※香澄視点です。
【叛乱の機構ルシフェル】が墓所から手札へと戻ったことによって、天柄さんの手札の枚数は7枚になりました。
そして、この急な景色の変化は、【叛乱の機構ルシフェル】が墓所から手札へと戻る際に領域へと設置した、【創造者無き世界】というフィールドカードの影響のようです。
「──これで、ボクのターンだね?」
有栖さんは確認してからカードを引いて、これで手札の枚数は8枚です。
えっと、確か、と言いますか、朧げな記憶なので不確かですが、と言いますか……その、こう言ったターン終了時処理が長い場合、途中で終わったと思ってカードを引こうとしてしまうことはありがちではあるのですが、そう言った場合、そもそもカードは引こうとしても引けません。
こう言ったところも、紙でやるカードバトル『イミテーション』との違いではありますね……という、『ファントムビルド』のあまり役に立たない豆知識のコーナーが挟まったところで。
あたしがどうでもいいことを考えていると、少しだけ、バトル場の方で動きがありました。
【創造者無き世界】の効果なのか、有栖さんの手札に、まるで押し付けられるかのように、カードが加わりました。
……加わったカードの名前は、【生命無き紛争】というもののようです。
「──【勇敢なる獅子】の攻撃力が減少してる以上、あれの攻撃だけでは【統率機構ミカエル】を倒しきれない。かと言って【銀の靴の少女】を使ってしまえば、【永劫の動力】がダメージ全般への耐性を持ってる以上、能動的に破壊する手段が無くなってしまう……。なら、今押し付けられたカードを使えば……いや、だけど……私なら──」
あたしが状況をぼんやり見ている間にも、雪菜さんは真剣に考えています。
あたしだったら、「まあ、でもどうせ【永劫の動力】って攻撃できないんですよね……?」とか思いながら【統率機構ミカエル】の処理を優先する……のでしょうか?
……うーん、どうもバトル中じゃないとあの不思議な「この状況ならこうすればいい」みたいなこう……迷いのなさ、みたいな……答えを知っていた、みたいな感じの現象は起こらないみたいですね……。
バトル中だけじゃなくてこういう観戦中でも『フルオート』の時みたいな思考ができたのであれば。
……そしたら、その、なんかいい感じに雪菜さんとお話も合いそうなのですが……。
今のあたしには、残念ながら何が正解か、とか、それ以前に、今がどういう状況か、とかすらも怪しい状態ですので、黙って見ていることしかできません。
そうこうしている間に、有栖さんは結論が出たのか、動き出しました。
「──まずは、【輝く月の姫】!」
コストを3消費して、手札に【月の姫君】というカードを加えます。
そして、デッキに【姫君の秘宝】というマジックカードを加えて、さらに、カードを引きます。
……これで、手札の枚数は10枚ですね。
「コスト0、【銀の靴の少女】!」
さらに、銀色の靴を履いた女の子が盤面へと召喚されます。
……そして、盤面にそれが召喚された時、周りの瓦礫が薄く光って、有栖さんの体力を1回復しました。
演出を見た感じではありますが、多分、回復効果は【創造者無き世界】の効果のようです。
「──そのまま【統率機構ミカエル】に攻撃!」
有栖さんがそう宣言すると、女の子……【銀の靴の少女】は、大きな、銀色の羽根がたくさん生えた機械……【統率機構ミカエル】へと突撃していき、その機体から赤い光が漏れ出すよりも早く、手に持っていたバケツの水をかけて、溶かしてしまいました。
……あのバケツ、一体何が入っているのでしょうか……?
