※最初は由依視点ですが、途中で視点変更があります。
「勝者、天柄由依!」
カードや、それによって生み出された幻が消えていく中。
ジャッジが自分の名前を呼ぶ声が、響きます。
……思いの外、ギリギリの勝負になってしまいました。
元々は、生徒会長に会長の座を奪い取る為にバトルを仕掛けて、負けた結果の罰ゲームでしたけれど。
このバトルができただけで、案外、悪くない1日だったと思ってもいいように感じてしまいますね。
……まあ、後々こんなふざけた格好で大会に出たことが学校中に広まるであろうことは、極めて不本意であることに、変わりはありませんが。
……。
……小さな大会ではありますが、賞品もありまして、ギフトカードを頂きました。
特にお金に困っているわけではありませんが、それはまだ自分が両親に養っていただいているからであり、お金をぞんざいにしていいというわけではありません。
このギフトカードはありがたく頂きます。
帰りにコンビニにでも寄って、家族の分と、月曜日に生徒会メンバーに差し入れをする用にシュークリームでも買って帰りましょうか……。
……いえ、シュークリームを人数分買うとそれなりの値段がしますし、それで変に気を使わせるのも少し気まずいでしょうから……生徒会用のは、大きめのポテトチップスか何かでいいでしょう。
──その中でも、会長が苦手な海苔塩味にするのがきっと1番ベターな選択だと考えられますね。
金券の使い道を考えながら、ついでに金色の記念メダルも、ちゃんと軽く頭を下げて頂戴しまして。
……既に色違いの記念メダルを受け取っていた有栖さんと……あとは3位だった方と並んで、ちょっとした撮影タイムです。
果たしてこの時間は必要なのでしょうか。……と、思わなくもありませんが、こんなことにわざわざいちゃもんをつけるのも馬鹿らしいので、素直に、正面を向いて、真っ直ぐ立ちます。
──案の定、「もうちょっと笑顔が……」とか聞こえてきましたので、「さっさと終わらせてほしい」という意思表示も兼ねて、額にズラしていたサングラスを、下ろして目元を隠します。
普段は眼鏡──度は入っていない伊達メガネですが……を付けているので、何もない時よりはマシですが、やはりあれがないと、落ち着きませんね。
……。
……と、まあ、そんなこんなで。
楽しかった気分に水を差されるような思いを我慢しまして、無事に、閉会式を終えました。
後は、帰るだけ、ですので。
最後に、夢園さんに話しかけてみることにします。
「……夢園有栖さん。改めまして、今日はいい勝負でした。貴方のような方が入学してきたこと、心より喜ばしく思っています」
言ってみてから、これではなんだか学園長か何かみたいな言葉だと思いましたが……まあ、生徒会所属で先輩という立場である以上、大きな間違いということもないでしょう。
「ありがとう……ございます。天柄先輩は、プロになる、んですか?」
たどたどしい返事でしたが、これは、人と話すことに慣れていない、というわけではなく、単に敬語に慣れていない結果……のようですね。
──それで、ふむ。
……プロ、ですか。
一瞬、何をおっしゃられているのでしょうか、と困惑しましたが……そう言えば、プロになる人がアマチュア大会に出ることになってしまった際に変装する、みたいな、そんなよく分からない風習もありましたね……。
……もしかして、月曜日になったら、その噂の揉み消しまでするハメになるのでしょうか。
見当違いなことで過大評価されて、それを誤解と理解していただいて回る、というのは……かなり、すごく……面倒なのですが。
「……そのような事実は、現状としては、ありません」
……返答を受けて、夢園さんの頭の上にハテナマークが浮かんでいるように見えますが、気のせいということにします。
「──それでは、またお会いしましょう」
こちらとしても、動揺を隠して、立ち去ります。
……とりあえず、来週になったら、今度こそあの会長を生徒会長の座から引き摺り下ろす必要がありそうですね。と、これからの計画を立てながら。
帰宅すべく、クールに会場を後にしました。
……。
……傘を持ってくるのを忘れていたので、コンビニに立ち寄ってビニール傘を買うハメになりましたが、まあ、こんなことは、些細なことです。
……。
──────
……。
……。
……身体制御権の規定割合を掌握。
人格深奥部は依然として反応無し。
以前からの外部との完全な遮断状態の継続を確認。
──個体名称『雲田香澄』に対する一時的な人格の統合を実行する。
……。
人通りが少なく、遮蔽物の多い狭い通路。そこまで歩いて来たわたしは、肩の上あたりで浮かび、不満気にその赤い目を向けてこっちを見つめる『カードの精霊』……【テロス】を無視して、振り返る。
……そう見つめられても、判断が遅いのが悪い。
それに、お前に任せると……余計なことをするだろう。
だから今回は……今回も、わたしの出番だ。
「……追跡には気付いている。姿を表せ」
