※雪菜視点です。
──ターンが移る、その前に。
香澄の手札の【人馬の魔女ルクバト】が、また【不可避の一矢】を手札へと加えようとした。
……しかし、手札の枚数は、既に上限の10枚に達している。
だから、それは手札に加わることなく、直接、墓所へと送られた。
そして、さらに。
ターンが開始して、その最初のドローもまた、同じように、手札に加わることなく墓所へと送られていく。
……もっとも、【ターモイル・プラネット】の効果で、ランダムとは言え、互いのターン終了時にデッキへと墓所のカードを1枚加えることを考えると。
案外、手札に加わらなかったということは、それほど大きな意味を持っていないと考えられる……のかも知れない。
「……【サダルメリク】」
まずはコストを1支払い、香澄はエンティティを1枚召喚して、その効果によって、デッキからカードを引いて、代わりに手札のカード1枚を、デッキへと戻す。
「で、次は【アンタレス】。効果の対象は【サダルメリク】」
香澄がコストを4消費して、盤面に鎧を纏った《魔女》が現れ、その直後。
それは、水瓶を抱える《魔女》に向けて武器を振るい、そして、蠍の尾のような軌道を描いた刃で、背中から一息に貫いた。
【宝瓶の魔女サダルメリク】が膝を突いて倒れていく中。
【天蠍の魔女アンタレス】は、その鎧に降り掛かった《魔女》の返り血を触媒に、魔術を用いて、見せ掛けだったはずのその装甲を、強固なものへと変質させた。
……そして、香澄はというと。
【宝瓶の魔女サダルメリク】の被破壊時効果によってカードを引き、そして、【天蠍の魔女アンタレス】が召喚時効果で《分類:星辰の魔女》を持つエンティティを破壊したことによって、コストを2回復していた。
「……【ポルクス】を召喚」
そして、その回復した2コストを使い、香澄は【双児の魔女ポルクス】を召喚した。
「……【双児の魔女ポルクス】は【双児の魔女カストル】によって生成される『ファントムカード』だよね?……っていうことは、あれが【星辰の争乱】で墓所から手札に加えたカードの1枚、ってことだよね」
……隣で見ている有栖が、小さな声で、私に話しかけてきた。
わざわざ声を小さくしたのは、少しでも月城先生に情報を与えないようにするため……というよりは、単なる一種のマナーみたいなものだろう。
月城先生だって、今有栖が言ったくらいのことは、わかっているだろう。
「……さあ、もしかしたら、【ターモイル・プラネット】でデッキに戻したところを、今の2回の【宝瓶の魔女サダルメリク】によるドロー効果で引いてきたのかも知れないわ」
……まあ、あくまで可能性の話で言えばそういうものも考えられる、というだけであり、どちらだったからどう、というのも特にないのだけれど。
通常、召喚されることのない【双児の魔女ポルクス】だけれど、【双児の魔女カストル】と同じような召喚時効果を持っていることは、一応、知識として、既に知っている。
召喚された【双児の魔女ポルクス】は、【双児の魔女カストル】を盤面へと出現させ、そして、両者が、『ライフリンク』によって結ばれる。
……結局のところ、効果そのものとしては、【双児の魔女】はそのどちらを召喚したとしても、同じ結果になるようになっているようだ。
そうして、盤面には【天蠍の魔女】が1枚と、【双児の魔女】が2枚。
コストは、残り1。
「……最後。【レグルス】の召喚」
残りの1コストで召喚されたのは、浮遊する大剣を操る《魔女》。
──それは、現れると同時に、大剣を大きく横薙ぎに払い、盤面に立つ全ての味方を一掃して、自身の力の糧とした。
……しかし、その不意打に遭ってなお。
砕けた鎧の残骸から、【天蠍の魔女アンタレス】が、その顔を出して、立ち上がった。
【天蠍の魔女アンタレス】の被破壊時効果によって、再び現れた【天蠍の魔女アンタレス】。
……一見変わらないように見えるけれど、よく見れば、その鎧を覆っていたはずの魔力の輝きは、消えている。
