※香澄視点です。
……自分たちで『チーム』を作ろう、というお話になりまして、それからは、それ以上のことは特に決まらず、あの場は解散しました。
そうして、現在、授業も終わり、今度は無関係な人による横槍が入らないように、と言う意味もあって、『カードショップ・ミラージュ』で、また、あたしのバイト終わりに3人で『顧問』になってくれる先生を探しているところ……なのですが。
「……どう、ですかね……」
「まあ、予想してたけど、大体の先生は既に担当してる『チーム』を持ってる状態ね」
……雪菜さんが今言ってくれたように、かなり難航しています。
あたしたちは、今、「このままアテもなく考えてもキリがないから」と、雪菜さんが用意してくれた学校の先生の名簿の一覧と、学校中の『チーム』や部活の一覧表を元に、その先生が『チーム』を担当していたら『チーム』1つごとにチェックマークをつけているのですが、ほとんどの先生の名前に、チェックマークが付いてしまいました。
ちなみに、雪菜さんが用意してくれた2つの学校の一覧表は、学校の学生向けページから見つけて来たらしい、です。
……と、話がズレてしまいました。
えっと、それで……作業自体は分担して行なっており、順々にそれぞれ自分が任せられたページのチェックマークの付き方を照らし合わせ、今は3つに分けた内の3つ目のページ……つまり、一応全部の情報を統合した形になるのですが……。
……その結果が、先ほどのお話に戻ってくるというわけです。
一応、ソーサラーでないと、『ファントムビルドのチームを担当する顧問』にはなれないので、チェックマークが全くついていない先生もいるのですが……。
「一応、チェックマークが1つだけの先生になら声をかけれるかもって思ったけど……そういう先生はみんな忙しそうな先生ばっかりなんだよね」
……主に、全く別な部活に関わっていたりとか、そういう先生たちですね。
「……」
……どうしたものか、と半ばお手上げ状態でぼんやりしていると、雪菜さんが、1人、一覧表を無言でじっと見ていました。
……。
「……どうかしたの?」
そのままの状態で少し時間が経ち、有栖さんが、尋ねます。
「……ん、いや、もしかしたらこの中にどこの『チーム』も担当してないけど、『顧問』になれる先生がいるかもって思って」
話をしながら、雪菜さんは一覧表の一箇所を指差します。
「月城先生。私たちのクラスの担任の先生だけど、チェックマークは付いてない」
……確かに、チェックマークは付いていません。
しかし、それは『ソーサラーではないから』とかなのではないでしょうか……?
「……最初の授業、グループワークやった時あったでしょ?」
雪菜さんは、あたしに目線を向けて話します。
有栖さんは、違うクラスなので……このお話は、確実に、あたしに向けての確認でしょう。
「……あ、はい。たしか、そんなことをしてた……と、思います」
……実際、言われてみれば、そんな記憶があります。
「で、その時、あの先生『ファントムビルド』のデッキを見せたの、覚えてる?」
……そう、でしたっけ……?
