※月城(姉)視点ですが、途中で視点変更があります。
今更ながら、私はつくづく『異なる世界』の力というものを甘く見ていたのだと痛感していた。
ひらひらとした衣服を身に纏い、両の手にステッキのようなものを持ち。
そして、共通して、蛇の意匠が施された紋様のようなものを持つ……まるで、アニメの世界の魔法少女とでも呼ぶべき格好をした、者たちは。
……現在。無差別に人々を襲っていた。
物理的な被害は無く。
あくまで、意識を奪い、昏倒させるだけ。
……それだけに、見えるが。
昏倒した人間を観察してみたところ、体の一部分に少女たち──以後、便宜上『魔法少女』と仮称する。と、同じような蛇の紋様が浮かび上がっており。
さらに、詳しく分析してみれば。
その紋様を通じて、一種の目に見えない『繋がり』……のようなものが生成されているようで、その『繋がり』を通じて、体力のような……いうなれば、『生命エネルギー』とでもいうべきか。
そういったものが、どこかへと絶えず吸収されている様子であることがわかった。
おそらくだが、それは、今展開されている異様な光景を作り出している者が収集しているのだろうということが推測できるが……。
……この、エネルギーが吸収されている状態では、意識が戻ることはないだろう。
それどころか、数日もすれば命の危機に晒されることになることさえ、目に見えている。
また、突然実体を持たない幽霊のような『魔法少女』が飛来して人を襲い、それによって人が意識を失うものだから。
……既に。
交通などでは特に、大惨事といった有様だ。
さらに、人が昏倒すればするほどに、その、世界中で暴れ回っている『魔法少女』たちも。
……より、その強さを増している。
最初は、「幻想的で、夢でも見ているかのような光景だ」などと言う者もいたようだが。
今では誰もが、これを悪夢だと認識している。
……しかし、だからと言って。
どうすることもできないのが、現状だ。
──先ほども少し触れたが、『魔法少女』は、幻のようなものである。
だから例えば銃やミサイルといった、物理的な兵器を持ち出したところで効果は無い。
唯一。同じ幻影としての性質を持つ、ソーサラーの作り出す『カードの精霊』による攻撃や防御は有効だが……『カードの精霊』を呼び出すことができるソーサラーなど一握りであり、とても手が足りるとは思えない。
……それに。
時間と共に強まる彼女らに、一体どこまで対抗し続けることができるのか、という話もあるだろう。
──今の、私にするべきことは。
少し前までは、妹の襲撃の際、研究所の奥へと退避していた研究者たちもいたが……今は、『魔法少女』たちの攻撃を受けた末、昏倒している。
……つまり、この研究所の研究者としては、私だけが意識のある状態だ。
それから、この空が発生するきっかけとなったであろう少女はと言えば、未だに、意識が回復していない。
最悪、元を絶てば……と、思わなかった訳ではないが。
……調べたところ、それはおそらく意味がないだろうという結論が出た。
この少女と、今、世界中に甚大な影響をもたらしている存在。
……両者には確かに、非物理的な『繋がり』のようなものが観測できた。
ただ、それは。
どちらかと言えば、その、元凶的な存在に対して抑制しようと働く力のようなものであることもまた、観測できた。
……つまり。
もしもこの少女が生き絶えることになったとすれば。
想像もつかないが、影響はより甚大なものとなることが予想できる。
……元はと言えば、私が原因みたいなものだ。
責任を取れるのなら、そうしたいところだが……。
──やはりもう、今の自分にできることは、おおよそ全てしているのではないか。
例えば、誘拐して監禁していたプロのソーサラーたちは。
もう既に、その時判明していた事情を主観客観問わず全て説明し、開放している。
……事が収まればすぐに、彼らの証言によって私は牢屋に繋がれることになるだろうが、承知の上だ。
