カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※雪菜視点です。



52話 全知あるいは終焉

 

 「──強い動きではある……けど……」

 

 

 ……隣で見ている有栖が、小さく呟いて、首を微かに横に振るのが見えた。

 

 香澄が【歪なる友愛ヒュドラ】以外のエンティティを焼き払って、その残った【歪なる友愛ヒュドラ】の効果でダメージも与えて。

 

 さらに、【巨蟹の魔女アクベンス】の持つ『被破壊時、盤面に【歪なる友愛ヒュドラ】があるなら、手札にこれと同名のカードを加える。』効果で【巨蟹の魔女アクベンス】そのものは手札に戻ったから。

 

 ……もし【歪なる友愛ヒュドラ】が処理されても、もう一度【巨蟹の魔女アクベンス】そのものを召喚することはできて。

 

 

 ……そんな、もしかしたら、押し切れそうな状況へと、一気に動きはした……けれど。

 

 

 「……そうね」

 

 ──やはり、有栖が言いかけたように、『けど……』という言葉が外れない。

 

 

 「じゃあ、こっちの番だ」

 

 ターン開始時、月城先生はそう宣言して、カードを引く

 

 

 以前香澄とバトルした時に、【巨蟹の魔女アクベンス】と【歪なる友愛ヒュドラ】のセットは見たことがあったから、【磨羯の魔女アルゲディ】で手札に加えたカードはそれなんじゃないかと言う予想はできていた。

 

 ……けれど、【拒絶の魔法】というカードは、私は、見たことがなかった。

 

 

 自分のターン終了時に9のダメージを相手ソーサラーに飛ばせる上、攻撃力も体力も9と高水準のエンティティに、破壊耐性の付与。

 

 

 月城先生のデッキは、基本的に《分類:罪禍の刻印》を付与して【審判の雷雲】の破壊効果で盤面を処理しているから、この破壊耐性は、強力な対抗手段となり得ただろう。

 

 

 ……1ターン、早ければ。あるいは。

 

 いや、分かってはいる。

 

 【拒絶の魔法】はコストを軽減させなければ30コストのカードだから、早期に使用できるようなものでもないし、もし1ターン早く使えたとしても、そこで小型のエンティティに耐性を付与したところで、圧力にはならない。

 

 

 ……1ターン早ければ、なんていうのは、机上の空論どころか、そもそも前提として、不可能なことだ。

 

 それで、じゃあなんで今のターンでは遅いかと言えば。

 

 

 ……まあ、すぐにわかることではある、か。

 

 

 「……正直に言って、まさかあの盤面を処理し切られるとは思ってなかったよ。だが……もうこのバトルも終わりだ」

 

 

 月城先生が、棘のない声で、まるで自身の勝利を宣言するように、そう言った。

 

 

 「……そう。ここまでよく頑張っていたみたいだけど……もう結果がわかったの?」

 

 香澄が、首を傾げる。

 

 

 「……?おいおい、わかりきったことではあるだろ?」

 

 香澄の言葉に、月城先生は、怪訝そうに眉に皺を寄せた。

 

 

 「……?ああ、もしかして。だけど」

 

 その時、香澄の青い瞳に、一層不気味な光を宿り、爛々と輝いた……ように見えた。

 

 「自分が勝てるって、思い込んでる?」

 

 ──香澄は、遅れて何かに気がついたように、頷くと。

 さらに、続けるように、そのまま言葉を紡いでいく。

 

 

 「……それなら、よかった。……萎えて縮こまってる相手を轢き殺しても、つまらないから」

 

 

 「……ほう?」

 

 ……月城先生の顔が、一瞬、強張った。

 

 

 「──いいだろう。なら、見せてやるよ。……まず、ここはコスト7で【清純の罪禍シェヴァ】を召喚する」

 

 召喚されたのは、前のターンに、【無欲の罪禍エセル】がその効果で盤面に出したエンティティの、1枚。

 

 

 ……召喚された《巫女》が、その向こう側にいる9つの頭を持つ怪物の巨軀へと、指を指し、《刻印》が付与された。

 

 「……で、ターン終わりだ」

 

 

 そして、ターン終了時。雷が【歪なる友愛ヒュドラ】を襲い、裁きを下さんとするが。……しかし、その身には、一切の傷すら、付かなかった。

 

 

 それとほぼ同時に、【清純の罪禍シェヴァ】の効果で、月城先生の体力が、手札の枚数分……つまり、8回復して。……24に、なった。

 

 

 ……そして。

 

 

 先程、怪物を穿とうとした雷など比にもならないような、轟音が鳴り響き、あまりの強烈な光に、視界が一瞬、白に染まった。

 

 

 ……そうして、視界が正常に戻ると。

 

 そこには、雷雲でその全貌は見えないけれど、何かが、そこにいた。

 

 

 ……それは、きっと、大いなる、何か。

 人間のように、足があって、胴体がある……のは、わかるけれど。

 

 ……決して、何を間違えても、あれは、人間などではない。

 

 

