※前話と同様、雪菜視点です。
【宝瓶の魔女サダルメリク】の被破壊時の効果によって、カードを1枚引いた香澄は、続けてターン開始時のドローを行う。
これによって、手札の枚数は6枚になり、使用可能なコストは2ターン目なので2。
1ターン目から動き出したにしては、充分に潤沢なリソースを有しているといえる状態だ。
「コスト2。【カストル】」
彼女は2ターン目にして早くも召喚という文言を口にすることさえ億劫になったのか、言葉少なく、そして、相変わらず眠たげな表情で、カードを使用した。
──猛吹雪の中に、1人の少女が現れる。
少女は祈るようにどこかを見上げると、そのすぐそばに、その少女とよく似た少女が出現した。
そうして現れた2人の少女は、互いの手を握り合い、お互いを庇い合うように立つと、こちらを、まるで睨むような目でじっと見つめてきた。
【双児の魔女カストル】
コスト2。エンティティ。攻撃力2、体力1《分類:星辰の魔女》
召喚時、【双児の魔女ポルクス】を自分の盤面に出現させ、それとこれに、お互いを対象とした『ライフリンク』を付与する。
被破壊時、カードを1枚引く。
【双児の魔女ポルクス】
コスト2。エンティティ。ファントム。攻撃力1、体力4《分類:星辰の魔女》
召喚時、【双児の魔女カストル】を自分の盤面に出現させ、それとこれに、お互いを対象とした『ライフリンク』を付与する。
被破壊時、【双児の魔女カストル】を1枚デッキに加える。
召喚時効果は、手札からコストを払って盤面へと出されなければ発動しないため、効果によって出現した【双児の魔女ポルクス】の召喚時効果は働かない。
そして『ライフリンク』というのは、対象が破壊された時、自分も破壊される効果のことだ。
つまり、今回の場合はそれがお互いに付与されているため、どちらか片方が倒れた時、もう片方も倒れることを意味している。
──盤面のコントロールを狙いたい身としては面倒な効果だけれど、一気に2つも盤面が埋まったこと自体は、おそらくこちらの有利に働く。
「終わり」
香澄は、相変わらず自分のエンティティに対してまるで興味がないかのように、なんの感慨もなく、ターンの終了を宣言してきた。
「ターン開始時のドローをするわ。そして、追加で公開している【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】の効果で、さらに手札に【銀の双眸】と【銀の抱擁】を1枚ずつ加える」
一気に手札が3枚増加し、手札の枚数は8枚。
「そして効果で加えた【銀の抱擁】を使う。対象には【双児の魔女カストル】を宣言するわ」
コストを1支払い、カードを使う。
相手の盤面にいる【双児の魔女カストル】は、氷の白い霧に全身を包まれると、白い息を吐きながら、その身を震わせる。
その隣では、【双児の魔女ポルクス】が、彼女の身を心配そうに見つめていた。
【銀の抱擁】はマジックであるため、使用すると、エンティティのように盤面に留まるようなことはなく、墓所へと送られる。
「ターンを終了するわ」
カードを手札に7枚残し、ターンを終える。
領域の【吹き荒れる銀世界】の効果によって、自動的に相手の盤面の《分類:氷晶の銀世界》を持たないエンティティ──つまり、今は《双児の魔女カストル》が【銀の抱擁】の効果で攻撃力を-1された上で《分類:氷晶の銀世界》を追加されているため、【双児の魔女ポルクス】のみを対象に、1のダメージが2回、発生する。
吹雪の強風と凍り付いた空気中の水分が【双児の魔女ポルクス】の全身に襲いかかり、【双児の魔女ポルクス】は合計2のダメージを受けた。
「わたしのターン」
香澄は、そんな2体のエンティティにはまるで興味を示さず、ターン開始時のドローを行う。
「【双児の魔女】2体でソーサラーに攻撃」
平坦な声で、ソーサラーへの直接総攻撃を指示する。
……まあ、私の盤面にはエンティティが出ていないので、そうなるのは当然だけれど。
「【アルデバラン】、効果対象は【カストル】」
そしてコストを3消費して、香澄は盤面へとさらにエンティティを召喚した。
──召喚されたエンティティは、牛の角のようなものを側頭部から生やした、これまたヒト型の女のような外見をしていた。
……そして、召喚された【アルデバラン】なるエンティティは、自分の盤面の【双子の魔女カストル】を見ると、なんと、彼女をその両の角で貫いた……!
