※香澄視点です。
……なんだかんだと試合は長引きまして、試合の結果としては、天柄さんの勝利に終わりました。
あれから、有栖さんも【旅立ちの支度】から図書館のような空間を展開──【保管された物語】というフィールドを設置して、双方の受けるダメージ-1の減衰効果で粘ったり、【少女の灯火】を複数枚使って【幸福の幻】という回復効果を持ったカードを複数枚数溜め込んで粘ったり、と、色々ありまして。
結局、お互い体力は削りきれず、10ターン目を迎える展開になりました。
その結果として、試合の流れはレジェンダリーの速さ比べという形になりまして、その条件であれば先行であることも加味して有栖さんの方がやや有利……と、思ったところに、天柄さんから【監視機構メタトロン】というエンティティが召喚されまして。
──その効果が、まあ色々と持っていたのですが……その中に、召喚時の効果で、お互いに手札を全てデッキに戻して、コストが高い順に2枚だけカードを引くというものがあった結果、レジェンダリーである【旅立ちの支度】のコストが1である有栖さんの計算が大きくズレて、逆にレジェンダリー……【叛乱の機構ルシフェル】のコストが10である天柄さんは何ら問題がなく……、と言った形での試合の決着でした。
隣の雪菜さんの反応を見ていた限り、勝利効果の発動条件自体は満たせていたようでしたので、とても惜しい結果だったと言えると思います。
「……回復とダメージ減衰の維持に専念しなければいけなくなって行動を大きく制限されたのが痛かったわね……ダメージ減衰の上から、25点削りきられそうなくらいまで体力が減ってたわ」
独り言なのか、あたしに話しかけているのか、イマイチ判別がつきませんが、雪菜さんは、そんな感じに思ったそうです。
……雪菜さんの言うように、確かに、【機構の尖兵】の継続的なダメージは痛そうでしたが、それによって行動が制限されていた、というのはあたしには思いつかなかったことなので、やっぱり、あたしはまだまだ理解が足りていないんだな、ということを思います。
視野が狭くてすみません……。
「……まあ、そこは流石に柔軟性のある耐久性に特化してると言ってもいい有栖のデッキね。結局、崩しきられるまではいかなかったわ」
──その上で、「まあ、それでも勝てなかったから意味がないといえばそうだけど……それはそれとして、今の有栖のデッキでもある程度通用するってことはわかったわ」と、雪菜さんは付け加えました。
……確かに、そう言う見方もできるかも知れません。
耐久が売りのデッキだという点で考えて、逆に、おそらく天柄さんのデッキが速攻寄りのデッキとして見るのであれば、試合を長引かせることじたいは『成功した』と言えなくもないのでしょう。
……もっとも、試合を長引かせた結果のゴールに辿り着くのが相手より遅いんじゃあ意味がないのでは、という意見もあるかも知れませんが、まあ、雪菜さんも言っていますが、それはそれ、ということですね。
まあ、あたしとしては、見応えのある試合で面白かったなあという感想しか出てこないのですが……。
あたしの個人的な感想としましては……レジェンダリーによるバトル場の風景の書き換えや、お互いのフィールド効果によって、『ルールそのものが捻じ曲げられている』ような、そんな感じが、レジェンダリーの存在感を強く感じられて、とても迫力がありました、というところでしょうか。
「……さて、私は有栖にちょっかいかけてくるけど、香澄……あんたはどうする?」
1通り考え事が終わったのか、雪菜さんは、あたしの顔に焦点を合わせて、聞いてきます。
……そう、ですね。
……特に先に帰る理由は特にはないのですが、逆に話したいことがあるわけでもありませんし……何よりちょっと人の多いところにいすぎて、少しだけ疲れてしまったので、あたしは、お先に失礼することにします。
「……すみません、あたしは、お先に……」
雪菜さんは、一瞬何かを言おうとしたように見えましたが、口を閉じて、「そ、じゃ、また」とだけ言いました。
