※雪菜視点ですが、途中で視点変更があります。
空の異変が起こって、それから香澄へと連絡をしたものの繋がらなかった私は。
まずは、通話アプリのチャット機能で、『このメッセージを見たら返事して』と、香澄に安否を確認するための連絡を入れた。
一応。そんなことないだろうとは思いつつも。
……もしかしたら、さっきはスマホの充電が切れていたとかで、ただ偶然タイミングが悪くて電波が通じなかったというだけかも知れない。
そう思って、そのまま少し待ってみたけれど。
やっぱり、メッセージに既読のマークは付かない。
──次に。
本当なら、ここで香澄の家の電話とかに電話をしたいところだけれど……残念ながら、番号がわからない。
それなら、もう、直接家へと訪ねてみるくらいしか思いつかないものの。
……それはそれで、私が香澄の家の場所を知っているわけではないという問題がある。
──だから敢えて、今度は有栖に連絡をしてみる。
これは単に、有栖が何かを知っていたりするかも知れないという考えもあるし、それから、そもそも有栖にも連絡がつくかどうかということも試しておきたい。
……通話は、問題なく繋がった。
ひとまず有栖の身には、何事もなさそうだ。
それなら、せっかくなら直接会って話をしようと思ったのだけれど。
……有栖は今家族と一緒にいて。それでご両親に「今は外に出るな」と言われているのだそうだ。
実際、何が起こっているのかわからない状態だし、あとは単純に外が暗いというのもあるから、確かにそれが普通で正しい判断だとは思うけれど……。
……どうしたものか。
「──実は、さ。さっきから香澄と連絡がつかないのよね。それで、一応聞くけど……有栖、あんたは何か知らないかしら」
とりあえず、情報の共有は必要事項だろう。
「……そう、なんだ。それについてはボクが知ってることは無いかな……。ボクも、この後香澄ちゃんに連絡してみようと思ってたんだけど……そっか。わかった。じゃあ、今からちょっと香澄ちゃんに連絡してみるから……そしたら。それで連絡がついてもつかなくても、また連絡するよ」
順番はこちらの方が早かったが、有栖も同じようなことを考えていたらしい。
「一応、一度香澄ちゃんの家の前を通ったことがあるから場所もわかるし……まあとりあえず、一旦こっちの方でも連絡をしてみてから、それからどうするか考えよう」
……確かに、それなら一旦は待つのがいいだろう。
連絡がつけばそれでいいし、ダメそうなら、その時は2人で考えれば良い。
その上、有栖が香澄の家を知っているというのも都合が良い。
「──わかったわ。じゃあ、また後で」
「うん、またね」
……と、いった感じで。
一度連絡を切り、一時待機という形になった。
……だから、とりあえず。
後回しにしていた自分の家族からの連絡に対しての返事なんかをしながら、ひたすらに、待つ。
──そして、その間も。
私は、香澄から連絡が返ってきていないかを何度も確認した。
……けれど、その間。
私が送ったメッセージには、通知マークのひとつさえも、付くことはなかった。
そうして。
……通話アプリから、着信のアラームが鳴った。
──話によると。
結局向こうも、やっぱり連絡がつかなかったみたいで。
……とりあえず。
一旦直接会って、話をすることに、なった。
……。
……そのような形で、通話アプリを介しての話を終えて。
私は1人、アパートを出る。
時間としては、もう日が沈んでいて全くおかしく無いくらい。
そう考えれば、この星空はある意味で自然な空と思えなくもないのかも知れない。
……けれど。
やはり、あんな風に、赤い星が明滅しているのは自然とは思えない。
──それから、あと。これは自分の目で見えている景色の話ではないけれど。
世界の真反対でも同じような空模様になっているらしいという話もある。
とすればやはり、これは明確に何らかの異常が起こっていると考えるべきなのだろう。
……と。そうして。
アパートから外に出て、空を見上げて考えごとをしたり、騒いでいる周りの人を眺めたりしながら、そのまま待っていると。
一台の見知った車が来て、そして空いている駐車スペースに停車した。
……それは、有栖のお母様の車だった。
「お待たせ!乗って乗って!」
窓ガラスがスライドし、そこから有栖が私に向けて声をかけてきた。
それに対して、私は車のドアを開ける。
