カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※三人称視点?です。



105話 夜天の世界

 

 ──これは『ファントムビルド』というものが、元より存在しない世界での、出来事である。

 

 ……つまり。今から始まる物語は。

 私たちにとって、自分たちの世界で起こる未来の物事であると同時。

 

 ──例えば『雲田香澄』という少女や、彼女と同じ世界に住まう者たちにとっては。

 『異なる世界』でかつて起こった……縁もゆかりもない地に於ける。過去の物語と、なるだろう。

 

 

 ……。

 

 ……物語の分岐点、あるいは、始発点。

 

 それは。

 赤い光が明滅する、黒い空の下でのことであった。

 

 

 ──そこに。

 

 長く、黒い髪。そして、黒い瞳の。

 まるで、人間の少女のような外見をした存在がおり。

 

 そこへと。唐突に。……穴が、穿たれた。

 

 そして。

 突如として2つの未知なる存在が現れた。

 

 その内の片方は、青い瞳。そしてもう片方は、赤い瞳。

 ……そんな対照的な2つの存在もまた、黒い瞳のものと同様、人間のような姿をしていた。

 

 ……。

 

 ……その、出会いは。

 双方にとって、まるで意図しないものであった様子で。

 互いに言葉を発さず、様子を見て……しばしの沈黙が訪れた。

 

 ……。

 

 ……そうして。

 しばらくの後、その片方。

 

 ──赤い瞳が特徴的な、なにかが。

 

 いきなりその口を開いて、言葉を紡いだ。

 

 「……わたしたち、この世界の外側から来たんだ!──だから、もしよければ。この世界のこと、わたしたちに教えてくれないかい?」

 

 

 「……?」

 

 

 ……急に投げかけられた、その言葉に対して。

 問われた黒い瞳の少女は困惑したように、首を傾げた。

 

 ……そして。

 

 「……すみません。おっしゃっている意味が、よくわかりません」

 

 ……それは、平坦で、無機質で。そして、たどたどしい言葉。

 そして、その答えの内容は。ひどく不親切なものであると、捉えることもできるだろう。

 

 ……だが。

 彼女にとって。

 

 その答えは限りなく誠実で、そして限りなく不正解から遠いものとして、出力されたものだった。

 

 『世界の外側』。

 『この世界のこと』。

 

 ──例えば。急にそんなことを言われたとして。

 自分の存在する世界のことを、何と紹介するべきか。

 

 ……「世界のことを教える」とはつまり。

 自分たちにとって「当たり前であること」の中から、相手にとって「当たり前でないこと」を推測して伝える必要がある。

 

 例えば、「カードバトルが一般的に行われている世界」。

 例えば、「人間という種族が地表で生活している世界」。

 例えば、「地表が球を描いている世界」。

 例えば、「宇宙と呼ばれる空間に幾つもの星が存在している世界」。

 

 自分にとっては当たり前の物事でも、相手にとってはそうとも限らない。

 

 であれば、当たり前でないと思って言葉を足せば、それは過剰になるかも知れないし、当たり前だと思って言葉を省けば、それは不足となるかも知れない。

 

 ……どこまでが前提として扱ってよい部分で、どこからが説明を要する部分なのかが分からなければ、説明などしようがない。

 

 ──と。

 それが発した言葉は、そのような思考を経て導き出された結論だった。

 

 ……そして、言葉の裏にあったその思考の過程は。

 最低限の言葉ではあったものの、質問者へと正しく伝わった。

 

 「──それもそっか。……いきなりごめんね!じゃあ、まずは自己紹介をしよう!わたしはテロス。そして隣のこっちがアルケー。……と、これまた失敬。名前という観念は、存在するかい?」

 

 認識の違いを探るために、段階を踏むことにしたらしく。

 彼女……テロスは、自分たちの名前を伝え、それから相手の名前を尋ねた。

 

 ……名前。

 それはつまり、特定の文字列を個体と紐付け、それを利用して特定の個体を呼称する概念のことである。

 

