カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※香澄視点です。



142話 ヒュドラと隠し玉

 

 ……向こうの大量の《魔法少女》と。それから、こちらの大量の牛は、どちらも倒れ。結果として戦況は、またもフラットな状態に、戻っていました。

 

 その、一応。あたしも、ただ耐えるだけではなく。

 向こうの攻撃の残りを、2つの剣でどうにか受け切りながら。それと同時に《魔法少女》たちを蹴散らして残った牛たちを、そのまま【ラサルハグェ】さんの方へと向かわせていたのですが……。

 

 しかし、案の定と言いますか。

 更なる《魔法少女》の召喚と、それによる攻撃により。残念ながら、【ラサルハグェ】さん本人には、攻撃は届かなかった様子、ですので……。

 

 「……次は、こっちから……です」

 

 ──今度は、こちらから攻撃を仕掛けてみます。

 

 そして、攻撃を仕掛けるにあたって。少しだけ、考えていた事があります。

 それは、まず、前提として。単純な出力の大きさでは、現状は同じくらいですが……。

 しかし一方で。手段の多彩さ、という点では。多分、こちらの方が、いろいろある……と、思います。

 

 つまり、もっと詳しく言うと。

 ……向こうは、数に任せた魔法攻撃による遠距離攻撃の一辺倒ですから、おそらく、そこに隙があるのではないでしょうか。

 

 「──あたしはあなたを縛る鎖を持ちません。……ですから、好きなように。存分に、暴れて来てください【ヒュドラ】さん」

 

 ……色々と考えた末、あたしが選んだのは、9つの頭を持つ、蛇とも竜とも言える化け物。【アクベンス】さんの造った、魔導生物【ヒュドラ】……です。

 

 それは、単に魔法で作り出された生物というだけのもの……とは言え。

 ……その力は、極めて強大です。

 

 それを示す事実として【アクベンス】さんは。ほぼほぼ、この『ヒュドラを造る魔法』だけで、十二宮の魔女の座を確たるものにしていたくらいですから、もはや実質的に、【ヒュドラ】さんが【巨蟹の魔女】の座に相応しいとさえ言える……かも知れません。

 

 ……なんて、まあ、そんなことを言ってみましたが。

 現実には、流石にそれは事実と異なります。

 

 例えば、【ヒュドラ】さんには、9つも頭がありますが。

 しかし、とても知性が低いです。……おそらく、そもそも思考する能力を有していないと、思われます。

 

 ……ですので、単純なスペックでは十二宮の魔女に匹敵するとは言っても。

 搦手に対する対応能力がない以上、単体でひとつの線力であったのであれば、どこかであっさり潰されていたと思います。

 

 そうですね。そう考えると、結局。【アクベンス】さんの、強力な回復魔法や、それから、彼女の頭脳によるサポートがあったからこそ。【ヒュドラ】さんと【アクベンス】さんは、セットで十二宮の魔女の一角に据えられていたという事なのでしょう。

 

 ……が。まあ、それはともかくとして。

 

 結局のところ、単純な肉体のスペックであれば。【ヒュドラ】さんのそれが、あの世界の頂点であった、十二宮の魔女を基準にしてもなお、極めて高い……という事実は変わりません。

 

 おそらく、こういうタイプに対して。単純に数で対応するのは、多分、結構難しい……のではないでしょうか。

 

 

 ……と。

 そんな風に、あたしが【ヒュドラ】さんについて考えている時には。

 

 あっという間の勢いで向こうに突っ込んで行った【ヒュドラ】さんが……向こうが、迎え撃つために再び大量に出現させた《魔法少女》を、あっさりと蹂躙しているところでした。

 

 ──ですが、とは言え。

 もちろん、【ヒュドラ】さんは自分が受ける攻撃に対して、まるで意に介さずに突っ込んで暴れ回っているものですから。

 多分、放っておいたら、案外あっという間に倒されてしまうことでしょう。

 

 

 ただ。それは、あたしも予想していた事ですので。

 ……そうならないように、【アクベンス】さんの回復魔法を模倣して、遠隔で常に回復をかけ続けるのも、忘れてはいません。

 

 ……ダメージよりも回復が上回り。そして、向こうの戦力の追加投入よりも、殲滅が上回っている、この現状なら。このまま、暴れ回ってもらえば。そのまま押し切れそう……に、見えましたが。