「あ、えっと、はい。また……」
……こうして、あたしは先に会場を出て、家へと帰ることになりました。
……。
……そして。
さらに時間は経過しまして。
思いの外勢いが弱く、結局帰宅途中で雨が上がった、そんな時でした。
あたしはどうやら道に迷ったようで、変なところに来てしまっていました。
……さらに、目の前には、気絶した黒ずくめの人が倒れています。
あ、えっと、その、痴漢にあったとかではなく、単に、突然『ファントムビルド』を仕掛けられて、相変わらずOFFにできない謎の『フルオート』チートで返り討ちにした、というだけのお話なのですが……。
バトル後に気絶してしまう、というのは、見たことがないので、どうしたらいいのでしょうか。
今日の大会の様子を見ても、これまでの雪菜さんや有栖さんとのバトルを経ても、そんなことはありませんでしたし……。
思い返すと、バトル開始前に「闇のカードの力……!」とかちょっと痛々しい中学生みたいなことを言っていたのでそれが原因だと思うのですが。
──それにしては、驚くほど弱いカードばかりでした。
例えば、そうですね。
……えっと、コスト5で攻撃力3、体力3の、何も効果を持たないエンティティとかが、出てきました。
……と、言いますか、そもそも闇のカードって何でしょうか?
カードに闇とか光とかってあるんでしょうか……?
多分、警察に通報した方がいいかと思うのですが、ちょっと勇気が、と言いますか……。
あたし自身は特に何も悪いことをした覚えはないのですが、これまでの人生であまりにも縁が無さすぎてと言いますか、なんだかちょっと怖いので、110という数字を電話番号で打っていいのか、悩んでいましたところ。
──ちょうど、たまたま警察の方が1人通りかかりましたので。
……どうにか話しかけて、しどろもどろになりながら、説明をしました。
「……なるほど、ご協力ありがとうございます」
あたしは、無言で首を何度も縦に振って、後をお任せしました。
……事情聴取とかされたりするのかな、とか思っていたので、それがなかったのは、少し……いえ、かなり助かりました。
しかし、まさかこんなところで迷うなんて、かなり運がないと言いますか、何と言いますか。
……自分のことながら、何をしているんだろうという気持ちになってしまいます。
……。
「……ただいま」
しばらく歩いて、無事、家に着きました。
窓から見える空の色は、すっかり暗くなっています。
「おかえり」と、お父さんとお母さんが返事をしてくれました。
匂いから、どうやら今日の夕飯はカレーのようです。
「……試合、どうだった?」
リビングに着き、椅子に座ると、お父さんが聞いてきました。
……どうだった、と言われましても……どう、なのでしょうか。
まあ、あたし自身が思ったことを言えばいい、のでしょうか。
「えっと、楽しかった。とも、だち?は負けちゃったけど、すごく……いい試合してた」
途中、友達と呼んでもいいのかと不安になってしまいましたが、どうせ本人に聞かれるわけでもないしいいや、と、思い切って、そう言いました。
……。
……。
……あたしの言葉を聞いて、お父さんとお母さんが、固まってしまいました。
……そして。
2人は顔を見合わせると、何やら嬉しそうな表情でこちらに目を向けてきます。
「友達、できたの?」
お母さんが、どこか探るような、あるいは何かを期待しているかのような声色で、聞いてきます。
えっと、どう、なんでしょう……?
友達、と呼べる相手なのか、まだちょっと自信はありません。
何か、こう、具体的にそう呼んでいい条件、みたいなものがあればいいのですが……。
あたしがううん、と考え込んでいると、お母さんは、「まあ、友達って呼べそうな人ができそうならよかったわ」と、安心したように言いまして、お父さんも、静かに、うんうんと頷いていました。
……何だか、少しだけ……気恥ずかしいと言いますか、気まずい雰囲気にはなってしまいましたが。
その後食べたカレーは、いつも通り、とても、美味しかったです。