 「……はい。えっと、名前……でしたら。その、『スピカ』という名前があります」

 

 ……名前という概念は、この世界にも存在する。

 

 彼女は自身を、『スピカ』と呼称した。

 

 「わかった。ありがとう、スピカ!それで、わたしたちは、この世界を見て回りたいと思っているんだけど、案内してもらうことは、できるかな?」

 

 そしてどうやら。テロスは、世界のことを言葉で尋ねる行為に、意味がないと判断したようで。

 

 ──そのように、問いを変えた。

 

 

 ……そして。

 それに対して。

 

 「──えっと。……はい、それなら多分……大丈夫、です」

 

 ……少しばかりの、間を置いたのち。

 スピカは、首を縦に振って、その頼みを了承した。

 

 ──脈絡のない、唐突な出会い。

 双方の間に理解は無く、歩み寄る工程すらも存在せず。

 

 しかし、こうして。

 

 世界にとっての異物である『テロス』と『アルケー』。

 それから、世界に元々存在していた『スピカ』。

 

 ──以上の3者による、やがて世界の終わりを導く旅は。

 これほどまでに、何の前触れもなく、始まった。

 

 ……。

 

 ……そうして。

 

 「……天動型。地表は平面。形状としては、こんな感じね」

 

 「平面式か、なるほど。……そうだね。──スピカ、この世界で、もしもこのまま、ずっと真っ直ぐに進んでいったら、どうなるの?」

 

 「……?ずっと真っ直ぐ、ですか。そう、ですね。……考えたこともないですが、多分、無限に地表が続いているんじゃ、ないでしょうか……?」

 

 ──少々、時は経ち。

 それなりに、躊躇いなく言葉を交わせる程度の間柄に、なっていた。

 

 ……いや。

 

 考え直せば、元々テロスなる存在は、最初から何の遠慮もなく見知らぬ相手に問いを投げかけていたし、スピカなる者は、問われたことに何の疑問もなく答えていた。

 

 ──と、なれば。

 特に、何の変化も起こっていなかった……と、言うべきか。

 

 

 「──そういえば。この空は、ずっとこんな感じなの?」

 

 「……えっと、こんなって、どんな、ですか……?」

 

 青い瞳の……アルケーも。

 テロスと同じように、無遠慮に、問いを投げる。

 

 「……そうだね、空が明るくなったりとか、青くなったりとか、しないのかなって。──そういうことだよね、アルケー!」

 

 「……そう。わたしはそれが聞きたかった」

 

 

 「……えっと、青い、空……ですか。ちょっと、想像がつかない、ですね」

 

 「なら、朱は?」

 

 「……うーん、赤い、空……も、ちょっと想像出来ない、ですね」

 

 

 「──そう。なら、いいわ」

 

 「…………?」

 

 青い空に、赤い空。

 ……未知へと触れたスピカは、困惑していた。

 

 無理のない反応だろう。

 

 ……この世界には、黒い空しか存在しない。

 昼夜の概念などは、ここには全く無いのだから。

 

 ……と。

 このように。

 

 彼らはまるで噛み合わない会話を繰り返しながら。

 ただひたすらに、歩いていた。

 

 

 ……そして。

 その時。

 

 「──なんだ、客かァ?……スピカ!」

 

 刹那、唐突な風切り音。

 ……と、同時に。

 

 ──鈍重な金属同士がぶつかり合う、重く鈍い、金属音。

 

 ……そして、遅れて、衝撃波。

 

 ──轟音と共に広がった土煙が晴れると、そこには。

 地面へと斜めに突き刺さった、大剣があった。

 

 「……あ、えっと、レグルス、さん。その……久しぶり、ですね」

 

 ……そう、遠慮がちに言葉を返すスピカの頭上には。

 その真横に刺さる大剣と、全く同じ大剣が。宙に浮かぶレグルスなる者との直線上に浮かんでいた。

 

