※香澄視点です。
余談A 学校バスと体育祭
色々とあった夏休みも、終わりを迎えまして。
それから、数日が経ち。そろそろ秋と言うべき季節です。
……例の、『レジェンダリーカップU18』が、少しずつ近づいてきていますが、それはまだもう少しだけ後のお話で、今は、別な一大イベントが、目前に迫っています。
……が。一旦、その事は後に回すとして。
先に、全世界を夜空が覆った、あの一件。
……通称『夜天事変』についてのことですが。
集団幻覚として、人々の記憶から薄れ……ることはなく、インターネット上やテレビの画面の向こう側で、色々な人が、そのことでお話し合いをしています。
──ですが、しかし。
……テレビで取り上げるには、結局いつも同じような話になっしまうことや、証拠となる映像記録がないことから、あまり都合のいいネタとは言えないようで……段々と、見る機会が減ってきたような気がします。
そして、それから。インターネットでは、夜空の中でUFOを見たとか、そう言った明らかなでっち上げが目立つようになってきたことから、信頼性が薄れてきた事もあり……。
多分、半年もする頃には誰もこの事をわざわざ話題にあげる事も無くなるだろう……と。
……そいうのが、アルケーさんの予想みたいです。
それで、なぜ、急にこのお話をし始めたのかと言いますと……。
単純に、今朝。
アルケーさんから、スマートフォンのメッセージアプリを介して、そんな事を伝える連絡が来たから……です。
……連絡に気づいた時は、とりあえず。アルケーさんもテロスさんも、元気にしているみたいで、少しだけ、安心したような気持ちになりました。
もっとも、あの2人が体調を崩したり怪我をしたりする様を想像できないですし、理論上でも、それがあり得ないことはわかっているのですが……。
……まあ、それでも。
元気に、楽しそうにしているのなら。多分それが1番だと思います。
ちなみに。あのお2人については、あの件の後。
一旦、世界を一周してくる……なんて言っていたので。今は、きっとこの世界のどこかにいるのでしょうが……一緒に送られた写真を見ても、どこの国の写真なのかはさっぱりわかりません。
……と、いったところで。
とりあえず、今の世の中の様子や、それから、アルケーさんやテロスさんのような、遠くで起こっている出来事については、ここまでとしまして。
今度は、目の前の事に、お話を戻しましょう。
──今、あたしの目前に迫っている一大イベント。
それは、体育祭……です。
『夜天事変』の後。……物理的には何の変化も起こっておらず、長い夢を見ていたということにせざるを得なかった世の中は。少しの混乱の後、思っていたよりもすぐに、元通りの流れを取り戻しました。
……そうして。予定通りに、回るようになっていった世界の中には、当然のように、あたしの身の回りも、その中に含まれていまして。
生徒会のみんなで、体育祭実行委員の人たちと協力して、体育祭の準備を着々と進め……。
そうして、今日という日こそが。
その、体育祭の当日……と、いうわけです。
『夜天事変』はすでに収まり、世界はまた、通常通りに昼と夜を繰り返してはいます。
……が、しかし。
例えば、あたしという1人の人間にフォーカスを当ててみたりしてみれば……案外、全てが元通り、というわけでもないことがわかります。
具体的に、言いますと。あたしは、現在。
1人の人間として、普通に学校生活を送ってはいますが……。
その身体性能といいますか、肉体スペック……みたいなものが、かなり、人間離れしたものになっています。
……そして、それから。
この学校独自の文化である、生徒会チームにそれぞれのクラスの代表が『ファントムビルド』で勝負を挑むという種目の、生徒会チームの枠に、半ば強制的に選出されることにも、なってしまいました。
……まあ、そちらの方であれば。
アルケーさんやテロスさんによって、段階的にカードの性能を調整できるようにしてもらったので、リレー等の体を動かす種目に出場するよりは全然いいと思いますが……。
今度は、何段階目くらいのカード性能にしておくのがいいでしょうか……という、別な考え事の種も、浮上してきます。
10段階目……つまり、全ての制約を取り払った最大出力の状態はあの時、【ラサルハグェ】さんが持っていっていた分まで含まれます。
ですので、それをするとアルケーさんとテロスさんとバトルをした時のそれよりもさらに高い出力になってしまい……理論上、わざと勝ちを譲るような事をしなければまだ誰も勝てない計算になってしまうらしいので、ある程度セーブする事は前提になりますが……。
そうした時に、『夜天事変』の中で『カードの成長』が起こったらしい雪菜さんや有栖さんとは3段階目くらいでちょうど勝ったら負けたりといった具合ですから……。
……と。
……そんな風に。
先程からずっと、あたしは1人で、色々と考え込んでいたのですが。
「──着いたよ、香澄ちゃん」
「起きなさい。……全く、昨日あんなに遅くまで起きてるからよ。睡眠が必要なくなった〜〜とか言ってたけど。本当は単に夏休み明けで生活リズムが崩れてるだけなんじゃないの?」
……どうやら、目を瞑って黙々と考え事をしていたせいで、眠っていたと勘違いされてしまったようです。
目を開いてみれば、バスが停まり。
そして、学校のみんなが、順番に降りていっているのが見えます。
一瞬、「すみません、つい考え事をしていまして……」とでも言おうかと思い、口を開きましたが。
「……えっと、それを言うなら……雪菜さんや有栖さんも、昨日一緒に通話しながらゲーム、してましたよね……?」
よく考えたら、昨日夜更かしをしていたのは、ここにいる3人全員に言える事ですので、あたしだけが言われる筋合いではないのではないかと思い至り、言い返してみることにしました。
「──うぐ。香澄……あんたも言うようになったじゃない」
「あはは……まあ、確かに。実を言うと、ボクもちょっと寝不足なんだよねー」
あたしの反撃が予想外だったのか、一瞬言葉に詰まったようですが……別に、それは不快感を与えたというわけでもないようで。
雪菜さんも有栖さんも、笑って言葉を返してくれました。
「……まあ、私も人のこと言えないかもだけど。それはそれとして──ほら、行くよ。一年生とは言え生徒会役員が先生に揺り起こされたなんてことになったら悪い意味で話題になるわ」
「そうだね。今日のために色々と準備してきたわけだし、ここは頑張りどころ……って、ね」
そして、順番が近づいてきて、立ち上がって支度を始めた雪菜さんと有栖さんを横目に。
あたしも同じように立ち上がって、支度を始めます。
……せっかくの体育祭です。
考えるべき事は多いかも知れませんが、まあ、それはきっと何とかなる……でしょう。
……。
……そんな風に、楽観的に考えて。
そして、その結果として。
結局、それは正解でした。
……気付けば、あっという間に体育祭は終わり。
今は夕日が、あたし達を、朱色の光で照らしています。
始まる前は、難しい事を色々と考えていましたが。
……結局のところ、そもそも生徒会は運営側なので、基本的に通常の種目に出る事はありませんでした。
これは、事前に説明があった……みたいなのですが。
どうやら、すっかり忘れてしまっていたみたいですね……。
そして、カードバトルについても。
結局、雪菜さんや有栖さん、それから生徒会のみんなとする時と同じ、3段階目で、やや出力が過剰気味ではありましたが、元々生徒会はこの学校の中でも『ファントムビルド』が強い人たちの集まり……なので、むしろそれでなんだか盛り上がった様子でした。
……もちろん、これから先。
全てが順調に行く……なんて、そこまで楽観するつもりはありませんが。
少しは、肩の力を抜いても、いいのかも知れない。
……そんな風に思った、1日でした。