※雪菜視点です。
文化や伝統というものは、実際の過去の出来事や、あるいは有名な逸話から生まれることが、多い。
『カードの精霊』を見せびらかす行為が宣戦布告として扱われるのも、また、同様に、実しやかに囁かれる『成り立ちの経緯』を持っている。
──曰く。
昔、とても強くて好戦的なソーサラーがいた。そのソーサラーは、強い相手と戦うことが特に好きであり、常に自分の近くに『カードの精霊』を顕現させていた。
……そして、そこに視線を向けた者に対して、片っ端から勝負を挑んでいたのだと言う。
かなり強引だけれど、『カードの精霊』が見えるのは限られた実力を持つソーサラーだけだから、確かに、効率的な手段とは言えるだろう。
そうしていると、噂は広まり。
例え見えていても、自信のない者は『見えないフリ』をして素通りするようになった。
逆に、自信のある者は。
『カードの精霊』を出して歩いている人を見るや否や、自分から勝負を挑むようになったと言う。
……それから、『カードの精霊』を顕現させて見せびらかす行為が、『自分こそがこの場において誰よりも強い。文句があるのならかかってこい』という意味を持つようになったのだ。
私に言わせてもらうのであれば、馬鹿らしい逸話と風習としか思えないけれど。
しかし、実際にそういう意味で通っているのだから、仕方がない。
どうして急にこんな話を思い浮かべたのかといえば。
……きっと、香澄のことを考えていたからだろう。
雲田香澄。
彼女は、不思議な人だ。
常に臆病で自信がないようで、だけれどきっと、同時に自分こそが1番だと信じて疑わない傲慢さを持ち合わせている。
『カードの精霊』の一件だけではない。
バトルの中で、まるで結果など分かりきっていると言わんばかりの言動をしたり。
意味もなく手番を選択させたり。
……しかし、彼女にとってそれはある意味当然のことで、きっと、疑問を持ったことすらないのだろう。
あの時。
バトルを終えた時。
香澄は勝ったのにも関わらず、まるで喜びみたいなものはなくて。
結果に対して、ひどく無感情だった。
今なら、わかる。
……あの時私に勝負を挑んで来たのは、彼女なりに勇気を振り絞ってのことなのだ。
私のことをどこかで知った香澄は、実際に私を見た時に、私が『全国大会』の結果を引きずって思い詰めていたことに気付いたのだろう。
確かに、私は、自分自身のことが信じられなくなって、過去の行動に理由と目的を求めていた。
自分の価値と責任を、そこに無理矢理見出そうとしていたのだ。
だから、彼女は、勇気を振り絞って。
『理由もなく』勝負をさせてきたのだ。
臆病な彼女が、勝負の勝ち負けに意味を見出せない彼女が、わざわざあのようなことをしてきたのは、そういう思考があったのだろうとしか推測できない。
──もしそうであるなら、もしや、香澄は私のファンなのでは?
……変な考えが浮かんできそうになり、かぶりを振る。
そういうことを考えたいんじゃあ、なくって。
香澄は、しかし、バトルを終えて私が次の機会での再戦を要求して、そこに理由がないと言った時、納得の後、わざとらしく、理解できないとばかりに見つめてきた。
理由なんていらない、と示したのは自分のくせに。
彼女が私に勝負を仕掛けることに『勇気を振り絞った』と思った理由にもかかってくる話だけれど。
きっと、理解できなかったのは、私が「理由がない」と言ったことそのものではない。
「再戦を要求した」上で、「理由がない」と言ったから……つまり、香澄にとって、きっと再戦を求められること自体が想定外なのだろう。
だから、皮肉や確認のようなニュアンスを込めながらも、理由を求めた。
彼女はきっと、戦った相手をそのまま潰してきてしまったのだろう。
だから、彼女は1人なのだ。
……誰も、立ち上がっては来なかったのだ。
そして、「技術を盗む」と言ったら喜んだのは、単にそれが彼女にとって理解に足る理由だったから。
納得して、私が、再戦を求めることに、彼女自身の理解が追いついたのだ。
そこで、つまり。
彼女は無意識のうちに「自分こそが1番強い」と思い込んでいるのではないか、という話に戻ってくる。
果たして、それはどうなのか。
私は、彼女がそのように考えているということが、少しだけ嫌だ。
自信があるというだけならむしろ良いことかも知れないけれど。
彼女のそれは、自分が1人になってしまうことを、自分のせいだと決めつけて、それを疑うこともしないということなのだから。
「世界は広い。上には上がいる」なんて言うつもりはないけれど。
自分で自分を責め立てて、勝手に自分を孤立させるのだけは、辞めさせたい。
……そんなことを思いながら、私は来る時に歩いた道を戻っていた。
──そうして、借りているアパートへと帰宅して。
一通りのことを終わらせた後。
私は、買ってきた『イミテーション』のいくつかのボックスを開封した。
……ボックスというのは、10枚が封入されたパックが、纏めて20個入っているもののことを指す。
『イミテーション』を買ってきたことに、あまり意味はない。
既にほとんどの『イミテーション』を持っているから、わざわざボックスを買う理由なんて、本当はない。
強いて言うなら、私はこれまで、大量のボックスを買ってきたけれど。
……未だに、レジェンダリーを引けていない。
ちなみに、買ってきたボックスは、『中学生全国大会』の記念パックのボックスだ。
まあ、自分にとって縁があるもののほうがいいかな、と思ったのが理由だけれど、帰ってきて見ると、なんか違ったかな、といった気持ちが拭えない。
……。
……結局、今日もまた1枚もレジェンダリーを引けなかった。
まあ、特にどうしても欲しいということもないから別にいいのだけれど。
なんとなく気が向いたので、スマホで3種類のレジェンダリーの、つまり、《遊星の魔法少女》の【開闢の兆し・アルケー】、【旅立ちの始点】の【旅路への支度】、《氷晶の銀世界》の【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】の、中古ショップでの値段を調べてみる。
【旅立ちへの支度】が8万、【氷晶の銀世界】が6万。
【開闢の兆し・アルケー】は……うげ、17万……。
【開闢の兆し・アルケー】……というより、《遊星の魔法少女》デッキのカードが全体的に高騰気味だ。
おそらく、過去に販売されたことがない完全新規だから、流通量が少ないのが原因だろう。
ちなみに、サイン入り版だと、3枚とも一気に3倍くらいに跳ね上がる。
コレクターの世界は、恐ろしいものだ。
買おうと思えば『家からのお小遣い』で買えるけれど、そもそも単品で買う、というのはなんだか味気ないので好きではない。
私はカードを集めたいのではなく、カードを引き当てたいのだ。
……まあ、とかなんとか言いつつも、今回引いたカードの大半はカードショップに売りに行くことになるだろうけれど。
そうして、私は不意にようやく気が付いた。
《星辰の魔女》デッキの『イミテーション』、まだ出てないな……ということに。
気付いた上で、机の上の空ボックスのパッケージを見ると。
……なんというか、集合写真に1人だけ欠席してしまっているのを見つけてしまったような。
そんな、寂しさのようなものを感じてしまった。
彼女がもし本気で嫌がりそうなら仕方がないと思うけれど。
どうせなら、いつか一緒にどこかの大会に行ってみるのもいいかも知れない。
……というか、それ、名案なのではないだろうか……?
私、天才かも知れない……と、そんなことを思いながら。
ベッドで私が目を閉じたのは、既に1時を過ぎた頃だった。