※香澄視点です。
何が悪かったのかは、正直、あたしにはよくわかりません。
気がつけば、手札に戻っては使い回される【ホワイトウルフ】だけでなく、様々なカードから毎ターンのように出てくる【ひび割れた氷塊】によって、《分類:遊星の魔法少女》で盤面を5枚埋めることは叶わず。
……その上、デバフによって置物としか言いようのない自分のカードをどうすることもできなくて。
そうして、リソースばかりが削られて、雪菜さんの【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】の着地によって、試合は、あたしの負けで終わりました。
……つまり、分かったことはと言えば、「少なくとも、デッキだけでは勝負は決まらない」というところでしょうか。
あたしは……いえ、あえて区別するために一旦別な名前で呼びますが、『マジカル☆スピカ』は、この《遊星の魔法少女》で《氷晶の銀世界》に勝利をおさめたはずです。
……ですから、敗因を考えるなら、きっと、あたし自身が弱かったから、ということに他ならないのでしょう。
薄々予想していたことで、今更ではありますが。
やっぱりあたしは、『フルオート』が無ければ、ソーサラーとしても、落ちこぼれということなのです。
……えー、その、生きててすみません……。
そうして、ぼんやりと、次に生まれ変わったらミジンコにでもなりたいなあ……なんて思っていましたら。
雪菜さんが、急に口を開きました。
「……まあ、仕方ないわよ。こっちは自分のデッキ使ってて、あんたは関係のある人とは言え、他人のデッキ使ってんだから」
他人を気遣うことに慣れていないのか、顔を大きく逸らして、もはや気恥ずかしさを隠すどころか全身でアピールしてすらいるような雪菜さんの姿に、なんだか少しだけ、力が抜けます。
……ですが、その、今のデッキも、あたしのデッキなんです、なんて言うわけにも行きませんので。
「……そう、ですね。その、やっぱり雪菜さん、強かったです」
──しかし、本当に今更のことですが、改めて考えてみれば。
雪菜さんは、同世代の中では、全国クラスの実力を持っているのです。
むしろ、心のどこかで勝てるかもと思っていたことの方が、本来、おかしな話ではあるのではないでしょうか……?
「──ところで、さ」
雪菜さんが、不意に真面目な雰囲気を纏い始めました。
「試合をしている時だけうまくやれる、みたいな話。多分だけど、今回はそうじゃなかったんじゃないかしら?」
……そういえば、今日はただ『イミテーション』で遊ぶって言うお話ではなくて、その、『フルオート現象への検証』についてが本当の本題、でしたね……。
「……正直なところ、この間あの話を聞いた時、少し納得というか……ある種の心当たりみたいなのがあったのよ」
「そう、なんですか……?」
「そ。前回『カードショップ・ミラージュ』であんたとバトルしたとき、雰囲気とか口調とか……なんなら目の色まで違っていた」
……この間にも聞いたお話ではありますが、本当に目の色が変わっていたんですね……。
もしそれが本当だとしたら、一体どういう原理……なのでしょうか?
「今回の件を含めて、多分、というか、私なりの考察みたいなものだけど。あんたのその『特殊な集中状態』は、ただの精神的な状態の違い、とかじゃあない」
一言一言、頭の中で正しい言葉の組み合わせを選び取っていくかのように、あるいは、単語の一つ一つを吟味しているかのように、雪菜さんは、ゆっくりと言葉にしていきます。
「試合中のあんたは、デッキそのものと、強くシンクロしてるような、そういう状態なんだと思う」
少し言っていることが難しいので、ちゃんと理解できている自信はありませんが……なるほど、です。
……です、が、疑問はあります。
「そもそも、その、では……デッキ、って、何なんでしょう……?」
言ってしまえば、意識を混濁させるような……そんな力が、あるのでしょうか。
もしあるのなら、もしかしたら『ファントムビルド』って、危ないことなのではないでしょうか……?