「そして、【斧と女神】!」
【銀の靴の少女】によって【統率機構ミカエル】が破壊された様子を見届けた有栖さんは、続いて、コスト1のマジックを使用しました。
効果によって、有栖さんは、カードを1枚、デッキへと戻します。
「あとはコスト1の【幸運の青鳥】!そのままソーサラーに攻撃するよ!」
青い鳥が手札から飛び出してきて、そのまま天柄さんの方へと、まるで放たれた矢か弾丸のように、飛んでいきます。
──青い鳥が出た瞬間、ですが。
また、瓦礫が光を発して、有栖さんの体力をさらに1回復しました。
「最後に、盤面の【勇敢なる獅子】で追撃だ!」
青い鳥の一閃に貫かれた天柄さんに、さらにライオンの爪が振り下ろされます。
これで、体力は13……おおよそ半分くらいまで減りました。
謎の回復効果によって回復した有栖さんは体力が22なので、9点分の、差が生まれた状況です。
「ターン終了!」
手札を6枚まで減らしたところで、有栖さんはターンを終えます。
「……では、こちらのターンですね」
1ターンの間に大きなダメージを受けて、体力が一気に減らされたにも関わらず、天柄さんは涼しい顔で、淡々とターンを迎えます。
……もちろん、今のは「淡々と」と、「ターン」をかけた高度な……いえ、すみません。なんでもないです……。
……えっと、天柄さんはターン開始時のドローと、【創造者無き世界】の効果による【生命無き紛争】の手札追加によって、手札の枚数は9枚になりました。
「手札の公開を宣言します。【叛乱の機構ルシフェル】」
天柄さんがそう言いますと、手札の中の1枚──【叛乱の機構ルシフェル】が、手札の中で、その姿を露わにしました。
漆のように黒く塗られた巨大な機体は、その目に相当するであろう部分の光を強めます。
……なんだか、まるでゲーム機の電源をつけた時みたいだなあと思っていると。
──天柄さんの盤面に、2枚の【機構の尖兵】が出現しました。
そして、さらにそれらは、何となく薄緑色の光を纏っているように見えます。
「公開だけで被破壊時持ちエンティティの複数出現に加えて『防衛』付与……やっぱり、かなり強力なカードね……しかも、ターン中の回数制限付きとはいえソーサラーに火力支援の付与効果まで……!?」
雪菜さんが静かに分析している中、瓦礫が発光……【創造者無き世界】の効果が発動して、今度は、天柄さんの体力が2回復しました。
「コスト4を使い、【焼却機構ウリエル】を召喚します」
天柄さんは、手札から、【機構の尖兵】が攻撃する時の両腕のような剣を浮遊させた、炎を纏った機械……いえ、《機構の天使》を召喚しました。
【焼却機構ウリエル】は、攻撃力が2で、体力が5のエンティティのようです。
……そして、ここでも【創造者無き世界】の効果は発動して、天柄さんの体力は、16まで回復しました。
「【焼却機構ウリエル】の召喚時効果は、そちらの【銀の靴の少女】を選択します」
天柄さんがそう言うと、【焼却機構ウリエル】の赤い炎が全身に浴びせられ、【銀の靴の少女】は炎に包まれて霧散します。
「……っ」
心なしか、カードの効果を読んだであろう有栖さんの表情に、焦りが見えます。
そして、炎は、【銀の靴の少女】を焼いただけでは消えず、さらに自分の盤面の、何もないところに2つほど飛びまして。
それらが着弾すると、今度はそこに【機構の尖兵】が現れました……が、盤面の上限によって、1枚はそのまま盤面に収まりきらなかったため、墓所へと送られてしまいました。
少しだけ遅れて、【焼却機構ウリエル】が盤面に現れたことを感知したのか、【永劫の動力】が光を発します。
……どうやら、【永劫の動力】が効果を発揮して、【焼却機構ウリエル】は、『猛進』を得たようです。
「【焼却機構ウリエル】で【勇敢なる獅子】に攻撃します」
天柄さんの指示により、【焼却機構ウリエル】は、不気味な赤い炎を纏ったまま、【勇敢なる獅子】へと突撃していきました。
【勇敢なる獅子】は果敢に立ち向かいましたが、その爪は【焼却機構ウリエル】に致命傷を与えるには至らなかったようです。
そして、また、【焼却機構ウリエル】の攻撃も、【勇敢なる獅子】を倒すには及ばない……筈でした。
しかし、【焼却機構ウリエル】が攻撃した後、纏った炎が方々に散らばり、【勇敢なる獅子】と【幸運の青鳥】を焼いて、それぞれに2ダメージずつを与えました。
……この2ダメージが致命傷となり、【勇敢なる獅子】もまた、その場に崩れ落ちるように霧散していきました。
「……最後に、コストを1使って【生命無き紛争】を使用します。対象は……【永劫の動力】です」
天柄さんがそう言い切ると、攻撃できないはずの【永劫の動力】が、見えないはずの【幸運の青鳥】へと、迫っていきました。
そして、【幸運の青鳥】もまた、【焼却機構ウリエル】による火傷の痕が痛々しい姿ではありましたが、応戦します。
……それで、結果としては、ダメージを受けない【永劫の動力】だけが無傷でその場を制しまして。
「……これで、ターンを終わります」
宣言と同時に、【永劫の動力】が発光して、【焼却機構ウリエル】の機体に付いていたライオンの爪の跡を、完全に修復してしまいます。
そして。
「──ターン終了時効果として、手札の【叛乱の機構ルシフェル】の効果を使用します。対象は手札のこのカードと……盤面の【永劫の動力】です」
天柄さんがそう宣言すると、手札の【叛乱の機構ルシフェル】が、ミサイルのような飛翔体を、2発、発射しました。
……そして、それらが着弾すると。
【永劫の動力】と手札のカード1枚は墓所へと送られて、その残骸が天柄さんへと吸収されていきます。
……どうやら、体力の回復効果が発動したらしく。
20まで、天柄さんの体力が回復してしまいました。