※三人称視点?です。
「──概ね、その説明で正しいですが。……ただ一つ。そのように期待を寄せていたのは……スピカ、あなただけでは、ありませんでしたか?」
……スピカによる説明が一区切りついた、タイミングで。
──言葉を挟んだのは。
いつの間にやら一行に加わって飛行していた、大きな水瓶を抱えた、まるで使用人のような格好をした魔女だった。
「……サダルメリクさん……?えっと、その……いつから、ここに……?」
「──おや、驚かせてしまいましたか。これは失礼いたしました。……これはお詫びに一杯、お水でもいかがでしょうか?」
「……えっと、お断り、します。たしか、その、サダルメリクさんのそれって毒……でしたよね?」
「ええ。……ですが良薬にもなりますよ?」
「……すみません、その。特にお薬が必要な状態でもないので……結構、です」
「釣れませんね。まあ、いいでしょう。……では代わりに、少しばかり。あなたの説明に、訂正を加えましょう」
わかりきった話ではあるが、サダルメリクは別に、水を売りつけたり押し付けたりするためにきたというわけではない。
スピカの話に対して、勝手に。
サダルメリク自身の視点での情報を付け加えることが、目的だった。
「まず、前提として。魔女の幼体……魔法少女について。少なくとも十二の内、あれらに期待を感じていたのは、おそらく、スピカ……あなただけでした。簡単なお話です。数だけでどうにかなるのなら、我々は十二宮などと呼ばれていません。一時的な協力による十二宮打倒、というような動きさえ。……現状どこに行っても見られないのは、それが無駄であることが周知の事実だからです」
サダルメリクはスピカに対して、まるで言い聞かせるかのように、説明する。
「……おそらくですが、あなたがあれらに対して期待を寄せる要因となったのは、十二の候補に届かない、無名の魔女たちの声を聞いたから、ではありませんか?彼女たちなら、十二宮に勝てる。状況を、変えてくれる、と」
「……そう、ですね。……大体は、そんな感じです」
「……それらの言葉は、ただの僻みでしょう。自力でどうにもできないから、他者をアテにする。そういった……そうですね。スピカ、無垢でものを知らないのは結構ですが。世の中には、聞かなくていい言葉だってあるのです」
「……えっと、ですがそれは……」
諭すような言葉をかけるサダルメリクに対して、スピカは言い淀む。
「冗談ですよ。……言葉など、聞きたいものに耳を傾け、聞きたくないものには耳に蓋をすればよろしいものでございます。つまり、私の言葉に耳を傾ける必要だって、無いのですから。……さて、ところで。先ほどあなたは「大体は」とおっしゃいましたね?より正確にはどのような回答になるのか、お尋ねしても?」
不意をつくようなサダルメリクの問いに、しばし、スピカは考える。
……そして、しばらく考えた末にようやく、言葉を紡いだ。
「……えっと、そうですね。……世界は、滅亡を回避するために、不完全性を持った存在を、主として据える必要があります。ですが、その。これまで、ずっとその主が決まらない状態が続いていました。……なので。突然、これまでになかった新しい方向性の魔女が出てきて、それで、強力な勢力になるかもしれないというお話もありましたので……」
「──それこそが、世界にとっての、新しい本命として生み出されたのではないかと考えた、と?」
「はい。えっと、そんな感じ、です」
「……ふむ。……なるほど」
……スピカの回答を聞き、サダルメリクは少しばかり考えるような様子を見せた。
「──やはり、私とあなたでは世界に対する考え方に差異が存在しているようですね。例えば、私なら「世界が不完全を獲得するため」では無く、「世界が不安定なゆらぎを獲得するため」と表現します」
「……え、えっと、なるほど、です……?」
……あまりよく理解できなかった様子で。
スピカは、首を傾げながら言葉を返す。
「──もちろん、根底にある意味合いは同じでしょう。……ただ、言葉とは大抵、単一の単語であっても、複数の意味を有しています。このお話には、続きがありまして。……完全から不完全へ、では、まるでそれが可能であるかのように感じますが。存在しないゆらぎを無から生み出す、となれば。それは不可能に思えますでしょう?」
サダルメリクの問いかけに、スピカは、少しばかりの思考を巡らせる。
「……えっと、つまり。サダルメリクさんは、世界の延命は失敗に終わると考えている……っていう感じ、ですか?」
「──ええ。その通りでございます。……スピカ、こうして飛行して向かうあなたの目的地は、概ね見当がつきます。──その鱗に残された残滓を辿り、幼い魔女を支配する者を討伐し……そうして、正しく世界の意思が全うされる状態を目指しているのでしょう?世界に、この戦いを終わらせる意思があるのなら、それが可能となるように」
「……はい、えっと、そうするのが、正しいと……思いました、から」
「……。そうですね。きっと、正しいのはあなたでしょう。……もしも、正しいのが私なのでしたら、私たちは、存在そのものが誤りで。どのような選択にも、正解がない」
……サダルメリクは、肩をすくめ。
諦観のような感情の込められた言葉を紡ぐ。
「……そして、もしもあなたが正しいのなら。世界はゆらぎを作り出し滅びを回避することができる。そうであるなら、それが十全に行われる環境を整え、世界の意思を問い、審判が下されるのを待つことこそが正解。……つまり、あなたの行いは、正しい……と、いうことになりましょう」
それから、わざとらしく。
スピカを肯定するように、言葉を続けた。
「……つまり、何が言いたいんですか……?」
言外に込められた嫌味を理解したのか。
スピカはさらに首を傾げて、サダルメリクへと問いをぶつける。
それはただ、直前の言葉に対して疑問を感じた、ということではなく。
これまでの話を通して、サダルメリクが何を言いたかったのかという、総括的な疑問であった。
……と。
少なくともサダルメリクは、そう解釈した。
「そうですね。……言うなれば、毒を吐きに来たのです。私の見立てでは、世界の終わりまでもう間もない。しかし、依然として、十二もの頂点が同時に存在する膠着状態から、動きが見えない。──となれば、このままでは本当に何の意味もなく終わる。であれば、私たちは何のために造られたのか、その意義を問いただしたい。……と。まあそのように、喚き散らしたい気分でしたので」
「……はあ、なるほど、ですね。えっと、それなら満足、しましたか……?」
「……。やはり、あなたに語りかけてみることには意味がない。枯れない花に毒水を与えて、それで何の変化も起こらないのでは。折角の毒水の無駄遣いです。私が、愚かでした。……もしも、また逢うことがあったのなら。その時は、改めての謝罪をいたしましょう」
まさしく、言葉を失った、とでも表すべき様相で。
……サダルメリクは結局、言葉をぶつけるだけぶつけて、去って行った。
「……目的地は、このままでいいのかい?」
……その様子を、何をするでもなくただ見ていたテロスは。
サダルメリクが去っていた後。スピカに向けて、尋ねた。
「あ、はい。……えっと、まだもう少し距離はありそうですが……。確実に、近づいてはいそう、ですので……」
テロスの問いに対してスピカは適切なのかズレているのか、よく分からないような回答をし。
それから、アルケーとテロスは、あくまで自分たちは傍観者であるという事なのか。
……黙してそのまま、追従する様子を見せた。