カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※雪菜視点です。



137話 再会と蛇竜の暴走

 

 ……何度、限界を超えただろうか。

 何度、もう無理だ、と。諦めようか、という考えが頭をよぎったことだろうか。

 

 ──街中のとある一角。有栖の家の、すぐ近く。

 

 コンクリートの道路を踏み締め、どうにか、両の足で立つ私達は。

 

 周囲を取り囲む《魔法少女》たちを、2人で、睨みつけるように、正面から見据えていた。

 ……まあ、もっとも。どこを見ても、周囲をぐるりと囲まれているのだから、正面も何も、ないかも知れないけれど。

 

 ──しかし、何と言うか。

 見た目こそ華やかだけれど、この光景を側から見たのなら。その人の目には、これはきっと、まるでゾンビ映画のワンシーンのように映るのではないだろうか……と。

 

 ──それほどまでに。

 《少女》たちの目は、まるで死人か何かのものであるかのように、光がなく。そして、まるで蟻の群れか何かのように、ぞろぞろと果てしなく、次から次へと湧いて出てくる。

 

 

 ……それで。

 限界を超えたと言うのは、単純な……比喩的な表現、ではなくて。

 

 事実として、何度か。

 私や有栖のカードは、この戦いの中で、『カードの成長』というものを感じていて。

 ……そして、そのたびに、呼び出して戦わせている『カードの精霊』が、その強さを増している事を、実感していた。

 

 ただ、いつものように、直接カードでバトルをしているわけではないから。数値やカードの効果として、明確に可視化される事も無いから、どうしても体感的な話にはなってしまうけれど。

 

 ──だけどやっぱり、この感覚について、間違いはない……と、思う。

 

 ……そういうところから考えると、やはりこれは。

 形式こそ、大きく違えど。『ファントムビルド』のひとつであるということに、違いないという、ことなのだろう。

 

 ──そんな、考え事をしつつも。

 私は、準備を整え、機を窺うことを、辞めてはいなかった。

 

 敵の、わずかな動き。

 ……ほんの一瞬、小さく連携が崩れた、その瞬間。

 

 「……っ!今だよ、雪菜ちゃん!」

 

 ──有栖の言葉が、発せられるのと、ほぼ同時。

 私の『カードの精霊』である、白銀の龍の幻影が、その翼を広げて。そして、大きく羽ばたいた。

 

 ……それは、空へと飛び立つ為ではない。

 その瞬間、その動きによって。突風のような猛吹雪が発生して、迫って来ていた《魔法少女》たちの一団が、怯む。

 

 

 「──ナイスだよ!雪菜ちゃん!」

 

 ……そして。その言葉と共に、有栖の『カードの精霊』である、開かれた一冊の本から、大きなライオンが出て来て。

 それから、吹雪を背に受けて加速し、懐へと潜り込むと……その爪で、何体かの《魔法少女》を打ち破った。

 

 ……まあ、だけれど。

 焼け石に水、というのはこういう事を言うのだろう。

 

 ──結局、多少包囲網に一時的な穴を開ける事ができても、すぐに補充されてしまう。

 

 

 「……よくやっていますが、しかしやはり、そこの大人を潰してから、目に見えて対抗の勢いが弱まっていますねェ?……このまま、少しずつ追い詰めてあげてもよろしいですが……わたくしには、使命がありまして、暇ではありませんので……」

 

 

 ……上空から。

 不快感を煽るような、人を小馬鹿にするような、声が聞こえてくる。

 

 今は、わざわざ上を見上げる余裕はないけれど。もしも、その余裕があったところで、結局その声を無視をしていたことに、変わりはないだろう。

 

 【蛇使いの魔女ラサルハグェ】。

 ……おそらく、この状況の元凶であろう存在。

 

 ただ、あいつの言うことは。腹立たしいことではあるけれど、間違ってはいない。

 

 体力の消耗と、集中力の低下。それから、意図的な集中攻撃。……そういった要素によって、凪宮選手が脱落してからというもの。

 私達は一気に、厳しい状況へと追い込まれた。

 

 ……それまでが厳しくない状況だったかと言えば嘘になるけれど、それでも。

 彼女が立っていた時は、包囲を壊滅させる事ができそうに見えた瞬間が、何度かあった。

 

