カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※三人称視点?です。



107話 星空の秩序

 

 「──ひとまず、君たちのことについては何となくわかったよ」

 

 「……そう、ですか。えっと、それならよかった……です」

 

 長い説明が、ようやく終わった、が。

 

 ……しかし未だに、スピカたちによるアテのない旅は、続いていた。

 

 「──あ、えっと、それで……その……。前みたいに、急に戦いが始まったりすることがあるかも知れませんが、その、大丈夫……ですか?」

 

 「問題ない。あと、それから先に言っておくと。──わたしたちは、貴女たちの戦いに干渉するつもりもない」

 

 「……すみません、ありがとうございます」

 

 突き放すようなその言葉に、スピカは申し訳なさそうに礼を口にする。

 ……それを受けて、当のアルケーは。何も言わずに、ただ肩をすくめて見せた。

 

 ……そうして、しばらくの間。

 先程のような……つまり、他の魔女による攻撃のような、そういった出来事も、特に起こらず。

 

 ……ただ静かに、足音だけが響いていく。

 

 それから、しばしの沈黙の後。

 

 「……そう言えば、少し気になったんだけど。──『人類』とかっていう言葉が、さっきの話の中に出てきたと思うんだけど……。どこかにいるのかい?」

 

 テロスが、先ほどとはまた異なる質問を、投げかけた。

 

 「えっと、そうですね。それでしたら、今は『箱庭』と呼ばれる小さな区域の中に収容しています。……元々は、この世界の色々なところに生息していたみたいなのですが……。魔女が世界によって生み出されるようになって、それからあっという間に数を減らしてしまったみたいでして……」

 

 ……たどたどしくも、矢継ぎ早に。

 スピカは、この世界における人類という生物の現状について、説明を開始した。

 

 「一応、魔女のベースですし、霊長と呼ばれるような生物でもありますので……絶滅したらまずいだろうっていうことになりまして。……それで、戦闘行為の禁止が取り決められた緩衝地帯……通称『箱庭』が造られました。人類なら、そこにいる筈です。──その、もしかして見てみたい……ですか?」

 

 「うーん、まあ別にどっちでもいい……かな。アルケーはどう?」

 

 「同じく。別にどちらでも構わない」

 

 「……そう、ですか。それならその……良かった、です。その、理由もなくあっちの方に行くのは……取り決めとして、あまり良くないこととされていますので」

 

 

 ……気の向くままに。まるで意味のない会話が、繰り返され。

 しかし、依然として目的地は定まらない。

 

 ──そんな、他愛のない会話の……途切れ目。

 弛緩した静寂に包まれた、そんな時。

 

 ゆったりと歩くスピカへと、唐突に炎の塊が迫っていった。

 ──炎はスピカを包み、焼き焦がす……と、思われたが。

 

 ……しかし。

 

 突然。鏡合わせのように、同じような見た目の炎が出現し。

 

 そしてそれらはぶつかり合うと、わずか一瞬、炎ふたつは拮抗したように見えたものの。

 瞬く間に、スピカへと迫っていた炎は呑み込まれ……。

 

 ──そして、反対に。

 スピカへと炎を放った何者かが、その業火を浴びることとなった。

 

 ……それから。

 火だるまの横を掠め、今度は別の者が。

 

 ──その風圧で炎を払い、それから。

 目にも止まらぬ高速で、スピカの眼前へと迫る。

 

 ……が、しかし。

 

 それはスピカによって背後を取られ。

 ──反応する間もなく、その意識を刈り取られた。

 

 倒れ伏したのは、幼い少女のような外見をした、ものだった。

 

 ……そして、火だるまになっていた者。

 さらに、それから……。

 

 ──スピカたちの周囲を取り囲む、多数の者たち。

 

 それらも全て、共通して。

 みな、幼なげな外見が、特徴だった。

 

 「……あの、そういう意味のないことは……もう、辞めませんか?」

 

 ──周囲を見渡し、スピカが言う。

 

 しかし、それに対して。

 目の前に立ち、スピカと相対する……先程炎を返された少女は、大きく息を吸い、口を開いた。

 

 「意味がないなんて言わせない!十二宮の魔女の一体、今度こそ!仲間と一緒に力を合わせて──」

 

 

 「……あの、すみません……本当に。……ですが、その。そういうのはあまり興味がないので……」

 

 ──しかし途中で。

 スピカによって、言葉が遮られる。

 

 ……だがそれは、スピカが言葉を被せたから、というわけではない。

 

 ──少女は、言葉を失い、立ち尽くしていた。

 それが、何故かと言えば。

 

 ……気が付けば。

 周囲を囲っていた他の少女たちが、全員。

 

