カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※香澄視点です。



23話 動揺あるいは開封

 

 気がつくと、目の前に、床に座り込んだ夢園さんがいました。

 

 そして、周りを見回してみれば、カードの幻影たちが……というか、やけに大きな、空飛ぶ天秤が消えていくところでした。

 

 

 ……あ、はい。

 えっと、どうやらまたやってしまったみたい、です。

 

 申し訳なく思う気持ちと、少し居心地の悪いような思いを抱えながら、あたしは、夢園さんのもとへと、歩いて近づきます。

 

 

 「あはは、うーん、強い!強いね!香澄ちゃん!」

 

 夢園さんは負けたはずなのに、何故か楽しそうで、よくわかりません。

 

 

 「いやあ、参ったよ。雪菜ちゃんが負けを認めるわけだよ」

 

 まあ、楽しそうなのは、いいこと、なのでしょうか……?

 

 

 ……。

 

 

 「……ところでさ、ボクたちって、前に会ったこと、ない?」

 

 ……突然、空気が変わったようで、思わず、あたしの足が止まりました。

 

 

 急に夢園さんが真剣な表情になって驚いたのもありますが、それよりも、その言葉に、心当たりがあったことが、大きいです。

 

 

 そんなあたしの反応を見てか、夢園さんは、続けて口を開きました。

 

 

 「──実は、香澄ちゃんって……あの時の、『マジカル☆スピカ』ちゃん、なんでしょ?」

 

 

 ……。

 

 ……えっと。

 

 ……思いもよらなかった不意打ちに、頭が真っ白になりました。

 

 ……。

 

 あ、あっと、その……ええっと、どうして、それがバレているんでしょうか……?

 

 

 「……え、ええと、その……ど、どうして、それを……?」

 

 喉が急にからからに乾燥してしまったような感覚の中、なんとか、あたしは声を絞り出して、尋ねました。

 

 

 「……えっ」

 

 ……そうしたら、夢園さんは、逆に、心底驚いたような表情を見せました。

 

 

 「……えっ」

 

 夢園さんの反応に、あたしも、思わず、声が漏れてしまいます。

 

 

 ……。

 

 

 ……少しばかり、気まずい空気が流れました。

 

 

 「……いやあ、まあ、今のは様子見……というか、鎌をかけるって言うか……えーっと……香澄ちゃんって、素直だよね」

 

 困ったような笑顔を見せる夢園さんですが、あたしには恐怖でしかありませんでした。

 

 

 鎌掛け……というのは、その、つまり死神の鎌とかの例え、でしょうか……?

 「お前の首にこの鎌がかかってるんだぞ」とか。

 「命が惜しければ、わかっているな……」みたいな、そんな感じの……。

 

 

 「……え、えっと、その……すみません……」

 

 あたしが俯いて、謝罪をすると、夢園さんは、困惑したような、または、驚いたような、そんな顔をしました。

 

 「えっ、ああ、いや……そっか。そうだよね。わざわざ、名前隠して見た目も変えてわかんないようにしてたんだもんね。……その……ボクの方が、無神経だった、よ」

 

 

 ……何故か急に頭を下げられました。

 

 

 「えっ……ええ、えっと、その、あの」

 

 あたしは、どうすればいいのかわからなかったので……マネするように、頭を下げてしまいました。

 

 

 「……ううん、やっぱりバトルしてた時と全然違うね、香澄ちゃん」

 

 いつのまにか頭を上げていた夢園さんは、そう言います。

 

 ……そう、なのでしょうか。

 

 あたしには、バトル中の記憶はあるにはあるのですが、その、『気がついたら終わっていた』みたいな状態ですので、なんとも言えませんが……。

 確かに、あたしだったらあんな風に悩まずにポンポンカードを使ったりは、できないと思います。

 

 「……『全国大会』のこと──つまり、『マジカル☆スピカ』ちゃんのこと。雪菜ちゃんはまだ気付いてないみたいだけど、言わないでおいた方がいい?」

 

 夢園さんは、なんだか少し優しい口調でそう言いました。

 

 ……えっ。その、いいんですか!?

 

 「あ、はっはい……その、夢園さんが良ければその、ぜひ、秘密にしていただけると……」

 

 あたしが、その言葉に飛びつくようにそうお願いすると、どうしてか夢園さんは、わざとらしく、不満そうな表情を作って、口を窄めました。

 

 

 「……うーん、なら、ボクのこと有栖って呼んでほしいなー」

 

 

 「……はい?」

 

 

 ……それは、一体、どう言うことなのでしょうか。

 と、言いますか、何か違うのでしょうか?

 

 

 「夢園さん、ってちょっと遠いっていうか……あ、たしか雪菜ちゃんのことも湖織ちゃん……いや、湖織さんって呼んでたでしょ?」

 

 「えっと、まあ……その、はい」

 

 何故か、悪いことを責められているような雰囲気だったので、まるで罪の告白をするかのように、恐る恐る、あたしは肯定しました。

 

 「うーん、香澄ちゃんなりのポリシー?みたいなのがあるなら無理はしなくていいけど、ボクは有栖って、呼んでほしいな!あと、多分雪菜ちゃんもそうだと思う!」

 

 

 ……思う、ってなんでしょう。

 違ったらどうするのでしょうか。

 

 「平気だよ!もし違ったら、一緒に謝りに行ってあげるから、ね?」

 

 夢園さん……有栖さんが、何も考えていなさそうな呑気な声で、そう言います。

 

 

 ……まあ、あたしとしては、その、どっちでもいいので……いいのですが。

 

 雪菜さんが怒ったら……その時は、ちゃんと、雪菜さんに、一緒に謝りに来てもらうことにします。

 

 

 「……わ、わかりました。……えっと……あ、有栖さん……?」

 

 「おおー!いいね!やったあ!」

 

 あたしが名前で呼んだだけで、何故かすごく喜んでくれたので、まあ、良かったのでしょう。

 名前で呼ばれるだけでそんなに嬉しいなら、みんなのことを名前で呼ぶようにした方がいいのでしょうか……?

