カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※月城(先生)視点ですが、途中で視点変更があります。



54話 寝耳に水あるいは予定調和

 

 ……『ファントムビルド』のルール。

 それは、別に、誰が考えたというわけでもない。

 

 ただ、ソーサラーの作り出すカードが、そのような法則に従う、というものを『ルール』という形でまとめたのが、それなのだから。

 

 ……例えば、物は地面へ向かって落ちていく。

 例えば、水に軽い物を入れれば、浮き上がる。

 

 例えば……『ファントムビルド』のルールとは、つまり、『そういうもの』だ。

 

 

 ……もしも、その上で、ルールを定めた存在がいるとするのなら、それは。

 

 

 「月城先生……?」

 

 

 気が付けば、私の受け持つクラスの生徒の1人で、ついさっき、私にバトルで勝利を収めた、雲田香澄と。

 

 その雲田香澄の友人の2人……夢園有栖と湖織雪菜が、怪訝な目でこちらを覗き込んでいた。

 

 

 「……ああ、すまん。少し、考え事をしていた」

 

 ちらりと、雲田香澄の瞳を視界に入れる。

 

 ──その目は、何ら普段の彼女と変わらない、黒い色をしていた。

 

 

 ……さて、どうしたものか。

 

 

 前提として、『ファントムビルド』にはまだ不明な点が多く存在しているが、その中でも特に、『カードの精霊』と呼ばれる存在は、未だわかっていないことが多い。

 

 だから、最初は彼女のバトル中での態度の変わりようは、それと何か関連性がある事象なのではないかと思った。

 

 ……だが、改めて考えて。

 

 少なくとも、持っている知識の中で、『カードの精霊』に、そんなことを……主人の意思を超えるようなことをできると言う話は、一度も聞いたことがない。

 

 ──だが、かつての研究の結果として、理論上は……。

 

 

 ……いや、やめておこう。

 

 なんとなくだが、この辺りのことを、ちゃんと考えようとしたら、面倒ごとに巻き込まれそうな、そんな気配がする。

 

 教師としてあるまじき態度であることは承知の上だが、上手いこと、回避するのが、吉だろう。

 

 

 「……正直、まさか負けるとは思ってなかったよ」

 

 

 ……気持ちを切り替えて、口を開く。

 

 

 ……まあ、当然だろう。

 誰が、最初から負けると思ってバトルなんてするものか。

 

 

 「──適当に終わらせて、諦めてもらうために吹っかけてやった……つもりだったんだがな」

 

 

 私の視線を受けて、雲田香澄は気まずそうに目を逸らした。

 

 

 「……それで、約束通り、お前らの『チーム』の顧問になろう……と、言いたいところ、だが……」

 

 私が、「だが」という形で言葉を切ったことで、3人は、首を傾げる。

 

 

 「──そのお話、少し待っていただくことはできますでしょうか」

 

 私の背後から、1人の生徒が割って入った。

 

 

 ……騒ぎを知って、様子を見ていたのだろう。

 生徒会の副会長……天柄由依だ。

 

 

 完全に状況に置いて行かれているようで、3人は呆気に取られていたが。

 

 

 「……どういうこと、ですか?」

 

 ……1番最初に立ち直ったのは、夢園有栖だった。

 

 

 

 ────────

 

 

 ……。

 

 

 ……何がどうなっているのか、あたしには、さっぱりでした。

 

 

 どうやら先生に勝ってしまったらしい、ということ。

 

 これで『チーム』が作れると思ったら、今度はなぜか天柄さんがそれを止めてきたこと。

 

 

 ……そして。

 

 

 「……はい、つまり、もう一度繰り返す形にはなってはしまいますが。まとめますと、結論として、あなた方3人に、生徒会へと加入していただきたい、ということです」

 

 

 ……と、いうことなのだそうです。

 

 えっと、言葉の上では、ある程度理解はできていたのですが、感情的な面で、追いついていませんでした。

 

 

 それで……その。

 改めてまとめますと、天柄さんのお話の内容は、こうでした。

 

 まず、生徒会は、各学年でトップクラスのソーサラーで形成されているから、先生に……しかも、教師陣の中でもかなり上位の実力を持つ月城先生を相手に、勝負が成立した時点で、元々、その人を勧誘しようと動くつもりだったそうでして。

 

 それが、3人のうちの全員、勝負が成立した……どころか。

 驚くべきことに、勝った人までいる、と、いうことで。

 

 急いで話に割って入って、声をかけた……のだそうです。

 

 

 ……。

 

 

 ……えっと、前にも聞いていましたが。

 生徒会って、本当にそんな感じで、メンバーが決まっているん、ですね……。

 

 

 

 「……ですが、まあ、当然拒否する権利はございます。あくまでこれは、ただの勧誘でしかありません」

 

 眼鏡をくいっとしながら、天柄さんは、彼女自身の説明に、補足します。

 

 

