※香澄視点です。
「……すみません。他にも、同じようにしていく必要がありますので、ちょっと、行ってきます、ね」
……雪菜さんや有栖さんと、いつの間にかひざ裏の辺りまで伸びていたあたしの髪についてなど、少し、お話をしまして。
あたしはまた、【ラサルハグェ】さんのニセモノ討伐へと出発することにしました。
……それで。
そういえば、ですけれど。
少しだけ急いでいたので尋ねる余裕がなかったのですが、雪菜さんや有栖さんが、銀色の龍や浮いている本を連れていたのは……一体何だったのでしょうか。
「あー、あれかい?あれは『カードの精霊』というものだね」
「……デッキが1つの世界を表し、その世界の主であるレジェンダリーのカードは、記録によって生み出される幻影でありながらも、完全には『ファントムビルドのルール』で縛り切れない。だから、ああいった形で姿を現す事がある」
……あたしの、声に出していない疑問に対して。
もはや当たり前のように、ミニテロスさんとミニアルケーさんが回答します。
「まあ、つまり。ある意味では今のわたし達と一緒、ということさ」
「──本来なら、ただの幻に過ぎず。その姿を視認する事ができるのも、ソーサラーの中でも限られた強い素養を持つ者だけ……と。はっきり言って、あまり意味のないはずのもの。けれど、現実と幻影の境が不明瞭になった今この瞬間は。唯一の、実体を持たない脅威であるエンティティ群への、対抗手段としての役割を、果たしている」
……なるほど、です。
その、中々に難しいお話なので。つまりそれがどう言う事なのか、よくわかりませんが。
この状況が、ある種のイレギュラーというべき状態であり。
そして、『カードの精霊』というものは、元々この世界に存在していた……と、いう事が、わかりました。
……多分。
この認識で、合っていますかね……?
例えば、『唯一の対抗手段』という言葉が、あたし自身『カードの精霊』以外の対抗手段を持っていますので、引っかかりますが……。
「……訂正が必要な誤りはない。その認識で問題ない」
「強いてそこに少し付け足すなら……そうだね。これまで、君が『カードの精霊』というものを認識する事ができなかった理由でも、教えてあげようか?」
とりあえず、あたしの認識は、間違いではなかったみたいです。
……そして、それで。あたしが、『カードの精霊』を見ることのできなかった理由……ですか。
そう言われると、確かに気になります。
あたしは、『カードの精霊』というものに関するお話を、聞いたことはありましたが、しかし、実際には一度も見た事がなかったですし、はっきり言って、おとぎ話とか、作り話とか、都市伝説とか……とにかく、そういうものだと思っていました。
しかし、本当にこの世界に元々あったのなら。
……そして、雪菜さんや有栖さんが、いつもああして連れていたなら。
どうして今になって、という疑問が出てきます。
「……先に言っておくと、別に彼女らは普段から『カードの精霊』を出現させて、連れ歩いていたわけではない」
「けど、香澄の前で出現させて見せてきたこともあったね。その時、君はそれを視認する事ができなかった。それは、すごく単純な理由で、単に君が『強い素養のあるソーサラー』という条件に該当していなかったから……ということなんだ」
条件を満たしていなかった。『強い素養のあるソーサラー』ではなかった。
……何となく、そうなのかな、と、思わなかったわけではありませんが。
しかし、その言葉に対して、驚きを感じるのは、ある種の傲慢というものなのでしょうか。
その、なんだかんだ、『ファントムビルド』で負けたことはありませんでしたし、それから『レジェンダリーカード』が含まれたデッキを持っていましたし……。
「うーん。少しばかり、誤解があるね。別に、ソーサラーとしての才能が低かったっていうわけではなくて……それより、もっと根本的な話。つまり、最初から『雲田香澄』は。厳密には、ソーサラーではなかった……ということなんだ」
「あくまで、厳密な話をするのなら。ソーサラーとは、この世界の外にある『世界の記録』へとアクセスし、その中の記録のひとつを幻影として降ろす存在のこと。対してあなたは、『世界の記録』ではなく、自らの内側にのみアクセスしていた」
……つまり。
結果が似ていても、その時の過程が違っていたから。
だから、それで。
あたしはソーサラーとは『厳密には違う』もの……ということ、でしょうか。
「そうだね……あえて、この世界の文明に合わせた形で表現をするのなら。本来、クラウド上で保存されているデータにアクセスする機能を持った端末がソーサラーであるとした場合。君は、端末本体に保存されたデータにしかアクセスできない……みたいな感じなんだよ」
「……香澄は、別にそういった技術には明るくない。だから、その例えは不適切だ。……わかりやすく例えるのなら。ウォーターサーバーから水を入れて飲むコップが、ソーサラーだとして。香澄は、地下から水が湧き出る井戸や泉、といったところだ」
……自信満々に例え話をするお二人ですが。
その、どちらの例えもわかったようなわからないような……と、いった感じです。
と、どうやらそんなあたしの思考を理解したようで。
肩をすくめるミニテロスさんと、ため息を吐くミニアルケーさんですが、一旦、無視をしまして。
……さらに、少し考えます。
──とりあえず。何となくではありますが、あたしがこれまで『カードの精霊』を見る事ができなかった理由については、わかりました。
では、そこで。それがわかったことで。今度はまた、新しい疑問が湧いて来ます。
……すなわち、「どうして今は『カードの精霊』を見る事ができたのか」です。
予想としましては、先程ミニテロスさんが言っていた、『現実と幻影の境がどうのこうの……』というのが関係してくると思いますが……どうでしょうか。
「……ついに思考を読む事を前提に無言で質問をし出したね……。まあ、わたしとしては別にいいけど」
「──回答するなら、まず、香澄のその予想は、完全な間違い、というわけではない。……が、大まかに言えば、間違いだ」
……思っただけで伝わるなんて、便利ですし。
活用しない手はないと思いますが……。まあ、ミニテロスさんも別にいいと言っていますし、別にいい、ということでお話を進めて問題ないのでしょう。
……それで。
そう、なんですね。
残念ながら、不正解だったみたいです。
……とすれば。なんでしょう。
──考えてみましたが、よく、わかりません。
わからないので、早く答えが知りたい、です。
「香澄が過程を省いて楽をする事を覚えてしまった……。わたしは悲しいよ」
「……別に、楽に済ませられるならそれに越したことはないだろう。で、答えについては、まあ、簡単なことだ。……つまり、『今の雲田香澄が、半分カードの精霊と言うべき存在だから』と、いったところがその理由に相当する」
……拗ねたような目でじっとミニアルケーさんを見つめるミニテロスさんを横目に。
あたしは、ミニアルケーさんの言葉を、頭の中で反復します。
『半分、カードの精霊』。
……それで、『カードの精霊』とは、この世界とは異なる世界の、主がこの世界に幻影として現れる時の姿のことを言うので……。
──なるほど、です。
ようやく、頭の中で、情報がつながって来ました。
……あたしは、『雲田香澄』というこの世界に生きる人間ですが。
同時に、『スピカ』という、こことは異なる世界の【魔女】という存在でもあります。
……もし、自分が、『カードの精霊』としての性質も持っているというのなら。
先程、ミニアルケーさんが、『カードの精霊』が、唯一の、エンティティ群への対抗手段、と言っていたのも、通ります。そして、それに。
その、少し前に。ミニテロスさんが『今のわたし達と一緒』なんて言葉を使っていたのも、そういうことだったんだと理解できます。
……そうして。
そんなお話をしながら、移動自体はしていましたので。
──次の【ラサルハグェ】さんのニセモノのところに、到着しました。