 力なく、地面に倒れ伏していた。

 

 

 「……そうだぞ。童。妾たちは、汝等になど用はない」

 

 

 ……唐突に。

 少女の背後から発せられた、言葉と共に。

 

 ──白い霧が、周囲一帯に立ち込めた。

 

 そして。

 

 ……どさり、と。

 少女もまた突然意識を失い、その場で倒れた。

 

 

 「──久しいな。スピカ。もののついでではあるが、久方ぶりに逢いにきたぞ」

 

 言葉を発し、倒れる少女の背後から霧を纏って歩いて来たのは。

 頭からふたつの螺旋……否、巻き角を生やした、長髪の魔女だった。

 

 

 「……あ、えっと、ハマルさん……その、お久しぶり、ですね……」

 

 

 現れた魔女……ハマルに対し、スピカもまた言葉をかける。

 

 「お主も運の無いことよのう。客人を連れ回している最中に、虫ケラになどたかられて」

 

 「えっと、その。虫ケラ、は……言い過ぎかも、ですが……」

 

 「……似たようなものであろう?払えども払えども寄ってたかる。──ただ鬱陶しく耳障りな、ものの数にもならぬモノども」

 

 ……ハマルの、あまりの物言いに。

 スピカは困ったように、曖昧に笑った。

 

 「──まあ、妾には関係のないことよ。……物珍しい奇妙な気配の主も拝めたことだ。妾は帰る」

 

 ──ハマルがそう言うと同時に、白い霧が一層濃くなり。

 

 そして、気が付けば。

 ……ハマルはその場から姿を消していた。

 

 少しばかり、遅れて。

 スピカが、ハマルが既に立ち去ったことを理解した頃に。

 

 一陣の風が吹き、霧が晴れた。

 

 

 「……あ、えっと、すみません。……その、大丈夫、でしたか?」

 

 

 ──そうして。

 彼女が言葉をかけたのは。

 

 倒れている少女に対して……ではなく。

 ……背後で傍観していた、テロスとアルケーに対してだった。

 

 ハマルの霧は、そこに居る者から無差別に力を奪う。

 すなわち当然、ハマルとスピカが言葉を交わしていた時にも、それはスピカたちを昏倒させんと機能していたのだが……。

 

 

 「……?大丈夫って、何のことだい?」

 

 「──戯れだろう。わざわざ気に触るようなことでもない」

 

 テロスも、アルケーも。

 ……両者共に、微塵も意に介していない様子だった。

 

 「……そう、ですか。それなら、良かったで──」

 

 ……それに対して。スピカは、安堵したかのように。

 息を吐き、前を向こうとした。が、その時。

 

 ──空を穿ち、一筋の線が。

 

 スピカの頬を、掠めていった。

 

 ……それから、反射的に。

 視線が、その線の行方を追う。

 

 ……そこには。

 

 わずかに残った、霧があり。

 

 そして。その中から、今にも、近くにいたアルケーに向けてその手に握られた長い鞭のような剣を振るおうとしている……鎧を纏った魔女がいた。

 

 

 「……あ。えっと、アンタレスさんも、来てたんですね……」

 

 ……そして。

 線の正体もまた、同時に判明した。

 

 ──鎧の魔女のすぐ横の地面に。

 突き刺さった、一本の矢があった。

 

 ……余談だが、普段のスピカであれば。

 いくら霧の中に隠れ潜んでいたとはいえ、隠密な心得があるわけでも無いアンタレスの接近は、あっさりと気付いたことだろう。

 

 何でも無いように、立ってはいるが。

 ……スピカは、霧の力による疲労により、やや、視野が狭まっていた。

 

 

 ──そういった意味では、アンタレスの狙いは鋭いものであったと言えるが……。

 

 「……ルクバト。ゲームの管理者気取りも大概に──」

 

 口を開いたアンタレスが、恨めしげに吐いた言葉を言い終えるよりも速く。

 二つ目の矢が剣の先端に着弾し。甲高い、耳障りな音を立てる。

 

 「──スピカ。悪いが先に仕留めるべき相手ができた。……せいぜい、達者でな」

 

 「……あ、えっと、はい。……その、お元気で……?」

 

 ……言葉をかけるだけかけると、アンタレスは。

 スピカの言葉を、聞く素振りも見せず。

 

 よほど、不意打ちの機会を潰されたのが癇に障ったのか。

 ……苛立ちを隠せない様子のまま。その場を立ち去っていった。

 

 

 「……えっと、何の用……だったのでしょうか……?」

 

 ……そうして、そこには。

 

 ──困惑するスピカと、それから、無言で静観するテロスとアルケーが。取り残される、ことになった。

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