具体的に言うのなら、『受けるダメージを-2する』効果と、被破壊時効果が無くなっている、ということだ。
……これは、その2つの効果が、召喚時に付与されるものだから、なのだろう。
【双児の魔女】2枚の被破壊時効果はいつものように発動して、デッキに【双児の魔女カストル】が加わり、そして、香澄が1枚カードをドローする。
そして、コストが4の【天蠍の魔女アンタレス】と、コストが2の【双児の魔女】を2枚破壊したことにより、【獅子の魔女レグルス】は攻撃力が4加算されて、その結果、攻撃力は5、となった。
そして、ついでに数えれば、香澄の手札の枚数は、8枚。
……ターン開始のドローと、【人馬の魔女ルクバト】の【不可避の一矢】を合わせて、ちょうど10枚になる枚数だ。
「……ターンを終了する」
青い目を瞬かせて、香澄がそう言うと同時に、【獅子の魔女レグルス】がその大剣を直上に放り上げ、そして、落下したそれは、月城先生の盤面の、【暗黙の罪禍シャローシュ】を、真上から貫いた。
そして、香澄と月城先生は、ここではお互い、特に何も言わず。
……静かに墓所のカードをランダムに1枚、デッキへと加えていった。
「……正直に言えば、驚いたよ。まさか、そんな優秀なカードがあるとまでは、さすがに予想してなかった」
……と、いう言葉とは裏腹に。
月城先生は、変わらないペースで、いつものようにカードを引いた。
「まず、【無形の罪禍シュナイム】を召喚」
【無形の罪禍シュナイム】が《分類:罪禍の刻印》を付与できるのは、前のターンにソーサラーを対象に攻撃または効果の発動をしていたエンティティに限られる。
だから、それの効果によって《罪禍の刻印》を付与されることはなかったけれど。
味方の盤面に《分類:罪禍の刻印》を持つエンティティが存在しなかったことにより、【無形の罪禍シュナイム】は、『猛進』を得た。
「そんで、【無形の罪禍シュナイム】で【天蠍の魔女アンタレス】に攻撃する」
……互いに、攻撃力は2。
そして、体力は、《巫女》が2で、《魔女》が1。
戦闘の末、両者は相打ちの形となり、お互いに霧散した。
「……で、【敬愛の罪禍ハーメシュ】を召喚する」
コストを5支払い、召喚されたのは、自身の身長の半分程の大きさの、ぬいぐるみを抱き抱える幼い少女……いや、《巫女》。
……《巫女》は、静かに、片手の人差し指を《魔女》へと向け。
──その直後、雷鳴が轟いた。
閃光の後、【獅子の魔女レグルス】の身体の周りに、あの禍々しい、黒い印が、まとわりついていたのが見えた。
【敬愛の罪禍ハーメシュ】
コスト5。エンティティ。攻撃力5、体力5《分類:罪禍の巫女》
召喚時、お互いの盤面の、味方のエンティティに対して破壊もしくはダメージを与えていたエンティティ全てに《分類:罪禍の刻印》を付与する。その後、自分の盤面に《分類:罪禍の刻印》を持つエンティティがいなければ、自分の盤面のエンティティ全ては体力を5回復する。
自分の盤面には、ダメージを受けていたエンティティが存在していなかったため、回復効果こそ発生しなかったが、自壊を軸とする香澄のデッキ……《星辰の魔女》デッキには、かなり有効な条件での、刻印付与と考えられる。
「……これで、ターン終了だ」
その言葉と同時に、また、雷雲が雷を落とす。
そして、落ちた雷は【獅子の魔女レグルス】を穿ち、破壊した。
……【獅子の魔女レグルス】の大剣が、月城先生へと飛び、斬りつける。
そして、それと同時に、雷雲が、雷とは異なる光を放つ。
【獅子の魔女レグルス】は、確かに5のダメージを月城先生に与えたが、【審判の雷雲】の回復効果によって1の回復が入り。
……結果として、体力は、差し引き-4で、21と、なったようだ。
「……流石にここから削り切るのは……香澄ちゃんのデッキでも、さすがにちょっと……無理そうじゃない……?」
……そんな、小声の有栖の言葉に。
まだわからない、とは思いつつ。……私は黙って、小さく、首を縦に振ったのだった。