※香澄視点です。
41話 加入あるいは拒否
『ファントムビルド』の実力をつけるために、少し頑張ってみようと思い立ったはいいものの……。
……では、具体的には何をすればいいのでしょうか。
とりあえず、家で強い人の試合のビデオを見たりしているのですが、なんだかそれだけでは以前と結局あまり変わらないような気がします。
「……その、えっと、雪菜さんは……どう、思いますか……?」
……何日か経って、流石にもうちょっと何かするべきじゃないかと思いまして。
結局、思い切って、聞いてみることにしました。
「強くなるために出来ること、ね。うーん……色んなソーサラーと関わりを持ってみるのがいいんじゃない?」
色んな、ですか……。
その、あたしみたいなコミュ障には、ちょっとハードルが高いと言いますか……。
あたしのちょっと嫌だなぁという気持ちに気付いたのか、雪菜さんは呆れたような表情で、こっちを見てきました。
「……別に手当たり次第で交友を広めろって言ってるんじゃないわよ。学校の中のどれかの『チーム』にでも所属すればいいんじゃないかってこと」
「『チーム』、ですか……?」
よくわからないので、おうむ返しに聞き返しましたところ。
雪菜さんの目が、さらに、「すごく呆れた」とばかりに細められました。
「てっきりただそういう馴れ合いみたいなのに興味がないだけだと思ってたけど……まさか、知らないってわけじゃないでしょ?」
えっと、その……知らないってわけです……。はい。
……。
……それで、雪菜さんのお話をまとめますと、うちの学校の生徒はソーサラーである割合が大きく、部活として『ファントムビルド』をやりたい人がかなり多いそうです。
しかし、『ファントムビルド』が1対1で行うものであることや、デッキの内容をあまり広く明かしたがらない人が少なくないことから。
『ファントムビルド部』のような形で大きい部を作っても、小さいグループに分かれてしまう傾向が強かったため、ならば、と、最初から、少人数の『チーム』を多数用意して、新入生はその中から好きな『チーム』に入るようにする、という形になったそうです。
……ただし、新入生に『チーム』を選ぶ権利があるのと同時に、『チーム』にも新入生を選ぶ権利があるそうで。
その人が『チーム』に合うかどうか、テストのようなものをするのが慣例となっているそうです。
……バトルなら……まあ、ともかくとしましても、知識問題だとか、面接だとか、そういうのがあるなら、あたしは、多分無理そうな気がしますね……。
「──ま、ちょうど私も『チーム』どうしようか考えてたところだし、バイトない日の放課後にでも、一緒に見て回ってみる?」
……。
……ちょうど、と言えば、あたしも今日はバイトがない日です。
結局、これってつまり、知らない人のところにお邪魔することを、何度も繰り返していくことになるのではないかと思いますし……その、かなり気が進まない思いはあります。
けれど、あたしとしても、このまま変わらず何もしないのも、どうかと思う気持ちはあります。
「……えっと、今日、バイトないので……その」
「そ、なら都合いいじゃない。そうと決まれば、今日の放課後、早速見に行こうじゃない」
まだ「ぜひ一緒に行きたいです」とまでは言葉にできませんでしたが、どうやら、その意図はちゃんと伝わったみたいです。
「あ、はい……その、よろしくお願いします……?」
どちらにせよ、あたし1人で見て回るっていうお話であれば、「絶対に無理」という結論に終わりますが、一緒に、ということであれば。
……もしかしたら、何とかなるかも知れません。
……。
……。
……そんな感じのことを思いながら、授業時間は過ぎ、放課後を迎えました。
放課後になって、とりあえず『チーム』を回ってみることにしたのですが……。
「……ごめんね、君やったら、もうちょいレベルの高いチームに入ったほうがいいと思うわ。少なくとも、うちの雰囲気には合わんと思うなあ」
「……いえ、その……すみません。お時間いただき……えっと、すみませんでした……」
……。
……これで、7チーム目、です。
何がと言えば、もちろん、あたしがチーム加入を断られた数です。
……そして、同時に、あたしが今日訪れたチームの数でもあります。
「……うーん、やっぱりエンジョイ系のチームで探すのは無理があるんじゃないかしら」
隣で歩く雪菜さんが、小さく呟きます。
……その、もしかしたら、そうかも知れませんが……。
ですが、あたし自身の実力では、こう……いわゆる『ガチ』なチームについていける気がしないと言いますか……。
──結局、『チーム』の加入試験は、どの『チーム』も『ファントムビルド』でのバトルでした。
……まあ、『ファントムビルド』をする集まりなので、『イミテーション』では意味がないのも分かりますし、理解はできる、のですが……。
「しかしバトルしてる時のあんたはやっぱりこう……絶好調ね。初心者狩りの煽り厨……まではギリギリ行かないけど、はたから見たら心を折るために『チーム』訪問を繰り返してるようにしか見えないわ」
今回わかったこととしましては、『フルオート』中のあたしは、少しだけマナーが悪いらしい……と言いますか。
3回目くらいのお断りの後に言われた、「バトル中に淡々と相手のダメなところを指摘し続けるのって、下手な煽りより酷いのね」という、雪菜さんの言葉が深く印象に残っています。
……ふと見れば、窓から差し込む日差しも、すっかり朱色に染まってきています。
──はあ、という、不安とやらせない気持ちが混ざり合った、あたしの小さなため息は、ちょうど同じタイミングに鳴った、廊下に響くチャイムの音で掻き消されました。
……そして、それは、部活動終了の時間を表すチャイムの音であったのでした。
「うーん、難しいものね」
雪菜さんは、唐突にポケットからスマホを取り出しました。
……そして。
「あ、今日のあんた、『校内掲示板』に載ってるわよ」
「……えっ」
──何かとんでもない爆弾のようなものを投下してきました。
変なことが書かれてたら嫌だな、という不安と恐怖を抱えながら、あたしは、その画面を覗き込みました。
『【速報】1年生、道場破りを始める』
『噂の1年に同学年の全国大会3位が負けてたらしい件』
……。
……ちょっと見てみましたところ、「噂話には尾鰭がついて変な広まり方をすることがある」ということがどうゆうことなのか、理解できたような気がしました。
「誇張表現が目立つけど、中途半端に本当のことが混ざってるのがややこしいわね……」
雪菜さんは、少し不機嫌そうな声で呟きました。
「……学校側に申請すれば、全部消してもらえると思うけど、どうする?」
見たところ、悪口や悪意のある書き込みがあるわけではなく、単に面白がっているんだろうな、という内容しかありませんでしたが。
……それはそれとして、申請すれば消してもらえるのが、この『校内掲示板』のルールではあります。
「悪意がないからと言って、言われた側が傷つかないというわけではない」という考えに基づくもので、実際、あたしもその考えに完全に同意ではあるのですが……。
……何と言いますか、微妙に、わざわざ申請を出す程のことなのか、躊躇ってしまう気持ちがあります。
……。
……結局、どうせあたしは普段そこまで見ないし、「別にいいや」と割り切ってしまうことにしまして。
今日は一旦、お開きという形になりました。
明日もバイトがない日なので、また一緒に今日の続きをしてくれるとのことですので、ありがたい限りです……。
……感謝の気持ちを込めて、雪菜さんに頭を下げて。
帰り道の十字路で、別れます。
──明日こそ、どうか。えっと、いい感じにゆるい雰囲気で、チームのレベルが高すぎず、それで、あたしとバトルをしても仲間に入れてくれるような……そんなチームが、見つかりますように……。