カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※香澄視点です。



136話 天秤の魔法と蛇の抜け殻

 

 「──そうですか。ですがわたくしは、あなたになど用はありません」

 

 そう、一言、捨て台詞を残して。

 【ラサルハグェ】さんは、まるで幻のように建物の壁をすり抜けて……そして、逃げていきました。

 

 ……それを。

 【ハマル】さんの霧の力を借りて。あたしもまた、壁を抜けて追いかけます。

 

 「……っ!そうですか。あなたも、わたくしと同じように……!」

 

 ──忌々しそうに吐き捨てる【ラサルハグェ】さんを、そのまま追って。

 少しすると、見晴らしの良い場所……建物の、外に出ました。

 

 ……そして、遅れて気が付きましたが。

 そこは。見覚えのある公園……もっと言えば、少し前に、あたしが月城先生のお姉さんとカードバトルをした場所で。

 

 どうやら、先ほどの建物は。

 その公園のすぐ近く……というか、公園の地下にあったみたいです。

 

 ──壁や天井をすり抜けてきたので、出入り口がどこにあるのかは分かりませんが。

 そう考えると、月城先生が捕まっていた場所は。あの時既に、すぐ近くにあった、というわけなんですね……。

 

 

 ……それから。

 場所自体は馴染みのある場所で間違いないのですが。

 

 気になったのは、その、空です。

 ……真っ暗な空に、赤い光が明滅していて。

 何だか、あたしの前にいた世界と、そっくりな光景……と、言いますか。

 

 ──まさにそれそのもの、といった感じです。

 

 ……これも。

 あたしの内側から溢れ出てしまった、世界のカケラ……という事なのでしょう。

 

 ──そして、現在。

 その、カケラを支配下におき、一時的にその主として存在しているモノこそが、目の前で逃げている……【ラサルハグェ】さん、という状態みたいです。

 

 ……それから、追いかけながら辺りを見渡してみますと。

 そこでは、たくさんの人が倒れています。

 

 「……ここまでです、【ラサルハグェ】さん」

 

 その、元凶と思われる【ラサルハグェ】さんですが。

 ……あまり、移動速度は速くないようでして。

 

 追いつく事ができましたので、目の前へと回り込んで、声をかけました。

 

 「小癪な……ッ!やってしまいなさい、我が子らよ!」

 

 ……そうしましたら、周囲を取り囲むように《魔法少女》たちが出現し、その直後。様々な魔法による攻撃が、一度に飛んできましたが。

 

 「……そういうのは意味がないって、知っているはずです」

 

 ──瞬時に、飛んできた魔法と全く同じ魔法を、全く同じ数だけ展開して。飛ばして。同じ魔法同士をぶつけて。

 そして……その全てを打ち破り、あたしの周りに現れた《魔法少女》を、全て撃破しました。

 

 ……そして、その瞬間に。

 あたしは、あることに気が付きました。

 

 あたしが気づいたこと。それはと、言いますと……。

 

 

 「──天秤の魔法。不公平な公平を、ここに……です。借りますね、【ズベン・エル・ゲヌビ】さん」

 

 そんな、あたしの宣言と同時。大きな天秤が、突如として現れまして。

 あたしと【ラサルハグェ】さんを両側の皿に乗せて。それから、2つの皿は水平になりました。

 

 ……その直後。

 

 あれだけ逃げていた【ラサルハグェ】さんは、その瞬間。完全に、その動きを止めていました。

 

 ──これは【天秤の魔女】の魔法を、あたしの……【乙女の魔女】の、模倣の魔法によって再現したものです。

 

 天秤による裁定が下される瞬間。

 皿に乗せられた者は、魔法の使用者を上回る力がなければ、そこから脱出する事ができません。

 

 

 ──そうして。

 あたしが、その、身動きが取れない【ラサルハグェ】さんの目の前で。

 ……自分の髪を一本、おもむろに毛先の辺りで切断しますと。

 

 ぐらり、と、天秤が大きく傾きまして。

 それから、その直後。

 

 あたしの切った髪の毛先のように、【ラサルハグェ】さんの首から先が、さっぱりと切断され。

 

 ……そして、天秤がまた水平に戻って、消失しました。

 

