※香澄視点です。
あれから……えっと、天柄さんが優勝した大会を観戦した日から何日かが経ちました。
帰り道で出会った不審者につきましても、特に何事もなく、平和に過ごしています。
「──いらっしゃいませ」
……店長の声が聞こえますので、誰か来たみたいですね。
あ、はい。
えっと、そうですね。今は、あたしはバイト先に来ています。
今日のお仕事は、『イミテーション』を40枚まとめて、デッキを作る、という作業をしています。
40枚の中には、当然、といいますか、『レジェンダリー』のカードも含まれていますし、それ以外にも、それなりにレアなカードも含まれていたりしますので、カードを傷つけないように、ある程度慎重にやる必要があります。
『ファントムビルド』の方は、そもそも何をどうしたところで傷なんてつけようがないので、ちょっと不思議な気分ですが、まあ、普通にやっていれば傷なんて付きません。
……さて、と。
まず1つ、できました。
《遊星の魔法少女》デッキ・『イミテーション』バージョンです。
カードが40枚束になっている様子は、見慣れているとは言え、なんだか不思議な存在感……の、ようなものを感じます。
こっそり、自分の《遊星の魔法少女》デッキを出現させて、見比べてみます。
……。
……違いは何箇所かありますが、こうして見るとかなりの再現度、です。
例えば、大きさは、大体同じくらいで、表面も、物理的にカードの効果が記載されているかどうかという違いこそありますが、イラストなどはほぼ同じです。
ただ、裏面は他と統一する都合もあり、かなり違いますね。
……えっと、よく考えたら『ファントムビルド』の方は誰かが描いたという訳ではないと思いますので、『イラスト』という言葉が適切かは分かりませんが……。
「──すみません」
あたしが手元に集中していましたら、カウンターにお客さんが来ていました。
レジ打ちは教えてはもらいましたが、まだ慣れていませんので。
……できれば店長にやってもらえたらいいのですが……確か、別なお客さんに呼ばれてショーケースの鍵を開けているはずですから、戻ってくるまでは時間がかかると思います。
店長には、お客さんの対応は無理にやらなくていいって言われてはいますけれど、最初から全部やらない、というのもどうかと思いますので。
──不肖、雲田香澄、接客を試みます。
と、言いますか。
ちゃんと顔を見てわかったのですが、このお客さん、今学校で何かと話題沸騰中の天柄さん、ですね。
プロになる予定があるけれど、まだ公開してないから表向き否定して回っている、という噂を、つい最近雪菜さんから聞きました。
こうして面と向き合うのは初めてですが、印象としては、メガネをかけていて、知的な雰囲気を感じます。
制服を着ていますが、すらっとしている立ち姿は、まるで、ドラマとかに出てくる、すごく優秀な秘書……みたいな感じです。
「叔母……失礼しました。店長はいますか?」
どうやら、天柄さんは、店長に用があるみたいです。
……。
……?
……あれ、いま叔母って言いました?
