※雪菜視点です。
定位置に立った2人──香澄と私は、お互いに向かい合い、デッキを作り出す。
とりあえず、デッキ生成時の演出を見るに、おそらくは『星』に関連したデッキを使ってきそうだ。
どう言う理屈かは分からないけれど、ソーサラーがデッキを作り出す時、そのデッキに関連した魔力的な演出が発生する。
例えば、私なら青白い光と氷の結晶。
例えば、有栖なら分厚い本と木製の扉。
そして香澄は、夜の空と流れ星……に、見える。
……まあ、こんな情報が役に立つようなことはほとんどないけれど、無いよりはマシ、だと思う。多分。
──情報は少しでも多い方が良いのは、どんな場合でも当然だけれど。
今回は、特にと言うべき場面の一つと、考えていいだろう。
相手は『カードの精霊』を連れたソーサラー……つまり少なくとも、私や有栖と同じ、レジェンダリーを所持していると見ていいはずだから。
それに、私のデッキは『全国大会』のメディア露出に、『イミテーション』の商品化も考えると、それなりに知られている。
相手は私のデッキを知っている可能性が高いけれど、一方で、私は彼女のデッキを知らない。
こっち側としては、情報という面で、既に余りにも不利な状況と言わざるを得ない。
デッキを作り終えた香澄が、まるで眠りに落ちるように──おそらくは深く集中するために、瞼を閉じた。
「……先攻後攻、どっちでやりたい?」
そして、瞼を閉じたまま、まるで投げ出すような声色で、彼女は私に尋ねてきた。
……。
……やっぱり、学校でのおどおどした態度は擬態だったらしい。
『カードの精霊』を人前で堂々と見せつけてきたところといい、ここの店長に既に話を通してあるようなところといい……やけにバトルをする流れに誘導して来ていたことも含めて、ここに来た時からずっと考えていたことだったけれど。
……。
……そうだとするなら、彼女には最初から何か考えがあって。
──彼女は、この瞬間、この状況を作ることを狙っていた……?
そして、それだけではない。
直感的な感覚としても、何かすごく嫌な予感がする。
……乱れそうな呼吸を整えるために、一度深く息を吸い、目を閉じる。
……さて、それにしても、どっちでやりたいか、とは。
舐められている、ということなのか。
あるいは私がどちらを選ぶかを読んだ上で、選択を委ねて、『選んだ』と思い込ませたいのか。
「……後攻でいいわ」
目を開き、答える。
おそらくは彼女の予想通りであろうと思いつつも、しかし、敢えてそう答える。
私のデッキは、『コントロール』……つまり、相手の盤面に対して干渉を繰り返して、長期戦へと持ち込む戦い方を得意とする。
先行であれば先手を取れる分、さまざまな準備を整えやすいけれど……やはり、初見の相手に先手で動くのは、少しばかりリスクが大きくなりがちだ。
答えを受けてのリアクションのつもりなのか、彼女の瞼がようやく半分だけ開く。
そして、その瞼の隙間から、深い青色の視線が、こちらへと向けられた。
……青い、目?
私の知る香澄の目は、青い色をしていただろうか。
──いや、と。
どこか異質な感覚への動揺を抑える。
ソーサラーに物理法則的な常識は通じない。
目の色がバトル中とそうでない時とで変化するなんていう話は聞いたことがないけれど、一旦は、そういうもの、とするべきだろう。
「……わかった。わたしはそれで構わない」
香澄はどこか無気力な口調でそれだけ言うと、山札から5枚カードを引いた。
──それを見て、私も、5枚のカードを引く。
私はその中で3枚だけカードをデッキに戻して、その分だけ『引き直し』を行ったけれど、彼女は特に引き直しは行わないようだ。
引き直した分のカードと合わせて、5枚の手札が完成する。
こちらの手札は、まあ悪くはない。
相手も引き直しがなかったところを見るに、まずはお互い初動は上々、といったところになるだろう。
お互いに、顎のあたりの高さに5枚のカードを浮遊させながら、改めて、視線をぶつけ合う。
「コスト1。【サダルメリク】の召喚」
──最初のターン。
このターンだけは、お互いにターン開始時のドロー……山札からカードを引く行為は、ない。
香澄は、1ターン目に使えるコストをしっかりと使用して、盤面にエンティティを召喚し……そして、彼女はエンティティを盤面に召喚した後、無言で山札からカードを1枚引いて、それから、それとは別なカードを1枚、デッキへと戻した。
デッキへとカードが加わると、デッキは自動的に動き出し、シャッフルが行われる。
……そのエンティティは、メイドのような衣装を着て水の入った瓶を持った、ヒト型の女のような外見をしていた。
しかし、糸のように細められた目や、薄らと上げられた口角が、どうにも胡散臭そうな雰囲気を漂わせている。
カードを注視すれば、その効果も見える。
【宝瓶の魔女サダルメリク】
コスト1。エンティティ。攻撃力1、体力1《分類:星辰の魔女》
