カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※香澄視点です。



140話 試練と好機

 

 ……世界中には、まだ【ラサルハグェ】さんのニセモノはたくさんいるようですが。

 しかし、見ていたところ。どうやらあれは、本体を倒さない限り無限に湧き出てくるタイプのやつ……みたいですので。

 

 一旦無視して、あたしは本体の元へ向かうことにしました。

 具体的に言うと、鱗を集めて、それが持つ微弱な本体への繋がりを少しずつ強めて。そうして、それを辿って自力で移動していくという、かなり強引な力技でしたが……。

 

 ……まあ、そうして。

 どうにか辿り着いた場所はと、言いますと。

 

 

 「ふぅむ。ここは……月面か。まさか、宇宙空間とはね」

 

 「──いや、そうでもない。地表から遠いためわかりにくいが、ここから地上の全てが見える。……これは、通常ではあり得ない事象。で、それを元に軽く現状を分析して推論を立てた結果、理屈としては、惑星という概念のない『平面の世界』という別な概念で、一時的に世界を上書きしているらしい……事がわかった」

 

 「……なるほど。つまり、今は宇宙という概念そのものが消失しているのか。……もっと言えば、地上を平面、宇宙を天球へと解釈し直して……その上で、天球を覆うようにテクスチャを展開していて。それから、そのテクスチャの裏側、つまり偽装の空と天球の狭間に隠れ家があった……と」

 

 「……おそらく、そういうこと。だから正確には、天球上の月面の座標の位置に隠れていた、というだけのことらしい」

 

 

 ……えっと。

 

 先程から、ミニテロスさんやミニアルケーさんが何を言っているのか、さっぱりわかりませんが。

 あたしたちがいるのは、月の上……です。多分。

 

 ──昔テレビで見た国旗とか、本当に立ってたりするんでしょうか。

 他にも、宇宙飛行士の足跡とか、裏面がどうなっているのか、とか。

 

 気になる事がたくさんあって、なんだかワクワクします。

 

 「……ワクワクしているところ悪いけれど、この月はニセモノ」

 

 「さっきから、わたし達はその話をしていてね。……まあ、厳密な話をし始めるともう少しややこしいけど、だいたいそんな感じっぽい」

 

 ワクワクした気持ちを抑えようとはしながらも、しかし好奇心が抑えられず、あちこちを見て回るあたしに対して。

 ……突然に、どこか冷めたようなミニアルケーさんとミニテロスさんの言葉が、無情に響いてきたように感じました。

 

 

 ……えっと。そ、そう……ですか。

 この月は、ニセモノ……らしいです。

 

 別に月に憧れがあったわけではありませんが……。

 なんだか、ちょっぴりショックです。

 

 

 「……何が不満なのかはわからないけれど。別に、事が終わったら、自力で月にでも太陽にでも見物に行けばいい」

 

 「まあ、少なくとも今の君なら、独力で宇宙空間での移動やら恒星の重力からの脱出くらいは問題ないだろうし、太陽の中心の熱でさえ、常温となんら変わらないだろう。もっとも、見たところで、大して面白くないと思うけど」

 

 ……。

 

 ……えっと。

 月や太陽が面白いか面白くないかは一旦置いておきまして。

 

 ──今のあたしは、そんな、太陽の中に突っ込んでも問題ないくらいのバケモノ、なのでしょうか?……その、規模が大きすぎて、イマイチよくわかりません。

 

 

 ──なんて。それはそんな風に、あたしがミニアルケーさんやミニテロスさんと、お話をしていた時の、ことでした。

 

 

 「……ここまで来ておいて。旅行のご相談ですか。呑気なものですねェ、【乙女の魔女スピカ】?……昔とは随分と雰囲気の変わった事で。驚きましたよ」

 

 ……いつの間にか、ミニアルケーさんやミニテロスさんは姿を消して。そうして、そこに入れ替わるように。

 1人の、痩せ細った【魔女】が。こちらに、皮肉のこもった言葉を投げかけながら、ゆっくりと歩いて、現れました。

 

 ……あれは。

 きっと。今度こそ、間違いありません。

 本物の【蛇使いの魔女】……【ラサルハグェ】さん、です。

 

