※有栖視点です。
──後攻9ターン目、香澄ちゃんの番。
相手のターン終了時に【不可避の一矢】を加えて、自分のコストを-2する【人馬の魔女ルクバト】のコストが、0以下になったことで。
……【人馬の魔女ルクバト】自身の効果によって、手札から盤面へと自動的に出現し、それから、その効果の続きで、それは、破壊された。
──幸か不幸か。
これで、手札の枚数は、ちょうど9枚になったから、ターン開始時にドローしたカードが、無事に、手札へと加わっていく。
「……【アクベンス】」
……今更ながら、ボクは気づいた。
──目の前で、【無欲の罪禍エセル】の効果を発端とする、圧倒的な盤面を展開されているにも関わらず、香澄ちゃんの青い瞳には、焦燥の気配が、まるでない。
……一瞬、あの状態の彼女には、感情というものがないのかとすら思ったけれど、多分、そうではない。……と、思う。……ちょっと、自信はないけどね。
そんな香澄ちゃんが、このターン、最初に召喚したのは大型のエンティティだった。
コスト9。【巨蟹の魔女アクベンス】。
……しかし、香澄ちゃんのコストは、まだ2余っている。
──そうだ。
【磨羯の魔女アルゲディ】の、被破壊時効果で、コストを下げたカード。
……あれは、このカードだったみたいだ。
【巨蟹の魔女アクベンス】の召喚時効果で、盤面に【歪なる友愛ヒュドラ】という、コスト10……【無欲の罪禍エセル】と同数値のコストを掲げるエンティティが、出現する。
──それは、一本一本が剣のような、鋭く大きな牙に、異様なまでに発達した、顎。だった。
……逆に、それ以外には、まるで何もないかのような。
ただ捕食することだけしかできなさそうな……奇妙で歪な、まるで、生命とも思えないような、そんな姿をしていた。
……強いて、全体的な形状で言うなら、なんとなく、蛇か、龍に似ている……といったところだろうか。
──カードの効果で言えば、まず、あまり影響のなさそうなところだけを取り上げると……【巨蟹の魔女アクベンス】は、攻撃力6の体力9で、『挺身』持ちで、そして、【歪なる友愛ヒュドラ】は、《分類》を何も持たない、攻撃力9の体力1の、『致命』持ち。
……そこに、【巨蟹の魔女アクベンス】は、召喚時に自分の盤面に【歪なる友愛ヒュドラ】がいないならそれを出現させる効果があって、そして、【歪なる友愛ヒュドラ】が破壊された時に、墓所へ加えず、復活させる効果を持っている。
それで、【歪なる友愛ヒュドラ】は、自分が盤面に出現した時と、自分の盤面にエンティティが出現する時、自分の盤面の【巨蟹の魔女アクベンス】以外のエンティティを破壊して、自分の体力数値を+1して……さらに、破壊したのが《分類:星辰の魔女》を持ってたらコストを回復する効果と、後は、自分がダメージを受けた時に、盤面に【巨蟹の魔女アクベンス】がいることを条件に、自身の体力を最大まで回復する、という効果を、持っている。
……後は、体力が増えると【獅子の魔女レグルス】みたいな感じで、効果が増えるギミックもあるみたいだ。
細かく言うと、8で『猛進』の獲得、9以上で『ターン終了時、相手のソーサラーに9ダメージを与え、自分の手札が6枚未満なら6枚になるまでカードをデッキから引く』、という効果を、持つらしい。
……ただ、自分の盤面だけでは8までしか育たないみたいだから……。
つまり、9になるまでの最後の+1は、獲得した『猛進』で、相手のエンティティを、破壊することが必要になる、ということだろう。
……つまり、これのコストを下げておいたのは。
多分、確実に【歪なる友愛ヒュドラ】へと、生贄を与える為……と、言うことなのだろう。
……ただ、もしアレを最大まで成長させたところで、5枚の《巫女》を突破できそうには見えないのは……どうするんだろう。
「……【不可避の一矢】。対象は【ヒュドラ】」
手札にある、2枚の【不可避の一矢】の内1枚を使い、そして、香澄ちゃんは、自分の盤面の怪物を、破壊する。
盤面のエンティティが、自分のカードの効果で破壊されたことで、香澄の体力も、1回復した。
……【矢】によって射抜かれて破壊された【歪なる友愛ヒュドラ】を、【巨蟹の魔女アクベンス】が、蘇生する。
……これは、コストを回復するための行動だろうか。
「……もう一度」
さらに、【矢】が飛び、また、同じ光景が、繰り返される。
使用可能なコストは、これで、4になった。
「……【ハマル】」
コストを2支払い、霧を纏った《魔女》が現れる……けれど。
──巨大な顎門がそこに迫り、閉ざされる。
そして、【ヒュドラ】が嚥下するようなそぶりを見せると、首が、もう一つ生えてきた。
……つまり、【歪なる友愛ヒュドラ】は、これで体力が2になって。
