※香澄視点です。
120話 本あるいは吹雪の竜
……考えるまでもなく当たり前のことではありますが。
やっぱり、このバトル、いつもの『フルオート』的な現象が起こる気配がありません。
つまり、今回は自分の力で戦わなければならない、ということになりますが。
先程の、自分のカードが全部変化した、という漠然とした感覚は本当だったようで。
──手札のカードが、全部初見です……!
えっと。初手の引き直しは……どうしましょう。
真剣に考えているフリをして誤魔化してはいますが、プレッシャーやら何やらもあって、頭が真っ白になりそうです。
……と、とりあえず。
コストが低いカードだけ残して、引き直し……で、行くことにします。
えっと。そうすると、つまり。
手札にあるカードの内、コストが1と2のカード、つまり、これとこれを残すので……3枚引き直し、という事になりますね。
……そして。あたしが、悩んでいた間に、向こうは既に引き直しを終えていたみたい、ですので。つまり、向こう側が何枚カードを引き直したかわかりません。
つまり。後になって、これがどれほど重要になってくるかはわかりませんが。少なくとも一つ、これで情報を逃してしまった事になります。
しっかりしないと、ですね。
気を引き締めて。切り替えて、行きたいと思います。
「──さて、それじゃあ準備はいいかい?」
「……もっとも、まだと言われても待つ気はない。わたし達に、今出せる限りの全力を見せろ」
テロスさんとアルケーさんが、揃って。そう、宣言をします。
どうやら、お二方両方が相手のようです。
──お二方が、相手ではありますが。
一応、体力の方は25で、コストについても、0スタートで10まで毎ターン1ずつ上昇、と。どうやら、その辺りの基本的なルールに、変わりはないようです。
……そして。
宣言が行われ。あたしの思考が、別な方向へと向かいかけた、その次の瞬間。
──突然に。
どこからともなく、大きな本が現れました。
それは、大きく開かれているようですが……。
しかし、その開かれたページは。何も描かれていない、真っ白なものでした。
……お二方は、まだ、カードの1枚も使っていません。
しかし、あれは紛れもなく、カードが生み出す幻影によるもの、です。
と、いうことは。
……つまり。何らかの効果によって盤面、もしくは領域へと出現……あるいは設置されたもの、と考えるべきなのでしょう。
……突然のことではありましたが、理解は、どうにか追いつきまして。
見てみれば、向こう側の領域に【綴じられた世界・アカシックインデックス】という名前のフィールドカードが設置されていることが、わかります。
えっと。とりあえず、効果を知らなければお話になりません。
……ですので。そのフィールドカードの効果を、読んでみることにします。
【綴じられた世界・アカシックインデックス】
コスト10。フィールド。レジェンダリー。《分類:開闢と終焉》
自分のターン開始時、自分のデッキに重複するカードが無いなら、デッキにあるこれは自分の領域へと設置される。
これは相手のカードの効果で破壊されず、除外されない。
これが領域へと設置された時、自分のソーサラーに『自分が受けるダメージを-1する』を付与する。
お互いのソーサラーは、自分のターン中に一度まで、自分の盤面のエンティティカード全ての《分類》を全て消去し、代わりに任意の《分類》を付与して良い。
これが領域にあるなら、自分は領域にフィールドカードを2枚まで設置できる。
自分のターン開始時、他のカードによるターン開始時効果が働くよりも先に、自分の領域にあるこれ以外のフィールドカードを墓所へと移動させる(この効果では被破壊時効果は発動しない)。
自分のターン終了時、手札にあるエンティティカードかマジックカードを任意の枚数だけ捨てても良い。この効果でカードを1枚以上捨てたなら、自分の墓所にあるフィールドカード全てに『これは除外されず、デッキや手札へと加わらない』を付与し、自分のソーサラーに『次のターン開始時、カードを1枚引く』を付与する。その後、墓所にあるフィールドカードが39種類以上なら、お互いの領域と盤面にあるカード全ての効果を失わせて、この試合に勝利する。
……まず、コストが10というところからも、やっぱりこれは効果によって自動的に設置されたカード、という事に間違いはなさそうです。
それで。最初はその設置条件から、ですね。
えっと、『自分のターン開始時、デッキに重複するカードが無いなら』……と、書いてあります。……それで、他に条件は無さそうですので。
……?