 「……あの時は、本当に酷い目に遭ったものですが。しかし、今回はそうは行きません。なにせ、あなたが独占したわたくしたちの『世界』を……あなたが再び、その手に入れる前に。おおよそ半分ほどを、わたくしのものとして奪い取り……持ち出しましたからねェ」

 

 ──。

 

 ……それに対して、疑わしい気持ちもありますが。

 しかし、その言葉は。どうやら、ほとんど真実……みたいです。

 

 だと、すると。

 

 ……あの時。

 あたしが【ラサルハグェ】さんの命を奪うに至った時は。

 

 単純に、あたしの方が、強い魔力を持っていて……。

 つまり、端的に言えば『あたしの方が強かった』という事でした、が。

 

 ……今は。

 単純な力の差で言えば、あたしと向こうの間に、それはほとんどありません。

 

 

 ……そうですね。もっと、具体的に言いますと。

 

 ……まず、もちろん、と言いますか。その、【ラサルハグェ】さんの言う、『おおよそ半分程』というのは、嘘……もしくは、一種のブラフのようですが。

 

 しかし、あたしがアルケーさんとテロスさんによる試練を超えて、『スピカ』と『香澄』の『両方』へと至る前に。

 先に、この世界にやってきて。そうして、力を蓄えた様子の【ラサルハグェ】さんが。

 

 ……実際に、今のあたしの持つ力の量と、ほとんど同じだけの力を持っている、というのは、否定できません。

 

 ですから、つまり……要するに。

 今回は、以前のように、勝敗の決まりきった勝負とは、行かない……と、思われます。

 

 「……しかし。困った事にどうにも今のわたくしは、厳密にはこの世界には存在できていない、ようでして?……わたくしの魔法が機能しないのです」

 

 大仰な仕草で、両腕を大きく広げて語り始めた【ラサルハグェ】さんの様子を。

 あたしは、警戒しつつも。ただ、静かに、眺める事にします。

 

 「──それでも。工夫を重ね、もう少しで!わたくしは生み出された意義を全うできる……と、いうところに。また、あなたですか、と。……わたくしは、うんざりしているのですよ」

 

 何も言わないあたしに対して、まるで苛立ちを隠そうともせず。

 【ラサルハグェ】さんは、吐き捨てるように。言葉を続けていきます。

 

 「……最初は、何が起こったのかはわかりませんでしたがねェ。……わたくしはまず、あの『夜天の世界』から脱出できた、と。……真っ先にそう、思ったのです。……そして、『世界の支配者』を目指すべく生み出されたわたくしは、ようやく、この世界でならそれを達成できると。……そう、思ったのですよ」

 

 ……と。様子がこれまでと一転して。

 今度は、目を細めて、静かな口調へと変化しました……が、しかし。それは表面上のお話であって、強い苛立ちのようなものは、依然として感じられます。

 

 

 ──そして。

 その言葉に。

 

 あたしは、思うところが無いとは……言いません。

 

 『世界の支配者』を目指すべく生み出された……というのは、あの世界に生まれて争ってきた、全ての【魔女】に該当します。

 

 ……そして。

 それを果たせるだけの力が与えられていないにも関わらず、そんなことを、役割として課されていたことの残酷さも。今なら、少しは理解できます。

 

 ……まあ、だからと言って。この世界を支配しようとするのは、少し違うような気はしますが。

 しかし。それが間違いだからやめろ、なんて。そんなことを言うのは、今のあたしの本意ではありません。

 

 ……何と言っても、そもそも、ここにいるあたしだって。

 間違えていると言われた上で。それを通すことを、試練を乗り越えるという過程を経ることによって、許してもらった身ですから。

 

 それに。あの時のあたしは知りませんでしたが。

 前提としていた、間違いかどうかという物差しすらも。どうやら、本来は、極めて曖昧なもの……みたいなのです。

 

 ……だからこそ、これは、『間違えた道』を自分の意思で選択した、あたしに対しての最後の試練であり。そして、最大のチャンスでもあるのでしょう。

 

 ──正しいから。あるいは、間違えているから。

 それだけで考えていた、あの時の不完全な結論を、一度取り下げて。

 

 そうして、それ以外の結論を出す。

 ……つまり、やり直す。

 

 そんな事ができるチャンスが、今あたしの目の前にある、と。

 ……だからこそ。あたしは、今の自分なりの答えを示さなければ、と。

 

 ──そういうことなのだと、思うことにしたのでした。

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