※有栖視点です。
……別れ際。
何故か何度も頭を下げる香澄ちゃんに、ゆったりと手を振って。
ボクは、彼女の家の玄関の扉が閉められる様子を眺めていた。
思いの外カード開封バトルが白熱してしまい。
気がつけば太陽は沈んで、青空の代わりに星空が広がっていた。
綺麗な満天の星を眺めて。
偶々雲ひとつない晴れで良かった、と思いながら、考える。
──香澄ちゃん、強かったなあ。
もちろんこれは、カード開封バトルの話じゃなくて、『ファントムビルド』の方。
……突然だけど、『全国中学生大会』が、……中学生という、まだまだ未熟な年の子供による大会が、それなりに注目されていたのは、理由がある。
その理由というのは、上の年齢になってソーサラーとしてレベルが高くなっていくほどに、試合の展開が複雑化していく傾向にあるからだ。
……これは、ある程度高い年齢のソーサラーによるバトルの特徴として、カード1枚1枚の有する能力が、強力なものになることが、原因だ。
1枚1枚のカードが強いと、レジェンダリーが勝利効果の条件を満たすその前に、簡単に試合が決着してしまうことも少なくない。
……まあ、逆に、というか。
カード全てが強いなら、耐久用のカードもまた強いことが多いから、結果として、長期化するときはとことん長期化する傾向にある、とも言えるけど。
──それは、それとして。
ソーサラーとしての『強さ』……特に、デッキの強さを表す指標としては、3つくらいの基準で考えられると言われている。
1つ目は、勝ち筋が存在すること。
2つ目は、勝ち筋が複数存在すること。
3つ目は、それぞれの勝ち筋への到達手段が明確であること。
普通は、何度も『カードの成長』を繰り返して、デッキのカードは強くなっていく。
……例えば、レジェンダリーのカードがデッキにある場合。
何度も強くなって、そして、ようやく、レジェンダリー以外の勝ち筋が現実的になっていく。
……まあ、さっきも少し触れたように、逆にレジェンダリーでの勝ちをより現実的なものにする方向性でカードが成長していくケースもあるけれど……ややこしくなっちゃうから、一旦、このケースについては置いておこう。
それで、ボクの場合は、レジェンダリー……【旅立ちの支度】の勝ち筋が第一で、それ以外に勝ち筋になりそうなものと言えば、【幸運の青鳥】での『不可視』を頼りにした継続ダメージくらいのものだ。
だから、そういった感じで、『成長』の回数が大人よりも少ない、子供……特に『中学生』くらいの年頃のソーサラーによる大会は、シンプルな試合展開になりやすい。
そして、その上で、言うのなら。
……香澄ちゃんは、すごく、強かった。
もちろん、どんな手札だったかとか、見えていないカードがどんなものだったかとかは、わからない。
だから、カード使用の上手い下手は評価できないけれど。
──間違いなく、デッキは強かった。
……カードの1枚1枚が強くて、最終的に、レジェンダリーの存在が、全くバトルの結果に関わってこなかったくらいだ。
中学を卒業して、高校に進学してきた以上、いつかはこういう『強い相手』も戦うこともあると思っていたけれど、そういった相手の最初の1人が同級生になるとは、正直予想外だった。
……いや、そうでもないかも。
思い返せば、『マジカル☆スピカ』ちゃんもそうだった。
──けれど。
あの時の彼女は、ずっと、『魅せる』ことにこだわっていた。
カードの性能は高かったけれど、側から見て、それが露骨にならないように立ち回ってさえいた。
そうして、わざとレジェンダリーが試合に関わってくるように、試合を長引かせて誘導していたんだ。
──まあ、それを踏まえても、多分、デッキの強さ、というシンプルな観点だけで見れば、おそらく、今日の香澄ちゃんの方が、上だとは思うんだけど。
……で、『マジカル☆スピカ』ちゃんと香澄ちゃんが、もしかしたら同一人物なんじゃないかって思ったのは。
その『強さ』に既視感があって、瞳の色が変化するところを見て……っていう、そんな、安直な理由だった。
……正直なことを言えば、絶対に違うだろうって思っていた。
だから、違うだろうと思いながらも……「まあ、もし違ったら上手いこと誤魔化せばいいや」──なんて、そう思って適当なことを言ってみたら。
予想外の事実が発覚してしまった、っていうわけだ。
……ポケットから、さっきのカード開封バトルで引き当てたカードを、適当に摘んで、取り出す。
摘んだカードの中に、【乙女座の福音】というカードがあった。
……。
【白羊の魔女ハマル】、【人馬の魔女ルクバト】、【獅子の魔女レグルス】……《分類:星辰の魔女》。
……思い返すと、魔女たちは、星座の名前を冠している。
というか、そもそも、星辰という言葉は、星座、という意味だ。
そして、改めて、【乙女座】だ。
……もっと思い返せば、それだけじゃない。
《遊星の魔法少女》デッキには、他にも《遊星》ではない……《星辰》が、混ざっていた気がする。
わかった上で見て見ると、急に、いろいろなところにヒントがあったように思えてきた。
……やっぱり、ボクは探偵にはなれない。
いや、まあ……別に目指している訳でも何でもないけど。
……それで、探偵っていうのは、集めた情報を繋ぎ合わせて、答えを導き出す人のことを言うと思っている。
