カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※三人称視点?です。



113話 夜明けの兆し

 

 ──数多の『魔法少女』を傀儡としていた、その魔女は。

 スピカの模倣した、彼女自身の魔法を、その身に受け。

 

 自我を喪失した、傀儡と化した。

 

 ……そして、魔法を模倣した、スピカには。今なら、その魔女に対して。

 命令一つで、行動だけでなく意思や感情さえも自在に操作できるということが、理解できた。

 

 ──故に。

 

 「……えっと、その。他の魔女に使った『支配の魔法』を、解除……してください」

 

 スピカは、その魔女に。

 ──意図していたことではないだろうが、ある意味で、最も残酷な命令を下した。

 

 ……『支配の魔法』は、術者が命を落とせば、自動的に解除される。

 そして、それとは別に。術者自身が望めば好きなタイミングで魔法を解除することも、できる。

 

 ただし。

 

 ……命ある状態で、その魔法を解除したのなら。

 そして同時に、その術者が、未成熟な魔女しか支配できないような、単独では非常に無力な存在であったのなら。

 

 その結果がどうなるかは、明白である。

 

 ……命令を受け。

 魔女が、微塵の躊躇いすらもなく魔法を解く。

 

 そして、その瞬間。

 

 ……洞穴にいた『魔法少女』たちによって、一斉に。

 四方八方から、その魔女に向けて。大量の魔法攻撃が一気に、そして同時に、襲いかかった。

 

 ──スピカは、それに対して、反応できなかった。

 

 それが自分に向けられていたのなら、容赦なく反撃したことだろう。

 アルケーやテロスなどの、無関係な存在に向けられていたのなら、防御を試みたかも知れない。

 

 ……ただ、今回は。

 その対象が、恨まれ憎まれても当然とすら言える、そんな存在で、そして、攻撃を仕掛けた者たちはみな、その被害者であった。

 

 ──それを理解した刹那、スピカの思考に、迷いという空白が生じた。

 そうして。どうするにせよ、彼女は判断の機会を逸し。

 

 ……結果、傀儡と化した魔女は、瞬く間に。

 大量の魔法を前に、無防備で晒されることとなり。そうして、原型さえも残らないほどに深刻なダメージを負い、『支配』の力によって、呻き声ひとつあげることなく、命を落とすこととなった。

 

 「──いつか倒すべき敵、ではあるけど。感謝するわ!乙女座の魔女!」

 

 「……え、あ、はい」

 

 

 「──ありがとう。じゃあね」

 

 

 「……その、では、また……?」

 

 

 ……支配から解放された者たちが、口々に礼の言葉を言い捨て、去っていくが。

 困惑気味に言葉を返すスピカは。……どうやら元々はそのようなつもりではなかったようだ。

 

 正確には、そこまでするつもりではなかった、と言うべきか。

 

 あくまで、未成熟故に本来争乱の枠組みの中に入るべきでない者を無理矢理に巻き込み、都合の良い駒としたことを、本来の『争乱を求める世界の意思』から逸脱していると考えたから、それをやめさせるためにここまできたのが、スピカだった。

 

 ……もっとも、彼女にとって、この出来事はあくまでただ「そういうつもりではなかった」というだけのものであり。

 特段、悲しみや後悔といったものを感じたわけでもなかったが。

 

 ただ、一つ。

 どうやら彼女は、正しいことをした、という確信は得られなかったようだった。

 

 ……。

 

 ……そうして、それから。

 

 時は経ち。

 アルケーとテロスは、未だに、黒一色を背景に赤い光が明滅する空を、ただ、眺めていた。

 

 ……そして、そのように時が経つ中で。

 アルケーとテロスは、その赤い光が何であるかについても、既に理解していた。

 

 ──見上げた先にある赤い光は、星ではない。

 より詳しく言えば、この世界に星などというものは、存在しない。

 

 星のように瞬く赤い光が広がる景色の正体は、上空で戦闘を繰り広げる魔女の、魔法のぶつけ合いや魔法を用いた移動によって、生じるものだった。

 

 ……あれから。

 『支配の魔法』を有する魔女……【蛇使いの魔女】が、討たれた時から。

 世界の模様は、少し変わった。

 

 

 ──新たなる、力を持った魔女の誕生。

 