 

 

 ──と言う考えが一瞬浮かびましたが、なんとなく自分がみんなのことを名前で呼んでいるその姿を想像すると、なんだか形容し難い違和感に襲われたので、多分しないと思います。

 

 ……というか、しません、はい。

 

 

 「……あはは、ごめんね。その、ボク、少し不安だったんだよ」

 

 一転して、真面目なトーンで有栖さんは語り始めました。

 

 「なんていうか……いつもなら、バトルをすれば大体の人と仲良くなれる自信があるんだけど……香澄ちゃんはそうじゃないって言うか……なんかこう、別な人を相手してるみたいで……ちょっと、戸惑ってたんだよね」

 

 「……別な人、ですか」

 

 「ああ、もし気を悪くしちゃってたら、そういうつもりじゃなかったからごめんね!なんだけど……雰囲気とか、言動とか、そう言う表層的な部分だけじゃなくて、というか……。……うーん、難しい!」

 

 ……考え込んだと思ったら、あっという間に投げ出してしまいました。

 

 「変な意味でも悪い意味でもないんだけど、ボクは雪菜ちゃんから話を聞いて、その後実際に会ってみて、香澄ちゃんって、幼い……というか、純粋なイメージだったんだよね」

 

 幼い、とはまたすごいことを言われた気がします。

 ……多分、怒る人は怒るのではないでしょうか……?

 

 

 けれど、同時に有栖さんは、あたしが、そう言われても特に何も思わないということをわかってそう言ったようにも感じます。

 

 「でもバトル中はなんかこう……それとは全然違うというか……ううーん」

 

 しかし大きな独り言を、あたしのことを気にせず垂れ流しながら物思いに耽る姿を見ると、単純に、自分の世界に入り込んでいるだけのようにも見えてしまいます。

 

 

 「──まあ、それで言うと、ボクとしては『マジカル☆スピカ』と香澄ちゃんがイコールで結ばれてるっていうのも、正直まだ信じられないんだよね」

 

 

 独り言の中で、有栖さんは、さらりとそんなことを言いました。

 

 

 「……あの、であればどうして鎌?をかけたりしたのでしょうか……?」

 

 

 ……つい、あたしの中で引っかかった言葉なので、思わず尋ねてしまいました。

 

 

 「……うん?疑わしいからとりあえず鎌をかけたと言うか……」

 

 

 ……と、言いますと……?

 

 

 「あっ!もしかして言葉の意味よく分かってない?」

 

 そう、なのでしょうか……?

 

 「一応言うと、鎌をかけるっていうのは、それとなく誘導して、喋らせたり反応をさせたりして……そうやって、知りたいことを知ろうとしたり確認しようとしたりすることのことを指すことわざなんだよ!」

 

 

 「……あ、そうだったんですね……」

 

 

 ……てっきり脅し文句みたいなものかと思ってました。

 

 

 「……えっと、その、語彙力がなくて、すみません……」

 

 

 「いいのいいの、元はと言えばボクがちょっと気取って難しい言葉を使っただけだから」

 

 有栖さんは、肩をすくめて、優しくそう言いました。

 

 ……そして、力が抜けたような、あるいは、安心したかのような……そんな表情でこっちを見ました。

 

 

 「──ね、折角だからさ、次はカード開封バトルしようよ!」

 

 突然、話題が変わり。

 楽しそうな明るい笑顔で、有栖さんは言いました。

 

 

 「……なんですか、それ」

 

 「『イミテーション』を1ボックス分くらいずつ買って、どっちがいいカードいっぱい当てれるか勝負するんだ!単純な運だけのゲームだから、たまにやると、楽しいよ?」

 

 言葉だけで聞くとそうでもありませんが、不思議なことに、有栖さんがそんなふうに言うと、まるで本当に楽しいゲームであるかのように聞こえます。

 

 

 「……えっと、今日はあんまりお金を持ってない、です……すみません」

 

 しかし、財布の中には、そんなにお金は沢山入っていないので、お気持ちだけ受け取ることにさせていただこうと思います。

 ……折角誘っていただいたのに、すみません。

 

 

 「……と、まあそんなこともあろうかと〜」

 

 すると、有栖さんは、バトル場の端っこの方に置いてあったカバンから、『イミテーション』のボックスを2つ取り出しました。

 

 

 ……いや、その、それこそ申し訳ないと言いますか……。

 

 

 「……あーいや、そのね。これ、雪菜ちゃんがいざ買ったはいいものの、なんか違うなーって思ったらしくて、ボクにくれたんだよね。でも……ボクもこれを一人で開けるのは、ちょっと、ね」

 

 そう言いながら、有栖さんが、なんだか少しだけ困ったような顔で、カバンを開けると。

 その中には『イミテーション』のボックスがギッチリと詰まっていました。

 

 「……雪菜ちゃん、ああ見えて変な散財癖があるから……買ってから後悔することが、多いみたいなんだ」

 

 ……なんと言いますか、それが本当なら、雪菜さんはどうやってお小遣いをやりくりしているのでしょうか。

 

 

 ……もしかしたら、今の話は有栖さんがあたしに気を遣わせないように作った作り話かも知れませんが。

 

 なんとなく、有栖さんは嘘でこういう話をする人だとは思えなかったので。

 

 

 あたしは、結局、有栖さんと、カード開封バトルなるものを、したのでした。

 

 

 ……純粋な気持ちで1パック1パックに一喜一憂し合うのは、不思議と、とても楽しかったです。

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