※香澄視点です。
「──じゃあ、作戦会議を始めよう!」
『カードショップ・ミラージュ』にて。
バイトを終えたあたしが、先に椅子に座っていた2人……雪菜さんと有栖さんと同じテーブルを囲む席に座るのとほぼ同時。
──有栖さんが、気持ち抑えめの声量で、宣言しました。
……えっと、もちろん、店の一角を勝手に占領することになってしまうので、店長にも事前に話はしてありますし、許可もいただいています。
「と言っても、まずどうしたらいいのかしらね……」
『チーム』を探せばいいと提案した時と比べると、一目瞭然……とでも言えそうなくらいに、すっかり自信無さげな声で、雪菜さんが呟きます。
……まあ、そう、なんですよね……。
「んんー……それを決めるための作戦会議でしょ?」
一方で、おそらく、有栖さんの言うことも、正しいです。
結局のところ、そもそも考えなければ結論なんて出ないのですから……。
……とは言ってもなぁ……という、無言ながらも分かりやすい、雪菜さんの……と、ついでにあたしの、ノーアイデアな雰囲気を感じ取ったのか。
「──じゃあ、とりあえずボクの意見から話してみるよ!」
有栖さんは、多少強引にでも、議論を進める姿勢を示すことにしたようです。
「……そもそもだけど、『チーム』って探す必要、あるの?」
……思ってたよりも、いきなり突っ込んだ問いを立ててきました。
あたしと雪菜さんは、一先ず、静かに話の続きを促します。
「香澄ちゃんの目的って、もっと強くなること、なんだよね?」
言いながら、有栖さんは、突然、アタシに目線を向けてきました。
「……え、えっと、そう、ですね……はい」
少なくとも、間違いではないと思いますので、肯定しました。
「雪菜ちゃんは、多分、香澄ちゃんにとって、『強くなるために他人に関わること』がどのくらい高いハードルなのか、正しく認識できてないんじゃないかな?──だから、齟齬が生まれてるんだと思う」
……そう、なのでしょうか。
言葉を受けて、考え込む雪菜さんを横目に、あたしも頭の中で疑問符を浮かべます。
「……それと、多分香澄ちゃんも。『強くなるために他人に関わること』っていうのが、どれだけ難しいかわかってない!香澄ちゃんの状態は、現状かなり複雑骨折してて、その分、相手と擦り合わせる必要のある項目が多いってことがちゃんと理解できてない」
雪菜さんだけでなく、あたしにもダメ出しの矢印が向きました。
「だから、言ってしまえば妥協しなきゃいけないところで妥協できなかったりして、話がややこしくなってるように見えるんだよ」と、そして、「本当は、逆。話を複雑にしてるんじゃなくて、元々話が複雑なのに、その複雑さを理解できてないの」と、続けました。
……その、少し難しい話なので、ちゃんとあたしが理解できているか自信がないのですが。
「……その、では、妥協しなきゃなところっていうのは……?」
とりあえず、引っかかったところを、質問してみます。
「例えば、『エンジョイ系のチームがいい』っていうのとか。状況をちゃんとわかってたら、そんなことは無理だってわかるはずだし、その上でそこを重視するなら、別なところを妥協して、それで、もっと具体的な方策が出てるはずだよ」
……そこを言われると、ちょっと辛い、ですね。
確かに、『エンジョイ系のチーム』で探すのは無理だろうなって思いながらも、同時に『ガチ系のチーム』はちょっと……という、矛盾したような気持ちがあるのは、現状として、確かです。
「──と、まあ現状の溜まってる原因については一旦置いておいて。……ここからが、ボクの提案ね」
……どうやら、すごく気になるお話ではありましたが、今さっきのお話は、有栖さんにとって、本題ではなかったようです。
「一旦、ボクたち3人で、『チーム』作らない?」
……その提案は、あたしにとって、まるで悪魔の誘いのようでした。
──それなら、あたしは無理に他人に関わる必要がなくなります。
そして、他人の認識を、改めて自分の事情にすり合わせる必要がなくなります。
『チーム』を探すために、学校中を回る必要だって、そうです。
……ですが、同時に、お2人に負担をかけてしまう、と言うことにはなってしまうでしょう。
──もっとも、それについては、どこかの『チーム』に所属したとしても、その『チーム』の相手に対してそうなっていたことではあるのでしょうが……。
「……確かに、そう言われてみればそうね。少し、狭い視界でものを考えすぎてたわ」
雪菜さんは、納得したように呟きました。
……えっと、その。
あたしとしましては、ありがたいお話ではあるのですが、そんな、その……いいのでしょうか……?
……あたしは、おずおずとお2人への負担などの懸念事項についてお話ししましたが……。
「ボクは全然構わないよ!むしろ頼ってくれないほうが悲しいよ!」
「同意見ね。というか、そもそもあんたの選んだ『チーム』に私も入るつもりだったから……あ、でも勘違いしないでちょうだい。私としては『チーム』とかどうでもいいから、どうせならってだけなんだから……気を遣わせてる、とか、そんな風に思わないでよね」
お2人は、間髪入れずにそう言ってくださいました。
……ついこの前までのあたしなら、それでも、申し訳ないから……と、壁を作って遠ざけてしまっていたであろうということがわかります。……が、しかし、なぜだか今日この時は。
ちょっとだけ、甘えてしまおうかな……という、気持ちになってしまいまして。
「……え、えっと、それなら、その……あたしとしては、ぜひ、よろしくお願い、したいかも、です……」
……気がつけば、図々しい言葉が、あたしの口をついて出てしまっていたのでした。
「よし、じゃあ、新生『チーム』を作る、でいいね!」
有栖さんが、あたしの言葉を受けて、話を進めようとします。
「……でも、それなら別にわざわざ『チーム』なんていう形にこだわる必要なんてないんじゃないかしら?」
しかし、「今みたいに勝手に集まればいいだけじゃないの」と、雪菜さんは有栖さんの言葉を止めます。
「……まあ、そうだけどさ。『チーム』として正式に登録すれば、公欠で大会出たり、ちょっと遠い会場に行く時に交通費出たりするじゃん」
それに対して、有栖さんは、なんだかちょっと現実的で切実な理由で対抗しました。
……確かに、あたしとしては、それを言われると、非常に納得で、実際、あたしとしては、何も言えそうにありません。
そして同時に、雪菜さんも同じようでした。
……と言うより、多分、雪菜さんは本気で有栖さんの提案に反対したかったのではなくて、「こういう意見もあるのではないか」ということを言いたかっただけなのでしょう。
「──でも、雪菜ちゃんの意見も、もっともだと思うから、無理そうなら諦めるっていうのは考えとして持っておこう」
有栖さんも、それは分かっていたみたいで、当たり前のように、自分の意見の一部として、取り入れていきます。
その様子に対して、雪菜さんも、何とも思っていないようですので、その、何度もこんな感じのやりとりを繰り返してきたんだろうな、と思わせるような……。
2人の間から、そんな「慣れ」を感じます。
……それから、有栖さんのお話は続きまして。
どうやら、今回のこの案を提示するために、かなり調べてきていたらしく、この件に関連しそうな、学校の規則なども、すらすらと話してくれました。
……『チーム』の新規登録は、3人もいれば問題ないらしいということ。
……『チーム』を新しく作るには、責任を負う大人……『顧問』となる先生が必要なこと。
……有栖さんのお話は、大体、こんな感じの内容でした。
つまり、今、あたしたちに必要なのは。
『顧問』となってくれる、先生を探すこと……と、いうわけみたいです。