 それに比べれば、今の状況は。

 少しずつ、確実に。まるで、真綿で首を絞めていくかのように、じわじわと。なぶり殺しに遭っているようなものと、言わざるを得ない。

 

 

 「……困ったね。やっぱり、これどうしようもないよ」

 

 「──そう、ね」

 

 ……珍しく弱音を吐く有栖に対して。

 私も、それを否定するだけの言葉が出てこない。

 

 けれど、お互い。『カードの精霊』による守りを、崩すことはせず。

 ……それから、防御に徹しつつも、隙を窺うことも忘れない。

 

 

 「──ふうむ。この期に及んで、まだ抵抗を続けるとは。早く使命を果たさなければならないというのに……面倒極まりないことですねェ」

 

 そんな言葉と、同時に。

 ……また、私たちを追い詰める敵の数が、増えていく。

 

 「……いいでしょう。手っ取り早く、わたくしが直接潰して差し上げます」

 

 それから、私達の目の前に。

 つい先ほどまで高みの見物をしていた【蛇使いの魔女ラサルハグェ】が、降り立った。

 

 「……」

 

 ……そうして。

 私たちも、無言で『カードの精霊』に、いつでも攻撃に移れるように構えさせつつ、同時に、周囲を強く警戒した……その時。

 

 「──あ、えっと……【ヒュドラ】さん!?ちょっと、勢いが……!そろそろ止まらないと、ぶつか……!」

 

 

 ……一瞬、聞き覚えのある声と同時に。

 上空から何か巨大な影が落ちてきたと思った、次の瞬間。

 

 何が起こったのか、目の前には。

 9つの頭を持つ怪物……香澄のデッキで何度も見たことのあるエンティティの、【ヒュドラ】が、そこにいて。

 

 ……そして。

 その【ヒュドラ】の頭の1つが、獲物を噛み砕くように咀嚼していて、他の8つの頭が、それを羨ましそうにじっと眺めていた。

 

 ──あとは、それから。

 

 「あわわわ、えっと、【ヒュドラ】さん……?その、それ、吐き出して下さい……!えっと、それ、必要ですから……。せめて、鱗1枚だけでも……!」

 

 ……空が、こうなった直後から。

 有栖と一緒に、私達がずっと探していた、香澄が。

 

 その、【ヒュドラ】に対して、縋り付いて、必死そうに。

 その口から【蛇使いの魔女ラサルハグェ】……だったものを、引き摺り出そうと四苦八苦している様子だった。

 

 ……そんな香澄に。

 浮遊するヒト型……以前見た香澄の『カードの精霊』が、突如現れて。

 

 

 「それ、自分の魔法で出したものだろう?一旦、消したりとかってできないのかい?」

 

 「……あ、そうでした」

 

 

 ──香澄に、声をかけた。

 

 ……。

 

 今まで一体どこにいたの、とか。

 その【ヒュドラ】もあんたの『カードの精霊』なの、とか。

 『カードの精霊』って喋ることあるんだ……とか。

 

 ……色々と言いたい事が、一瞬で湧いて出て来て。

 うまく、言葉にできず。

 

 私は、ただ呆然とそれを眺めることしかできなくて。

 ……そしてそれは、どうやら、有栖も同じみたいで。

 

 「……よかった、です。これで鱗2枚目確保……です、ね……」

 

 ……そうして、ようやくこっちに気がついたらしい香澄と目が合うまで、私達は、しばらく、揃って無言で見つめていたけれど。

 

 香澄がこっちに気付いたことで。どうにか、私の口から言葉が出て来た。

 

 「──あんた、さ」

 

 ……けれど、頭の中で、整理が追いつかないままに発した言葉は、どうにも、うまくまとまらなくて。

 

 「……髪、伸びた?」

 

 ……気にはなるけれど。

 絶対に、1番に聞くようなことでもないような質問が、口から勝手に飛び出してきてしまった。

 

 「……え、あ、あー……そう、ですね」

 

 あまりにも突然の問いに、目を丸くする香澄と、「今それ聞くの!?」とばかりに驚きに満ちた表情でこちらを見る有栖の視線に。私は、どうにか耐えて、さもそれが聞きたかったんです、とばかりの姿勢で香澄に視線を向ける。

 

 「……はい、髪、伸びました」

 

 香澄は、少しばかり、困ったように。

 ……あるいは、何だか、嬉しそうに。

 

 小さく笑いを浮かべると。そんな、答えを返して来たのだった。

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