カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※香澄視点です。



27話 バカンスあるいは荒天

 

 「あんたが言ってるの、あの人でしょう」

 

 雪菜さんは、突然会場のソーサラーの1人を指さしました。

 

 先程は台風がなんか複数上陸するみたいなことを言ってきたかと思えばこれなので、忙しい人だなって思います。

 

 ……。

 

 ……あ、えっと、もしかして、違うんですかね。

 

 その、折り畳み傘を取り出して「間違えた」とおっしゃっていたので、そこで、雪菜さんがあたしの勘違いに気付いた、ということなのかと思っていましたが。

 

 ……あれは単にペットボトルを取り出そうとしてうっかり折り畳み傘を取り出してしまった、ということなのでしょうか……?

 

 ……で、あれば、『台風』という言葉は、おそらくその前までの雪菜さんの発言と同じ文脈……『つよいソーサラー』という意味で使われているのでは、ないでしょうか。

 

 雪菜さんは、あたしの言った『台風』が、有栖さんのことを指していると思い込んでいたようでした。

 

 その上で、『複数かも知れない』『あの人』と続いていると考えれば……意味は通りそうな気がします。

 

 あたし、もしかして天才なのではないでしょうか……?

 

 いえ、察しが悪過ぎて一周回らないと理解が追いついていないだけですね。

 イキってすみません……。

 

 ですが、仮にそういう文脈で雪菜さんが『2つ目の台風を見つけた』と言っているとしたら、どうなのでしょう。

 

 ……あの指の先には、一体、どんな人がいるというのでしょうか。

 

 

 ごくり、と唾を飲み込みながら。

 あたしは促されるままに、その先を見ました。

 

 ……すると。

 

 ──そこには、変な人がいました。

 

 星の形をしたサングラスを、まるで眼鏡のようにかけて。

 キッチリとアイロンがけをされているのか、あるいは新品なのか、アロハシャツは皺1つなく。

 

 ……そんな、まるで南国にバカンスに来て思いっ切り浮かれているような人が、何か物騒な金属の塊のようなエンティティを操り、バトルしています。

 

 

 ……?

 

 ……??

 

 えっと、その、あれは一体、何なのでしょうか。

 

 「うちの学校の生徒会副会長。天柄由依先輩。まさかあんな格好で表に出てくるなんて、想像もしたことがなかった」

 

 雪菜さんが、まるで推理ショーを披露する探偵のように語り始めますが、頭に入ってきません。

 

 その、天柄由依さんは、それなりに有名な人です。

 

 すごく有名、というほどではありませんが、あたしでも知っているくらいなので、それなりに知っている人は多いのではないでしょうか。

 

 2年前の『全国中学生大会』で、惜しくもあと一歩のところで優勝を逃した、《機構の天使》デッキの使い手の方です。

 

 まあ、あとは、すごく真面目な優等生、というくらいしか知りませんが……。

 

 真面目な優等生、と聞いているのですが……。

 

 うーん、疲れているのでしょうか。

 

 ……たしかに、いつもいつも肩肘張っていたら、たまには羽目を外したくなることも、あると、聞きますから。

 きっと、そういうこと、なのでしょう。

 

 生徒会のお仕事は、特に、かなり忙しいと聞きますし、無理もない、と言えると思います。

 

 

 ……いずれにせよ、確かに言われてみれば、あの人は天柄由依先輩であることは、間違いないように見えます。

 

 なにせ、バイトの時に、たくさん彼女の写真を見る機会がありましたので、確かだと思います。

 それに、デッキの方も、あの機械的でメカメカしいカード群は、《機構の天使》デッキの『イミテーション』に刷られたイラストと、かなり似通っています。

 

 

 ……ですが。

 

 「あ、その……えっと、あまり大きな声で言わないであげた方が、その……」

 

 もし、羽目を外しにここに来ているのだとしたら……。

 自分のことを知っている人がいることに気付いてしまえば、とても気まずい思いをすることになってしまうことでしょう。

 

 多分ですが、みんなも気付いて、あえて気付いていないフリをしているのでしょう。

 温かい気遣いの空間。これが俗に言う、やさしい世界、というやつなのでしょうか。

 

 「あ、たしかに、それはそうね……」

 

 雪菜さんも、言われて気付かないふりをした方が良い、ということに気がついたのか、ハッとした表情を見せて、声のトーンを落としました。

 

 「そうね。『暗黙の了解』っていうやつだものね。ついテンションが上がって、うっかりしたわ」

 