 「──ケッ。……相変わらず、気に入らないツラだ」

 

 レグルスが腕を上へと掲げると、地面に深々と突き刺さっていたはずの大剣が、1人でに、宙に浮き上がる。

 

 「……で。そいつらは、何だ?」

 

 そうして浮かび上がった大剣を、まるで自分の指のように扱い、それで指し示しながら、レグルスは問いかける。

 

 「……えっと、そっちがテロスさん、で……それから……そっちが、アルケーさん、です」

 

 ──それに対して、スピカは。

 剣の動きを目で追いつつ、それが向いている方向に合わせて、質問に答えた。

 

 「……そう言うのを聞いてんじゃねェよ。──てことは知らんってか。で、てめェが連れてるってこたァ、オレらの13体目や14体目って訳でもねえんだろうし……いやまァいいか。……そいつら、殺そうと思って殺せる存在か?」

 

 「……えっと、多分無理……だと、思います。外から来たみたい、なんですけど……ルクバトさんも何もしませんし、おそらく……」

 

 「──あァ、そうかよ。じゃあ、てめェの首だけ貰ってくか」

 

 ……少しばかりの、会話の後。

 

 一切の予備動作もなく。

 大剣が、再び。無造作に射出される。

 

 ……しかし、これもまた、スピカの大剣により、正面から迎撃され。

 軌道を逸らされ、そして、無関係の地面を抉る。

 

 ──が、どうやらそれは想定通りの様子で。

 

 ……今度は。

 地面から再び浮き上がり、スピカの背後へと迫るレグルスの大剣と、レグルス自身の突進のタイミングとが、ちょうど重なる。

 

 ──それに対し。

 やや反応が遅れたスピカは、自身の操る大剣を背後に回し。徒手で、迎撃の構えをとる。

 

 ……が。

 さらに、そのタイミングで。

 

 「──うわぁぁぁああ!!止まってぇぇえ!ひゅーちゃぁああん!!」

 

 ──両者の間に、横槍が入った。

 

 ……再度、まるで雷が落ちたかのような轟音と衝撃が走り、その後。

 再び舞った、土煙が晴れる。

 

 

 ──それは、横「槍」と言うにはあまりにも、巨大だった。

 

 ……竜と呼ぶべきか、蛇と呼ぶべきか。

 それは、大きく長い首を持ち、強靭な四肢を持った……なにかだった。

 

 

 「……チッ。おいアクベンス!てめェ、また自分で造った傀儡に振り回されてやがんのか!」

 

 ──しかし、巻き込まれたレグルスが大きな声を出し、不満をぶつけたのは。

 

 その怪物に対してではなく、それよりも遅れてやってきた……先ほど、大きな声で悲鳴をあげていた者に対してだった。

 

 「……!そんなこと言われてもぉ……。ひゅーちゃんを縛るなんて可哀想だからぁ……。──ん?どしたのひゅーちゃん?……お腹空いてる?あれ食べる?いいよぉ!食べちゃえ食べちゃえ!」

 

 怒鳴られた、アクベンスなる者は。

 まるで、反省するような様子はなく。

 

 ──むしろ、その怪物を、焚き付けた。

 

 嬉々として迫る怪物を、レグルスは正面から受け止める。

 

 

 ……そして。その隙に。

 

 「……えっと、今のうちに……行きましょうか……」

 

 「──ッ!くそッ待てや、このッ!」

 

 ──背中を追うように。

 苦し紛れといった様子で、音速で飛来してくる大剣を。

 

 スピカが新たに生み出した、蛇のような竜のような怪物が。

 ……その身を盾に、受け止める。

 

 

 「──余所見してていいのぉ……?──今だ!やっちゃえ!ひゅーちゃん!」

 

 

 ……こうして。

 

 スピカと、それから、テロスとアルケーは。

 新たに勃発した大規模な破壊を背に。

 

 ……まだまだ旅を、続けるべく。さらに、足を進めていった。

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