そして、香澄ちゃんのコストも1回復して……残りが3。
ついでに言えば、香澄ちゃん自身の残り体力は、18になっている。
「【カストル】」
続いて盤面に、今日だけで果たして何度見たのかわからない、【双児の魔女】が、現れる。
──現れたところに、再び、先ほどと同じように大口が迫り。……2枚まとめて、飲み込まれていく。
「【サダルメリク】」
……【双児の魔女】の被破壊時効果でカードを引いた香澄ちゃんは、更なる生贄を、盤面へと送り込む。
──【宝瓶の魔女サダルメリク】もまた、カードを引く効果があるから、まだまだ、手札が枯渇しているような、様子はない。
「【アルレシャ】」
さらに、【双魚の魔女】も現れて、怪物の糧になる。
香澄ちゃんは、これで、逆に手札のカードの枚数を、増やした様子で。
……そして、コストも変わらず、残り3。
体力に至っては、23まで、回復していた。
……6つの頭を持つ多頭の化け物が、さらなる獲物を要求しているかのように、あちこちへと、目線を向ける。
「【カストル】」
……さらに、【双児の魔女カストル】の召喚。
ふと、こうまで【双児の魔女カストル】を使いまわせているのは、おそらく、【双魚の魔女アルレシャ】の被破壊時効果に秘訣があるのではないか……と、いうことを、思った。
【双魚の魔女アルレシャ】は、被破壊時にコストの最も低いカードを手札に加える。
──普通は、コスト1のカードが該当することが多いだろうけど、コスト1のカードを使い切ったら、どうなるだろうか。
……ボクが知っている中で、コスト1は、【獅子の魔女レグルス】と【宝瓶の魔女サダルメリク】。コスト2は、【双児の魔女カストル】と、【双魚の魔女アルレシャ】と、【白羊の魔女ハマル】だけ。
そして、【双児の魔女カストル】は、【双児の魔女ポルクス】の被破壊時効果でデッキに加わる上に、お互いのターン終了時に、毎ターン墓所からデッキへとカードを加えていることも加味すれば、これほどに使いまわせるのも、不自然ではない……の、かもしれない。
……いずれにせよ、現実として。
……盤面には、『首が8つの【ヒュドラ】』が、鎮座していた。
首が8つ……体力が8、ということは。
「……【ヒュドラ】で【シェシュ】を攻撃」
『猛進』を持って、攻撃ができるようになった【歪なる友愛ヒュドラ】は、【不殺の罪禍シェシュ】へと、迫る。
……ただ、【不殺の罪禍シェシュ】には、『受けるダメージを-9する』効果が付与されているから。
その牙は届かない──かと、思われたけれど。
【不殺】を掲げる《巫女》は、反撃によって小さくないダメージを与えることこそできたものの。
……一方的に、破壊される形になった。
……簡単な話。
【歪なる友愛ヒュドラ】は、交戦後に交戦相手を体力に関わらず破壊する、『致命』があるから。
【不殺の罪禍シェシュ】が、その身体を霧散すると同時に、【歪なる友愛ヒュドラ】は、また自身の首を増やしたというだけでなく。
……自分自身の体力を、最大まで、回復した。
……これで、【ヒュドラ】の体力は、9。
こうなれば、ターン終了時に9ダメージをソーサラーに与えることができる……けど。
……ダメージは9じゃ足りないし、盤面も、1枚しか、処理ができていない。
まあ、一応。
コストは、まだ3、残っている。
……香澄ちゃんが、静かに、そっと、目を閉じる。
──そして。
「……【拒絶の魔法】。効果対象は【ヒュドラ】」
香澄ちゃんは、コストを3消費して、マジックを、使用した。
……そして、その宣言と同時。
──【歪なる友愛ヒュドラ】を除いた、全てのエンティティが、突然まとめて、霧散した。
【拒絶の魔法】
コスト30。マジック。《分類:争乱の魔女》
デッキ、もしくは手札にあるこのカードは、自分の《分類:星辰の魔女》を持つエンティティが自分のカードの効果の影響によって破壊されるたびにコストを-1する。
自分の盤面のカード1枚を選択し、それに『カードの能力によって破壊されない』を付与し、その後全ての盤面のエンティティを破壊する。破壊した相手のエンティティの枚数と同じだけ自分の体力を回復し、破壊した自分のエンティティの枚数と同じだけコストを回復する。
「……ターンを終わる」
香澄ちゃんがそう言うと。
……9つの首が蠢き。
月城先生に、9のダメージが、与えられる。
これで、先生の残り体力は16。
一方の香澄ちゃんの体力は。
──【ターモイル・プラネット】で体力を回復したことで、25……最大値に、戻っている。
……。
……悪くない状況には見える、けど。
──計算上、【再臨せし全知】の準備は、整っている。
……つまり、次の月城先生のターンの終了時には、もう、【再臨せし全知】が、自動召喚されるんだ。