「──すみません、わざわざ乗せていただいて……」
そして、まずは車を運転している有栖のお母様に、声をかけた。
「いいのよ。有栖も心配そうだったし、元々もし良ければ一度こっちに来ないかって話をしようと思っていたもの。それに、うちからここまでなんて大した距離じゃ無いから。気にしないでちょうだい」
「……ありがとうございます。すみませんが、お願いします」
……と、いうことで。
挨拶も早々に、私たちは香澄の家へと向かうことになった。
……有栖の道案内に従い、車が進む。
わかったこととしては、どうやら香澄の家は、私の住むアパートから有栖の家へと歩いた道を、そのまま進んで行った先に、あるということ。
……そうして、私たちは。
一軒の家の前に到着した。
その家の表札には、確かに「雲田」と。
……香澄の苗字と一致する文字が書かれていた。
車を路肩に停めて。
車から降りた私たちは、しっかりと、インターホンを押した。
そして。
……少し待ち、足音が聞こえてくる。
──出てきたのは、香澄と似通った顔立ちをした……大人の人だった。
……。
……そして、話をして、わかったことは。
──香澄の親御さん曰く。
仕事を終えて返ってきた時には、家には誰も居なかった、とのことだった。
……。
──────────
……。
……私の敗北でバトルが終わり、そして。
私のカードが作り出した深海の幻影が消えて、本来の景色……夕陽が現れた、その瞬間。
──さらに世界が、塗り替えられた。
……そうして。
新たに広がったのは、赤い星が瞬く夜空。
「……これ、は」
……最初から、様子がおかしいとは思っていた。
バトルが始まるなり、瞳の色が青く変化したり。
喋り方が著しく変化したり。
最後の一瞬だけ、戻ったように見えたが……これは。
……おそらくだが、私が本来研究の中で狙っていた現象。
『カードの共鳴』を介して、異なる世界へと繋がる道筋を強めるというもの。
──そして、道筋を極限まで強めた末に、カードの元となったその世界のモノ、こちらへと呼び寄せるという、そういうもの。
……ただ。
結局、それを起こすには『器の性能』が蓋となるから、理論上は不可能であると結論が出たのだが……。
……信じがたいことに、今目の前で起こっている現象は、まさに、それなのだろう。
世界を塗り替え、そして。
そのデッキが現す世界の、主……カードで言うところの『レジェンダリー』と呼ばれる存在が、姿を現す。
──ただひとつ、気になる一点があるとすれば。
『最後に変化が起こった』のではなく、『最後に変化が戻った』というところだが……。
しかし現実として、『その現象』は目の前で起こっている。
……私の研究は、予期せぬ形ではあったものの実を結んだ。
私はこれを足掛かりに、研究を更なる段階へと進めるべきだ。
バトルは私の敗北に終わったもののどういうわけか、意識はある。
……その上、身体も動く。
研究材料として持ち帰るには、今が好機だ。
……だと、言うのに。
まるで、その気にならなかった。
意識はあり、手も足も動くはずなのに。
……研究を進めるために彼女をその礎にしようと、そういうつもりになれない。
それどころか、犠牲を生み出してまで研究をしようという、熱が。
心の内から、消えて無くなってしまったようだった。
『バトルで負けたから、研究を止める』
……こんな言葉で交わしただけの約束事に、強制力はない。
けれど、その言葉が、まるで呪縛か何かのように。
……いや、違う。
そうではない。
私は、今。
……ようやく、立ち止まってもいいという、大義名分を手に入れたのだ。
最初から、こんなことを続けたいとは、思っていなかった。
立ち止まれない、という。
……そんな呪縛のようなものを、私は自分自身に課していた。
今になって、ようやく、理解できた。
……ならば。私は。
この子を、どうにか戻す方法を探し出そう。
……バトルの最後に、元の状態に戻っていたことを考えると、まだ私の知らない何かがあるはず。
仮に、この子を病院に置いておいても、どうすることもできないだろうから。
……研究所には、様々な資料がある。
やはりまずは、この子を研究所へと運ぶのが、第一だ。
そう、考えて、体を起こすと。
……先ほどまでの重さは嘘のように。
私は少女を背負い、研究所へと運び込むことが出来たのだった。