……ということは。
いえ、その。さすがにまさかとは思いますが……。
……。
──もしかして。
向こうのデッキは、全てのカードがデッキに1枚の、いわゆる、ハイランダーデッキ、というやつ……?なのでしょうか?
……と、とりあえず。
思わぬ方向性の衝撃に、一瞬、思考が固まるところでしたが。
どうにか持ち直して、読み進めます。
『相手のカードの効果で破壊されず、除外されない』そもそも、フィールドカードを破壊したり除外するカードは、少なくとも、あたしが知っている中では、かなり珍しいです。
ですので、この効果が発揮されることはあまり無さそうですがとりあえず。あれは破壊も除外もできない……と、いう事ですね。
それから、設置時に無条件で自分側のソーサラーに被ダメージ-1。
そして、お互いに影響する効果で、それぞれのターン中にそれぞれの盤面のエンティティを対象とした《分類》消去と任意の《分類》付与。
……どちらが効果を使ったとしても、それぞれ自分側の盤面のエンティティカードにしか効果が無い、というのは覚えておく必要がありそう……?なのでしょうか。
そして、自分の領域に設置可能なフィールドカードを2枚にする効果と、ターン開始時にあれ以外の自分のフィールドカードを捨てさせる効果と、あとはターン終了時にカードを捨てて代わりに色々効果が付くやつと……。
──それから勝利効果、ですね。
条件は『墓所にあるフィールドカードが39種類以上なら』です。
……何だかやたらと条件が重い気がしますが、どうなのでしょうか。
もし仮に、デッキのカードが全部フィールドカードだったとして、その場合でも、デッキの全部のカードを墓所へと送る必要があります。
ただ、常に発揮されている効果は、かなり強そうです。
特に、無条件でのダメージ軽減は、おそらく、かなり試合が長引く……のではないでしょうか。
「……とりあえず、効果は理解できたかい?」
あたしが顔を上げて目線を向けた事に、気がついた様子で。
目が合ったテロスさんが、そう言ってきました。
……あたしはそれに対して。それほど自信はありませんでしたが、おおよそは大丈夫だろうと思いましたので、とりあえず首を縦に振ります。
「なら、次の行動に移るよ!」
「……わたし達は、カードの公開を宣言する」
テロスさんが、そう言って。
それから、アルケーさんが、宣言します。
「──公開するカードは、【氷晶の銀世界エターナルブリザードドラゴン】」
そうして、お二方が。
……声を揃えて、カードの名前を読み上げました。
……。
……そのカードは、知っています。
それは、雪菜さんの、レジェンダリーカードです。
そして、それが手札で公開された事によって。
辺りが突然、吹雪の中へと変化しまして。
……そして、その向こう側。
相手の手札に浮かび上がる、まるで突き刺すような二つの鋭い光が、じっと、こちらへと向けられます。
カードの公開。
それも、レジェンダリーカード。
……これまで、観客としてしか自分で見たという経験がありませんでしたが。
正面から、こうして自分へとそれが向けられると。
中々に、強いプレッシャーを感じるような、気がします。
「……これを公開した事によって、こちらの領域には【吹き荒れる銀世界】が設置される」
「これで、ターンは終わり!そっちの番だよ!」
……と。そうして、向こう側のターンは終わりまして。
ターン終了時には、特に何かをするでもなく。
──こちらへと、ターンが移ってくるようです。
※他のカードの効果との兼ね合いなどの調整から、【綴じられた世界アカシック・インデックス】の、『手札のカードを捨てる事を条件としたドロー効果』のドロー発生タイミングを、『手札のカードを捨てた時』から『手札のカードを捨てた次のターン開始時』へと変更しました。紛らわしい事になってしまい、大変申し訳ございませんが、どうかご了承ください……。(2025/12/02)