 『暗黙の了解』……!良い言葉ですね。

 なんかこう、カッコいい言葉ですし、事実、暗黙の了解的な感じでみんな触れないようにしてましたし……まさに、といった言葉です。

 

 ところで、雪菜さんの気持ちもわかります。

 

 普段真面目な人が羽目を外した姿を見てしまっていると思うと、なんだか不思議とテンションが上がると言いますか……非日常感的なものを感じて、ふわふわするような気がします。

 

 「ちょ、ちょっと意外で……その、驚き、ですね」

 

 まあ、触れない方がとは言ったものの、直接的でなければ、いいと思いますので、話題にはします。

 

 「──そうね。でも、私としては、納得の方が大きいわね。うちの学校の生徒会副会長なら、そうじゃなくちゃ、ってね」

 

 ええ……?

 

 その、うちの学校、そんなパリピみたいな空気感でしたでしょうか……?

 

 もしそうだとしたら、あたしみたいな陰キャは、転校を考えるべきなのでしょうか……?

 

 

 ……しかし、あたしの困惑と不安を他所に、雪菜さんは言葉を続けます。

 

 「いずれにせよ、見ものね。有栖が……私たちの『世代』が、今どの程度の位置にいるのか。明確にするってほどじゃなくても、指標にはなるはずよ」

 

 

 ……。

 

 ……それは、まあ、確かに、そう言われてみれば、そうですね。

 

 あたしは、これとこれどっちが強い?みたいなことを聞かれてもパッと答えられるような知識や観察眼、推察力……みたいなものは一切ありませんが、流石に直接ぶつかり合って『勝ち負け』が出たのなら、話は別です。

 

 なぜなら、勝った方強い方で、負けた方が弱い方、と結果が語ってくれる形になるからです。

 

 馬鹿みたいな話ではありますが、実際の話として。

 

 そんな風に、『実力の位置』という曖昧なものが、天柄由依さんと有栖さんが戦うことによって、少なくとも、有栖さんのそれはハッキリします。

 

 そうなればきっと、サツマイモを引っ張ったら繋がっている芋が土の中から出てくるように。

 他の、有栖さんとバトルしたことのある人の『実力の位置』も、おおまかに割り出せるかもしれません。

 

 ……雪菜さんが言いたいのは、きっとそういうことでしょう。

 

 「……あいつ、どこまでやれるのかしら」

 

 雪菜さんは、どこか不安そうに、そう呟きます。

 

 「あ、案外、勝っちゃったり……とか、あったり、しますかね……?」

 

 あたしがそう言うと、雪菜さんは考え込むように黙り込んでしまいました。

 

 小さく、独り言が聞こえますので、相当真剣に考えているのでしょう。

 

 

 ……そもそも、ぶつかる前にどこかでどっちかが負ける可能性もあるかもですが……少なくとも、その可能性について、雪菜さんの頭の中には無さそうでした。

 

 

 

 ……。

 

 ……そして、お昼が過ぎまして。

 

 雨足が本格的に強まり、外で雨が、壁や窓ガラスを叩く音が聞こえてきます。

 

 試合も進み、気が付けば、次が決勝戦……有栖さん対天柄由依さんです。

 

 と、言いますか、当たり前のように言ってますが、有栖さんってやっぱり本当に強いんですね……。

 

 大人や先輩といった、年上ばかりを相手にしているにも関わらず。

 鮮やかに勝ち進んでしまいました。

 

 

 さて、まずは先攻後攻ですが、今回の大会は、コイントスで決めるルールです。

 

 ですので、2人の間に立っている人……『ジャッジ』と呼ばれる人が、コインを投げます。

 

 ……まあ、その、『イミテーション』ならともかく、『ファントムビルド』における『ジャッジ』は、コイントスくらいしか役目がないのですが……。

 

 その数少ない『ジャッジ』のお仕事により、先行は有栖さん、後攻は天柄由依さんになりました。

 

 

 最初のターン……の前に、引き直し、ですね。

 

 お互いの手札は5枚で試合は始まるのですが、先行1ターン目の前に、5枚の中から好きな枚数だけ、1度だけではありますが、引き直しができるっていう、そういうやつです。

 

 有栖さんは2枚引き直しまして、天柄由依さん……今更ですが、長いので、以降天柄さんとお呼びします──が、4枚の引き直しです。

 

 引き直しが終わり、手札がお互い5枚揃いまして。

 

 ……こうしてようやく、決勝戦が始まりました。

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