※香澄視点です。
……『この世界は、そうして設計された』と、言いました。
それは、つまり。
この世界は、目の前のこのヒト達によって創られた、ということ……なのでしょうか。
──あ、いえ。ですが、少し考えてみましたら。
これは別に驚くようなことでもない……のかも知れません。
これは、『スピカ』の知識の中にはありませんが、『世界』そのものの知識……みたいな感じのところから、何となくわかることなのですが。
確か、前の世界。『スピカ』の時の世界も、アルケーさんが創ったということだったような気もします。
……ただ、なんとなく。『スピカ』の世界とこの世界では、少しだけ扱い方に差があるような感じはしますが。
「……えっと、その。あなた達は、世界を終わらせるだけじゃなくて、世界を作ったりもしてる……の、ですか?」
とりあえず、わからないことは聞いてみます。
「そうだよ。その通り。そうだね。植物の例をここでも引き続き引っ張ってみると、わたし達が枯れかけた世界を、間引いたとして。そうしたら、空きスペースができる。もっと言えば、植木鉢が一つ分空く、と考えてもいいかもね」
「……植木鉢が空いたら、そこに種を蒔く。そしたら、その世界が育つまでは時間がかかるから、そのまま放置して他の世界を観に行く」
あたしの質問に対して、テロスさんが最初に言葉を返し、それから、アルケーさんがそれを横から引き取るように締めました。
「──もっとも、わたし達がそういうことをしなくても。世界はいつか、勝手に生まれてくる。あくまで、わたし達はサイクルを早めているだけ」
「……その通り。何もしなくても世界は枯れて終わるし、何もしなくても世界は生まれる。だけど、それじゃあ世界が終わると、その痕跡はどこにも何も残らないし、それから、その後に世界が生まれるまでの空白期間はとんでもなく長い。そうなると、寿命という概念を持ち合わせていないとは言え、様々な世界の中を見て回るくらいしかやることのないわたし達としては、寂しい上に、退屈になっちゃうからね」
……少しだけ、わかってきたような。あるいは、そうでもないような、といった感じです。
例え話のせいで規模が大きいのかそうでもないのか何だかよくわからなくなってきますが。これはおそらく、果てしなく規模の大きなお話、なのでしょう。
「……ただ、この世界は、少し特殊。やり方は同じだけど、種の設定が、かなり緻密」
「そうだね。この世界に限って言えば、わたし達が細かく設計して作った特別な世界だ。まあ、本当なら、まだこれは設計途中の段階で、もう少し細かく調整するはずだったんだけど……君の、『スピカ』の一件のおかげで、そうも言ってられなくなってね」
──設計途中。
なんだか、薄っすらと、似たようなことを一度聞いたことがあるような、無いような。何となく、そんな感じがします。
確か、月城先生とバトルをした時。
いつも通り、例の『フルオート』でバトルをしていたあたしの口から、そんな言葉が出たような……。
……と、あたしが、その言葉に微妙な既視感のようなものを感じている前で。
テロスさんが、話を続けるようです。
「この世界においては、『魔法』や『魔術』のような特殊な力は、全て『カードバトル』に変換されるようになっているんだ。言ってしまえば、そういう特殊なフィルターが張られているような……そういう状態だよ。」
「……これは、ある種の安全装置としても働く。つまり、何も無ければ無差別に世界の様々なものを破壊するような力でさえ、ここでは『強いカード』に置き換えられる。世界そのものを、圧縮した状態で内に宿す存在が、そういう、安全装置となり得るものの無い世界に解き放たれたら、どうなるか」
「文字通り、スケールが違うからね。少し加減を間違えただけでも『何かやっちゃいました?』で済むはずがない。被害規模が惑星ひとつで済めば、まだマシと言ったところだろうね」
「世界が圧縮され、そうしてそれがひとつの魂へと統合される、その様を見た。……それは、それなりの時を経た後、どこかの世界で生まれ変わる。それが予測できたから、それを『どこかの世界』ではなく被害が軽微なもので済むようにと、予定を大きく早めて、この世界の種を蒔いた」