 

 「……ええい、小癪ですねェ!だったらさっさと、潰して差し上げるまでですよ!」

 

 ──突如として。【ヒュドラ】さんに接近され、攻撃を受けるばかりだった《魔法少女》の方々が。

 

 ……今度は、逆に【ヒュドラ】さんの元へと押し寄せまして。

 【ヒュドラ】さんの、牙や爪によって、返討ちに遭う……と、思ったその瞬間。

 

 ──次から次へと、爆発して。

 突然に、回復魔法が追いつかないくらいのダメージを、立て続けに受けた結果。

 【ヒュドラ】さんは、遂にその身が霧散しました。

 

 ……もっとも、【ヒュドラ】さんがああして倒れる光景は。実のところ、向こうの世界でも何度か見た事があるのですが。

 

 しかし、なんと言いますか。

 さっきまで、味方として頼もしい姿を見せてくれていただけに、なんだか少しだけショックが大きい……気がします。

 

 ……と、油断している場合ではありません。

 今度は、【ヒュドラ】さんを撃破したその《魔法少女》たちの残りが、こちらへと突っ込んで来ています。

 

 「……っ!し、しまっ──」

 

 ……ですが、気づいた時には、時既になんとやら、で。

 まるで、反応する間もなく。何度も、その間近で起こった爆発に、巻き込まれ……。

 

 ──やられてしまったように、見えました。

 

 ……。

 

 ……えっと、はい。そう、ですね。

 その光景が、側から見たものとして。実際に見えていたので、そう言うしかないのですが……。

 

 その、なんと言いますか。

 ……自分がやられる光景って、それが自分でないと分かっていても、中々にショッキングなものなんですね。

 

 「……おやおや、油断していましたか?まさか、こうもアッサリと……」

 

 【アクベンス】さんの魔法を使い、【ヒュドラ】さんを作り出したのと、ほとんど同時に、保険として使った、【アルレシャ】さんの魔法──『自己複製の魔法』によるニセモノは、外から見て見破る手段はありません。

 

 ……【ラサルハグェ】さんの方に、まさかあんな奥の手があったとは予想していませんでしたが。どうやら、保険を掛けておいて正解だったみたいです。

 

 ……まあ、とは言え。

 おそらく、すぐに気がついてしまうと思いますので。

 

 ──気付かれる前に、次の攻撃を仕掛ける事にします。

 

 ……が。仕掛けるのはいいとして、どう仕掛けるのがいいでしょうか。

 【アルゲディ】さんの魔法──『対象が不運に見舞われる魔法』を掛けてみるには、この空間には不確定的な要素が少ないですし……。

 

 「……そう、ですね。困った時は、これにしましょう。──【ルクバト】さん、弓矢、お借りしますね」

 

 結果としては。少し、迷いすぎて。

 ──不意を突くにはやや出遅れてしまったような気もします……。

 

 「……ふむ。やはりアレは偽物でしたか。油断も隙もありませんねェ。──ぬか喜びするところでしたよ」

 

 そして、案の定……と、言うべきでしょうか。

 結局、あたしが【ラサルハグェ】さんに向けて放った矢は。回避……いえ、《魔法少女》の防壁魔法によって、防がれました。

 

 ……。

 

 ……それを、見て。

 ぼんやりと、防壁魔法なんて使える《魔法少女》もいたんですね、と。呑気にそんなことを、思い掛けた、次の瞬間。

 

 ──なんとなく、そこにいるのが危ない気がして。

 頭で理解するよりも早く、体が動いて。

 

 ……それから、少し遅れて。

 背後から杖ではなく剣を手に持った《魔法少女》が、ついさっきまで、あたしの首があったあたりを横薙ぎに振るった様子が、視界の端で見えました。

 

 ──これまで、《魔法少女》は魔法攻撃ばかりのイメージでしたが。

 よく考えてみれば、そもそも《魔法少女》は《魔女》の幼体です。それで、その《魔女》の中には。

 ……武装して鞭のように長くしなる不思議な剣を振るったり、大剣を宙に浮かせて振り回す方もいるのですから。

 

 ……魔法攻撃による遠距離攻撃だけが向こうの攻撃の手段だと思い込んでいたのは、かなり迂闊だった、かも知れません……。

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