ボクは、そこまで頭の回転は早くない。
情報の取捨選択も、苦手だ。
……いつも思考が散らかっていて、1つの答えに辿り着くまでが遅いボクは。
とてもじゃないけれど、探偵に向いているとは言えないだろう。
……仮に、もしも、名探偵になれる人がいるとするのなら。
ボクと雪菜ちゃんの、いいところだけを足して、2で割ることを忘れてしまったような……そんな人なんじゃないかって、ボクは、よくそんなことを思う。
──今回だって、香澄ちゃんの自爆みたいなものだったし、ね。
……それにしても、バトル中の香澄ちゃんは、よくわからなかった。
途中から相手を見る余裕がなくなっていたのもあるだろうけれど、それを抜きにしても、よくわからない。
言葉少なくボクを淡々と追い詰めていた彼女は、あの時何を考えていたのか。
どうして、目の色が青かったのか。
どうして、『マジカル☆スピカ』ちゃんは、目の色が赤なのか。
香澄ちゃんのデッキのレジェンダリーは、結局どんなカードなのか。
……香澄ちゃんのデッキに、おそらくレジェンダリーが入っていることは、一応、根拠があって、予想している。
自分で見たわけじゃないから、情報としてはアレだけれど……。
──雪菜ちゃんが、『カードの精霊』を2体見たって言っていたことが、その、一応の、根拠。
……『カードの精霊』は、レジェンダリーにしか宿らない。
そして。それが2体、ということは。
今、思えば、2つのデッキの両方にレジェンダリーが含まれているっていうことが予想できる。
だから、香澄ちゃんのデッキ……いや。そっか。
……今更ようやく気づいたことだけど、『香澄ちゃんのデッキ』だと、2つ当てはまってしまうのか。
《星辰の魔女》と《遊星の魔法少女》。
デッキ名でちゃんと言うと、この場合、《星辰の魔女》デッキ。
そこに潜むレジェンダリーは一体どんなカードなんだろう。
……ふと、思い出す。
……そういえば、《遊星の魔法少女》デッキのレジェンダリーは、青い目が特徴的な、気怠げなヒト型の姿だったっけ。
なら、もしかしたら、赤目でキザなヒト型のエンティティが、《星辰の魔女》デッキのレジェンダリーだったりしてね。……と、そんな考えが浮かんできた。
……そして、後は。
気になることと言えば、あの極端な言動の変化だ。
あれは、何か特殊な要因があるのか、それともどちらも演じているのか。
もしなんらかの要因があってああなっている、と言うのであれば、その『要因』というのはほぼ間違いなく、香澄ちゃんの、デッキ、だろう。
本当かどうかはわからないけど、「ソーサラーのデッキとは、別世界の断片を引き出しているものだ」と主張する研究者もいる。
そして、その上で、『デッキの強さ』、『カードの強さ』というものは、その引き出された断片の大きさ、強度に依存している、という説がある。
……基本的にそのソーサラーの魂、的なものと親和性の高いデッキ……世界、が引き出されている、というらしいけれど。
それらが、仮に正しかったとして。
……もしも、その親和性と言われるものが低くて、その上で、大きな断片を引き出してしまったソーサラーがいたのなら。
引き出してしまった世界に、飲み込まれてしまうこともあるのかも知れない……のだろうか?
……まあ、これは何か根拠がある話ではないし、偉い学者の人がこんなことを言ってたってわけでもない。
所詮は、ただの妄想だ。
けれど、逆に。
……例えば、二重人格とか、そういう程度の……というか、ボクたちが、現実的に考えられるようなラインのことでは……複数のデッキを持つようには、ならないだろう。
ソーサラーの魂は、入れ物のようなものだ、という話も聞いたことがある。
そもそもの話、ソーサラーとしての感覚的なもので言えば、『デッキの2つ持ち』なんて、とても想像できることじゃない。
……例えばの話だけど。
普通に日常を生活していて、突然、前から阿修羅像のような人体構造の人が歩いてくるような光景を想像する人は、まずいないだろう。
……『デッキを複数持っている』というのは、そのくらい、奇妙な状態だ。
──だから、あえて、別な方向性で考えるとするのなら。
……例えば、もしかしたら、そのデッキと親和性が強すぎて。
1つの世界から40枚ではなく80枚も『断片』を引き出してしまって、それを、そのままにできてしまうくらいに、器……また例え話だけど、詰め込める容量が、大きくて。
それで……ということも、考えられるのかも知れない。
……まあ、いずれにせよ。
結局、妄想は、妄想でしかない。
こんなことを言ってはなんだけれど、『マジカル☆スピカ』ちゃんの件については、香澄ちゃんが口を突いて嘘を言ってしまった、というのが1番現実味のある話にはなってしまうのだろう。
……けれど、バトルが始まると別人のようになる、という現象自体は実際に起こっていたことで。
だから、ただの妄想と片付けるのも、少し早いような……。
「……でも、だけど……」と、色々な考えが、頭の中を、ぐるぐる回る。
……そうやって、しばらく、ううん、と頭を捻ってみたけれど。
結局、じっくり考えてみても、結論は、出そうになかったから。
ボクは、最終的に、「わからないということがわかった!」と、いうことにしたのだった……。