※三人称視点?です。
「……えっと、ここまで来れば。もう、大丈夫……だと思います」
──もしも、仮に。
この世界に昼夜のサイクルが存在していたのなら。
さらに言えば、『ファントムビルド』なるものが存在している世界を、基にするなら。……彼女らが歩き続けた時間は、「おおよそ10日程度」とでも言い表していたことだろう。
「──それはつまり、あの時のレグルスとかいうのを撒いた、ということかい?」
「……いえ。その、えっと、このくらいなら追いついてこようと思えばいつでもどうとでもできたと思いますので。……ここまで来る気配がないということは、もうしばらくは追いかけてくる気がないっていうことかな、という感じです」
「なるほど。確かにわたしたち、ただずっと歩いてただけだもんね」
……事実、彼女らは。
飛ぶでもなく、ましてや、走るでもなく。
──ひたすらに、歩いていただけだった。
故に。それを逃走と呼ぶには、あまりに悠長というものだろう。
だが、しかし。
彼女らは、未だに歩みを止まる気配はなかった。
……ただ、それは。焦燥に駆られて、といったようなことではなく。
単に、立ち止まる理由が特に無いから、という程度の理由によるものであったが。
「……ところで。わたしたちは、今どこに向かっている?」
「──あ。えっと、すみません。そういえば、そうでしたね……」
──歩が止まらず、ただひたすらに進み続けていくそんな中。
ぽつりと溢されたアルケーの言葉によって。
……ふと急に、スピカはその足を止めた。
そうして、振り返り。
「……その、どこか、行きたいところとか……ありました?」
おずおずと、そう尋ねた。
……流石に、それはあまりにも無計画で、杜撰だと言うべきだろう。
目的地とは普通、1番最初に確認すべき事項である。
「……いいえ、別に。どこへ行こうと構わない」
「──あ、そうなんですね……」
返事を聞いて。
……結局、また再び、歩き始めた。
これではまるで、彼女には何か目的地があるようなそぶりだが。
……嘆かわししいことに、彼女はただひたすらに意味もなく。気の向くままに、歩いているに過ぎなかった。
「そういえば。今更の問いではあるけど、さ。今なら適切に尋ねることができそうだから、聞いてみるけど。あのレグルスやアクベンス。──そして君は。一体どういう存在なんだい?」
……しかし、どうやら。
テロスとアルケーは、そういった、アテのない旅には慣れているようで。
特に何を言うでもなく。
……ただ、至極凡庸な問いを投げかけた。
「──えっと。どういう、と言いますと……?」
しかし。
わかりきった話ではあったが、案の定。
スピカには、その問いの意味は、伝わらなかった。
「──君を見つけるなり……いや、わたしたちの方、かな?失敬。……だとすれば、君を攻撃したのは、ついでで。彼女の本当の目的はわたしたちについて何かを確かめる為……だったのかも知れないけど。──いずれにせよ、わたしには、特段理由がないにも関わらず、当然のように、互いを攻撃し合っていたように見えた」
「……えっと、そう、ですね。……それは、合っています」
……だが、今更にその問いを投げたテロスは、それを予期していた様子で。
迷いなく。前提となる認識をすり合わせることを目的とした言葉を紡いだ。
……それに対し。
スピカは、疑問を浮かべつつも肯定する。
その疑問は。
その認識を有した上で、相手が何を疑問としているのか理解できない……そういった、ものだった。
「……わたしたちの見てきた世界の多くでは。同族はおおよそ共存を好む傾向にあった。その上で、双方に相容れない場合には何かしらの理由が、両者の間に存在している場合が多い。それで、問いたい。──見たところ、あなたとレグルス、それからアクベンスは、同族ではないかと考えた。……なぜ、争う?」
最後に、アルケーによって。
──改めて、問いは提示される。
質問の内容はまるで異なるものであるかのように見えるが、しかし。
……問いの本質は、同義であろう。
「……なるほど、ですね。……どうして争うのか、ですか。……それなら、答えられます」
……真実、質問への解答者は、質問者の真意を知る必要などない。
質問者が適切に問いを形にすることで、望む情報を引き出すことが可能となる。
──これを、しばし。
人は『歩み寄る』と表現する。
……まあ、しかし。
だからと言って、スピカが愚かということになるかといえば、否だろう。
確かに、歩み寄るということは、概ね智慧あるものがそうでないものに対して行うことではあるが。しかし、この場合は。
単に前提とすることができる情報の数に、差異があったというだけに過ぎない。
「……レグルスさん、それからアクベンスさんと、互いに攻撃し合う理由は。……それは、ただ、『そうする為に、生まれてきたから』……です」
一時的に過程を省き、結論だけを口にする。
……そんなスピカに対して、テロスとアルケーは。
沈黙を以て、その言葉の続きを促す。
「……少しだけ、長い話にはなります。……えっと、まず。そうですね、時系列に従って、その順番でお話しします」
──合いの手などは、無い。
そこでは、ただただ真っ直ぐな眼差しが、ふたつ。
彼女へと、注がれていた。
「……まず、この世界は……この世界そのものは、世界の終わりを予知しました。具体的に、どのくらい先のことかは、わかりません。……しかし確かに、世界は終わる。──の、だそうです。……それで、その、世界の終わり、というものについて。……それは『可能性が閉ざされること』で、齎されるそうでして」
……何か、心当たりがあるのか。
テロスとアルケー、その両者は。静かにその瞳を閉じて、言葉をただ受け止める。
……その様子に、スピカは気付かず。
あるいは、気に留めず。
無言によって促されるままに、言葉を続ける。
「……それで、世界の終わり……可能性の収束は、『世界そのものが完全で安定したものである』限り、避けることができないのだそうで……それで、それを避ける為に。新たに、世界の意思へと『不完全で不安定なもの』を据えるため、そのモデルケースが、多数創られました。……それらのモデルケースは、この世界における霊長……つまり、『人類』と言うのですが……それをベースにしていまして……。そしてこれらは『魔女』と、呼称されています」
……この言葉。
きっとこれこそが、最初、テロスが問うたものへの答えであろう。
……が、しかし。
スピカはそれに気付いていないのか、ただそのままに、言葉を続けていく様子であった。
「……数多の『魔女』の中から、世界の意思へと至ることができるのは、一体のみ。……その選出方法は、とても単純です。……つまり、世界はより強固な『不完全』を求めていますので」
「──ただ、争うのみ。……と?」
「……はい、そういうことです」
──長い言葉を要した、説明が、アルケーの一言により、収束する。
どうやらアルケーは、やや結論に飛びつきがちな。
……つまり、気が短い部分があるようだ。
「なるほど、ね。……つまり君たち『魔女』は、世界によって創られた、『世界の主』の候補ということ。それだから争っている、と。納得したよ!……ところで、ちなみにだけど。その『魔女』っていうのは、どのくらいいるんだい?」
「……えっと、そう……ですね。具体的にはわからないですが……沢山、です。……ただ、有力候補として認識されているのは。現状は、12……ですね」
「ふむふむ。じゃあつまり、あの時レグルスが言っていた13や14という数字は……」
「──わたしたちがそこに加わったら、勢力がそう変わるのではないか……と。そういうことで合っている?」
「……そう、ですね。多分、レグルスさんは、そういう意味で言ったという解釈で、間違いないとは思います」
テロスの言葉に繋げて、アルケーの問う言葉に。
……スピカはやや迷いながら、そう、回答したのだった。