あの日のことに関しては、授業のことよりも有栖さんと出会ってバトルした印象が強すぎてあまりよく思い出せる自信がないのですが、思い返せば、そういえばそんなこともしていた……ような、気がします。
「英語の先生だよね?一回聞きに行ってみる?」
……いわゆるところのダメ元、というやつでしょうか。
他にアテがあるわけでもないので、有栖さんの言う通り、聞くだけ聞く……というのが1番早くはあるのでしょう。
「あんた、明日ってバイトあるの?」
雪菜さんが、突然、あたしに尋ねます。
……あたしは言われてから、気付きましたが、確かに、先生に声をかけるなら放課後になるでしょうし……それなら、バイトのない日じゃないと困ってしまいます。
「……えっと、明日は、バイトはお休み、です」
明日のこともわからないくらいに記憶力に自信がないというわけではありませんが、一応、ポケットからスマホを取り出して、カレンダーを見ながら、答えます。
「ならちょうどいいね!」
有栖さんが、そう言いまして。
「そうね。じゃ、明日の放課後、ってことでいいかしら?」
……そういうことに、なりました。
……。
……。
そうして、あっという間にまた時間は経ちまして。
放課後、です。
なんだか、遠巻きに人の視線を感じるような気がしないでもないですが、気のせい……と、いうことにしましょう。
……目の前の扉には、『職員室』と書いてあり、扉には、さらに、先生たちの『座席表』なるものが貼り付けられています。
……これで、月城先生がどの席なのか、わかりました。
扉のガラス部分から覗き込んでの確認もしましたので、間違いはありません。
……頭の中で何重にもチェックをして、脳内シュミレーションをして……と、扉を開けることを躊躇っていると、有栖さんと雪菜さんが、迷いなく扉を開けてましたので、慌ててついて行きました。
……。
……そうして、3人で『チーム』を作りたい、というお話をしまして。
「──なるほどな。顧問になってほしい、か……」
案の定、と言いますか。
……大分、嫌そうな表情です。
……。
……少しばかり、互いに無言の時間が発生しまして。
「……悪いが、私はもう生徒に『ファントムビルド』は教えねぇって、決めてんだ」
観念したように、先生は口を開きました。
……しかし、「だから諦めてくれ」と言われましても、困ってしまいます。
「……そ、その……そこをなんとか……お願い、できませんか……?」
恐る恐る、お願いするあたしに、「お願いします」と、続く有栖さんと雪菜さんに、先生は顔を顰めて、困ったように、片手で頭を掻きました。
……。
「……こっちも個人的な事情だから強く言えねぇ……か。そうだな……。じゃ、そういう時はこれで決めるのが手っ取り早い。──そうだな?」
先生が右手の指先に、デッキを、無から作り出して見せて来ます。
「お前たちが勝ったら……考えてやる」
……先生が、そう言い放ちます。
「ありがとうございます!」と、有栖さんは言いますが。
……先生として、果たしてそれでいいのでしょうか……?と、思わないでもありません。
ですが、まあ、この先生が先生っぽくないことを言ったりするのは、残念ながら、いつものことです。
……それで、その、結局……バトルで決める、と……。
文句がある、というわけではありませんが……その、やっぱり、そうなるんですね……。
……。
……と、まあ……もちろん、職員室でそのまま始めるわけにもいきませんので。
この前先輩方とバトルをしたフリースペース的なところへと、移動します。
ちょっと離れた位置に、野次馬と思われる人たちがついて来ていますが……声をかけに行くには少し遠めのところなので……諦めて、そのままにします。
「……じゃあ、やるか」
……そうして、始まった対月城先生のバトルですが。
……。
「……ごめん、勝てなかったよ……」
……思ってた以上に強く、有栖さんが、負けてしまいました。
「……今思い出したんだけど、月城先生って、少し前にプロとして活動してたんじゃなかったっけ?」
小声で、雪菜さんがあたしにこっそり教えてくれます。
……えっと、それって、つまり……その、大分、難題を吹っ掛けられたっていう、ことなのでは……ないでしょうか……?
……その後、雪菜さんも敗れてしまいまして。
「……残念だったな。だが、思ってたよりは強かった。そうだな……」
──と、先生が「これで終わり」とばかりに話し始めました。
……確かに、あたしは、『チート』みたいなものがあることがわかってから、あまりバトルをしたいという気持ちはありませんでした。
しかし、だからと言って、それでいいのでしょうか……。
……。
「……あ、あの、えっと……」
気がつけば、言葉が口をついて出ていました。
「……あたしも、その……せ、先生に、バトルを……挑みたい、です……!」
……あたし自身、これが正しいかどうかはわかりません。
ですが、せっかく一緒に、というお話だったのに、ただ見ているだけ……というのも、筋が通らない、と、言いますか……その。
元々フェアなバトルならともかく、こういう時なら、まあ、少しくらい……と、言いますか……。
あたしの『フルオート』がどのくらい通じるものなのか知っておきたい、と、言いますか……。
……とは言え、先生は、あたしがそんなことを思い悩んでいることを、知る由もありません。
「──ん?ああ、そうだな。すまねぇ。忘れるトコだったよ」
……《星辰の魔女》デッキを握りしめるあたしに、対抗するように、先生も、自分のデッキを再び生成します。
……こうして、月城先生にとって、本日3戦目の試合が、始まることになりました。