※有栖視点です。
「ターンを終わるよ!」
「……そ。あなたはその結末を選んだのね」
ボクがレジェンダリーのマジックカード──【旅立ちへの支度】を使用して、ターンを終えて。
──香澄ちゃんの【人馬の魔女ルクバト】がまた【不可避の一矢】を手札に加えて。
ターンが移る時、彼女は確かにそう言った。
それは、眠たげな表情で。
小さくて、幽かな……ボクが耳の良さに自信がなければ、うっかり聞き逃してしまいそうな、そんな小さな声だった。
……それから、香澄ちゃんはターン開始時に、カードを引く。
香澄ちゃんの、今の手札の枚数は、8枚。
「【サダルメリク】」
コストを1支払い、またもエンティティを召喚してきた。
そして、その【宝瓶の魔女サダルメリク】の効果で、香澄ちゃんはデッキからカードを引き、手札のカード1枚をデッキに戻した。
「【不可避の一矢】対象はソーサラー」
とりあえずやるべきことはやったとばかりに、手札から目線を外して、ボクの方を見据える。
目にも止まらぬ速さで矢が飛んできた、と思った次の瞬間。
矢は飛んでいる途中で消えて、まるでそこに至る過程を飛ばしたかのように、気付けばボクの胸元に突き刺さっていた。
当然、カードによる幻覚だけれど、何かを失ったような疲労感を覚えて、体勢が崩れかけた。
……そして、そこに。
「【ハマル】でソーサラーに攻撃」
召喚されてから1ターンが経過し、『不可視』を失った代わりに攻撃できるようになった【白羊の魔女ハマル】が、追い打ちをかける。
これで、合計が5ダメージ。
やっぱり……というべきか、ダメージソースが多い。
特に【不可避の一矢】のダメージは、何かしら手を打たないとまずそうだ。
「ターン終了」
またもやる気のなさそうな声で、香澄ちゃんは告げた。
……引きとか上手さとかそういう以前に、これ勝ち目ちゃんとあるのかな──なんて、そんな弱気な考えを、ボクは振り払うこともせず。
その可能性さえも頭の片隅に置いて。
「ボクのターン!」
ボクは、カードを1枚引いた。
手札の枚数は、6枚。
……そして、その内1枚は現在コストが2下がって6になった、【幸運の青鳥】だ。
ターンを開始してカードを引いたのとほぼ同時、ボクの盤面には、1羽の白い鳥が現れた。
──それは、ボクが先ほどのターンにカードを引いたから、恩恵を与えることをせずに、今まさに飛び立たんと姿を現した、大きな鶴だった。
〈戸を開くと、絹糸を織る彼女のその手が、翼であったことに気がついてしまいました。「決して見ないでください」と言われたにも関わらず、約束を破ってしまったお爺さんとお婆さんは、悲しそうに飛び去るその後ろ姿を、ただ眺めることしか、できませんでしたとさ。〉
【仙禽の報恩】のフレーバーテキストは、こんな感じで。
……きっと、『カードを引くこと』と、『扉を開けること』が掛けてあるってことなんだろうね。
どういう経緯で鶴がこっそり絹織りをしていたのかはわからないけれど、きっと悲しい物語なんだろうなって、感じる。
そんな感じの、なんだかやるせない印象のある……テキストだ。
まあ、ボクのカードのフレーバーテキストは一旦置いておいて。
……ボクが常々思っている事だとはいえ、「他人のカードのフレーバーテキストも読めたら楽しいだろうになあ」という思いは、さすがに、今はどうでもいいことだから。
「【飛び去る仙禽】で【白羊の魔女ハマル】を攻撃するよ!」
……効果を見たところ、【白羊の魔女ハマル】の効果は強力だけれど、自分自身がエンティティに対して攻撃しなければ発動しない、という明確なデメリットがあった。
攻撃力が2と少し高めなのも考慮して、被破壊時効果を持つ上に攻撃力も1しかない【宝瓶の魔女サダルメリク】より、優先的に処理することにした、ということだ。
「コストを3使って、【輝く月の姫】!」
またも、《分類:旅立ちの始点》のマジックカード。
今回は、ボクの手札に、【月の姫君】という10コストのカードが加わった。