「……あとは、ちゃんとこの世界に生まれるようにと色々調整したんだけどね。まあ、実際にうまく行くかは、少し、賭けみたいなところはあったね」
……あの後。
その、あの世界が終わった後も、色々とあった……のですね。
何だか、色々と不本意なことをさせてしまったみたいで。その、申し訳ないような気持ちもあります。
「……それで、そうだね。少し話を戻して、君の最初の質問に答えようか」
最初の、質問。
そう言えば確かに、まだ答えてもらっていませんでした。
「……『この世界も滅ぼすつもりがあるかどうか』。答えは否。そのつもりは、少なくとも今はない」
「この世界の可能性が尽きるのは、まだ大分先のことだよ。だって、この世界は、まだまだ若いからね」
……その答えを聞いて。
あたしは、かなり、ほっとしました。
「さて。あとは、聞いておきたいことはあるかな?」
──えっと、そうですね。
聞いておきたいこと。でしたらもう一つだけ、まだ疑問が残っています。
「……その、あたしがカードバトルをする時、なんだか、気がついたら終わってる、みたいなことがよくありまして。えっと、あれは、どういう……?」
これは、聞いておきたいこと、と言われましたので聞いてみましたが。もしかしたら、アルケーさんやテロスさんとは無関係のことかも知れない……と、思いながらの質問でした、が。
「……あー、そのことか。そうだね。それについても、ここで説明しておくべきか」
……聞く相手を、間違えてはいなかったようで。
テロスさんが、何だか、困ったような……気まずそうな、表情を浮かべて苦笑いをしています。
「この世界において、カードバトル……『ファントムビルド』は、カードの元となる記録へとアクセスし、それを部分的に再現する儀式のようなもの。通常であれば、その記録というものは、わたし達によって管理されているから、『カードとして再現する』以上のことは起こらない」
「……まあ、ただ一つ。君の世界は別なんだ。君の世界は、君自身の内側に内包されている。分かりやすく表現するなら、そうだね。他の人がインターネットからその時だけデータを持ってきているのに対して、君の場合は本体にそのデータが丸々入ってる……みたいなところかな?」
アルケーさんの言葉に、テロスさんが補足をしてくれました、が。
……えっと。
その例えは、逆になんだかよく分かりにくい……です。
ですが、とりあえず。イメージとしてであれば、おおよそのことは何となくわかったような、気がします。
「……カードバトルの存在が、フィルターの役割を果たすとは説明したが、限界はある。実際、そのつもりがあったなら、という条件であれば『カード』へと転化できないだけのエネルギーを顕現させることは、容易なことだ」
「しかもおまけに、どうやら記憶に封をしているらしいと来た。その状態で内側にある世界へと無制限に接続できる状況を容認するのは……まあ、少し危険かなって、ね」
……記憶に封をしていたのは、あたしの……『スピカ』の、意思です。
あの時は、何が起こったのかもうまく飲み込めていませんでしたし、押し流されそうな感情やら何やらに、理解が間に合わず、得体が知らないものへの恐怖がありました。
ですので、そういったものを一度切り離して、蓋をして。内側の世界と一緒に閉じこもった……と、いうことです。
……今は、雲田香澄という人間としてこれまで『スピカ』とは無関係ながらも15年ほど生きてきた記憶がありますので。この感情や心、といったものに対する恐怖は、あまりありません。
これで、例の『フルオート』現象についても、とりあえずは分かりました。
……危ないから触らせない。
子供扱いをされているような感じで、なんだか少しだけムッとするような気持ちはありますが……まあ、実際子供というべき存在であることは事実ですし、同時に納得もあります。
……と。
しばらく、無言の間が発生しましたが。
ここまでで。あたしにはこれ以上質問がないことを察した様子で。
急に、アルケーさんとテロスさんがなんだか真剣そうな表情になりました。
「……なら、今度はわたし達が質問をする」
「問いは一つ。君のこれからについて。……つまり、人として生きるのか。それとも、人ならざるモノとして、存在するのか」