カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

6 / 153
初投稿ですがよろしくお願いします。


本編 0.物語の始まり
1話 プロローグあるいはエピローグ


 

 この世界には、ソーサラーと呼ばれる人間がいる。

 彼らは、何もないところから40枚のカードを作ることができる不思議な力を有していた。

 そうして、その生み出したカードを束ねたものを1つのデッキと呼び、ルールに従って、それの強さを競い合う。

 互いのカードから多種多様な幻のようなものが出現し、それらを意のままに使役しぶつけ合うその行為は、『ファントムビルド』、あるいは漢字で『幻構』と名をつけられている。

 

 それは、紛れもなく、科学の力が及ばない不可思議な事象を引き起こす魔法そのものであり、かつては大いに畏れられていたものであったが、今は遠く昔のことである。

 

 どういうわけかルールの通りにしか力を発揮しないその魔法は、今や由緒ある娯楽の1つとなっていた。

 

 もちろん、誰も彼もがソーサラーとしてカードを作り出せるわけではないため、正式なバトルを行うことができるのは限られた者のみではあるのだが……見るだけであれば、その限りではない。

 いつしかその娯楽は文化として広く受け入れられ、度々、大会と称したファントムビルドの催しが開かれている。

 

 ……例えるのなら、野球やサッカーといったあたりと似たようなもの、といえば伝わるだろうか。

 もちろん、野球やサッカーは、やろうと思えば誰にだってできるものであり、そういった点で明確な差異はあるが、その知名度は今や、それらと比較するに相応しいものとなっていた。

 

 学校に通い義務教育を受ける生徒が、課外活動としてカードを戦わせることもそう珍しくない時代こそが、この現代なのであった。

 

 そして、ここもまさに、その会場の一つである。

 

 『全国中学生幻構杯』。

 

 全国各地で予選を勝ち抜いた、選りすぐりの中学生ソーサラーだけが舞台に立つことのできるこの大会には、これから人生の一つの区切りを迎える彼ら彼女らの、これまで歩んできた道筋の集大成とも呼べるものがある。

 『中学生』という限定性はあるものの、全国規模の大会の決勝会場ともなれば、立派な一大イベントとして数えられるだろう。

 

 現在行われているのは、準決勝戦と名の付く一戦。

 すなわち、今戦っている2人のうちのどちらかが決勝へと歩を進めるであろう戦いである。

 

 舞台に立つ1人は、静かに、ただ前のみを見据える少女。

 彼女は、名を『湖織雪菜(こおりゆきな)』と言い、《氷晶の銀世界》デッキと呼ばれる、盤面の制御を得意とするデッキを相棒としている。

 

 氷のように冷たい、いっそ冷酷とも言えそうな目をした、中学生とはとても思えない剣呑な雰囲気を漂わせる彼女は、まるで銃の引き金に指を置くかのように1枚のカードに手を添えていた。

 

 今はまだ、カードから生じた幻たちによって、自動的に彼女のターンの終了処理が行われている最中であり、実際にカードを使用するまでにはあまりに気が早いと言える姿勢だが、逸る気持ちにも無理はない。

 

 盤面には、彼女のカードが最も強く使えるだけの条件が揃っていた。

 あとは、それを使うだけでこの戦いに決着がつくのだ。

 

 

 ……ファントムビルドのルールは、そう難しいものではない。

 最初は山札に40枚のカードがあり、そこから引いたカードが手札に移る。

 カードはコストと呼ばれるリソースを支払うことで使用できる。

 

 そして、そのコストは10という最大値に達するまで、初期値を0として毎ターン1ずつ増える性質があり。

 同時に、毎ターン開始時に全回復するという特性も有している。

 

 カードには、エンティティ、マジック、フィールドの3種類が存在する。

 『エンティティ』とは、カードを使用したときに盤面へと召喚される、モンスターや機械、生物などの、個体として、攻撃力や体力といったステータスを持つもののことを指す。

 『マジック』は、使用すれば効果を発揮した後すぐに消費されて、墓所へと送られるもののことである。

 『フィールド』は、エンティティのように場に残るが、設置されるのは「盤面」ではなく「領域」と呼ばれる別の場所である。また、その上でフィールドは、攻撃力や体力のステータスを持たず、攻撃したり、攻撃されたり、といったことが起こらない。

 

 盤面と領域の違いは、単純に枚数と置かれるカードの違いであり、盤面には5枚までのエンティティ、領域には1枚までのフィールド、となっている。

 

 最後に、最も大切な、バトルの勝敗について。

 これについては、エンティティによる攻撃や、マジックによるダメージによってソーサラーの体力を0にするか、あるいは、カードの持つ『勝利する』という効果を発動させることによって決する。

 

 勝利効果を持つカードは極めて稀であり、レジェンダリーと呼ばれるレアリティに分類されるのだが、雪菜の作り出すデッキは、それを有していた。

 

 ソーサラーの体力は最大値が25であり、今回の試合においては、両者ともにあまり削れていない。

 しかしもう一つの、カードの勝利条件を満たして発動させるという点については、あと一歩といったところまで迫っているのだ。

 

