判断して、捜査をしているらしい。

 

 ただ、ソーサラーの……もっと言えば、『ファントムビルド』には、分かっていないことが多い。

 だからか最近では、「ソーサラーたちが『カード』の何かによってこの世界の外へと姿をくらましているのではないか」なんていうオカルト的な話も、インターネットなんかでよく見かける。

 

 ……あとは「単なる関連性のない失踪がたまたま時期が重なったのでは?」なんていうことを言っている人もいるみたいだが、それはそれで、「失踪に単なるも何もないのでは?」なんていう反論を受けていたりした。

 

 そのような感じで、世間は混乱状態……という程のものではないものの。

 

 ──突然降って湧いてきた非日常の気配に少しだけ、浮き足立っているような、騒ついているような、そんな感じの雰囲気だ。

 

 プロとして正式に認められているソーサラーは、あまり多くはない。

 目指す人間が少ない、というわけでもないけれど……他のスポーツ選手等よりも、素質のようなものを要する側面が強くあり、そのせいで人口は中々増えない。

 

 ……まあ、だからこそ、と言うか。

 そういう意味でも、『プロのソーサラーだけが標的となる詳細不明の事件』は、ちょうどいいくらいに自分が標的になる可能性が低く、その上で話題性がある。

 

 インターネット上で話に乗っかって好き放題言い合うには、都合の良い距離感にある世界での出来事、と言うことなのだろう。

 

 そういう点で言えば……今回の件は、それなりに意味を持つと言えるのかも知れない。

 

 ──今回行方不明になった月城先生は、現在は『プロのソーサラー』ではない。

 正確には、プロであった過去はあるが、既に引退している。

 

 もし仮に、これが一連の事件と関連性があるのであれば、これは、初めての『プロでないソーサラー』が標的となったケースとなり得るだろう。

 

 ……世間には、この件については、まだ公表されていない。

 これは単に、発覚したのがつい先程ということもあって分かっていないことが多いからだ。

 

 ただ、その月城先生が教師をしている、私たちの学校の関係者には、少し早く伝わったというだけで……まあ、今の時代、こういうことはすぐに広まるだろうから、明日あたりには、新しい話題の種が投下されたSNSが、また賑わうことになるのだろう。

 

 ……とりあえず、世間の話は、こんなところだろうか。

 情報が欲しかったから見てみたものの、正直なことを言えば、そこまで世間の反応そのものに興味があるわけではない。

 

 ……とりあえず。

 ここからは、私の個人的な考えだけれど。

 

 今回の話を知って、最初は、よく耳にするソーサラーの行方不明事件はプロのソーサラーばかりが対象だったから、まさかプロを辞めた月城先生までもがターゲットになるとは、なんて思ったけれど。

 

 よく考えたら、別に犯人が「プロのソーサラーをターゲットにしている」という声明があったというわけでもないのだし、そうやって決めつける方がおかしな話だったのだろう。

 

 場合によっては、まだプロでも何でもない私たち子供のソーサラーだって狙われる可能性はあるのだし、もっと言えば、そもそも、ソーサラーだけが対象になると限定して考えるのも、どうなのかと言いたいところ。

 

 ……まあ、考えたところでわからないものはわからないし、事件を解決できるような何かがあるわけでもない。

 

 幸い、私のアパートは、他の家と比べてセキュリティ面では強固な方だから、ここにいればそれなりに安全ではあるだろう。

 

 もしだったら、一旦実家に戻るというのも……まあ、ありだろう。

 ……どっちみち、お盆には一度帰る予定だったから、少し予定が変わるというだけのこと。

 

 ……つまり、私自身は、現状比較的安全な立ち位置にいると言える。

 

 ──そうなれば。

 気になってくるのは、身近な人の安否だろうか。

 

 不要不急の外出を控えるようにとの学校からのお達しもあるけれど、だからと言って、ずっとこもりきりというのも無理がある。

 

 何にせよ、確認というのは大事なことだ。

 あとは、もし仮に自分が標的にされた場合、連絡をこまめに取り合うことで、助かる可能性が多少高まる可能性はある。

 

 ……まあ、それっぽい理由を挙げてはみたものの。

 本心としては、「何もないだろう、大丈夫だろう」と予想はしていても不安なものは不安だから、それを解消したい、という気持ちが強いのは認めざるを得ないだろう。

 

 インターネットを用いての、一通りの情報収集を終えた私は、スマホ画面を通話アプリへと切り替える。

 

 文字によるやり取りでもいいかも知れないけれど、声を聞く方が安心できる。

 

 ──名前の一覧が、表示される。

 

 ……誰から、連絡をするか。

 

 とりあえず、有栖からでいいか。

 ……ちょっと前に向こうから連絡をしてきているし、それがいいだろう。

 

 ……。

 

 ……連絡をして、話をした。

 向こうも、こっちと同じような状況みたいだ。

 

 ……続いて、今度は香澄に連絡をしてみる。

 

 今更ながら、大体のことは学校で話すから。

 ……香澄とこうして通話アプリを使って話をするのは、初めてのことかも知れない。

 

 ……。

 

 ……連絡をして、話をした。

 

 ──どうやら、今日は休みだと割り切って、ごろごろしながらスマホで動画を見ていたらしい。

 

 ……こんな時に、呑気というか何というか。

 普段気弱そうな見た目をしているくせに、案外図太いのか、危機感がないのか。

 

 まあ「気にしてソワソワしても仕方がない」という考えには、同意してもいいかも知れない。

 ──だからと言って、布団でごろごろしてゆっくりしようとまでは思えないけれど……私が気にしすぎているだけなのだろうか。

 

 ……あとは、それから。

 香澄は、私が、「何か知っていることとかってある?」みたいなことを聞いた時、少しだけ何かありそうに言葉を濁した。

 

 「危ないことはしないように」と言っておいたし、さすがに変なことはしないだろうし、大丈夫だろうとは思うけれど……。

 

 ……ダメだ。

 やっぱりこういう状況は、私は苦手だ。

 

 多分、今の状態は良くないから……どうにか気を紛らわせた方が良いだろう。

 

 香澄に倣って、動画でも見る……か。

 ……まあ、他にできることがあるわけでもないし、それでいいか。

 

 そう思って、適当に動画を流す。そうしてそのまま、時間は経っていった。

 

 ……けれど。

 ソワソワする気持ちが、消えない。胸騒ぎというか、何というか。

 

 ……我ながら、自分自身のストレスへの耐性の低さに呆れてきて、ため息が出た。

 

 ──その、時だった。

 

 窓から覗く、夕焼け空が。

 一瞬にして塗りつぶされたかのように、変化した。

 

 たくさんの赤い星が、明滅し、

 そして、不規則な動きを見せる。

 

 ──異様な、光景だった。

 

 ……そして、見覚えがあった。

 

 あれは、香澄の《星辰の魔女》デッキのフィールドカードによって作り出されるものに、よく似ている。

 

 ──咄嗟に、香澄のスマホに電話をしてみる。

 

 ……けれど。

 

 繋がらず。スマホからは『電波の繋がらないところに……』という機械音声が、流れるだけだった。

 

 ……。

 

 ……それから、試しに覗いてみたインターネットでは。

 

 ──大騒ぎだった。

 この現象は、どうやら世界中で、起こっているらしい。

 

 ……私は一度、スマホを机に置いて。

 それから呼吸を、整える。

 

 ──改めて、私に出来ることがあるとは、思えない。

 このまま部屋にいるのが、正しい選択……なのだろう。

 

 だけど。だからと言って。

 ……私は。何もしないでいることは、できそうに、なかった。

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