 ……どう、しましょう。

 

 あたしは、2人の……有栖さんと雪菜さんの顔を見ました。

 

 

 ……有栖さんと雪菜さんもまた、こっちを見ています。

 

 

 ……少しの間、時間が止まったように、錯覚しました。

 

 

 「……あんたは、どうしたい?」

 

 問いかけてきたのは、雪菜さんでした。

 

 「まあ、先生に勝ったのは香澄ちゃんだからね……」

 

 肩をすくめてそう言う有栖さんもまた、あたしに、選択権を委ねるみたいです。

 

 

 ……えっと。その。

 

 たしかに、有栖さんの言うとおり……なのかも知れません。

 

 ……が、しかし、やはり結果に対して、実力が伴っていないことを考えると、とても複雑です。

 

 

 ……ただ、強いて、言うのなら。

 

 元々、あたしは、起きてしまった結果を借金に見立てて、辻褄が合うだけの実力を付けることで、借金を返そうとしている身です。

 

 

 ……ですので、事情を説明する自分を想像した時。

 

 勝ってしまった相手である、先生に説明して、『ファントムビルド』を教えてもらうようお願いするのと。

 生徒会の人……は、天柄さんしか知らないので、その天柄さんに『ファントムビルド』を教えてもらうようお願いするのとで、比較した場合。

 

 ……正直、天柄さんのほうが、話しやすそうに、感じます。

 

 

 「……えっと、その」

 

 ですが、もっと正直に言えば、どちらも選びたくない、というのが本音ではあります。

 

 知らない人のコミュニティに入る、ということを、いざ自分の身に起こることとして想像すると、とても怖いですし、すごく緊張します。

 

 

 ……かと言って、それを理由に断るのも、どうなのだろうと思わないでもありません。

 

 それに、はっきり言って、先生自身が、顧問になることに乗り気でないことは、伝わってきています。

 

 ……ですから、そこに、勝者の権利的なものとして、無理矢理お願いする、というのは。今更ながら、あたしとしては、避けるべきこと、なのではないかと、思えてきました。

 

 ──いえ、違いますね。

 

 ……今更、ではなくて、こうして選択肢が出てきたから、避けることができるようになった、というのが、正しい……のでしょう。

 

 

 「……あたしは、あ、あたしで良ければ……生徒会に、その……」

 

 

 ……生徒会に、何でしょうか。

 

 じゃあ、だからと言って、自分がその立場に相応しいのか、と考えると。

 そこでまた、疑問が出てくるわけでして……。

 

 

 ……そんな風に、あたしが言い淀んでいましたら。

 

 

 「……。生徒会って、抜けたかったら、抜けてもいいの?……ですか?」

 

 有栖さんが、天柄さんに、質問をしました。

 

 

 「……ええ、まあ。……こちらとしては、辞める前提だとしたら、少し、困る部分はありますが……可能か不可能でいえば。辞めることもまた、権利ではありますので」

 

 

 「……そっか。……うーん、じゃあ、ボクはせっかくだし、生徒会に入れてもらおっかなー」

 

 有栖さんが、突然、そんなことを言い出しました。

 

 

 ……そして、その様子を見て、雪菜さんが、小さく、ため息をついて。

 

 「──そうね。私も、せっかくだからそうさせてもらおうかしら」

 

 雪菜さんまで、そうするようです。

 

 

 「……あっ、えっと、その……それなら、その……あたしも、お願いして、よろしいでしょうか……?」

 

 

 ……それで、その。

 このままだと、1人置いて行かれるのではないかと思い。

 

 つい、そんなことを、口走ってしまいました。

 

 

 「……ありがとうございます」

 

 一瞬、あたし達のやり取りに、何とも言えないような表情を浮かべた天柄さんでしたが。

 

 

 ……一度目を閉じて、それから、口を開きました。

 

 「──本当でしたら、もっと外堀を埋めて慎重に進める予定でしたが……。まあ、結果としては、こうなってよかったです」

 

 えっと、何やら、とんでもないことを言われたような気がします……。

 

 

 「……さてと、んじゃ、仕事にもどるかね」

 

 成り行きを見守っていた先生は、軽く伸びをして、職員室の方へと、帰っていきました。

 

 

 「……仮に自分が負けたとしても。そうなったら、他に先を越される前に、生徒会は勧誘に動かざるを得なくなる……そしたら、それに乗じてあわよくば……と、いうことですか。……責任回避能力は、相変わらず流石ですね、先生」

 

 先生の姿が見えなくなった後、天柄さんは、ボソリと呟きました。

 

 

 「……まあ、それは……そうみたいね」

 

 一拍置いて、雪菜さんが、困ったように、その言葉に反応します。

 

 

 ……そんな風に、言葉の上では、天柄さんも、あたし達も、『目標を達成した』とは言いつつも。

 

 どこか、釈然としないような。……そんな、微妙な空気が、そこには、漂っていたのでした……。

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