 そして、一歩遅れて、気が付いた。

 

 それが現れたと同時。

 ……盤面から、全てのエンティティが、姿を消している。

 

 

 ……現れた大いなる存在、【再臨せし全知】の効果。

 

 『自動召喚された時、自身を除いた、お互いの盤面の全てのエンティティを手札に戻す』。

 

 

 ……手札に戻すのなら、破壊耐性にも、意味はない。

 

 

 さらに。

 その次は、墓所のカードの大半が、消えた。

 

 

 ……これもまた、【再臨せし全知】の効果。

 『お互いの《分類:罪禍の刻印》を持つ墓所のカード全てをゲームから除外する』、というもの。

 

 

 ──一応、除外について説明するなら、破壊などで送られる墓所と違って……除外されたカードは、再利用ができなくなる、といったところだろうか。

 

 

 ……最後に、香澄の手札とデッキのカード全てに、この試合中何度も見た《刻印》を付与して、それは再び、姿を消した。

 

 

 ……姿を消した、けれど。

 その存在感は、未だに消えていない。

 

 【再臨せし全知】は、一度自動召喚されたとき、相手の手札とデッキのカード全てに《分類:罪禍の刻印》を付与する。

 

 ──そして、次以降の自分のターン終了時に、《分類:罪禍の刻印》を持つカードが相手の墓所にあったなら、再び自動召喚されて。

 

 ……そこで、勝利効果が発動する、ということになっている。

 

 《分類:罪禍の刻印》を付与されたエンティティを召喚すれば、【審判の雷雲】でターン終了時にそれは自壊させられて、墓所へ送られる。

 そして、マジックカードにも《刻印》は付与されているから、カードの種類の性質として、使えばそのまま墓所へと送られるマジックカードもまた……使うわけにはいかないだろう。

 

 

 ……だから、勝利効果を回避するなら、カードを一切使わないようにするしかない……けれど。

 

 そんなことをして勝てるわけがないし、もししようとするなら、また【無欲の罪禍エセル】とかが出てきて、普通に体力を削り切られるだけだ。

 

 

 ……つまり、もう、事実上の、詰みだ。

 

 

 「……流石にわかっただろう?降参したっていいんだ」

 

 月城先生は、肩をすくめる。

 

 

 「……不要。そのカードじゃあ、わたしたちは、裁けない」

 

 

 「……?」

 

 

 一瞬、月城先生の顔に浮かぶ疑問の色が、強まった。

 

 ……けれど。

 

 

 「──いいだろう。じゃあ、やってみるんだな」

 

 すぐに真剣な顔に戻って、香澄の、薄く光を放つ青い瞳へと、目を向け直す。

 

 

 そして、それに応えるように。香澄が、ターンを開始する。

 

 

 一応、このターンで体力を削り切れば勝ち……ではあるけれど、いくら盤面が空で10ターン目とは言え、24ものダメージを出すのは、厳しいだろう。

 

 

 けれど、カードを引いて、香澄は、迷うような様子もなく、手札のカードへと手を伸ばす。

 

 

 「……盛り下げよう。わたしたちで。……ここまでの全部をひっくり返して」

 

 

 ──香澄の手が、カードに、触れる。

 

 

 「……【テロス】」

 

 

 ……現れたのは、二つの赤い光。

 

 遅れて、それが、一対の目だってことに、気が付いた。

 

 

 《刻印》こそ付与されているものの。

 ……それに対して、まるで意に介している様子もない。

 

 

 【終焉の兆し・テロス】

 コスト50。エンティティ。攻撃力10、体力10《分類:なし》

 デッキ、もしくは手札にあるこのカードは、自分の《分類:星辰の魔女》を持つエンティティが自分のカードの効果の影響によって破壊されるたびにコストを-2する(最低値10)

 召喚時、自分の残っているコストを全て消費する。

 自分のカードの効果では選択できない。

 エンティティカードの効果によって破壊されない。

 このカードは破壊以外の方法で盤面から離れることがない。

 被破壊時、この試合に勝利する。

 

 

 ……それは、初めて見た、香澄の……《星辰の魔女》のレジェンダリーだった。

 

 

 「……あれが、香澄ちゃんの」

 

 有栖が、小さく、呟く。

 

 

 「……そう、みたいね」

 

 ……私も、唾を飲み込み。

 これが、香澄の、レジェンダリーか、と、そんなことを思っていると。

 

 一瞬。何となく、どこかで見覚えがあるような薄ら寒い笑みが、こっちに、向いた気がした。

 

 

 「……ターン終了」

 

 ──香澄が言うと同時に、【審判の雷雲】が雷を落とす。

 

 ……けれど、【審判の雷雲】はあくまでそのエンティティに自壊効果を付与するものだから。……エンティティの効果で破壊されない【終焉の兆し・テロス】は、破壊されない。

 

 まあ、もっとも。

 もし破壊されたら、その時点で勝利効果が発動するから、それはそれで、【再臨せし全知】が自動召喚される間もなく、香澄の勝利で終わるということになるのだけれど……。

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