召喚時、自分はカードを1枚引き、その後、自分の手札のカード1枚を選択して、デッキに加える。
被破壊時、自分はカードを1枚引く。
──第一印象としては『優秀なドローソースカード』といったところか。
しかし、それ以上の情報は、イマイチない。
あるいは、カードを引くことに意味があるデッキなのか。
「終わり」
香澄がそう宣言し、手番が私に移る。
「──手札のカードの公開をするわ」
私がそう言うと、浮遊している5枚のカードのうち1枚が、それに呼応するように光を発した。
そして、それに手を伸ばし、触れる。
「【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】」
私がカード名を読み上げると、カードから白い霧のようなものが発生し、そこから、二つの鋭い目が、向こう側──香澄を睨む。
そして、バトル場全体が、まるで吹雪の中であるかのように、塗り替えられる。
……手札のカードを公開することは、通常は、できない。
カードの効果に、『公開してよい』とあるカードでのみ可能な行為であり、これをすると、手札にあるそのカードが手札から移動するまで、そのカードに関する情報は全て、お互いの共有情報となる。
一見デメリットしかない行為だけれど、それをすることによってメリットが生じるため。
情報と、そのメリットを天秤にかけ、カードの公開は行われるのだ。
──このカードの効果は、こう。
【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】
コスト30。エンティティ。攻撃力0、体力50《分類:氷晶の銀世界》
これは能力によって破壊されない。
自分のターン中、これが手札にあるなら任意のタイミングで公開してよい。
手札にあるこのカードが公開されたとき、【吹き荒れる銀世界】を領域へと生成する。
自分のターン開始時、手札にあるこのカードが既に公開されているなら、【銀の双眸】と【銀の抱擁】を1枚ずつ手札に加える。
自分のターン終了時、相手の場に《分類:氷晶の銀世界》を持つエンティティがあるなら、手札にあるこのカードのコストをそのエンティティの数だけ-1する(最小値10)
召喚時、盤面の《分類:氷晶の銀世界》を持つエンティティすべてに『これは攻撃できない』を付与する。
自分のターン終了時、お互いの盤面に《分類:氷晶の銀世界》を持つエンティティがそれぞれ5枚以上あるなら、このバトルに勝利する。
これは私の持つレジェンダリー……つまり、切り札であり、相棒とも呼べるカードだ。
そして。
領域、という、盤面とはまた異なる場所──エンティティではなく、フィールドを置くためのその場所へと、設置されたカードを見る。
【吹き荒れる銀世界】
コスト3。フィールド。ファントム。《分類:氷晶の銀世界》
これが領域にある限り、お互いのソーサラーは『自分のターン終了時、自分の盤面と領域にある《分類:氷晶の銀世界》を持つカードの枚数と同じ数だけ、相手の盤面の《分類:氷晶の銀世界》を持たないランダムなエンティティに1ダメージを与える』と『自分のターン終了時、自分の手札のカードを選択して捨て、体力を、捨てたカードの枚数と同じ値だけ回復してよい』を持つ。
これが、今バトル場に吹き荒れる、吹雪の発生源と言えるカードだ。
『ファントム』とあるカードなので、これは元々デッキに入っていない。
カードの、【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】の効果によって、無から生成されるものだ。
……さらに、公開した手札の【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】を、より注視すれば。
追加で2枚の『ファントムカード』についての情報も、わかるようになっている。
【銀の双眸】
コスト2。マジック。ファントム。《分類:氷晶の銀世界》
自分と相手の盤面のエンティティを1枚ずつ選び、それらに2ダメージ。
【銀の抱擁】
コスト1。マジック。ファントム。《分類:氷晶の銀世界》
相手の盤面のエンティティを1枚選ぶ。
そのエンティティが《分類:氷晶の銀世界》を持っていなかったなら、それを付与する。
また、選択したエンティティの攻撃力が2以上なら攻撃力を-1し、攻撃力が1以下であったなら、代わりに『次の自分のターン終了時まで、これは攻撃できない』を付与する。
カードを1枚公開するだけで、カード4枚分の手の内がバレてしまうことにはなるが、情報ならおそらく、どうせ最初から全て持っているだろう。
「ターンを終了するわ」
手札に2枚のファントムカードが加わるのは次のターンの開始時からなので、特にカードは使わずに、ターンを終える。
自動的に発動する【吹き荒れる銀世界】の効果で【宝瓶の魔女サダルメリク】が破壊され、香澄が山札からカードを1枚引くと、手番は彼女へと移っていった。