……水溜まりに、青く発光するわたしの目が反射する。
「──面倒なら放っておけばよかったんじゃないかな?」
呑気に【テロス】が言うけれど、これも無視だ。
……全く、こいつは、こう言うところで気を利かせようとしないのが、悪い癖だ。
人格の統合を終了した時、わたし由来の思考の記憶は『雲田香澄』の記憶としては残らないけれど。
その際の、物理的な、言動や出来事に関する記憶は、朧げにはなるが、残る。
本人からすれば、『深い集中状態に陥った後、ことが終わってその時何を考えていたかよく分からない』というのと似た状態になるから、誤魔化しが全く利かないという訳ではないけれど、逆に言えば、ある程度しか、誤魔化しが利かない。
……例えば、『見えないはずの何かに話す』というのは、後になってどう捉えられるか、未知数だ。
まだ、わたしたちの存在を知らせるには早いのだから、ちゃんとそれを意識しての行動を心がけてほしいのだけれど。
こいつは、そういう気を回せる器用な奴じゃない。
……。
……少しの間、待っていると、そいつは現れた。
そいつは、黒ずくめの服装をしており、まるで不審者です、と自分から喧伝しているかのような格好だった。
何故わかった、とでも言うような、困惑したような表情をしているけれど、わたしから言わせれば、実体が無くて、その気になれば完全に姿を消せる相手から隠れることができると思っていたのなら、その方が驚きだ。
……まあ、これについては単純な向こう側の情報不足だろうけれど。
現に、こいつは、『カードの精霊』である【テロス】のことが、今この瞬間は特に姿を隠しているわけでもないにも関わらず……見えていない。
……とは言え、こんな、いかにもなところに来たのは。
非常に残念なことに『雲田香澄』自身が単純に道に迷ってここまで来たからなので、わたしとしても不本意な状態にあるのだけれど。
「まさか、ソーサラー反応の追跡任務が気付かれるとは……不覚!……だが、むしろ都合がいい!我らが総帥より賜った『闇のカードの力』の試験運用任務、ここで果たすとしよう!」
黒ずくめの人……不審者は、手のひらに力を集中させて、カードを生成する。
……不審者は、先ほど示したように、精霊が見えないどころか。
そもそも、ソーサラーであれば通常保有しているはずのエネルギーが感知できないので、つまり、ソーサラーですらない。
──おそらく、何かしらの例外的な手法によって、カードを作り出している、ということなのだろう。
「……そう。なら、望み通り潰してやる」
……。
……こうして、バトルが始まった、のだけれど。
……呆れるほどに、弱かった。
まさか、カードを顕現しておいて、《分類名》すら引き出せないことなんてあるのか、と驚いた。
「……《分類》が全部なしだったのには驚いたけど。……カードの性能については、これ自体、自分自身のものじゃないだろうし。一度も『拡張』できてないだろうことも考えると……まあ、むしろ逆に、かなりのものって言えるんじゃないかい?」
少しだけ考えて、【テロス】が言う。
……まあ、そうか。
一度も『カードの成長』を経験せずに、ここまで引き出せている『雲田香澄』がイレギュラーであり、普通は、こんなもの。……あるいは、これ以下。
……こんなのが相手でも、勝てないソーサラーは、案外少なくないのだろう。と、倒れ伏している不審者を見る。
──外法の代償は、消耗の増幅か。
……『ファントムビルド』において、基本的に、負けた方が、勝った方の分と合わせて、そのバトルで生じた魔力的な消耗を引き受ける仕組みになっている。
所詮、幻影として事象を投影してのバトルだから、2人分の負担を足し合せたところで、本来、意識を失うまで消耗することはないけれど。
おそらく、そこに『生成できないはずのカードの生成』が上乗せされているのだろう。
デメリットではあるけれど、ただのデメリットではなく。
『ファントムビルド』を、無力化手段として用いることができるという点では、メリットになり得る。
──そして、その仕組みとしては、強制的かつ、不正な、『記録』への……。
……全く、面倒な技術が発明されたものだ。
どうして、霊長と呼ばれる種族はいつも自ら破滅へと突き進むのか……。
……まあ、その技術も、現段階では未熟も未熟。
とりあえず、まだ。……今は、どうでもいい。
人格の統合を終了し、身体操作の権限を放棄する。
……そこで倒れている奴の処理もまた、わたしが済ませておく筋合いもないだろう。
……魔力が無いため、その分の消耗が、体力で賄われた状態だろうから。
文字通り、死ぬほど疲れている、のだろうけれど、それだけ。死にはしない筈。
「……そうやって、やることはやるけど、最低限のことしか手をつけないで、後は手を抜きがちなの。悪い癖だよねー」
誰かの小言が聞こえたけれど、もちろん無視だ。
……わたしは、そのまま無言で。
また再び、主人の目には見えない、ただの2体目の『カードの精霊』へと、戻ることにした。