 彼女の持つ切り札は、『相手の盤面にエンティティが5枚あり』、それら全てが『氷晶の銀世界という分類を有していること』を条件に勝利をもたらす。

 

 ……分類、というのは本来、カードの世界観などを表すものであり、バトルの中では、特定の分類を持つカードのみを対象に発動する効果などがあったりした時に初めて意味を持つものなのだが、彼女のカードには、相手の盤面のエンティティに『氷晶の銀世界という分類を付与する』効果を持ったものが存在している。

 この勝利効果の条件は、それを前提とした効果と言えるだろう。

 

 そして、現状として、相手の盤面には『氷晶の銀世界という分類が付与された5枚のエンティティ』があり、その上、それら全てはデバフによって攻撃力が激減している。

 加えて、雪菜自身の盤面には攻撃力が0である上に『防衛』という、攻撃対象を限定させる効果を持ったエンティティが、複数並んでいる。

 

 ……間違いなく、勝利への道筋は明らかであると言えるだろう。

 雪菜は、まるで、そう自分を納得させるように、逸る気持ちを押さえつけていた。

 

 ──ターンの終了処理が終わり、ターンが移る。

 

 

 舞台のもう一方に立つ人物、すなわち雪菜の対戦相手は、赤い目をした少女であり、彼女はまるでコスプレのような派手な衣装を身に纏っている。

 

 口角をわずかに上げて見せ、さらには片目を瞑ってウィンクをして見せたかと思うと、くるりと一回転しながら、山札の1番上のカードを滑らせる。

 

 もちろんそんなことをすればカードはすっ飛んでいくのが常識だが、これは魔法によって作られたものである。

 それは当たり前のように、彼女の目の前に並んで浮かんでいる『手札』へと加わり、静止した。

 ……よく見れば、山札のカードも宙に浮かんでいるので、もはやそういうものであるとしか言いようがないのだろう。

 

 物理法則などよりも、『ファントムビルドのルール』が優先される。

 ここは、そういう場所だった。

 

 いちいち動作が余計で大袈裟な、まるでショーを演じているかのように振る舞う彼女は、『マジカル☆スピカ』などと名乗り、《遊星の魔法少女》という分類が付与されているカードが多分に用いられたデッキを使っている。

 

 仮にも中学生という一つの節目の最後を飾るであろうこの大会に、いわゆるニックネームで参加する者は、いないわけではないが、あまり多くはない。

 

 見る人によっては見ているだけで羞恥心をくすぐられそうな彼女は、しかし堂々とした顔つきで笑みを見せると、謳うように宣言した。

 

 「──さあ、クライマックスだ!2人で一緒に盛り上げよう!」

 

 ……それは、手札ではなく山札から突然現れた。

 水面下で『条件』を整えていたのは、雪菜だけではなかったのだ。

 

 

 降り立つ前に敵味方に関わらず盤面の全てを破壊して、何もかもが焼き払われたその場に、それは姿を現した。

 そして現れるや否や、『スピカ』のコストの全てを勝手に消費して盤面へと出現したそれは、どこか気怠げな顔をした、青い瞳が特徴的な、人間の女のような外見をした何かだった。

 コストは50と表示され、カードの効果曰く、それは攻撃できない一方、あらゆる干渉を受けないらしい。また、それが盤面に存在する限り、互いに『カードを引く』という行為が封じられ、山札から引かれた手札に行くはずだったカードは、全て墓所へと送られるとのこと。

 

 ……本来であれば、召喚が可能なコストの最大値は理論上10が最大であるはずである。つまり、それは、正規の方法ではない、特殊な方法でのみ盤面へと出現させることができるカードであるということを意味していた。

 

 そして、そのまま何もせず、『スピカ』はターンの終了を宣言した。

 

 そうして、彼女のターン終了時。

 

 それは、『スピカ』の手札を勝手に全て破棄すると、代わりとばかりに一枚のカードを生成した。

 加わったカードの効果は、至ってシンプル。

 公開されたそのカードは、コストを10消費して使用できるマジックであり、単純明快に、『このバトルに勝利する』と書いてあった。

 

 突然登場した『勝利効果を持つカード』に、ざわり、と観衆のどよめきが上がるも、それは一瞬のものであり、カードの効果を読み終えるに充分な程度の時間をおいたころには、打って変わって、何かを待つような、張り詰めるような静寂で満ちていた。

 

 『スピカ』が、自信に満ちた表情で、雪菜に対して挑発的な視線を送る。

 

 それに対して、雪菜は。

 無表情を貫きながらも、自身のキーカードへと添えていた手を静かにそっと下ろした。

 ……下りてゆく手は、何かを探すように指先が揺れ動いたが、しかし、どこにも引っ掛かることなく空を切った。

 

 

 通常であれば、勝利効果を有するカードは極めて少ない。

 

 けれども、同世代という制限こそあれど、全国から人が集まるようなこう言った大会では、どうやら、その限りではなかったらしい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。