 

 ──この魔法の、本来の使用者である【ズベン・エル・ゲヌビ】さん曰く。

 これは等価損失の魔法……なのだそうですが。

 

 仮に、それであれば。

 つまり。【ラサルハグェ】さんの首と、あたしの髪の毛が等価……ということになりますが……。

 

 ──流石に、そんなことはあり得ません。

 

 ……つい先ほどまで、【ラサルハグェ】さんの姿をしていたモノは。切り離された頭が、完全に胴体から離れる瞬間。

 

 ……その姿が、ブレて。

 首から先の無い、1匹の小さな蛇へと、変わりました。

 

 

 「……やっぱりニセモノ、でしたね」

 

 首と胴体の別れた小さな蛇は、あたしが先ほど撃破した《魔法少女》たちと同じように。そして、カードバトルの時に破壊されたエンティティカードの幻影と同じように。

 

 ……霧散し、消失しようとしていました。

 

 「あっ、危ないです。忘れるところでした……」

 

 ですので、消えてしまう前に。

 その鱗を、ギリギリでどうにか1枚だけ剥がすことに成功し。

 そして、そこに少しだけ力を注ぐことで……その性質を、変化させました。

 

 ……おそらく、これでこの鱗は。

 時間が経っても、消滅してしまわない筈です。

 

 「──ただの、『魔女の使いの幻影から剥がれただけの鱗』を『本体へと導く鍵』へと定義し直した……といったところか」

 

 「なるほど。あの時の……スピカの手に【人馬の魔女】の矢が突き刺さった蛇の鱗が渡った時の、その再現ということだね」

 

 ……あたしのした事を見て。

 また、ミニアルケーさんとミニテロスさんが現れて。そして、冷静な視線で分析してきました。

 

 「……はい。これで、本体の場所がわかる筈……ではあります」

 

 そんな事を言いながら、あたしは方位磁針のような性質の『道具』へと変質させた、その鱗を使いましたが……。

 

 「うーん……思ったより複雑な偽装がかけられてるみたい、でして……。他のニセモノの位置が何となくわかるくらいで、本体の場所はわからないようになってますね……」

 

 残念ながら、上手く行きませんでした。

 

 ……今、この世界で暴れ回っている【ラサルハグェ】さんや、彼女が行使している力は、元々あたしの世界のカケラですから、そちら経由で辿ろうと考えなかったわけでもありませんが。

 そちらも、上手く行きません。

 

 「……こうなる事自体を予測していたかどうかはともかくだけど、あちらも、自己の存在を保つことには必死、ということなんだろうね」

 

 「とは言え、放置すればこの世界に取り返しのつかない程の影響が現れるだろう。……どうする?」

 

 ……そう、ですね。

 探し出したい理由はそれだけではなく、もっと個人的な事情もありますが……それはともかくとして。とにかく、本体を探し出す事ができなければ、どうすることもできません。

 

 となると、今考えるべきはその方法、ということですが……。

 

 「ううん、そうですね。とりあえず、他のニセモノの位置はこれで何となく分かりますので……もっとこれと同じものを増やしてから、試してみたいと思います」

 

 ……単純に数を増やすことで、どうにかなるかは分かりませんが。

 現状、あのニセモノを倒したことによってなのか、近くに他の《魔法少女》の姿は確認できません。

 

 そこから考えるなら。

 

 ……おそらくですが、あのニセモノは。

 ただの囮というわけではなくて、《魔法少女》の軍勢をそこに顕現させるための、一種の要のような役割を持っていたのではないでしょうか、と、推測する事ができます。

 

 もしもそうだとすれば、ニセモノを倒していくことにも意味はあると言えますし、それに現状はそれくらいしかできそうな事がないので、試してみない理由も特にはありません。

 

 「……えっと。それじゃあ、出発……したいと思います」

 

 ……色々と考えた末。あたしはミニサイズの二人組に、そう伝えると。

 空を飛び、一番近くのニセモノの気配のする場所へと、向かっていくことにしました。

 

 ──何と言いますか、その。

 そうして見えた景色は、見慣れた街並みのものではありましたが。

 

 ……しかし、空から見るのは初めてでしたので。

 何だかすごく、新鮮でした。

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