 ……自由となった少女たちは、世界を駆け。

 そして、その中には十二宮には及ばないもののそれに準ずる程の力を持つに至った者も、現れ。争乱はより、活発で、混沌としたものとなっていた。

 

 

 ──そして。

 

 そんな中。

 スピカは未だに、世界を渡り巡っていた。

 

 ……アルケーやテロスとは別れ、自分自身で。

 自分自身の為の、旅をしていたのだ。

 

 きっかけとなったのは、【蛇使いの魔女】の一件だった。

 

 ……あの時倒したのは、取るに足らない、無力な魔女に過ぎなかった。

 何か印象的な言葉を紡いだわけでも、劇的な最期を迎えたわけでもない。

 

 ただ、自分のしたことが、そのまま返ってきて。

 そして、命を落としただけだった。

 

 ──あるいは、だからこそ。

 

 『支配』と『意思』。

 ……おそらく、その前に言葉を交わしたサダルメリクの発言も、その思考の中に、主題として混ざっていたことだろう。

 

 ──「世界の意思」は、正しいのか。

 すなわち、「収束する未来しか持ち合わせていない世界」は、本当に、可能性なるゆらぎを生み出すに足る手段を、持ち合わせているのかどうか。

 

 ……もしも、そうでないのなら。

 自分たちの持つ『意思』や『感情』が、作り物の紛い物であるのなら。

 

 自由な『意思』とは、存在するのか。

 『正しい選択』など、あり得るのか。

 

 ……そこまで考えて、スピカは。

 ただ、世界を、見て周ることにした。

 

 赤い光……他の、争乱に身を委ねる魔女たちは、勝ち目のない相手の接近に勘づくと、すぐに逃げ出してしまう。

 ……だから、言葉を交わすことには、苦労した。

 

 あとは、それから。

 スピカは、他の十二宮の魔女とも言葉を交わした。

 

 奔放に牛を駆り、同じように世界を巡る【金牛の魔女】は、特に、深いことを考えている様子はなかった。

 そして、自己愛に溺れ、自分自身を複製しただ空を泳ぐ【双魚の魔女】も、双児同士、互いに依存し合う【双児の魔女】も、自己中心的な偏った目線で公平を強要する【天秤の魔女】も。

 

 ……それぞれの『意思』は、どうにも曖昧模糊であり。

 スピカは未だ、納得できる答えに、至らない。

 

 ──そうして。

 

 遥かなる、時を超えて。

 世界を巡り周っていたスピカと、世界を眺めて周っていたアルケーとテロスは、また。

 

 再び、出逢った。

 

 ……。

 

 「……あの時言っていた、君自身の意思や、正しいこと。その答えは、見つかった?」

 

 ──出逢って。

 最初に言葉を発したのは、テロスだった。

 

 「……いえ。その、結局……よく、わかりません、でした」

 

 ……スピカが、その視線を伏せて言葉を返す。

 

 「……世界は、変わらない。何ら結論は出ず、主となる者は決まらない。故に、わたしは。今この瞬間こそが、可能性の果てだと判断する」

 

 「そうだね。……終わらない争乱。それこそが、この世界の終着点。その先に分岐する可能性は、もうないだろう」

 

 ……スピカの、答えに対し。

 アルケーとテロスは、水や空気が流れるように滔々と、澱みなく言葉を紡いでいく。

 

 「……スピカ、争乱を終わらせたいかい?」

 

 それが、世界の誰でもなく、自分自身の意見を問うものであり、そして、それが、最後の問いであることを。

 

 スピカは、本能的に理解した。

 

 「……っ。……!」

 

 ……だが、しかし。

 スピカからは、「はい」とも「いいえ」とも、言葉は出なかった。

 

 わからなかったのだ。

 ……どう答えるのが、正しいのかが。

 

 「──終わりにしよう。次の世界へと向かおう」

 

 「……そうしようか。この世界も、閉じて行こう」

 

 ……そして。スピカが、言葉を失い、ただ、立ち尽くす前で。

 アルケーとテロスが、ついに傍観を辞め。

 

 ──目の前で。

 世界が、まるで剥がれ落ちるように崩れていき。

 

 ……唐突に、終わりを迎えようとしていたのだった。





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