……まあ、強いて言うのなら。
本当なら、事態の収束のために、さらにこの意識を失っている少女や、被害者について、調べておきたいところではあるが……。
先ほどから。
──『魔法少女』たちに、この場所がバレているようで、襲撃が止まらない。
残念ながら、『カードの精霊』を用いた応戦だけで、手一杯だ。
……ただ、このまま防戦を続けたところで、状況の悪化は目に見えている。
このままでは、何もかもが終わりとなる。
全人類が、枯れ果てるまで夢を見て、それで、終わり。
──私の『カードの精霊』……床を泳いでいた巨大な鮫が、飛び出して、巨大な暴風の球を射出せんと構えていた『魔法少女』の不意を突き、丸呑みにする。
……その、瞬間。
つい先ほどまで死角となっていた場所で。
──別な『魔法少女』が、岩石の槍を撃ち出した様が、ちらりと見えた。
「……っ!」
……全て、私が悪かった。
そして、罪を償うこともできず、私はここで終わるのだろう。
──本当に、今更な話だ。
後悔と言うのは、きっと、後から……取り返しがつかなくなってから、悔いるから。だから、後悔と言うのだろう。
……ならばせめて、相打ちに。
風の『魔法少女』を始末した鮫に指示を出し、その『魔法少女』を、襲わせる。
──同時に。
眼前には、既に、岩石の槍。
……ダメ、か。
これでは、間に合わない。
私が先に討たれ、鮫も、それと同時に消えるだろう。
──そう思った。その、瞬間。
視界を白い光が染め、そして轟音が、轟いた。
──────────
「……っ!キリがない」
雪菜ちゃんが、声を漏らす。
……無理もない、と思う。
もう、何十の『魔法少女』との戦闘を繰り返したかわからない。
──しかし、と言うか。
見れば、見るほど。
……この、襲いかかってくる少女たちが、以前の『中学生全国大会』で優勝を飾った『マジカル☆スピカ』ちゃん……つまり、香澄ちゃんの、《遊星の魔法少女》から出てくるカードに、よく似ているということが、わかる。
──きっと、何か、あるんだ。
香澄ちゃんの場所さえわかれば、もしかしたら……。
──ただ、移動しようにも、囲まれている。
どうにか、2人でカバーし合って凌いているけど……。
──雪菜ちゃんの銀の龍がその尾を振るい、『魔法少女』を振り払う。
……少し前までなら、この一撃で、巻き込まれた『魔法少女』は霧散していたことだろう。
だけど。
──ある者は、ステッキを盾に。ある者は、魔法で相殺し。
耐えられた。
……そして。
「──危ない!」
返しの反撃を、ボクの浮遊する本が呼び出した黄金像が盾となり、防ぐ。
「……っ!有栖!」
……だけど。
今のカバーは、無理があった。
ボクの後ろが無防備になったその瞬間に。
そこにいた、他の『魔法少女』が放った魔法が、迫る。
「……おっと」
……けれど。
雪菜ちゃんに抱き抱えられ、視界が塞がれた、その一瞬。
ちらり、と。
……少しだけ、見えた。
……見上げるような高さの、巨木。
そして、振り下ろされる巨大な炎の剣。
ボクは、そのカードを、見た事がある。
……あれは、以前。
雪菜ちゃんと香澄ちゃんと一緒に見に行った、大型の『ファントムビルド』のプロの大会の、決勝戦で戦っていた。
凪宮選手の、《戦神の黄昏》というデッキの、レジェンダリーカード。
「危なかったね。避難した方がいい……と、言いたいところだけど。あいにく、安全な場所が想像できない。──だからここは、一緒に戦ってくれないか?」
……これは、本当に、どうでもいい事で。
ただ、普段、あまりプロ選手のことを熱心に見た事がなかったから、知らなかったというだけのことなんだけど。
初めて、近くで見て。
……そして、気が付いたこと。
大会を見に行った時には、中性的な格好をしていたから、意外で。
それで、つい真っ先に、思ってしまった。
──凪宮選手って、女の人、だったんだ……。