「……デッキが何か、ね」
考えるように呟きますが、同時に、何かそれについて確信があるかのようにも感じるような……そんな言い方に、聞こえました。
「色んな説があるのは知ってるけど、私は、自分の一部だと思ってる」
手のひらの上に、『イミテーション』ではない、彼女自身のデッキを作り出して見せながら。
雪菜さんは、「もっと言えば、腕や足みたいなものってところかしらね」と、言葉を続けました。
……あたしとしても、その感覚には、同じ意見です。
「……《星辰の魔女》の『イミテーション』もあれば、あんた自身のデッキの『イミテーション』でもその集中状態になるのかの確認ができたんだけどね」
白いモヤと氷の結晶を纏っていたデッキを、手のひらの上からスッと消して、あたしの方を見ながらぼやきます。
「ま、いずれにせよ、あんたがバトルしてる時は、あんたにとって特殊な状態になるってことはわかったわ」
……たしかに、そうですね。
あたしにとって……当人にとって、最初から分かりきっていたことでも、外から見れば、それは確かめなければわからないことだったりします。
「……その、やっぱり、見損ないました、よね……?」
……それで、はい。
これでいい、はずなんです。
……間違った認識で、相応しくない評価をいただいて、あたしなんかが友達にでもなれたかのように振る舞っていたあの状況の方が、おかしかったんですから。
「……?何を言ってるのよ」
──あたしが本当に何の価値もないことが、今回のこの件で示された……そのはずですが。
……どうしてか、雪菜さんはあたしに対して軽蔑の目を向けることすらせず。
ただただ、あたしの言葉に困惑している様子でした。
「……整理するけど、その特殊な状態になるのは、多分、あんたのデッキか……もしくは、『ファントムビルド』に関わる何かが原因だと私は考えた」
あたしの言葉に対して、少し考えて、あたしの意図を導き出したのか、雪菜さんは、話し始めました。
──訂正することはある?と、聞きますが……。
あたしとしては、その件について『転生というものを経験していて、人生が2週目であるということが関係しているのではないかと思っている』という自分の考えを述べるわけにもいきません。
……あたしは、雪菜さんの言葉に、特に否定も肯定もせず、黙って聴く姿勢をとることにしました。
「……で、さっきも言ったけど、私の感覚としてはソーサラーのデッキは腕や足と同じなのよ」
考えながら、さらに、言葉を続けていきます。
「仮に……そうね、身近に足の速い人がいたとして。そして、その人が、ある日競走の大会で自分を負かしたとして。自分が早く走れるのはこの足のおかげなんです、とか、あるいは、なんで自分が速いのかわかりません、とか言ったとしたら。香澄だったら……あんたがそう言われたとしたら、何か思うことってあるかしら?」
その例えが今この場でのお話に即しているかどうかについては置いておきまして……。
……その上で、あたしには、わかりません。
強いて言うなら、ない、というのが近いでしょうか……?
……あたしは、その、運動神経が良くないので。
仮に、そんな話を聞かされたとして、きっと「自慢かな……?」とでも思うくらいだと思います。
あたしが答えられないでいることを察した雪菜さんは、答えを促すわけでもなくて。
……どうやら、さらに、話を続けるようです。
「私なら、ないわ。勝ちに言い訳されて苛立ちこそあるかも知れないけど、いちゃもんをつけることはしない。競走であれなんであれ、勝負をして結果が出たなら、結果が全てよ。負けた私に至らない点があって、勝ったそいつは、負けた側にはなかったものを持っていた。ただそれだけのこと」
……言いたいことは、わからないわけではありません。
しかし、どうしても、納得はできませんでした。
「……でも、勝負って案外、変なことをきっかけに結果が決まることもある。それで、拾った結果に、自分が相応しくないって感じたなら、さ」
──しかし、あたしが、雪菜さんの考える理論に納得できないことは、予想通りだったようです。
……雪菜さんは、言葉を続けながら、明後日の方向に視線を向けます。
「──そしたら、せめて自分の中で言い訳が効くくらいに、努力でもしてみたらいいんじゃない?色んなものを積み上げて、結果を求めるのが努力なら、その結果がちょっと先払いになってるってことも……ま、あってもおかしくないんじゃないの?」
……あたしはバカなので、ここまで言われて、ようやく気がつきました。
雪菜さんは、勝っても負けてもうじうじしているあたしに、気遣ってくれていたんですね……。
「……すみません、あたし、その」
気を遣わせてしまったことに、申し訳ない気持ちがいっぱいで、あたしは慌てて言葉を紡ぎます。
「──ふん。勘違いしないことね。別に、あんたのためとか、じゃなくて……その、あれよ。あんたが、あんまりにも情けない姿見せるから、ちょっと発破かけてやろうって、思っただけなんだから」
……まあ、何にせよ。
実際、情けない、という言葉には、返す言葉もありません。
……そうですね。
考えてみれば、ちゃんと努力をして何かを成し遂げたようなことが、これまでにあったでしょうか。
少し手をつけて、すぐ投げ出してしまうことばかりだった気がします。
……ですので、その。
雪菜さんが言うように、結果が先払いされてしまっているのなら。
自信はありませんが、少しくらいは、ちゃんと取り組んでみて。
そうして、『イミテーション』とかでやった時でも、もうちょっとくらいちゃんと戦えるようになれるように……。
……自分なりに、結果に追いつけるように頑張ってみる、べきなのかも、しれませんね……。