※月城(姉)視点ですが、途中で視点変更があります。
──ここは、研究室内部。
私はまだ、戦闘を継続しながら。
未だに脱落することなく、二本の足で立っていた。
「……チッ。困ったな。本当にキリがない」
……あの時。窮地に走った閃光と、鳴り響いた轟音の正体。
それは、私の妹によるものだった。
私との『ファントムビルド』によって意識を失っていたはずだが……。
どうやら、途中で目を覚ましたようで。
それで、状況の理解が追いついていないながらも『カードの精霊』を使った戦闘が発生していることを理解し、咄嗟に私を援護した……とのことだ。
ただ、研究室にいる他の研究員はまだ意識を回復していない。
そして、おそらく今起こっている現象の原因とも言えるであろう少女──妹曰く、『雲田香澄』というらしいのだが……も、また。未だに、意識を失ったままの状態である。
もっとも、その雲田香澄はともかくとして。他の研究員については、意識を取り戻したところで、そもそもソーサラーですらないから、何かの役に立つとはあまり思えないが。
……まあ、それはともかくとして。
こいつら……迫り来る『魔法少女』は、実体を持たない幻影である。
そして、応戦する私たちの使役する『カードの精霊』だって、同じく幻影だ。
だから、必然、この戦いの中においては、物理的な壁やら天井は効果を成さない。
だが、壁があればその向こう側は見えないし、天井の向こうから迫って来るのであれば、直前まで接近に気付くことができない。
そして、ここは研究室。つまり閉所である。
……四方を壁に囲まれ、天井もそう高くはない。
例えば、学校の体育館のような広い空間であれば。あるいはいっそ、屋外であれば。もう少し、戦いやすいのだろうが……。
……そういう意味では、妹の意識が戻り、とりあえずは共闘してくれるという今の状況は、極めてありがたい。
妹の『カードの精霊』はほとんど、雷そのものと言っていい。
射程も範囲も、私の鮫の形を持つ『カードの精霊』とは、比べ物にならない。
おかげで、今は、少数の撃ち漏らしを鮫で処理するだけで、どうにか状況を維持できている。
……が、しかし。
時間と共に、敵側の耐久性が徐々に向上している様子が見られる点を考慮すると。
結局のところ、おそらくあまり長くは保たないことだろう。
その上で、なお悪いことを挙げるのなら、いつまでこうしていればいいのかわからないという点もある。
私たちは人間だ。
人間である以上、休みも食糧も必要だ。
……だが、それを補給する隙もない。
ここの外がどうなっているのかさえ、わからない。
「──っ」
──妹のすぐ目の前まで迫ったやつを、横から鮫が喰らい付いて、噛み砕く。
そうして、少女の形をしたそれは、当たり前のように霧散する。
死体が積み上がらないのは、精神衛生上大分マシだが。
しかし、それでも。虚な目をして迫り来る少女達をただひたすらに斃し続けるというのは。数ヶ月は夢に出てきそうな、酷い光景なのは間違いない。
……と。そうして。
またそれから、少し、時間が経ち。
「──ふむ。おおよそこの星に住む生物はあらかた意識を奪いました、が。……何ヶ所か、奮闘されているご様子ですので。こちらから、見にきて差し上げました」
こちらが、妹共々疲れ果て。
いよいよ限界を感じた、その時に。
……一時的に攻撃が止み。
それから、天井をすり抜けて。人型の何かが、現れた。
それは、痩せ細った……まるで骸骨のような、女だった。
……見ただけで、わかる。
これは、これまでのやつらとは、格が違う。
これが、異なる世界の主……と、いうものなのか。
「……なるほど。ここは研究施設でしょうか?良いですね。洞穴を拠点にしていたこともありますし……こういった狭い場所は、好みと言えましょう。しばらくは、ここを拠点としてみるのも──」
私が、言葉を失い、呆然と立ち尽くす中で。
──突如、閃光と轟音がそれの言葉を遮った。
「……っ」
咄嗟に、というよりは、条件反射的に。
私も、鮫の形をした『カードの精霊』に、それを襲わせる。
……が、しかし。
その牙は、その身体を傷付けることはできずに止まり。
「……野蛮ですねぇ。まあ、いいでしょう。戯れを望むのであれば、もう少しだけ、遊んで差し上げましょう」
……余裕綽々、とでもいった様子で。
それは、自分で攻撃するような素振りは見せず。
天井スレスレまで浮かび上がると、どこからともなく取り出した笛を吹き始め。
……その次の瞬間。
また、虚な目をした少女達が、次から次へと迫って来た。
──────────
「……いやあ、困ったね。およそ2時間くらいは経ったかな?これでもまだ、途切れる気配がないとはね!」
助太刀に入った凪宮選手が広範囲を散らして、私と有栖が追撃を行う。
「──凪宮選手でも、やっぱり厳しい、ですか?」
「……そりゃあね。プロのソーサラーなんて、要するにスポーツ選手のくくりの中でも、断トツで体力が勝敗に繋がらない競技だからね。それに、カードの効果をどうするか、攻撃力や体力の値をどうするか、なんてことしか考えたことがなかったから、いきなりアニメの戦いみたいなのをしろって方が無理がある、さ!」
有栖の言葉に、迎撃を行う手を休めることなく、凪宮選手が答えている。
……ああは言っているけれど、まだもう少しくらいは、余裕がありそうだ。
「──雪菜ちゃん!そっち行ったよ!」
「……っ、と」
……と、有栖の声に反応して、反射的に。
迎撃に向かわせていた、竜の姿をした私の『カードの精霊』に、こちらに向けて氷のブレスを使わせたことで、どうにか、敵が攻撃をする前に倒すことができた。
──そしてやはり、自分の『カードの精霊』の攻撃は、自分には効かない。
これは、誰かから教わったわけでも、確認をしたわけでもない。ただなんとなく、そんな気がしていたから、一か八か試してみたのだけれど。
……上手く行って、よかった。
しかし。疲れからだろう。
少しばかり気が抜けていたみたいで、有栖の掛け声が無ければ危なかった。
「……おおぅ。思い切ったことするねぇ」
有栖が、呟く。
どうやら、あれは側から見ると、中々の光景だったようで。
そこから視線を動かしてみると、凪宮選手が絶句している姿が見えた。
……そうして、それとほとんど同時。
唐突に、沈黙が訪れた。
──敵が攻撃を辞めた?と、思わなかったわけではない。
けれど、そうでないことは、すぐにわかった。
「──ええ。本当ですねぇ。無駄な抵抗などやめて、大人しく眠りについていただければよろしいものを」
それは、頭上に。
痩せ細った女が、宙に浮き。それから、悠々と降下してくる姿が見えた。
……あれは、見たことがある。
確かそれは、私が3位で終わった、『中学生全国大会』。
有栖が2位で、そして、『マジカル☆スピカ』なる──おそらくは香澄の姉妹と思われる……未だ、謎の人物が1位を獲った例の大会。
そこで、見た。
『マジカル☆スピカ』のカードの1枚。
【蛇使いの魔女ラサルハグェ】なる、エンティティカード。
もっと言えば、確か、デッキのキーカードではあるけれど、レジェンダリーカードでもなんでもないカード……だったはず。
……であれば、つまり。
私は、思い違いをしていた……?
今起こっている出来事について。
私はてっきり、香澄に何かがあって、ということだと思っていたけれど。
……もしかして、その『マジカル☆スピカ』という人物が、何かをして、こうなった……?
だとすると、どうなる?
何が、変わる?
……と。そうして、私が、考えている間。
その【魔女】は、偉そうに何かを話していたけれど。
私の耳には、あまり、届いてこなかった。