……なんていうか、今まではあまり気にしてこなかったけれど、わざわざ布石を張るように準備をする手間が、今日はやけに疎ましく感じる。
【輝く月の姫】
コスト3。マジック。《分類:旅立ちの始点》
手札に1枚【月の姫君】を加え、その後、デッキに1枚【姫君の秘宝】を加える。その後、カードを1枚引く。
このカードが《分類:読了の栞》を持っているなら、このカードのコストは0になり、上記の効果は発動せず、代わりにカードを1枚引く。
……単体の効果としては、こんな感じ。
あとはさらに、少し数は多いけれど、手札に加わった【月の姫君】を含む『ファントムカード』をまとめて見てみると、こう。
【月の姫君】
コスト10。エンティティ。ファントム。攻撃力7、体力7《分類:旅立ちの始点》
このカードは召喚できない。
これが受ける4以上のダメージは3になる。
デッキか手札にあるこのカードは、自分のターン開始時、これのコストを+1し、その時コストが13以上なら、手札に【霊薬の煙】を1枚加え、このカードは墓所に加わり、自分の手札とデッキと墓所にある【輝く月の姫】は《分類:読了の栞》を持ち、デッキと手札と墓所にある【姫君の秘宝】全ては除外される。
自分のターン終了時、このエンティティと自分のソーサラーの体力を2回復する。
【姫君の秘宝】
コスト5。マジック。ファントム。《分類:旅立ちの始点》
手札に【月の姫君】があるなら、それをランダムに1枚まで自分の盤面に出現させる。
その後、自分の手札とデッキと墓所にある【輝く月の姫】は《分類:読了の栞》を持つ。
【霊薬の煙】
コスト2。マジック。ファントム。《分類:旅立ちの始点》
3ターンの間、自分のソーサラーは『次の自分のターン開始時、カードを1枚引き、体力を2回復する』を持つ。
これも【仙禽の報恩】みたいに分岐するタイプのカードだけれど、これは『選択』の余地はない。
35枚のデッキというカードの海から、1枚の【姫君の秘宝】を引けるかどうか、という条件だ。
もちろん、使うターンを後にすればデッキの枚数も減っているだろうし、引く行動に費やせるコストも増えるしで、【姫君の秘宝】を狙うのならそっちの方が手っ取り早いだろうけれど。
今欲しいのは、【霊薬の煙】による、継続的な回復を含む、リソースの方。
このままじゃあ、リソース差であっさり押し潰されちゃいそうだから。
少しでも寿命を伸ばすなら、こういうところで繋いでいくのが、現状の最適解だと言えるはず。
もっとも、手札に加わるのはまだ先になってしまうけれど。
準備をしないと結果が出ないのがボクのデッキだから、仕方がない。
「ターンおわり!」
そして、ターンの終了時。
香澄ちゃんの【人馬の魔女ルクバト】がまたも【不可避の一矢】を加えるのと、ほぼ同時に。
ボクは、フィールドにあるカード、【保管された物語】の効果で、手札のカードを1枚、選んでデッキに戻した。
……これで、ボクの手札は6枚。
内2枚は【幸運の青鳥】と【月の姫君】という、リソースの増加や維持には繋がらないカードだけれど。
【保管された物語】は、カードをデッキに戻せばその次のターンにカードを引く効果もあるから、まだ大丈夫。
一方で、静かにカードを引いた香澄ちゃんの手札は、またも8枚に戻っていた
そして、ボクの方に一瞬だけ目線を向けて。
「【不可避の一矢】2枚。対象は相手ソーサラー」
──手札にある全ての矢で、ボクを狙った。
……放たれた2本の矢は、見えない壁のようなものに阻まれて、速度を落とす。
けれど、止まらず、それらの矢は、確かに再び、ボクの体に突き刺さった。
1枚につき3のダメージを受けるところを、前のターンにカードを捨てていたことで、【保管された物語】の効果によって受けるダメージを1ずつ減少させたから。
……合計4のダメージを受けて、ボクの体力は残り16。
【宝瓶の魔女サダルメリク】は、攻撃力が1で攻撃してもダメージがないから無意味と判断したのか、それ以上には何もせず。
「終わり」
香澄ちゃんは、そのままターンの終了を宣言した。