あたしが固まっていると、店長の方が、ショーケースのカードを持ったお客さんを連れて戻ってきました。
「──すみません、少々お待ちください」
店長は、天柄さんを見て、一言だけそう言うと、そのショーケースのお客さんの会計を先に済ませます。
ショーケースのお客さんが扉から出て、ちょうど、今、お客さんが天柄さん以外にいない状態になったので。
店長は、天柄さんとお話しする事にしたようです。
「すみません、お待たせしました」
……あ、店長って、血の繋がった相手でもその姿勢なんですね。
店長と入れ替わるように、あたしはまたスススと後ろに下がっていきます。
「いえいえ、大した用がある訳でもないので、こちらこそすみません。ただの、教材購入のついでですので」
対して、天柄さんも似たような感じです。
目を閉じたら、どっちがどっちかわからなくなりそうですね……。
えっと、それからお互いに距離があるのかそうでもないのかよくわからない会話は続きまして。
天柄さんが来たのは、店長にお土産を渡しに来た、とのことみたいです。
「本当はシュークリームにする予定でしたが、あまり日持ちしないことに気が付きまして……」と、言いながら天柄さんがカバンから取り出したのは、保冷剤と、冷凍の……牛タンでした。
牛タン、というのは牛のお肉で、部位としては、舌の辺りだそうです。
何をどうしたらシュークリームが牛タンになるのかは分かりませんが、店長は嬉しそうでしたので、よかったです。
「……それで、そちらの方は……?」
天柄さんの視線が、改めてこちらに向けられます。
あたしは、どのように接すればいいのかが分からないので、気付いていない振りをして、構築済みデッキ作成作業を継続します。
……えっと、次はデッキに直接入らない、『ファントムカード』を、必要枚数セットにする作業、ですね……。
「──先日雇いました、アルバイトです。先せ……雲田さんに頼まれまして。まあ、元々アルバイトは募集するつもりがあったので、都合が良かった、という形です」
……店長が、何やら一瞬悩んだ様子を見せた後。
こちらの方に歩いてきました。
「そうですね……。香澄さん、今、ちょっと大丈夫ですか?」
「……あ、はい。大丈夫です。今行きます」
一応、お話は聞こえていましたので、断る理由がある訳でもありませんし、大人しく向かうことにします。
「え、えっと、初めまして……。雲田香澄、です」
目の前に立ちまして、挨拶をします。
「初めまして。こちらは……私は、天柄由依です。叔母がお世話になってます」
「いえいえ、むしろあたしの方がお世話になりっぱなしでして……」
事実と異なるお話だったので、慌てて訂正をします。
「そうですか。……ところで、もしかして、同じ学校に入学した新入生、ですか?」
あたしの決死の訂正は、あっさりと流されてしまいまして、話題が移ります。
天柄さんは、自分の着ている服──制服の校章のバッジを指で指し示しながら、聞いてきました。
「……えっと、はい、そうです」
その通りではありますが、どうして、わかったのでしょうか。
「やはり、そうなのですね。……いえ。ただ、会長のお世話係……失礼しました。言い間違いです。生徒会役員として夢園さんや湖織さんをスカウト候補として考えていた時に、よく姿を見かけた気がしまして」
なる、ほど……ですね。
確かに、有栖さんや雪菜さんは、こう、しっかりしていますので、そういった役職は適任かもしれません。
「ご存知かとは思いますが、うちの学校は、代々『ファントムビルド』の実力で生徒会役員を選出する意味不明な伝統がありますので、その一環ですね」
……すみません。存じ上げないです……。
「……ところで、雲田さんもソーサラーなのですか?」
なぜか天柄さんは目線を落として、聞いてきます。
あたしも、釣られるように目線を落としますと。
……そこには『イミテーション』と本物の、2つの《遊星の魔法少女》デッキがあたしの両手に握られていました。
「……」
……手遅れだとは思いますが、本物の方を、スーッと消します。
……。
「……えっと、はい、そうです。その、もしかして……バトル、する流れ、ですか?」
あたしが恐る恐る聞くと、天柄さんは「一体何を言っているのだろう」というような表情を浮かべました。
「……雲田さんは、バトルが、したいのですか?」
天柄さんは、首を傾げて聞いてきました。
えっと、その、雪菜さんが来た時や有栖さんが来た時のことが頭に過ってしまいまして……。
「あ、いえ、別にそういう訳では……」
あたしの言葉を受けて、本格的に、何を言っているのだろう、というような、強い困惑の伺える顔をしました。
……しかし、途中で、1度目を閉じまして。
眼鏡をくいっと上げたと思ったら、スッと元の表情に切り替わりました。
「……そうですね。今でなくとも、ソーサラー同士で、その上、同じ学校の生徒であれば、バトルをする機会もあるでしょう。その時は、是非よろしくお願いします」
「あ、はい。よろしく、お願いします……」
とりあえず、この話の着地点を見つけていただいたので。
ありがたく便乗させていただく事にします。
……。
……結局、その後、店長とまた少しだけ話した天柄さんは、《旅立ちの始点》の構築済みデッキを購入して、帰っていきました。
構築済みデッキって、レジェンダリーも入っているので、結構な値段がするのですが……もしかして、ソーサラーってお金を多く持っている人が、多いのでしょうか?