※前話と同じく香澄視点です。
これは《機構の天使》デッキのアンコモン……これは《砂塵の太陽》のレア、これは……おお、これは《旅立ちの始点》のエピックですね……はへぇ、生成するファントムカードの名前がいっぱい書いてあります……。
あたしは、先ほどからしばらく「開けておいてください」と言われたパックを開封して、それらを《分類》や『レアリティ』で仕分けをしていました。
……そうです、はい。これが、あたしの今日の主なお仕事です。
バイト初日なのでまずは後ろで雰囲気を掴むところから始めてください……と、カウンターの後ろ側でやるお仕事を振っていただいたおかげで、今のところはお客さんとお話ししなくてもいいという状態で、その、とても助かっています。
あ、そうでした。
えっと……《分類》というのは、カードの所属するくくり、みたいな、言い換えると……シリーズ、とか、タイプ、とか、大体そんな感じになるやつです。
例えば、《遊星の魔法少女》や《氷晶の銀世界》とかが、それにあたります。
自分の手札の《分類:〜〜》を持つカードを対象に〜〜みたいな、そんな感じで使われることがあります。
……あとは、相手のカードに《分類》を勝手に付与して、それが付与されているカードを対象に〜〜みたいな使われ方をする時も、ありますね。
──例えば、湖織さんの《氷晶の銀世界》デッキはそんな感じだった気がします。
たぶん。きっと、めいびー……。
……すみません、記憶力に特段自信がある方ではないので、カードの効果を詳細になんてとても覚えていません……。ごめんなさい。
……あ、えっと、そうですね。
はい、それと、レアリティについて、ですね。
レアリティというのは、カードの有している能力の『強さ』を表す指標の一つです。
これについては、元々の『ファントムビルド』には存在しない概念であり、『イミテーション』として販売するにあたって考案されたものだそうです。
コモン、アンコモン、レア、エピック、レジェンダリー、というように分かれています。
ですが、レジェンダリーは……そういう意味では別枠かも知れません。
──レジェンダリーは、ある意味では『ファントムビルド』に元々存在する区分けと言えるかも知れないのです。
と言いますのも、レジェンダリーには他のレアリティと違って明確な基準があります。
まず一つとして、レジェンダリーは勝利効果を有しています。
例えば以前ご紹介しました、あたしの【アルケー】なんかが良い例に当たると言えるかも知れません。
あれの場合は、ターン終了時に【開闢の宣告】……コスト10の、使ったら勝つカードを加えます。
あれのように、それそのものが単体で勝利効果を持っていなくても、それが持つ効果によって生成されるカードの能力に勝利効果が含まれているのなら、それを生み出すカードは、つまり、レジェンダリーです。
あとは、レジェンダリーについてもう少し深掘りしますと、それを作り出せる人は珍しい、というお話や、一つのデッキに複数のレジェンダリーを込めて作り出せる人は、現状確認されていない、というようなお話を聞いたこともあります。
つまり、レジェンダリーと呼ばれるカードは、『イミテーション』として印刷される前の、その元と言える『ファントムビルド』としてのデッキのカードの時点で、特別な存在であると言えるかと思います。
……そのように考えれば、レジェンダリーという区分けだけは「最初から存在する」と言ってしまってもいいのかと思います。
ちなみに、と言いますか。
もちろんあたしも例に漏れず、レジェンダリーは、デッキに一つしかありません。
……さて、あとは最後に、『ファントムカード』について、ですね。
これは単純に、『それそのものはデッキに含まれていないカード』です。
カードの効果によって生成されるカード、といえば分かりやすいでしょうか。
『ファントムビルド』の実践であればあまり気にするところではないのですが、『イミテーション』だと、そうは行きません。
『イミテーション』のカードはあくまで印刷されたものであり、無からカードを生み出してくれるなんていうことはありません。
ですので、先に用意しておく必要があるんです。
例えば……そうですね。
ここに今ほど引き当てました、この【魔法使いとの邂逅】というカードがあります。
効果について、原文をそのままに紹介しますと、こうです。
【魔法使いとの邂逅】
コスト6。マジック。《分類:旅立ちの始点》
自分の盤面に《勇敢なる獅子》と《心持つブリキ人形》、《知性あるカカシ》を1枚ずつ出現させる。
自分の手札に《銀の靴の少女》を1枚加える。
このカードが《分類:読了の栞》を持っているなら、このカードのコストは0になり、上記の効果は発動せず、代わりにカードを1枚引く。
……相変わらず『ファントムビルド』のカードは、単体で見ても何のことかわからないものばかりですね。
──えっと、わからないことは飛ばしましょう。
あたしにもわからないことですので、はい。
ひとまず、カードを『出現させる』とあったり、『手札に加える』とありますね。
これが『デッキから〜』だとか、『手札から〜』、『墓所から〜』とあるのであれば、それによって指定されているものは、おそらくファントムカードではないでしょう。
つまり、逆に、です。
そういった『どこから』と言う指定がなされていないのなら、その場合は、それは『無から生成する』ということなのです。
……すみません、拙い説明をつい長々としてしまいましたね。
しかし、まあ、こんな脳内ルール説明ができてしまうくらいには余裕があるということでもあります。
言い方を考えずに言うのであれば、少しばかり暇……と言ってしまっても間違いではありません。
お客さんの対応は店長がしていますので、あたしのしていることは、本当に、パックを剥いていくつかの山に積んでいっているだけなのです。
まあ、やることがないと言うほどではないですし、お客さんの対応をしろと言われてもきっとまともにこなせないのが、ありありと思い描けてしまいますので、とても助かっていると言えば、そうなのですが……。
──と、そんな風に、ぼんやりとしていた時のことでした。
からん、と音を立てて扉が開きます。
……あ、いえ、音を立てたのは扉ではなく扉に括り付けられた風鈴みたいな金属のなにかですが。
とにかく、扉が開く音がしました。
それを聞いて、ちょうどお客さんの対応を終えていて手が空いていた店長が「いらっしゃいませ」と声をかけます。
これ自体は、もう何度か聞いた流れであり、今更何かを感じることもないのですが。
つられるようにそちらに視線を向けると。
そこには、見覚えのある顔がありました。
……それは、今日学校で見た顔でした。
学校の制服を着ていますし、間違いありません。
それはあたしの隣の席の人……《氷晶の銀世界》デッキでお馴染みの、湖織さんでした。
慌てて目を逸らそうとしましたが、その考えに至るよりも早く。
あたしの周りを一周するように視線を動かした後に、湖織さんの目が、カッと見開き、あたしの目線をしっかりと捉えたのが、分かりました。
もしかして、ついて来ていたのでしょうか……?
そうだとしたら、あたしがここに着いてからずいぶん時間が経っているので、やはり偶然でしょうか。
……どちらにせよ、あたしのバイト先が早くも特定されたことに変わりはありません。
まるで、時間が静止したかのようでした。
目線が合ってしまった状態で目を逸らしたら、一気に襲ってくると言うお話で有名な、熊と、もし偶然目が合ってしまったとしたら──きっと、まさにこんな感じなのでしょう。
すたすたと、まっすぐこちらに目を向けたままに距離を詰めてくる湖織さんを前に、あたしは、声を出すことも、身動きをとることさえも、全くできませんでした。