そうして貫かれた【双児の魔女カストル】は、弾けて霧散──破壊され、そしてその惨劇の下手人もまた、姿を眩ました。
最後に、そこには、どこから現れたのか、明らかに正気ではないような目をした一頭の牛型のエンティティが残されていた。
そして、その一連の出来事が終わると、盤面に残っていた【双児の魔女ポルクス】は祈るように手を合わせて目を閉じると、自らその身を霧散させた。
破壊された2枚の【双児の魔女】の効果により、香澄は1枚のカードを引き、そして、1枚の【双児の魔女カストル】をデッキへと加えた。
【金牛の魔女アルデバラン】
コスト3。エンティティ。攻撃力2、体力3《分類:星辰の魔女》
召喚時、自分の盤面のエンティティ1枚を破壊する。破壊したカードが《分類:星辰の魔女》を持っていたなら、破壊したカードは墓所ではなく手札に加え、その後、これを手札に戻して、【血走った目の狂牛】を1枚自分の盤面に出現させる。
……既に当のカード自体は盤面にないようだけれど、そうであったとしても、ソーサラーの持つ、使用されたカードの詳細を見る力は問題なく作用する。
効果を読んで、ちゃんと数えてみれば。
確かに香澄の手札は8枚……つまり、カードを使用した後の5枚に加えて、【双児の魔女カストル】の効果によるドロー効果と、【金牛の魔女アルデバラン】の効果による【双児の魔女カストル】の回収、そして自分自身のバウンス──手札帰還効果で、+3枚の、合計8枚で計算と一致する。
【血走った目の狂牛】
コスト4。エンティティ。ファントム。攻撃力4、体力2《分類:なし》
『猛進』
盤面に残された『牛』を見てみれば、これまた面倒なカードだ。
体力は低いけれど、攻撃力が高い。
盤面に残したくないタイプのエンティティだ。
そして、この『猛進』というのは、盤面に出たばかりのターンでも、エンティティのみを対象に攻撃行動が可能である、という効果のことだ。
今回は、私の盤面にエンティティがいなかったから効果はなかったけれど、【金牛の魔女アルデバラン】が手札に戻っている以上、またこれが出てくるだろうということだ。
……。
……試合前に感じた嫌な予感の正体は、もしや、これか。
盤面自壊効果による盤面のリセットに、盤面処理を得意とするカード。
そして、高効率なリソースの回収札。
……盤面が絶えず循環するのであれば、私のデッキは極めて相性が悪い。
「終わり。どうする?」
香澄の、無気力な青い瞳がこちらを射抜く。
ぶるり、と震えたのは、自分の『吹雪』の幻影による思い込みだと誤魔化して。
「……勝つわよ、当然でしょう」
私はターン開始のドローをした。
……。
……。
……何ターンかが経過した。
ターンの開始早々、カードを引いた香澄は面倒臭そうに口を開いた。
「──もう降参してもいいよ?不毛だし」
私は、香澄の盤面のエンティティ……【獅子の魔女レグルス】を処理できないでターンを終えたところだった。
【獅子の魔女レグルス】
コスト1。エンティティ。攻撃力1、体力1《分類:星辰の魔女》
受けるダメージを-xする(xはこのカードの攻撃力と同じ値になる)。
召喚時、自分の盤面のカード全てを破壊する。破壊したカードのコストの合計の半分の値(端数切り捨て)と同じ数値をこのエンティティの攻撃力に加算する。
自分のターン終了時、これの攻撃力が5以上なら、攻撃力の最も高い相手の盤面のエンティティ1枚を破壊する。攻撃力10以上なら、代わりに相手の盤面のエンティティ全てを破壊する。
被破壊時、相手のソーサラーにこれの攻撃力と同じ値だけダメージを与える。
召喚時に【双児の魔女カストル】2枚と【双児の魔女ポルクス】2枚の合計4枚、合計8コスト分のカードを破壊した【獅子の魔女レグルス】の攻撃力は5で。
ダメージ減衰を突破できる手段がなかった私は、せいぜい攻撃力を1低下させるのが精一杯だった。
【吹き荒れる銀世界】の効果で回復はしているが、それでも体力は、じわりじわりと削れている。
まさしく、ジリ貧、とでもいうべき状況から、私は抜け出せないでいた。